- Amazon.co.jp ・本 (333ページ)
- / ISBN・EAN: 9784802201407
感想・レビュー・書評
-
未完の計画機第2段。VTOLの16分割表が分かりやすい。80年代にこの表を見てよくできているものだと感心したが、それを航空雑誌で紹介したのも浜田氏だった。
SNSでの氏の発言を追っている方にはなじみのことかと思うが、本書も文章がウイットに富んでおり、また、SFや特撮やアニメなどに言及することも少なくなく親しみやすい。エッセイの達人とされた佐貫亦男先生に並ぶ飛行機評論家ではなかろうかと改めて考えている。
さて、「VTOL機の墓標」というサブタイトルがついた本書。前作に続いて奇妙な飛行機が山ほど紹介される。
とりわけ私の印象にのこったものを2点ほど。
1つはウィボー氏の「エスカルゴ」。遠心式圧縮機をエンジンで駆動し、その噴出する空気の向きを変えて垂直離陸~水平飛行するもの。
初期のアイデアはほかの失敗計画と同様のイロモノにしか見えない。
ところが、圧縮機を軸流式にして排気ノズルの向きを変えてみてはどうか、圧縮機はジェットエンジンとしてはどうか、ならジェットエンジンと圧縮機を同軸で動かしては、ジェットエンジンの排気も可変ノズルにしては…
とアイデアが進んでいったらあら不思議、初の実用VTOL軍用機ハリアーのペガサスエンジンに到達してしまう。
技術の進歩の物語でこれほどドラマティックなものはそうそうない。
もう1つは、天下の駄っ作機XFV-12。カナード型のかっこいい見かけに対しついに空を飛ぶことがなかった清々しいほどの失敗プロジェクト。
これまで、この飛行機の浮力のメカニズムがいまいち理解できなかった。ジェット排気を主翼とカナードのフラップから噴出すると、周囲の空気を巻き込んで推力が増し、機体を持ち上げることができる。
ダイソンのファンレス扇風機なら理屈が分かるが、あれだって基部にあるファンの出力以上の風は起こせないだろう。
いったいロックウェル社も海軍もどうしてあんな浮揚方式に納得してしまったのか。
本書でそれがようやく明らかになった。ジェットエンジンは噴出するガスの運動エネルギーで推力を得るが、排気は温度が高く、燃料のエネルギーの多くを熱として無駄に捨てている。
XFV-12では、スリットから噴出した熱い排気をフラップの表裏から巻き込んだ空気に混ぜる。熱を得た空気は機体の下で膨張し、すなわち、エンジンの外で膨張行程が再度現出する(1度目はエンジン内の燃焼による)。すなわち、ジェット排気の運動エネルギー+熱エネルギーが総推力となり、それは運動エネルギー単独より多くなるから、機体を浮揚させられるという構想である。
言われてみれば非常に納得できる。理科系の専門教育を受けたわけでもないのに、これほど説得力のある技術解説が行えるとは脱帽せざるを得ない。
上記の理解をした上で、本書に掲載されたXFV-12の主翼付け根の写真などを見ると、この飛行機が直面した技術的課題の多さが理解できるし、失敗したのもまた非常によく納得できる。
成功していればほんとうにかっこいい戦闘機になったであろうけれど。垂直離陸システムの技術的見通しの甘さがすべてを無にした。黙祷。詳細をみるコメント0件をすべて表示