- 本 ・本 (200ページ)
- / ISBN・EAN: 9784799316856
感想・レビュー・書評
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【まとめ】
1 データで明らかにする子育ての真実
どこかの誰かが子育てに成功したからといって、同じことをしたら自分の子どもも同じように成功するという保証はない。教育経済学が重視するのは、たった一人の個人の体験記ではなく、個人の体験を大量に観察することによって見出される規則性だ。
まず、「どういう教育が成功する子どもを育てるのか」という、目に見えないものを数字で示す。そして、どういう教育が成功する子どもを育てるのか」という問いについて、その原因と結果、すなわち因果関係を明らかにする。
2 子どもをご褒美で釣ってはいけないのか?
子どもにすぐに得られるご褒美を与える「目の前ににんじん」作戦は、子どもを今勉強するように仕向け、勉強することを先送りさせないという戦略。
「テストでよい点を取ればご褒美をあげます」 「本を1冊読んだらご褒美をあげます」。このうち、子どもの学力を上げる効果を持つのはどちらだろうか。
ハーバード大学のフライヤー教授が行った研究と、ダラス、ワシントンDC、ヒューストンで行われた調査によって、学力テストの結果は、インプット(本を読む、宿題を終える、学校にちゃんと出席する、制服を着るなど)にご褒美を与えられた子どもたちのほうが向上するということが明らかになった。とくに、数あるインプットの中でも、本を読むことにご褒美を与えられた子どもたちの学力の上昇は顕著だった。一方で、アウトプット(テストでいい点を取る)にご褒美を与えられた子どもたちの学力は、意外にも、まったく改善しなかった。どちらの場合も、子どもたちは同じように喜び、ご褒美を獲得しようとやる気をみせたにもかかわらずだ。
鍵は、子どもたちが「ご褒美」にどう反応し、行動したかということにあった。「インプット」にご褒美が与えられた場合、子どもにとって、何をすべきかは明確である。本を読み、宿題を終えればよい。一方、「アウトプット」にご褒美が与えられた場合、何をすべきか、具体的な方法は示されていない。
ここから得られる極めて重要な教訓は、ご褒美は、「テストの点数」などのアウトプットではなく、「本を読む」「宿題をする」などのインプットに対して与えるべきということだ。
アウトプットにご褒美を与えられた子どもたちは、「今後もっとたくさんのご褒美を得るためには何をしたらよいと思うか」という問いに対し、ほとんど全員が「しっかり問題文を読む」「解答を見直す」などのように、テストを受ける際のテクニックについての答えに終始していた。「わからないところを先生に質問する」「授業をしっかり聞く」などのように、本質的な学力の改善に結びつく方法にまでは、まったく考えが及んでいなかったことがわかる。アウトプットにご褒美を与える場合には、どうすれば成績を上げられるのかという方法を教え、導いてくれる人が必要なのだ。
3 こどもはほめて育てるべきなのか
米国のカリフォルニア州では、「社会問題の多くは個人の自尊心が低いことに起因している」という考えから、1986年以降、州知事主導で自尊心にかんする大規模な研究プロジェクトを始動させた。「子どもたちの自尊心を高めれば、学力や意欲が高まり、反社会的行為を未然に防止することができるのではないか」と期待してのことだ。
しかし、この大規模な研究プロジェクトは思いもよらぬ結果に終わった。自尊心が高まれば、子どもたちを社会的なリスクから遠ざけることができるという有力な科学的根拠は、ほとんど示されなかったのだ。バウマイスター教授らは、自尊心と学力の関係はあくまで相関関係にすぎず、因果関係は逆である、つまり学力が高いという「原因」が、自尊心が高いという「結果」をもたらしているのだと結論づけた。
学生の自尊心を高めるような介入は、学生たちの成績を決してよくすることはない。また、このような介入が、すべての学生に悪影響だったわけではなく、とくにもともと学力の低い学生に大きな負の効果をもたらしたということも明らかになっている。つまり、悪い成績を取った学生に対して自尊心を高めるような介入を行うと、悪い成績を取ったという事実を反省する機会を奪うだけでなく、自分に対して根拠のない自信を持った人にしてしまう。むやみやたらに子どもをほめると、実力を伴わないナルシストを育てることになりかねない。
重要なのは、ほめ方である。
コロンビア大学のミューラー教授らは、ある公立小学校の生徒を対象にして「ほめ方」にかんする実験を行った。6回にわたるこの実験の結果わかったことは、「子どものもともとの能力(=頭のよさ)をほめると、子どもたちは意欲を失い、成績が低下する」ということだった。
子どもをほめるときには、「あなたはやればできるのよ」ではなく、「今日は1時間も勉強できたんだね」「今月は遅刻や欠席が一度もなかったね」と具体的に子どもが達成した内容を挙げることが重要だ。そうすることによって、さらなる努力を引き出し、難しいことでも挑戦しようとする子どもに育つというのがこの研究から得られた知見である。
4 テレビやゲームは悪影響なのか
テレビやゲーム「そのもの」が子どもたちにもたらす負の因果効果は、私たちが考えているほどには大きくない。シカゴ大学のゲンコウ教授らは、幼少期にテレビを観ていた子どもたちは学力が高いと結論づけているほか、米国で行われた別の研究では、幼少期に「セサミストリート」などの教育番組を観て育った子どもたちは、就学後の学力が高かったことを示すものもある。
そして残念ながら、1時間テレビやゲームをやめさせたとしても、男子については最大1.86分、女子については最大2.70分、学習時間が増加するにすぎないことが明らかになった。
どれくらいのテレビ視聴やゲーム使用だったら無害なのか。推計によると、1日に1時間程度のテレビ視聴やゲーム使用が子どもの発達に与える影響は、まったくテレビを観ない・ゲームをしないのと変わらないことが示されている。一方、1日2時間を超えると、子どもの発達や学習時間への負の影響が飛躍的に大きくなることも明らかになっている。
5 その他教育の常識
① お手軽なものに効果はない
父母ともに「勉強するように言う」のはあまり効果がない。むしろ、母親が娘に対して「勉強するように言う」のは逆効果になっている。「勉強するように言う」のは親としても簡単だが、この声かけの効果は低く、ときには逆効果になる。逆に、「勉強を見ている」または「勉強する時間を決めて守らせている」という、親が自分の時間を何らかの形で犠牲にせざるを得ないような手間暇のかかるかかわりというのは、かなり効果が高いことも明らかになった。
② 男の子なら父親が、女の子なら母親がかかわるとよい
子どもと同性の親のかかわりの効果は高く、とくに男の子にとって父親が果たす役割は重要。最近の研究でも、とくに苦手教科の克服には、同性同士の教師と生徒の組み合わせのほうが有効であるなど、類似の知見が得られているものがある。
③ 優秀な同級生から受ける影響
学力の高い優秀な友人から影響を受けるのは、そのクラスでもともと学力の高かった子どものみである。中間層やもともと学力の低い子どもたちは、何ら影響を受けないことがわかっている。それどころか、自分のクラスに学力の高い優秀な友人がやってきた場合、もともと学力が低かった子どもには、マイナスの影響があるということを示す研究もある。この意味では、学力の高い友だちと一緒にいさえすれば、自分の子どもにもプラスの影響があるだろうと考えるのは間違っている。
④ 問題児から受ける影響
フィグリオ教授は、問題児の存在が、学級全体の学力に負の因果効果を与えることを明らかにした。また、親から虐待を受けている子どもがいる学級では、学級運営が難しくなり、結果として他の子どもの学力が下がる傾向があることが明らかにした研究もある。この研究では、1人の問題児によって、他の児童が新たな問題行動を起こす確率は17%も高くなると推計されている。
一連の研究から明らかなことは、子どもや若者は、飲酒・喫煙・暴力行為・ドラッグ・カンニングなどの反社会的な行為について、友人からの影響を受けやすいということだ。
⑤ 教育にはいつ投資すべきか
もっとも収益率が高いのは、子どもが小学校に入学する前の就学前教育(幼児教育)である。
人的資本投資の収益率は、子どもの年齢が小さいうちほど高い。就学前がもっとも高く、その後は低下の一途を辿っていく。そして、一般により多くのお金が投資される高校や大学の頃になると、人的資本投資の収益率は、就学前と比較すると、かなり低くなる。
しかし、「明日からでもわが子を学習塾に通わせよう」と考えるのは拙速である。人的資本とは、人間が持つ知識や技能の総称であるため、人的資本への投資には、しつけなどの人格形成や、体力や健康などへの支出も含む。必ずしも勉強に対するものだけではない。
低所得のアフリカ系米国人の3~4歳の子どもたちに「質の高い就学前教育」を提供することを目的に、「ペリー幼稚園プログラム」と呼ばれる就学前教育プログラムが行われた。
ペリー幼稚園プログラムは、認知能力には短期的な影響しかもたらさなかったにもかかわらず、学歴・年収・雇用などの面で、長期的に大きな影響をもたらした。ペリー幼稚園プログラムによって改善されたのは、「非認知スキル」または「非認知能力」と呼ばれるもの。これは、IQや学力テストで計測される認知能力とは違い、「忍耐力がある」とか、「社会性がある」とか、「意欲的である」といった、人間の気質や性格的な特徴のようなものを指す。
・親の学歴による学習時間の差は、子どもの学年が上昇するにつれ拡大していく傾向がある。
・神戸大学の伊藤准教授らの研究では、学校で平等を重視した教育――「手をつないでゴールしましょう」という方針の運動会など――の影響を受けた人は、他人を思いやり、親切にし合おうという気持ちに「欠ける」大人になってしまうことが明らかになっている。
・遺伝や家庭の資源など、子ども自身にどうしようもないような問題を解決できるポテンシャルを持つのは、「教員」である。教員の「質」に関する研究をリードしてきたスタンフォード大学のハヌシェク教授によると、もともとの学力の水準が同程度の子どもたちに対して、能力の高い教員が教えた場合、子どもたちは1年で1.5学年分の内容を習得できたのに対して、能力の低い教員が教えた場合は、0.5学年分しか習得できなかった。1年間で実に丸1年間分もの習得の差が生じたことになる。付加価値でみたときに下位5%に位置する教員を、平均的な教員に置き換えるだけで、子どもの生涯収入の現在価値を、学級あたり2500万円も上昇させることができると推計されている。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
少なくとも今の日本にあって、強制的にせよ、自主的にせよ、教育を受けたことのない人はほぼいないだろう。それだけに、多くの人は教育について一家言もっている。こうした方がいい、ああした方がいい。でもその多くは経験則。n=1。教育関連制度を決める行政ですらデータに基づく政策決定をしているかすこぶる怪しい。
著者の中室さんはそれでいいのかと疑問を呈する。より効果的な教育はあるのではないか。経済学ならその手助けができる。
軽い言い方をするなら、本書はエビデンスに裏付けされたトリビア集ある。目からウロコのトリビアが、全編にわたって展開される。それだけでも十分におもしろい。特に、就学期のお子さんのいらっしゃる親御さんは必読。お子さんが成人している親御さんは歯噛みして残念がるかも。 -
教育に経済学を切り込んだもので、子育てや子どもの学力に関するエビデンスをしっかりと用いながら、どれが効果的なのかを記しているものです。
子どもにどのくらいお金をかけたらいいのか…
というような子どもにかけるお金の経済効果も、エビデンスがしっかり乗っているので、安心しました。
以前、最近のもので同じ中室さんの『科学的根拠で子育て 教育経済学の最前線』を読了しましたが、より詳しく知りたい方は『科学的根拠で子育て』の方がピンとくるかもしれません。
私は経済学に苦手意識を持ってきたので、グラフを読み解くのは頭が痛くなってしまうのですが、そこまで難しくないですし、苦手な方でも読みやすかったと思います。
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教育法を網羅している訳ではないし、
教育政策に通じる話題が多いので、
家庭での具体的な方法を求めている人には物足りないかもしれない。
経験に基づいた教育論だと、
子どもの個性や家庭背景によっても条件が変わってくるので、すべての子供がその方法に当てはまるとは言えない。
しかし、この本は主観的な経験談ではなく、
全てが実験データに基づいた教育法を
語ってくれているので、論理的で説得力があった。
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教育に関わる人や親は必読の書。
教育は教育者の感情や習慣から行われることが多いですが、この本ではデータを元に理論立てて解説してくれています。また、具体的なアプローチも記述されているため、すぐに実践可能な内容も数多くあります。
年収も幼少期の教育が深く関わり、幼少期に非認知能力(自制心、やり抜く力、勤勉さなど)を高めることが重要です。
サクサク読めて教養になるビジネス書。
おすすめです。
「どこかの誰かの成功体験や主観に基づく逸話ではなく、科学的根拠に基づく教育を。」 -
・本書では「ランダム化比較試験」という実験を使うことで信頼に足りるエビデンスを基に教育効果の因果関係の有無を展開
・教育に関しては個人の意見を聞きたがる傾向がであるが、科学的根拠に基づく統計的なデータにより規則性をみつけていく事が本来的には重要である
・米国のブッシュ政権時代の「落ちこぼれ防止政策」ではまさに科学的根拠を重要視してきた
・科学的根拠に基づく教育政策とは「どういう教育が成功する子供を育てるか」を科学的に明らかにしていく試み
・読書や宿題をやるなどインプットにご褒美をあげる方が、成績を上げる・テストで良い点をとるなどアウトプットにご褒美をあげるよりも顕著に学力が向上。分かりやすく具体であることが理由。
・子供をむやみやたらに褒めると実力が伴わないナルシストになる
・自尊心が高いから学力が高いという因果関係はない。むしろ逆であり学力が高いから自尊心が高い傾向にある
・研究結果から、子供の能力(頭がよいなど)を褒めるよりも、努力や具体的に達成したこと(今日は何時間勉強した)ことを褒めるほうが更なる努力を引き出し、困難にもチャレンジできる子に育つ
・テレビやゲームは1日1時間までであれば影響はないが、2時間以上は学習時間など負の影響が大きくなる
・勉強をしなさい、と言う事は全く意味がないどころか逆効果になるのでやめたほうがよい。一緒に勉強をみたり手間をかけることで効果があり、娘なら母親、息子なら父親など同性の方がより効果が高い
・子供の友達の影響は大きい。悪友からのマイナス影響に対して親ができる事は思い切って引っ越しをするという事も選択肢の一つになる。
・幼児教育は割りの良い投資であり、就学前が一番投資収益率が高く、犯罪率の低下などの観点からも社会全般にとっても良い投資である
・学校は学力(認知能力)だけでなく非認知能力を養う所としても重要である
・非認知能力の中でも「自制心」と「やり抜く力」を養う事が重要
・自制心は筋トレと同様に反復させることで鍛えられる。例えば背筋を伸ばすことを何度も言われ続けてそれを忠実に実行した子どもの成績は良い影響を与える
・しつけ(=勉強をする、嘘をつかない、ルールを守る、他人に親切にする)を親に教わった人は、勤勉性を養えるという理由からそうではない子どもよりも年収が高くなる -
教育の世界にも、統計、エビデンスをはっきりさせなければいけないと、著者は書いている。
確かに週休2日制になって、学力は上がったのか?不登校の生徒の数はどうなったのか?などほとんど検証されていないと思う。
私が、1番腹が立つのは「ゆとり教育」である。我が家の子供達は正にゆとり世代。文科省の政策の犠牲になったと親として危惧している。ゆとり教育は、成功だったのか、失敗だったのか?きちんと検証してほしい。 -
「教育経済学者」の著者(慶應義塾大学教授)が、自らの研究と見聞をふまえて書いた一般書。
データに基づき、経済学的手法で教育について分析する「教育経済学」のエッセンスが、わかりやすく紹介されている。
4年前(2015年)に出た本で、私は仕事の資料として読んだ。
30万部突破のベストセラーになっているそうで、昨年には本書のマンガ版(『まんがでわかる「学力」の経済学』)まで刊行されている。
私は「教育経済学」という言葉さえ知らなかったド素人だが、本書は大変面白く読んだ。
《教育経済学者の私が信頼を寄せるのは、たった一人の個人の体験記ではありません。個人の体験を大量に観察することによって見出される規則性なのです。》(17ページ)
著者の指摘どおり、教育や子育てについての日本の論説の多くは、エビデンスを重視する科学的姿勢に乏しい。
子育てに成功した人(「子どもが全員東大に入った」とか)の体験を綴った本をありがたがって読んだりするわけだが、その個人的体験に普遍性はないのだ。
《子どもへの教育を「投資」と表現することに抵抗のある人もいるかもしれませんが、あくまでも教育を経済的な側面から見れば、そう解釈できるということにすぎません。》(74ページ)
本書には〝子どものいる家庭は年収の40%も教育費に使っている〟という、日本政策金融公庫の調査データが紹介されている。これほど多額のお金を子どもの教育に費やす以上、コストパフォーマンスが厳しく求められるのは当然だろう。
家庭では「投資」という言葉があまり使われないだけのことで、教育費は子どもの将来に対する「投資」にほかならないのだから……。
《過去日本が実施してきたさまざまな教育政策は、その費用対効果が科学的に検証されないままとなっています。》(116ページ)
そう指摘する著者は、データ、エビデンスに基づき、さまざまな教育の費用対効果・効率・収益率(!)などについての興味深い話を、矢継ぎ早に紹介していく。
たとえば――。
《どの教育段階の収益率がもっとも高いのか、と聞かれれば、ほとんどの経済学者が一致した見解を述べるでしょう。
もっとも収益率が高いのは、子どもが小学校に入学する前の就学前教育(幼児教育)です。》(76ページ)
情緒的でキレイゴト満載の「教育論」に慣れた目には、著者の冷徹でクリアカットな語り口が小気味良い。
教育について経済学的観点から研究する著者は、教育の現場にいる人たちから、しばしば次のような批判を浴びてきたという。
《「あなたの研究は、子どもはモノやカネで釣れるということを示すためのものなのか」
「教育は数字では測れない。教育を知らない経済学者の傲慢な考えだ」》(182ページ)
〝教育は聖域、教育者は聖職者〟みたいな時代錯誤の思い入れを、いまだ強烈に持っている人が多い世界なのだろうな。
しかし、これからの教育に必要なのは、著者のような視点のほうだと思った。
中室牧子の作品





