南朝研究の最前線 (歴史新書y 61)

制作 : 呉座勇一 
  • 洋泉社
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感想 : 12
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  • Amazon.co.jp ・本 (335ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784800310071

作品紹介・あらすじ

北条氏による権力独占が進んだ鎌倉幕府。後醍醐天皇は、北条氏に不満をもつ武士たちを糾合して幕府を滅ぼす。しかし、新たに発足した「建武政権」は武士を冷遇し、反発した足利尊氏らによって政権は崩壊、朝廷は南北に分裂する。建武政権には多くの旧幕府の官僚が参加し、後醍醐天皇は武士たちに積極的に恩賞を与えた。南朝の政策も時代に即したものだった。では、なぜ後醍醐の「異形」性や建武政権・南朝の非現実性が定説化したのか?その核心に迫る16論考。

感想・レビュー・書評

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  • 近年進展著しい南朝研究の動向をコンパクトに紹介した良書である。執筆陣は70〜80年代生まれの若手研究者が中心だが、学術的な論証は参考文献に譲り、一般読者にも理解し易いレベルでポイントを要領よくまとめてくれているのは嬉しい。従来の南朝研究は後醍醐の建武新政が前後の政権といかに断絶したものであったかを強調してきた。それが短命に終わったのも、良きにつけ悪しきにつけ、後醍醐の天皇中心の政治理念があまりに現実離れしていたことが原因とされた。だが本書の各論文は建武新政が鎌倉末期と室町初期の政治と実は多くの共通点を持っており、意外に時代に即したものであったと主張している。

    不公平な恩賞が武家の不満を招いたと言われるが、実際には後醍醐は武家に手厚い恩賞を与え、多くの武家を官職に登用していた。腹心の北畠親房はそのことを批判さえしている。佐藤進一が主張した官司請負制度の廃止など後醍醐が行った君主独裁の強化もさほど過激なものではなく、官職の世襲も温存された。網野善彦が指摘した商工業者や供御人の組織化も後醍醐が初めてやったことではない。自ら行者となるまでに密教に肩入れしたのも、当時の時代の趨勢を反映した宗教政策の一環であり、傾いた皇統の権威回復を意図したものだ。そこに「異形の王権」と言われるほど前後の政権と隔絶する革新性は見出せないという。

    本書は建武新政を概ね肯定的に捉えている点で、悪名高き平泉澄の再評価という側面を持っている。平泉史学にはイデオロギーと実証史学が混在しており、戦後皇国史観を忌避するあまり実証史学としての価値まで見捨てられてしまった。今それがニュートラルな視点から見直されつつある。

  • 南北朝の「南朝」についての最新の研究に基づいて、歴史そのものもそうですが、研究や解釈の推移や研究者にもスポットを当てた歴史の本。
    14世紀は、アナーキーな時代だったんだなぁ~、と。政治的な対立があっても、今の日本においては、命を賭けたりしないので、やはり現代は平和ですよね。

    読み応えがありますが、普通の歴史小説好きレベルの人には向かないでしょう。分かりやすくないし。
    全く正確な歴史を再現することはできませんが、1次資料から復元しようとする試みは、純粋に科学、この場合は社会学ですが、としても興味深いです。
    続きが読みたい。

  • 南朝や後醍醐天皇については、最近研究が進んできたとよくわかった。
    戦前の皇国史観、戦後の唯物史観、どっちもどっち。ようやく地に足がついた研究が始まったのか。
    しかし、網野説の魅力的な後醍醐天皇の姿がなくなるのはとても残念。
    信長もそうだが、何でも普通にしていくのなら、何ための歴史研究かと思う。
    どこに着目するかの問題だが、違いを見つけてこそ研究者だろう。
    特に違いはありませんでしたで終わっては、意味がないと思う。

  • 南朝研究について様々なテーマで編まれた論考集。最新の研究成果を踏まえつつ論述されていて、とても面白く読めた。特に興味深かったのは征西将軍府に関する吉野朝廷との関係や対明入貢について。

  • 「太平記」史観の強さと戦前の南朝正統論への反動とで長く停滞してきた南朝研究について、現在の状況を16の論考で解説。建武の新政から後南朝まで、鎌倉後期から室町初期までの状況がとてもよくわかるし、物語的な人物像とは違う後醍醐天皇や楠木正成の実像なんかも面白い。あと、やはり後南朝はロマン溢れいい。
    個人的には『初期室町幕府研究の最前線」よりも面白かった。中世日本史に興味がある人は読んで損はないはず。

  • 個人的には細切れでなくもうちょっと深い内容が欲しかったかなあというところ。

  • 後醍醐帝に始まる南朝の最新研究結果が網羅されている一冊で、『太平記』などこの時代に興味がある向きにはオススメ。南朝意外にしっかりしてたよ、という内容は新鮮ながら、そのがんばりにもかかわらず最終的に北朝に屈した要因とはなんだったのか、はよくわからなかった。そのあたりは北朝視点の本もあわせて読む必要がありそう。また、全体的に踏み込みを躊躇う、歯切れの悪さがあるように感じた。

  • 102頁:卑しい「戎夷」(獣のような野蛮人)
    ・後醍醐天皇は,武士を「獣のような」と思ったのだろうか。
    172頁:橘正遠(まさとう)
    ・本書は,ルビをたくさんふってくれてありがたいが,「遠」に「とう」というルビには違和感をおぼえる。
    198頁:正平(しょうへい)一統(とういつ)
    ・いささか難解。江戸時代の本には漢字の左右に振り仮名があることがある。たとえば右には音が書いてあり、左には意味が書いてあったりする。その知識があるので、この「一統(とういつ)」というルビも意味としてつけたのかと、しばし考えた。しかしつぎに「南朝による南北朝合一」という解説がカッコの中に入っているので、わざわざ「とういつ」というルビは必要あるまい。単純に「いつとう」の誤りと理解しておこう。
    ・著者が異なるので、傍証とはいえないが、222頁には「正平一統(いっとう)」とある。
    ○勧修寺:228頁ルビ「かじゅうじ」。296頁ルビ「かんじゅじ」。
    ・オフィシャルサイト京都観光Navi「【正式名称】勧修寺(かじゅうじ、かんしゅうじ)」。
    http://www.kyotofukoh.jp/report571.html:Kaju-ji Temple「山科・来栖野(くるすの)の勧修寺(かじゅうじ)は、通称として「かんじゅじ」「かんしゅうじ」「かしゅうじ」とも呼ばれている」。
    ・なお296頁には「将軍義教は、自己の逆鱗に触れたものは……容赦せず……」と、
    「自己の逆鱗」というおもしろい(たぶん類例のない)表現がもちいられている。

  • すべて秀逸だがとくに後鳥羽院と律宗の関係について考察された稿には大変気づきを与えられた。

  • 大塚紀弘氏の項は後醍醐天皇観を変えてくれた

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著者プロフィール

国際日本文化研究センター助教
著書・論文:『応仁の乱 戦国時代を生んだ大乱』(中央公論新社、2016年)、「永享九年の『大乱』 関東永享の乱の始期をめぐって」(植田真平編『足利持氏』シリーズ・中世関東武士の研究第二〇巻、戎光祥出版、2016年、初出2013年)、「足利安王・春王の日光山逃避伝説の生成過程」(倉本一宏編『説話研究を拓く 説話文学と歴史史料の間に』思文閣出版、2019年)など。

「2019年 『平和の世は来るか 太平記』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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