ドキュメント・長期ひきこもりの現場から

著者 :
  • 洋泉社
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感想 : 5
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  • Amazon.co.jp ・本 (300ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784800311733

作品紹介・あらすじ

陰惨な殺人事件と「ひきこもり」を安易に結びつけるのは偏見でしかない。だが、「ひきこもり」問題は、もはや他人事ではない・・・
年間訪問件数800回。医師や施設などからも見放された長期ひきこもりと向き合ってきた著者が見た、知られざる現場の真実!

感想・レビュー・書評

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  • 著者が言いたいことは、「対話」の価値をもっと見直そうです。
    逆説的に、著者は、今の日本は、「対話できる相手」が、急速にいなくなっていると、
    訴えています。

    著者のような人が日本社会に、もっと増えてくれればいいなと切に願います。
    しかし、現状日本は、引きこもりに関して、より無関心になっています。
    最近は「今のあなたの状態は、全てあなたが招いたもの=自己責任論」が、
    人が他人を見る価値観の主流となっています。
    これから、引きこもりに関して、より厳しい社会的状況となります。

    内閣府の発表「子供・若者白書」によると、
    現在日本には54.1万人の引きこもりがいると分析しています。

    実際は、恐らくこの数倍になると思います。
    引きこもりの実体調査は非常に難しいですし、
    それは、主に家族が、世間体を気にして、
    公にしたくないという意志があるからです。

    引きこもりが注目されたのは90年代後半ですが、
    すでに20年を過ぎています。

    その当時、引きこもりだった青年は、今は30代~40代になっています。
    また、当時豊かだった日本は、もう豊かではなくなっています。
    ※この20年、日本のGDPは上がっていません。

    また、貧困問題も、クローズアップされるようになりました。
    引きこもりを支援するという会社も、機関も、自治体も、
    これから、ジリ貧になっていくでしょう。
    技能がない人間を雇う会社は、日本には、ほとんどありません。

    著者のように、何年もかけて、「対話」をしていくのは、ベストな
    対処療法だと思いますが、現実的にそれを多くの人へ支援するのは、
    カネも時間も人的資源も、現状ほとんどないのが現実です。

    調査によると、ひきこもり状態に陥る理由が、分析されています。
    不登校、職場になじめなかった、病気、就職活動失敗などです。
    病気を抜かせば、このどれもが、「人間関係の失敗」です。

    日本は、学校においても、仕事においても、非常にコミュニケーション能力を重視されます。
    その能力が低いものは、社会的に必要のないものと、
    判断されることもあります。

    人間には色んな人がいることは、大変重要な価値観だと思いますが、
    日本は、その人間に格差をつけています。
    こういう社会ですから、どんな人も、ひきこもり状態になる可能性があります。
    これは、肝に銘じていかなければいけません。

    そういう状態に、陥った時に、この著者のような、
    対話できる相手がいることが、救われる数少ないことだと、
    この著作を読んでわかりました。

  • ライフワークとして、ひきこもりの人たちと関わっている石川さんのルポ。個人で関わっておられるので、多くの人とは関われないとしても、一人ひとりにじっくり向き合っておられ、とても興味深かったです。日本は同調圧力など、周りに合わせないといけない雰囲気があるため、生きづらさを感じてしまう人は多いと思います。多様性を認めるだけでなく、最近では発達障害や、精神疾患に気付かずに、ひきこもったことによって、そのことがわかる人も多いのではないでしょうか。この日本の風潮が変わるには長い時間がかかるとは思いますが、少しずつ変わっていっていることも伺えました。私の二男も高校中退して3年間うちにいたので、よくまあ社会復帰できたもんだと思います。親が抱え込まないことと、本人を否定しないことは、特に大切ではないかと思います。多くの支援者の方、また苦しいご本人や家族のことも少しですが知ることができました。

  • 東2法経図・6F開架:367.6A/I76d//K

  • ひきこもりの男性達の生活の実態や、そのひきこもり達を抱えて苦しむ家族の現状。
    その点に関してはむず痒さや光の当たらない現代社会の嫌な部分を感じました。

    けれど、ある程度回復したひきこもり達に対して著者は、海外旅行というかなり大胆な手法で彼らの視点をかえるチャンスを与えます。それが驚きで、楽しくもありました。
    一度落ちてしまえば、実質その輪に入ろうとすることすら拒し、皆が同じであることを好ましく思う日本の現代社会。でも所詮一つの社会で、全世界そのものじゃないと知れるのはひきこもりでなくってもとても魅力的な方法だと思いました。

    著者が男性で、どうしても同じ男性の方が接触の機会が多いのでしょうが、引きこもりの男性はこの本では男性しか出てきませんでした。
    本に乗らなかっただけなのでしょうが、著者が男性であることを踏まえても、男性の引きこもりが圧倒的に多いという印象を受けました。

  • 深刻そうな装丁とは裏腹の、カラリとした著者の語り口に大いに虚を突かれた(いい意味で)。ひきこもり当事者の誤解を恐れずに言えば、面白く読めた。
    訪問や社会復帰のための活動のノウハウについてはこの著者の特異なキャラクターに負う部分が多いから、あらゆるひきこもり当事者の現場で役に立つ内容というわけではないけれど、深刻ぶってヨリソイヨリソイ唱えるだけの本より、よっぽどよかった。ああこういう方法もあるのねぇと思った。
    もっと明るくて、アジアンかわいい感じの装丁とタイトルにすればよかったのに。

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著者プロフィール

石川清

名古屋大学工学部航空学科・同大学医学部卒業。1978(昭和53)年、名古屋市立大学病院麻酔科に入局。トロント大学留学を経て助教授。94(平成6)年、名古屋第二赤十字病院麻酔科・集中治療部長。阪神淡路大震災救援、スーダン紛争被災者救援などを経験。2007(平成19)年、院長就任。定年退職後、愛知医療学院短期大学学長。12(平成24)年、救急医療功労者厚生労働大臣表彰。21(令和3)年、瑞宝中授章受章。名古屋市出身。

「2022年 『人生のやりがいを求めて(中経マイウェイ新書)055』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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