- Amazon.co.jp ・本 (535ページ)
- / ISBN・EAN: 9784800307453
作品紹介・あらすじ
冤罪、殺人、戦争、テロ、大恐慌。すべての悲劇の原因は、人間の正しい心だった!我が身を捨て、無実の少年を死刑から救おうとした刑事。彼の遺した一冊の書から、人間の本質へ迫る迷宮に迷い込む!執筆8年!『戦前の少年犯罪』著者が挑む、21世紀の道徳感情論!
感想・レビュー・書評
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読み応えたっぷり。ようやく読了。
個人的には13章の「進化によって生まれた道徳感情が冤罪の根元だった」部分だけ抜き出して新書とかで出して欲しかったけど、それまでの長いルポを読んだからこそしっくりくるのかな。
アダム・スミスの「道徳感情論」がずっと積読になってるんだけど、この章読んでついに読むかという気になった。
考えるな、観察せよ。私達は主観から逃れることはできないのだから。
無理矢理そこに物語を作ろうとしてはいけない。ただ事実をあるがままに把握すること。
自分がどれだけ無意識の内に考え、物語を作り出しているか、私は気付けるだろうか。これって、実はすごい難しいことなんじゃないかと思った。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
文庫版「冤罪と人類」を見て在庫のあったこちらを手に。違いはあるんだろうか?
いずれにしろタイトルから想起する内容は最後1割程度で、昭和25-30年頃の冤罪事件であった浜松事件と二俣事件の詳細と、そこに至る警察・司法制度史、鑑識技術史、紅林麻雄刑事、清瀬一郎、古畑種基博士と言った当時の異色な関係者についてが主。
むしろタイトルにある内容が蛇足。制度史と認知バイアスやサイコパスの話で分けた方が良かったのでは?
警察史自体は基礎資料に当たって他文献の孫引きなどを批判しつつよく調べてある。馴染みのない分野であることもあり、戦前から戦後にかけての司法制度史として面白いが、期待した内容とは異なった。 -
まず,本書のタイトルに引きつけられました。
正義を振りかざすとろくなことにならないのは歴史のいろいろな事実が証明してくれています。
昨今の「道徳心がないから犯罪を犯す」なんて短絡的なこととは対極にあることが書かれているに違いない…そう思わせるに十分なタイトルです。
そして,ネット上の本の紹介には次のように書いてありました。
冤罪、殺人、戦争、テロ、大恐慌。すべての悲劇の原因は、人間の正しい心だった! 我が身を捨て、無実の少年を死刑から救おうとした刑事。彼の遺した一冊の書から、人間の本質へ迫る迷宮に迷い込む! 執筆八年! 『戦前の少年犯罪』著者が挑む、21世紀の道徳感情論!
おお~,あの『戦前の少年犯罪』の著者か~とも思いました。『戦前の少年犯罪』は,「最近の子どもたちの凶悪犯罪が増えている」という偽善者やマスコミの煽りに対して,「決してそうじゃない。いまの子どもたちのほうがよほど落ち着いている…戦前の方(道徳心がないと騒いでいる老人たちの方)がよほどひどい世界だった」ことを証明しています。何か起きるとすぐに子どもたちに一定の価値観を押しつけようとする大人たちへの警鐘でもある本です。そんな「かんが えるろう」さんの書いた本なんだから,本書も,興味深いことが書かれているに違いありません。
一読しただけですが,これって,本好きの人にはたまらない内容です。ある殺人事件の話から物語は始まりますが,それがあっちへ行ったりこっちへ行ったりと実にさまざまな模様を繰り広げます。あまり読書に間を置くと,話がつながらなくなるのではないかと心配になるくらいの縦横無尽さです。でも,この著者による揺さぶられ方が,わたしはわりと好きなんです。
進化心理学、認知科学、政治哲学、倫理学、歴史、憲法、裁判、経済、数学、宗教、プロファイリング、サイコパス……。あらゆる分野を縦横無尽に切り裂き、新機軸を打ち出した総合知!
著者のアタマの中はつながっています。一方わたしのアタマの中は,それぞれバラバラです。それが,著者の筆の力によってつながっていく気持ちよさ。「そこはつなげすきだろう」と思う部分でさえも,楽しむことができました。
実はこの本。読んだのが体調を崩していたときの週末です。何もしないでベットに横になっていたので,うとうとしたり起きたりしながら,一気に読みました。おかげで,熱も下がって体調も元通り。不思議な体です。 -
道徳感情はなぜ人を誤らせるのか。
倫理を超えた大義名分として掲げられ、自己の行為を正当化するからだ。
冤罪事件がテーマだが、ISの問題やブラック企業になんかも通じるところはある。
面白い! -
あまり知られてない戦前・戦後の歴史的事件。
アダムスミスの『道徳感情論』の新しい読み解き方。
冤罪と感情のメカニズムをテーマにした壮大なまとめに感服です。
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<感想>
有名な冤罪事件「浜松事件」「二俣事件」などを扱った書籍。冤罪は悪意によってではなく、善意や共同体への忠誠心のような感情から生まれているという意外な切り口だったので興味を持った。書籍タイトルの「道徳感情はなぜ人を誤らせるのか」も秀逸で、自分の中のモヤモヤしていたものを言語化された感覚があった。正しいとされる行為が罪を生む。そのプロセスが解き明かされるのではないかという期待。
当初は紅林刑事の心理的変化を分析するものだと思っていたが、本書の8割は当時の警察組織や政府、裁判官などの状況分析に費やされる。それはそれで面白いのだが、期待していた冤罪当事者の心理的変化についての言及は少なかった。
<アンダーライン>
★★<浜松事件>という史上最大の難事件解決した名刑事として祭り上げられて、最初に巨大な虚像ができあがってしまい、それに実像を合わせてるために汲々としていた。
★★★<浜松事件>の難しさは、動機は窃盗なのに一度もその目的を達せなかったところにある。
★★★★★人間の脳は、目の前の対象をそのまま受け入れるのではなく、あらかじめ用意しているパターンに沿って物事を認識しようとする。あるいは、その場で簡単な因果関係をでっち上げ、それに固執する。対象を図式化して捉えようとして、却って真実から遠ざかってしまうことがあるのはこのためである。
★★★★★元々、人類は生存競争に有利なように、このような認識能力を発達させてきた。五感から入ってくるすべての情報を受け入れてしまうと脳が処理しきれなくなるので、情報を絞って取り入れ、記憶などによってあらかじめ用意したパターンに沿って処理する。
★★★★★数々の拷問冤罪事件によって誤解されているが、紅林警部補は部下の面倒見が大変によく、また慕われており、たとえ小さな町の自治警察相手でも気配りのできる人であった。むしろ、こういう周りに良い顔をしたい性格が、部下の働きに報いて自分の評判も高めるために無理やりにも成果を上げようとして、恐ろしい災禍を招いたとも云えるのであるが。
★★気配りの人である紅林警部補としては、莫大な費用を掛けて大部隊を展開した以上は結果を示さねばならぬのであろう。
★★★<互恵的利他主義>理論である。仲間を救っておけば、今度は自分が飢えたときに救ってもらえるという恩恵を当てにした行動なのだ。自己保存という利己的な目的のために、自分の身を犠牲にする利他的な行動を取るのである。
★★最新の進化理論では、これが<道徳感情>の第一歩だというのである。
★★★紅林麻雄刑事が次々と冤罪を引き起こした根本的な原因に、この<関節互恵性>を成り立たせる原理である<評判>が関わっているのは明らかだからだ。
★★★取調官は無実である被疑者の<利他主義>を突いて虚偽の自白を導き出すことが多い。お前が犠牲になれば家族や仲間が助かるなどと誘導するのである。
★★★★アダム・スミスは冤罪に問われた人間の苦しみは、死刑などの過酷な刑罰にあるのではなく、自分の云うことが信じてもらえないところにあると喝破した。つまり、これまで一生かかって築き上げてきた自分の<評判>がなんの役にも立たないことに、なにより大きな苦痛を感ずるのである。<関節互恵主義>で成り立っている人間の本性から来る根源的原理である。
★★★利己的な者ほど、周りの人間には<利他主義>を求めたりする
★★★★★人間は何にでも因果関係を見出し、因果さえ正しければ、正しいと思い込む。たとえば、「戦前は貧しかったので、金のための殺人が多かった」という推論は、「AならB」という文章内の因果関係としてはなにも間違っていない。この文章内の因果の正しさは、現実とはまったくなんの関係もないのだが、これだけでこの命題は正しいと思い込んでしまう。
★★★★<五・一五事件>や<二・二六じけん>の青年将校らに<私心>がないことを賞賛する者がいるが、<私心がない>とは責任がなく、感情も良心の呵責もなく、まともな感覚があればとてもできないことでもやってしまえるということだ。彼らが個人的な感情から大臣を暗殺したのなら<道徳感情>との葛藤から良心の呵責に苛まれたに違いない。
★★★<自己欺瞞>もまた、<サイコパス>の一種なのである。
★★★鬱病は<自己欺瞞>能力を失ったために起こるという説がある。
★★★<サイコパス>も恐怖心が生存にとって必須であることを潜在意識では判っていて、なんとか学ぶために人々に恐怖を巻き起こしている可能性がある。彼らが人間とは思えない残虐性を発揮するのも、じつは正常な人間性を取り戻すためなのかもしれないのだ。
★★アダム・スミスは「道徳感情論」で、我々は他人の苦痛そのものに<共感>することはほとんどなく、その人の抱く恐怖に<共感>するのだと云っている。 -
省みて同じ轍を踏まないようにしないと。
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社会
心理 -
題名に偽りあり。『道徳感情はなぜ人を誤らせるのか』というより『冤罪が作られる仕組』とでもしたほうが適当だろう。
事実(FACT)にこだわった文体は綿密ではあるのかもしれないが、読み難い。まるで取り調べ報告書のような読み心地は著者自身が警察出身なのでは? と思わせる(巻末のプロフィール文には記載なしのため真偽不明)。
芯をくったAMAZON書評があったので転載する。
<blockquote>筆者はペンネームにもあるように「かんがえる」ことを読者に求めると思いきや、実はその真反対の考えることを停止することを促す。そこには人間の思考が「道徳感情」から派生する「認知バイアス」から逃れられない宿命を背負っている浅薄で表層的な情感に結びついてしまう危険性を感得しているからであろう。そうではなく、夥しいデータを蒐集し分析することで自ずと見える世界を予断なく受け入れることこそ大事だと説く。</blockquote>
"考えろ"を捩った筆名を名乗った著者は、アダム・スミスの『道徳感情論』を持ち出して道徳感情が認証バイアスを呼び起こし、考えた結果、誤った判断を下すこともあると説いている。