ナショナリズムとイスラム的共存

著者 :
  • 千倉書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (269ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784805108932

作品紹介・あらすじ

バルカンやパレスチナで民族紛争の戦火が絶えないのは、歴史的にその土地に由来する原因があるからだろう、と想像するのは誤りである。かつて、そこには民族・宗教の混在にきわめて寛容な共存のシステムが確立していたのである。その政治的、社会的安定を崩壊させたのは西欧近代に由来するネーションステイト・モデルとナショナリズムだった。『イスラムの家からバベルの塔へ』(1993刊行)への加筆、新装版にあたります。

感想・レビュー・書評

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  • 3,4,6章のみ読了。興味深かったトピックは以下の通り。/帝国の「内」と「外」の分画は多くの不明瞭性。境域に存在する属国、それもムスリムやキリスト教の諸君侯国で実効的コントロールが強く及ぶものから、ラグーザのように内政的に極めて独立性の高いものまで/帝国臣民と外国人ではなく、ズィンミーとムスタミンとして把握。国家への帰属を超える「宗教」への帰属が人間の区分のもっとも基本的なカテゴリー/帝国の支配組織から臣民に対するコミュニケーションは第一にはトルコ語。公用語的な地位。ただ唯一ではない。アラビア語、ギリシア語、アルメニア語なども公的に用いられ。/国家的な対外コミュニケーションは、基本的に不対等の原則に立つもの。/ジャーススcasusと呼ばれるスパイの使用は、すでに少なくとも一五世紀には確認しうる。スパイとしては、帝国臣民のムスリム、非ムスリムに加えて、時には外国在住の非ムスリムまでも利用されたようである。p.108(第3章オスマン帝国と対外的コミュニケーション)/カラマン君侯国においてトルコ語がはじめて公用語として用いられるに至ったと言われる。/非ムスリムが各々の言語と文字を用いて印刷出版活動を行うことは早くから容認。ヘブライ語、1492年、アルメニア語、1567年、ギリシア語、1627年。/様々な言語を母語とする人々のなかから、各々の言語にアイデンティティーの根源を求め、「民族意識」に「目覚める」人々が、現れ始めた。/「文明語」としてのオスマン語を核として成立していたオスマン帝国の多言語帝国体制は、言語が単なるコミュニケーションの手段から、「民族」という、新しい共同体幻想のシンボルと化したとき、崩壊していった(第4章多言語帝国の構造)//不平等の下の共存という古い統合様式を否定し、自由と平等と参加を求めて形成されたはずの中東・バルカンの諸「ネーション・ステイト」の少なからぬ部分は、平等の下の共存という新しい原則に基づく、新しい統合様式と新しい共存様式を、なお十分に確立しえていないように思える。(第6章イスラム的共存の伝統とその変容)

  • 中東で流されている血の原因は宗教というより、国民国家システムの方なんじゃないか、などと思わされます。

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著者プロフィール

1947年生
1982年 東京大学大学院法学政治学研究科博士課程修了、法学博士
東京大学東洋文化研究所教授などを経て、
現 在 東京大学名誉教授

著書:
『オスマン帝国――イスラム世界の「柔らかい専制」』(講談社現代新書、1992年)
『オスマン帝国の権力とエリート』(東京大学出版会、1993年)
『オスマン帝国とイスラム世界』(東京大学出版会、1997年)
『世界の食文化(9) トルコ』(農村漁村文化協会、2003年)
『ナショナリズムとイスラム的共存』(千倉書房、2007年)
『文字と組織の世界史』(山川出版社、2018年)
『オスマン帝国の解体――文化世界と国民国家』(講談社学術文庫、2018年)
『文字世界で読む文明論――比較人類史七つの視点』(講談社現代新書、2020年)
『食はイスタンブルにあり――君府名物考』(講談社学術文庫、2020年)
『帝国の崩壊――歴史上の超大国はなぜ滅びたか』(編著、山川出版社、2022年)他

「2023年 『オスマン帝国の世界秩序と外交』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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