リフレはヤバい (ディスカヴァー携書)

著者 :
  • ディスカヴァー・トゥエンティワン
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本棚登録 : 466
感想 : 79
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  • Amazon.co.jp ・本 (266ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784799312933

作品紹介・あらすじ

リフレとは、インフレをわざと起こすことである。デフレ脱却のためにリフレ政策をとることを公約に掲げて、安倍自民党が総選挙を圧勝したことから、一躍、一般にも有名になった。しかし、これは最悪だ。日本経済が崩壊する可能性があるからだ。善意で主張した政策が、誤った政策だからだ。しかも、それが国民に受けている。本書では、リフレ政策においては、どのようなことを行い、それがどういう帰結をもたらすのかについて、解説する。日本経済がどうなってしまうのかについて、そのプロセスを丁寧に追っていく。さらに、今後の日本と日本企業がとるべき道を示す。

感想・レビュー・書評

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  • 先日読んだイェール大学名誉教授の浜田宏一氏の『アメリカは日本経済の復活を知っている』では、日銀の金融政策でデフレ脱却、円高解消は出来ると書かれている。国債で大きな債務を抱えているが、同時に世界一の対外純資産を持っている世界一の債権国でもあり日本国民の将来の納税力があるため円の信頼はゆるぐことは無いと言っている。

    一方この本の著者は、『リフレ』つまり『インフレを起こそうとすること』はまずいと主張する。金融政策だけではインフレは起こすことはできない。インフレが発生するためには強い需要が必要だが、所得が増えない状況では需要が増えずインフレは起きないという。円安輸入コスト高でインフレは起きるが、このインフレは求めるものではない。本当に給料は増えないのか? アベノミクスは別に金融政策だけではない。給料を上げた会社は法人税の減税の対象とする政策を同時に実施しているが、ここではふれられていない。

    また円安ではドル換算でその価値が下がり国債が暴落すると主張する。国債を抱える銀行が厳しくなり、貸し渋り、貸し剥がしがおこり経済が回らなくなる。一方浜田氏の本は、借金は多くても国民の対外純資産は世界一であり、将来の国民の税金の支払い能力があるため円の信頼は揺るがないと主張している。

    兎に角この2つの本は互いに対立している。この手の本、素人の私は読む度にそれが正しいと思い込まされるてしまう。一体どっちが正しいのか? 浜田氏の本は名誉教授という立場のやや上から目線でかかれいて、是々の論理は証明されていて自明、どこどこの偉い人がこう言っている、というような内容になっているので今ひとつスッキリしないのに対して、この本は非常に一つ一つの内容について丁寧に説明しようとする姿勢が見えるので、本としてはこちらの方が好感が持てる。

    日本国債の空売りでヘッジファンドが何故損をしたのか、みんなの党がリフレ派であること、タコ紐理論とはどういうことか等、本題からはそれるが勉強になる内容もたくさんあった。楽しめた。

  • (要約)
    「はじめに」で、小幡はリフレとはインフレをわざと起こすことであるという定義を示し、リフレは誤った政策だと主張する。リフレは国債を暴落させ、日本経済が崩壊するおそれがあるからである。

    「第0章 リフレ政策とは何か?」では、リフレは謎の政策であり、なぜインフレを起こさないといけないのかよく分からないと疑問を呈する。小幡は現在進められているリフレ政策を4つの点から説明している。1)中央銀行に政策目標として具体的なインフレ率を設定させるインフレターゲット、2)日銀が国債を買い入れ、通貨を供給するマネーの大量供給、3)「期待」に働きかけること(ただ、インフレ期待は金利と資産価格には反映されるが、モノの値段には反映されないため、インフレは起きないと小幡は見ている)、4)国会又は政府の誰かに役員の解任権を持たせることを主張する日銀法改正、である。

    「第一章 そのとき、日本経済に何が起こるか?」では、モノの値段は上がっても、給料は上がらないとの見方を発展させる。売り手が商品の値上げをするのは、1)コストが上がるとき(コスト・プッシュインフレ)か、2)値上げをしても売れるほど需要があるとき(デマンド・プルインフレ)、のどちらかであり、景気を良くするためにインフレを起こすのは無理であり、因果関係が逆だ。そのため、インフレは起こせないと主張する。人件費が上がらなければサービスは値上がりしない可能性があり、そうなれば、物価は上がるが景気は悪くなるというスタグフレーションとなる。インフレには良いインフレと悪いインフレがあり、コスト・プッシュ型は悪いインフレであり、デマンド・プル型はよいインフレだ。日本のインフレは円安・輸入インフレであり、円安による輸入コスト上昇分だけインフレが起こることになる。だが、円安になっても、賃金上昇・企業の大幅値上げにつながらないと思われるため、かつてのような大幅インフレはやっぱり起きない。

    「第二章 円安はどのようにして起きるのか?」では、円高のほうが経済全体では、はるかに得だとの見方を示す。小幡は、円安のケーススタディとして、九五─九八年の円安を検証し、前半は為替介入の成果だが、後半は金融危機によるものだと説明。二〇〇〇年からの円安と二〇〇五年からの円安を比べてみると、最初の円安は経済悪化による円安であり、二番目の円安は経済回復時の円安であり、円安には良い円安と悪い円安がある。

    「第三章 円安で日本は滅ぶ ─ 円安で金融市場と日本経済は?」では、円安による国債下落の危機について説明している。国債は、1)流動性が高いこと、2)国の信用力の評価をみんなが知っているという評価のコンセンサスがあること、3)固定利回りであることから、機関投資家が安心して投資できる対象であるとし、一方、国債に投資するリスクとしては、まずデフォルトリスクがあるが、より重要なリスクとして国債の値下がりリスクがある。円安になればドルベースでの値下がりリスクがある。だが、為替予約があるではないかという反論がありうるが、ヘッジコストもバカにならないし、円ベースでも値下がりすることは避けられない。では、国債を満期まで保有すればよいのではということになるが、小幡は、金融機関は有価証券を時価評価しなければならず、時価会計により、トータルで100兆円の資産減になると試算する。円安から銀行危機、そして実体経済危機へという流れが予想されるのだという。

    「第四章 リフレ派の二つの誤り その 1 インフレは望ましくない」では、リフレ派が主張するインフレの六つのメリットを説明したうえで、デフレは継続的な物価の下落であり、デフレと不況は別であると説明。インフレの六つのメリットは存在しないと主張する。クルーグマンの主張には、1)賃金はインフレに完全に連動して上がり続ける、2)消費者は十二分な資産・所得があるという前提があるが、日本においては、これが成り立っておらず、クルーグマンは間違っていると主張する。例えば、近年の総合電機メーカーの大赤字はテレビ事業の大赤字によるもので、駆け込み需要のせいであり、エコポイントは最高の反面教師だ。物価が下がることと、個別企業の価格付けは別の話で、企業は自分で価格を決める。不況の継続を止めたいのであれば、所得を増やして需要を増やす以外に方法はない。だからデフレスパイラルは存在しないのだ。

    「第五章 リフレ派の二つの誤り その 2 やはりインフレは起きない」では、リフレ派は、起きるはずのないインフレを起こそうとしていると批判する。中央銀行制度はインフレが起きないようにするために作られたものであり、だから中央銀行の独立性が確立した。リフレ派は、インフレを起こすことは簡単だと主張する。そして、今回の日銀法の改正の意図は日銀の独立性を奪うことだと批判する。リフレ派の人々は簡単にインフレになると思っているが、金融政策のタコヒモ理論というものがあり、引っ張って抑制はできるが、押して凧を動かすことはできない。つまり、インフレを抑えることはできるが、デフレ解消は難しい。インフレが起きるかどうかは需要が強いかどうかにかかっており、需要の強さは所得に応じる。所得増なくしてインフレなしである。

    「第六章 それでもリフレを主張するリフレ派の謎 ─ なぜ、かれらはインフレが好きなのか?」では、インフレでいいことが何もないのになぜインフレが好きな人が多いのかについて考察する。まず、政治家たちは日銀批判をすれば目新しく、盛り上がる。金融市場関係者たちは金融資産が上がるからリフレを歓迎する。しかし、お金が金融資産市場にしか回らず、株価上昇では経済はよくならない。また、企業経営者が円安を喜ぶかどうかは人による。エコノミストと経済学者でリフレを支持している人は、現実を分かっておらず、見ようともしていないからであり、机上の議論が好きだからである。リフレ派は無責任な議論をして喜んでいるだけである。

    「第七章 リフレ派の理論的な誤り」では、リフレを理論面で批判する。まず、バーナンキがインフレを望んいるとする見解が誤りであることを説明する。日欧米の中央銀行は同じ価値観だというのである。ただ、資産価値の維持と為替が重要なイギリスは例外である。今は成長力自体が落ちており、おカネがぐるぐる回れば景気はよくなるという考え方は根本的に誤っている。

    「第八章 円安戦略はもう古い」では、まず、自国の国富を守るためには自国通貨の値下がりは最も避けなければいけないことだと説く。低成長時代を迎え、日本はフローからストックの時代へ入った。通貨を安くして韓国と競争するという発想自体が時代遅れだ。円安戦略では、日本は勝てない。真のグローバル日本企業となるためには、思考はドルでなされなければならない。

    「おわりに」では、小幡はリフレ政策ではなく、雇用創出政策と採るべきだと提案する。そのためには教育を充実させるべきだと結ぶ。

    (コメント)
    「円安は、それ自体が国債価格の暴落を意味します」(116頁)の理屈がよくわからない。円安になると確かにドルベースでの国債価格は下落するが、それがどれほどの日本国債の売り圧力になるのだろうか。資金循環統計からは少なくとも海外部門が巨大な売り圧力になるほどの日本国債を保有しているとは読み取れない。

  • 論理的に解説を試みているので、わかりやすいが、リフレ政策がダメなら別に良い政策の選択肢が提案されているかというと、そうでもない。我々は金融商品の闇鍋を喰らいながらいいていくしかないのか?腹立たしい気持ちが強まって来た。

  • 今経済論壇が活発だし、まぁ売れてるみたいだし、この版元のこのレーベルは「電子書籍の衝撃」で印象もよかったので読んでみた。
    論旨は明確で読みやすい。センセーショナルなタイトルの割にはちゃんと建設的。この辺がディスカバーさんのバランス感覚かね。全体としてリフレ派への評価を「~だと思います」としていて、論証責任を放棄しているのは誠実ではないと思う。こういう感情っぽさを入れた方が受けるのかな。
    たぶん産業戦略のビジョンがリフレ派と違うんだろうなぁ。新しい価値、新しい技術革新で攻めていかないといかんという主張は割と好きなのだけど、もう一冊くらいリフレ派の本を読んでから自分の主張を決める。

  • 円安誘導もインフレターゲットも、金融緩和の結果であるにもかかわらず、あたかも日本を救う(しかも欧州やUSと比べてそんなに危機なの?!)究極の手段のように語られるアベノミクス。そもそも円で物事語っていることがすでにおかしい。日本の多くの企業が、成長の源泉を海外に求めていますよ。小幡先生の主張に同意。

  • 本書を読むと、“インフレ”、“デフレ”、“スタグフレーション”、“景気”というような概念や、日銀等の中央銀行というモノが採択して推進する施策というものがよく判る。

    “デフレ”状態が永く続いて困っているのだから、何とかしなければならないという論旨の本は少し前に読んだ…と言って、“インフレ”というものも、実は故意に発生させることが出来るでもない…結局「時代は変わった。世界は変わった」と「考え方を変えて対応する」他無い訳である…

    巷で“是”とされているものに関して「それには“非常に悪い展開”をする可能性も在る」という話しは、本書の著者が断るように「彼が嘘を…」と批判されるような状況の方が善いのであろう。が、大勢が“是”としていることであろうと「本当にそれで善いのか?!」と考える材料を仕入れて考えることは必要なように思う…そうした意味で、本書は広く奨めたい一冊である。


  • ・経済政策の議論を期待すると肩透かし。党派的な本でした。
    ・とある国公立大学の計量経済学の教授が、大学付属図書館の発行する媒体で、本書を学生に推薦しているのを発見しました。アンチ・リフレ派の本に限っても本書より良質な(学術的な)書籍は当時でも存在していたにもかかわらず本書を選ぶあたり、当該教授は焦っていたのでしょう。

  • さんざんリフレを否定するだけの本
    ではその対策はというと、別の本で紹介するという無責任極まりない内容でした

    また、文章が下手な上に冗長すぎ、出典も明らかにせず、また資料も自分に都合のいいものしか使わない、都合の悪い話は何の説明もなく流すなど、内容の如何ではなく、話の信用性に大いに疑問を感じる。

    ちなみに帯にはアベノミクス→日本経済危機と書いてありますが、どちらかと言うと過度のリフレ(わざとインフレを起こすこと)→日本経済危機であり、アベノミクス批判というのは的外れ。これは出版社がブームに乗って煽っただけかな?

    そもそも前半は自分の主張を押し通すため、とにかく批判しまくってるんですが、後半になると、結局悪いのはリフレ派、日銀はちゃんと「デフレからマイルドなインフレに長期的に移行するのが望ましい。そして何より、デフレなのだから、金融緩和の副作用であるインフレを警戒する理由がひとつ減る。資産市場のバブルや為替への投機の誘発などにはならないよう注視しながら、様々な手段を駆使して金融緩和を実現するよう努力すべきだ。」(P199)というスタンスでやっている、とか、、、拍子抜け。結局、この日銀のスタンスが現在の最適解だと思う。つまりこの本には著者の長々と不要な説明ばかり書いていただけ?

  • アベノミクスの中心的考え=リフレーションの考えをまとめる(Matome)にはいいかなぁという感じ。2chとかWikiよりちょいマシっていう感じ。

    景気をよくするためにインフレを起こすことは因果関係が逆で、景気を上昇した結果インフレが起こる。だから、インフレを意図的に起こさんがために国債を暴落させるリフレっていうのは、無理を通して道理を引っ込めるような行為なわけだけれど。

    リフレにしても消費税増税にしても狙っているのは駆け込み需要だ。それは単なる先食いであって、将来の需要がその分、減る。不況の継続をやめたいのであれば、所得を増やし需要を拡大する以外にない。


    それにしても何故、日本人はリフレが好きなのだろう? それは国民が政治家に、政治家が官僚に、官僚が日銀に責任転嫁をしたいからだと著者はいう。安倍首相は単純なのでリフレ派の単純な理屈を「自分の頭で理解」し、まんまと感化されたというのは笑った。

    リフレで喜ぶ人は株価上昇を歓迎する市場関係者(エコノミスト、アナリスト)だけだ。

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著者プロフィール

小幡 績(オバタ セキ)
慶應義塾大学准教授
1967年生まれ。1992年東京大学経済学部卒業後、大蔵省(現財務省)入省、1999年退職。2000年IMFサマーインターン。2001年~03年一橋大学経済研究所専任講師。2001年ハーバード大学経済学博士(Ph.D.)。2003年より慶應義塾大学大学院経営管理研究科(慶應義塾大学ビジネス・スクール)准教授。専門は行動ファイナンス。2010年~14年まで年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)運用委員。主な著書に『ネット株の心理学』(毎日コミュニケーションズ)、『リフレはヤバい』(ディスカヴァー携書)、『すべての経済はバブルに通じる』(光文社新書)、『成長戦略のまやかし』(PHP新書)、『ハイブリッド・バブル』(ダイヤモンド社)、『GPIF 世界最大の機関投資家』(東洋経済新報社)がある。


「2020年 『アフターバブル』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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