デザインリサーチの教科書

著者 :
  • ビー・エヌ・エヌ新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (352ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784802511773

作品紹介・あらすじ

デザインリサーチなしには、もう何も作れない──。
日本で初めて、デザインリサーチの実践者がその全貌と詳細を書き下ろした一冊。

不確実性の高まる社会において、正しい問いを立て、正しいプロダクトを作り続けるためには、人々の気持ちになってプロダクトを作るのではなく、人々をプロダクト開発プロセスに巻き込み、人々の生活を理解し、人々と共にプロダクトを作る必要があります。そのための方法が「デザインリサーチ」です。

世界中の経営者が殺到するコペンハーゲンのデザインスクール、Copenhagen Institute of Interaction Design(CIID)で実践されている手法をベースに、日本でのプロジェクトをふまえて、より実践しやすく、かつ効果が得られるようにカスタマイズしたプロセスと考え方を、わかりやすく解説します。本書によって、近くスタンダードになるであろう、産業界におけるデザインリサーチの体系化された知見をインストールできます。

1章では、デザインへの注目、またリサーチに基づくデザインへの期待が高まる背景を紐解きます。2章では、デザインリサーチの特徴をマーケティングリサーチと比較しながら挙げ、デザインリサーチが貢献できる理由と範囲を定義します。メインとなる3章では、プロジェクト設計からチームビルディング、リサーチ設計、主となる調査と分析、さらにはアイディエーション、コンセプト作成、ストーリーテリング、プロトタイピングまで、デザインプロセスを俯瞰したうえで必要となる手順を解説します。4章では、デザインリサーチに組織で取り組み運用していくためのポイントを紹介します。

教科書と銘打っていますが、型通りではない現在進行系の分野における生きた教科書という意味であり、読者をこの世界に導くためのテキストブックです。

感想・レビュー・書評

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  •  デザインリサーチのお勉強。

    ■代表的なリサーチツール
    - カスタマージャーニーマップ (Customer Journey Map) エクスペリエンスマップ (Experience Map)
     人々の行動を時系列に合わせてマッピングしたものでカスタマージャーニーマップは、顧客(カスタマー)の「選択」や「決断」(例:自動車を買う)に至る道筋(ジャーニー)を可視化したものであり、エクスペリエンスマップは特定のプロダクトを利用する際や、特定の行動(例:旅行)をする際の顧客の経験(エクスぺリンス)を可視化したものであることが多い。しかしながらこれらを呼び分けるための明確な基準があるわけではなく、横軸として示される時系列に沿って人々の行動をマッピングする点において類似したものといえる。

    - デイインザライフ (A day in the life)
     リサーチの協力者に、ある1日の行動について書き出してもらう。カスタマージャーニーマップや、エクスペリエンスマップはプロダクトの接点にフォーカスして人々の行動を可視化したものであるが、デイインザライフは、プロダクトのタッチポイ ントに限らず、人々の生活にフォーカスすることで、プロダク トと接する上でどのような課題や機会があるかを容易に理解することができるようになる。 

    - エモーショナルマップ (Emotional Seismograph)
     人々の感情の変化を図示したものである。何らかの行動を行う際には、楽しい時もあればさして楽しくない時もあり、楽しい時であっても、すごく楽しい時と少し楽しい時があるだろう。 我々の感情は時系列によって変化するものであるが、このような気持ちの変化を可視化することによって、人々をより深く理解することを試みる。

    - 関係マップ (Relationship Mapping)
     関係性を図示したものである。ここで述べる関係性とは、人と人との関係もあれば、人とモノとの関係もあり、対象を限定したものではない。例えば人間関係を対象とした場合は自分に親しい者ほど中心に、親しくない者ほど中心から離れたところにマッピングする。仮に金融関連のサービスに関してのリサーチ を行う場合、日常的にクレジットカードやSuicaを使用する機会があるなら中心近くに、銀行のオンラインバンキングサービスを使用する機会がそれより少ないなら中心から少し離して周囲にマッピングする。こういったテーマに関連する各種サービスと自分との関係を可視化する時にも関係マップを利用することができる。

    - イントロダクションカード (Introduction Card)
     対象となる製品やサービスを指定し、リサーチ協力者とそれらの製品やサービスとの個人的な関係や馴れ初め、あるいはなぜそれらの製品やサービスがリサーチ協力者にとって価値があるかについてを質問し、スケッチや文字で説明してもらう。ラブレター&ブレークアップレター法(The Love Letter & The Breakup Letter) と呼ばれることもある。

    - カードソーティング (Card Sorting)
     複数枚の写真やイラストなどをインタビューの場に用意し、優先度の高い順であったり、自分と関係のある順、好みの順など に並び替えてもらったり、いくつかのカードを選択してもらったりする。カードのような実際に目に見える物を並べ変えることによって、自分が何に重きを置いているのかを容易に可視化することができる

    - ジオマッピング (Geo Mapping)
     地図や、建物の平面図、あるいは住居の間取りなどに自分の行動や思いを書き加えることによって、位置に関係する情報を可視化する手法である。行動にフォーカスして可視化を行う場合は行動マッピング (Behavioural Mapping) と呼ばれることもある。

    - ウォークスルー (Walk Throuch)、ユーザーテスト (User Test)
     リサーチ協力者に特定のプロダクトやサービスを利用するようお願いし、その様子を観察する。単機能なプロダクト(例:歯ブラシ)であれば、ただ「使ってみてください」とお願いするだけでも構わないが、複雑なプロダクトであれば適切なタスクを設定することが重要になる(例:Webサイトから特定の情報を探してください。会員登録をしてみてください。など)。似た名前の手法として、認知的ウォークスルー(Cognitive Walkthrough)がある。認知的ウォークスルーはプロダクトを評価する手法であり、プロダクト開発者やリサーチャーなどが、プロダクトを利用する人々の気持ちになって利用するシーンをイメージし操作することで、プロダクトが抱える課題を抽出する。

    - コ・クリエーション (Co-Creation)
     リサーチ協力者と一緒にアイデアやプロトタイプを作成する。リサーチャーとリサーチ協力者がチームを組んで実施する場合もあれば、ワークショップ形式でグループに分かれてアイデア創出やプロトタイプ作成に取り組む場合もある。なお、ここで 作成するプロトタイプは非常に簡単なもので十分であり、ハードウェアプロダクトであればダンボールやレゴブロックなどを使用して作成する。スマートフォンアプリであれば簡易的なペーパープロトタイプをリサーチ協力者と一緒に作成するでもよいだろう。プロトタイプを一緒に作ることによって、人々の好みや、優先順位、抱える課題がどう解決されると嬉しいかな ど、様々な洞察を得ることができる。


     インタビューは準備が9割

    ■良いインサイトとは
    ・文章を読んで状況を理解できること
    ・イノベーションのヒントになっていること
    ・新規性があり、容易に予測できないこと

    ■How Might We
     下記にいくつかHow Might Weの例を示す。
     空港に関するデザインプロジェクトを例に、どのようなHow Might Weがあり得るのか考えてみよう。
     このような依頼を受けるとデザイナーたちは空港に出かけて利用者 の様子を観察したり、利用者にインタビューを行うなどして、空港が 持つ課題を洗い出していくはずだ。その結果、下記のような課題を見つけ、これに対して解決を試みることとなるだろう。ちなみに、下記 のような問題定義をPoint of View (着眼点)と言ったりもする。

    「子どもを連れた母親は空港のゲートで待っているあいだ、子どもたちを退屈させないように楽しませる必要がある。なぜなら子ども たちが騒いで他の乗客をイライラさせることがあるためだ。」

     そして、この問題定義から、どのような How Might We を作成できる かを考えてみる。実に多くのパターンが考えられる。

    1. 良い面を伸ばす。
    「我々はどうすれば、子どもたちのエネルギーを他の乗客を楽しませることに使えるだろうか。」

     子どもたちは大声を出したり走り回ったりして他の乗客からみると迷惑な存在ではあるものの、異なる捉え方をすれば子どもたちは大きなエネルギーを持っており、それを持て余しているということでもある。このことをポジティブに捉え活用することはできないだろうか? 他の乗客をイライラさせているのが問題であるならむしろ子どもたちのエネルギーを他の乗客を楽しませることに向けられたらよいだろうという観点である。

    2. 悪い面を除去する。
    「我々はどうすれば、子どもたちを他の乗客から分離できるだろうか。」

     良い面を伸ばすことができるなら、逆に悪い面を除去することもできるはずだ。他の乗客をイライラさせてしまう原因は子どもたちであるが、その子どもたちと他の乗客との接点を減らすことができないだろうか?という観点からの課題設定である。あるいは子どもたちのエネルギーを何らかの方法で無効化できないだろうか?や、子どもたちのエネルギーを他の乗客の迷惑にならない形で消費させることはできないだろうか?などでもよいだろう。

    3. 反対を探す
    「我々はどうすれば、待ち時間を旅の楽しみに変えることができるだろうか。」

     そもそも待ち時間というものが旅の中で面白くない部分のひとつであり、この課題の大きな原因になっている。一般的には大人であっても時間を持て余して面白くないために、子どもが走り回ったり、イライラしてしまうのである。では、そもそも待ち時間が楽しい時間だったらどうだろうか。きっと周りの子どもたちにそこまでイライラしないのではないだろうか。そのためにはどうすればよいだろうか?という課題設定である。

    4.そもそもの質問
    「我々はどうすれば、空港での待ち時間をなくすことができるだろうかか。」

     3のパターンでは待ち時間を楽しくするにはどうすればよいだろうか?という観点からの課題設定を試みたが、そもそも待ち時間は必ず発生してしまうのだろうか。この待ち時間をなくすことはできないのだろうか。完全にゼロにすることは難しいかもしれないが、限りなく短くすることができれば他の子どもにイライラさせられるという問題は限りなく些細な問題になるはずである。

    5.形容詞で考える
    「我々はどうすれば待ち時間を苦しい時間から心地よい時間に変えることができるだろうか。」

     形谷詞とは、ものごとの大小・長短・高低・新旧・好悪・善悪・色などを表現する単語である。状況を理解し文章などの形で説明を試みると「かわいい」「長い」「楽しい」など、そこには数多くの形谷部が含まれるはずである。これら形容詞に注目し、その形容詞を変化させることを検討する方法である。

    6.他のリソースを活用する
    「我々はどうすれば他の乗客の自由時間を活用することができるだろうか。」

     注目している環境に、使用可能なリソースがないかを検討するのである。リソースには様々なものがあるが、わかりやすいものだと人材、時間、お金、場所、物、情報(知識・経験)、知的財産などが挙げられる。もし余剰リソースが存在するのであれば、あるいは余剰リソースを作ることができるのであれば、そのリソースを活用して問題解決を試みる。

    7. ニーズやコンテクストから連想する
    「我々はどうすれば空港を遊び場のようにできるだろうか。」

     デザインの対象となる現場におけるコンテクストから連想して、課題を設定することもある。例えば、前述した子どもが走り回り、大声を出したりする場は、まるで空港の待合室が遊び場であるかのような印象を受ける。ではいっそのこと、空港を遊び場のようにしてしまうことはできないだろうか? 遊び場で子どもたちが走り回って大声を出していても多くの大人たちは気にも留めないであろう。

    8.原因の立場になって考える
    「我々はどうすれば空港を子どもたちが楽しめる場所に変えることができるだろうか。」

     ここまで私たちは大人の立場で、いかに子どもたちを抑え込むか、子どもたちの行為を迷惑に感じずに済むかという観点で問題を捉えてきたが、この課題の原因である子どもたちの目線で物事を捉えると社会はどのように見えるだろうか。よくわからず空港まで親に連れて来られたけれど、ここでおとなしくしてなさいと指示されている。とはいえ、いつまでおとなしくしていればよいかわからなくて不安になるし、 そもそも周りには普段見ないような光景が広がっている。とりあえず走り回って探検してみよう! すごいものを見つけたからからお父さん、お母さんに教えてあげなくちゃ! などと思っているかもしれない。では、子どもたちの目線で子どもたち自身が楽しめる場所に空港を変化させることは可能だろうか。

    9. 現状を変更する。
    「我々はどうすれば子どもたちをおとなしくさせることができるだろうか。」

     今、私たちの目の前にある状況について考えてみると、子どもたちが騒がしいことが問題である。もちろん子どもたちが騒がしいのはなぜか?と質問を繰り返していくことで本質的な原因に辿り着くかもしれないが、まずは現状にフォーカスして課題を設定することもひとつのアプローチだ。そのように考えてみると、目の前にある課題「子どもたちが騒がしい」を解決する方法として「子どもたちをおとなしくさせる」が考えられるだろう。

    10.問題を分割する。
    「我々はどうすれば子どもたちを楽しませることができるか。」
    「我々はどうすれば母親を焦らさずに済むか。」
    「我々はどうすれば他の乗客を安心させることができるか。」

     現状を変更するとは逆の考え方で、問題を分割してみる方法もある。 「子どもたちが騒がしい」が目の前にある問題だったとして、そこに関連する様々な課題が存在する。例えば子どもたちが退屈している。母親は子どもたちを落ち着かせよう、周りに迷惑をかけてはいけないと焦っている。他の乗客はイライラしている。様々な解決すべき課題 が現場に共存していることがわかる。これらの課題を一度に解決できるようなソリューションがあればよいが、そのような銀の弾が存在しないこともある。そのようなケースにおいては、分割統治法のように問題をいくつかに分割して、様々な角度から How Might Weを作成す ることもできる。

  • 体系的にリサーチがまとめる良本。手にとってその手法を振り返れる。何回でも見直せる良本!

  • 『〇〇の教科書』と冠する本の中には、体系的・網羅的にまとまっておらず、教科書と言って良いのか疑問に思うものがありますが、
    本書はまさにデザインリサーチの教科書だろうと思います。手元に置いて繰り返し読みたい本です。


    ・デザインリサーチとは、プロダクトをデザインするためのリサーチ

    ・ダブルダイアモンド。問いを立てることと問いを解くことを分離し、適切な課題に対する適切な解決策を見い出す。

    ・インタビュー、観察

    ・アイディエーション

    ・how might we

    ・プロトタイピングは仮説があってそれを検証するために行う

  • GoogleのUIUXの授業で出てきた用語がよく出てくる。分かりやすい本です。

    ユーザーインタビューで良しとされたお皿と最後に好きなお皿プレゼントするから選んでもらったお皿が一致しない話はありえるな〜と思った。

  • デザインリサーチとは何で、なぜ大切なのかという説明から、どうやって行うかの具体例まで記してある実践的な本。探索的なリサーチや、アナロジー的なリサーチまで含まれているあたり、よく言われるUXリサーチとは少し広い概念なのかなと感じた。デザインリサーチの教科書というタイトルながら、スコープはリサーチではなくあくまでもデザインである。ここの目的と手段を間違えないように、というテーマは本書を通して一貫していて、読んでいて楽しい本だった。

  • デザインリサーチが求められる社会背景や実務の全体像を理解したい方にまずおすすめしたい一冊。学生やビギナー向けのまさに教科書。

    デザインリサーチ実務者ですが、概論だけでなく実務の中での「あーあるある」「そうそうここ気をつけたほうがいいよね」ということも書かれているので、これからはビギナーの方にはまずこちらをすすめたいと思います。

    全体像が理解しやすい一方、各トピックの説明は薄めなので、この一冊からはじめて、他の本で知識を補っていく位置づけと考えるとよいのではないでしょうか。

  • デザイン、リサーチを実地で行う際の注意点、参考とできる手順が良くまとまっている。
    「教科書」という名前にぴったりで、デザインというものに馴染みが薄い人、経験が浅い人が手元に置くのに向くと思う。

    また、デザインとは何か?を学ぶにおいても(私もこの目的)、
    インサイトやソリューション案をひねり出す過程がどういうものか、が見えてくることで、理解を深める助けになる一冊だと思います。

  • デザインリサーチの本質
    それはどんなもので、なぜ必要なのか、どのように行うのか、きれいに構成されて記述された本

    メモ
    ・デザインリサーチの目的。可能性を広げること。可能性を狭め意思決定すること。
    ・3種のリサーチ。探索的リサーチでテーマを決める。生成的リサーチでテーマについて調べる。評価的リサーチでアイデア評価し改善する。
    ・デザインのダブルダイアモンド
     discover 課題を洗い出す
     define 課題を絞りこむ
     develop 解決策を洗い出す
     deliver 解決策を絞り込む
    ・プロトタイピングで検証すべきもの
     実現性
     持続性
     ユーザー価値

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著者プロフィール

木浦幹雄 KIURA MIKIO
アンカーデザイン株式会社 代表取締役
大手精密機器メーカーにて新規事業 / 商品企画に従事したのち、Copenhagen Institute of Interaction Design(CIID)にてデザインを活用したイノベーション創出を学ぶ。国内外の大手企業やスタートアップ、行政などとのデザインプロジェクト経てアンカーデザイン株式会社を設立。質的、量的によるリサーチをもとに人々を理解し、その過程で見いだしたイノベーションの機会に最先端のデジタル技術を融合させ、仮説検証としてのプロトタイピングを通した持続可能な体験作りを得意とする。IPA未踏スーパークリエータ、グッドデザイン賞など受賞多数。

「2020年 『デザインリサーチの教科書』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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