作品紹介・あらすじ
アーサー王物語の騎士の紋章、愛の悲しみを訴える抒情詩のレトリック、エンブレム・ブックの寓意等、中世から近世にかけて幾重にも重ねられた涙滴文の文学性と、それから浮き彫りになるヨーロッパの恋愛思想。涙と眠のモチーフをめぐる、雲と雨粒、ジョウロと水滴、さまざまな花々や動物たち、擬人化された心臓はじめ、中世ヨーロッパの豊かな形象世界を通じ、人生の有為転変のなか、ひとが「泣くこと」の意味を問う。
感想・レビュー・書評
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中世ヨーロッパのドゥイーズ(のちのエンブレム)や服飾に使われていた涙、目、ハートのモチーフの由来や移り変わりについての本。
涙が悲愛を示すものから恋の思慕そのものを示すものへと変化していったとか、雲、じょうろ、ハートなど付属するモチーフの変化の話が面白いし、登場する諸侯の関係も親切に解説してあって読みやすい。心が熱く燃やされることで生まれる涙=雫、という連想から蒸留器が愛のエンブレムとなるというのがすごくいいなと思った。涙が甘美な酒になるというのも併せてロマンティックな発想だ。引用されるポエムも甘々で切々と恋を歌い上げていて、男性でも涙で自らの想いを訴える。涙は弱さではなく、むしろ敬虔さや愛の強さを表現するものなのだ!
絵画などを見てもあまり気にしたことがなかったけど、当時の貴族や騎士たちが趣向を凝らした服や武具を用意していて、模様や色一つ一つにも意味がこもっていたのだなあと感慨深くなった。
著者プロフィール
お茶の水女子大学名誉教授。専攻はフランス服飾・文化史。著書に『色で読む中世ヨーロッパ』『図説ヨーロッパ服飾史』『涙と眼の文化史』など、共著に『フランス・モード史への招待』などがある。
「2019年 『黒の服飾史』 で使われていた紹介文から引用しています。」
徳井淑子の作品
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