模索するNATO 米欧同盟の実像 (叢書21世紀の国際環境と日本)

  • 千倉書房 (2024年7月18日発売)
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本 ・本 (340ページ) / ISBN・EAN: 9784805113172

作品紹介・あらすじ

戦うことなく東西冷戦を終えた軍事同盟は新たな危機の世紀とどう対峙しているのか

感想・レビュー・書評

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  •  9.11後を中心に、著者曰く「生き物としてのNATOの実像に迫ることを目的とする」本。英語副題のCollective Defence, Expeditionary Missions and Global Engagement が各側面をよく示す。
     集団防衛は2008年の露・ジョージア紛争以降段階的に引き上げられ、特に2014年のウクライナ危機の衝撃は大。2022年のウクライナ侵攻では加盟国防衛や抑止を迅速に示す。
     遠征任務はISAFで大規模展開。課題はあったが全加盟国が参加、当時は一定の成果。その後は慎重姿勢で、集団防衛にシフトするも、なお中東やアフリカなど課題がある以上は遠征任務も残る、と著者は指摘。
     グローバルな関与は、ISAFでの豪など域外パートナー国との関係で発展。日本もPRTでは連携、関係が発展。ISAFの終了を経て、2010年代末以降は中国の台頭に伴いインド太平洋への関与。

  • 近年、ウクライナ戦争を背景にメディア出演が増えている鶴岡先生の新刊が出たので、読んでみた。

    本書は、多面的な側面を有するNATOの本質を、公式文書、高官発言の徹底的な精査、現場に関与した経験からの「相場勘」に基づいて解説されている。

    「相場勘」というと、科学的にいかがなものかと一部の学術界隈から批判されそうな感じであるが、こうした現場の経験に基づく直感の重要性は、クラウゼヴィッツのいうところの「リーダーシップ」に通じるところがある。

    本書を貫く主題としては、題目通り、NATOはこれまで「受け身」な組織であり、そのあり方を常に模索してきた組織であったとまとめることができよう。本書は、その根拠づけとして、主にアフガニスタンISAFとウクライナの事例を引き出して分析している。

    筆者は、ところどころで、当時のNATOを一言で言い表す高官のフレーズを引用するのだが、欧米の政治家はさすがウィットな表現をするものだな、と私には全く関係ないのに感心してしまった。

    総じて、NATOについて知らないことも多かったので、大変勉強になった。

    以下、備考。
    ・【p.19】NATOの「二重トラック」アプローチ
    ・【P.24】「サイレンス手続き」
    ・【p.44】2002年11月のプラハ首脳会合にてNRF創設が合意
    ・【p.52】兵力造成(force generation)とは、作戦に必要な兵力(数のみならず、求められる装備・能力)をNATOが評価・算定し、それが各国に提示され、各国からの貢献を通じて必要な兵力を確保する一連の作業
    ・【p.63】英国などは、IED(即席爆発装備)対策だけでなく、情報ネットワーク化など、現地(アフガニスタン)の必要に応えるかたちで、導入。まさに「戦闘を通じたトランスフォーメーション」 Theo Farrell, transforming military power since the Cold War
    ・【p.69】2011年3月のリビア空爆作戦は、NATO作戦において「文民保護」、R2Pが初めて前面に掲げられた。
    ・【p.99】2014年9月のウェールズ首脳会合で採択された「即応性行動計画(RAP)」は、「安心供与」と「適応」で構成。適応の主軸として、強化されたNRFとしての「高高度即応統合任務部隊(VJTF)」が創設
    ・【p.104】(誤植?)ドンバスの和平協議は、2016年秋から2017年春にかけてでなく、2014年秋から2015年春にかけてでは?
    ・NATO部隊統合ユニット(NFIUs)とは、数十人規模で、バルト三国、ポーランド、ブルガリア、ルーマニアにそれぞれ設置された、平時・有事の際のNATO加盟国部隊の増派受け入れなどの調整をする機能をもった多国籍組織
    ・【p.105】2016年7月のワルシャワ首脳会合では、「強化された前方プレゼンス(eFP)」の名称で、バルト三国とポーランドに対し各1個大隊(計4個大隊)のNATO部隊がローテーション派遣。
    ・【p.129】NATOのSCのCOEはリガに設置
    ・【p.162】戦術核軍縮の問題: ①透明性問題(露の戦術核は不明な点が多く、約2000発程度と見積もられる。欧州配備の米戦術核は200発程度)、②検証の難しさ、③核弾頭をカウントするのであれば、戦略核と戦術核の区分の維持が難しくなること。④MDや通常兵器とのリンクを検討する必要性
    ・【p.188】戦略の最も基本的な目的は、脅威認識を示したうえで達成すべき目標を定め、そのための現実的な手段を抽出すること(フリードマン)
    ・【p.191〜】2022年戦略概念(前バージョンは2010年)で、「前方防衛」に転換
    ・【p.221】「代表なきところ課税なし」
    ・【p.232】日本とNATOには2010年6月に締結された情報保護協定があるが、NATOにはより高度な情報共有体制である「7NNN(今は単にNNN)」
    ・【p.242】(誤字)ぞれぞれ
    ・【p.243】NATO防衛計画プロセス
    ・【p.251】露に関する考慮が独立変数で、ウ支援がその従属変数に

  • 【本学OPACへのリンク☟】
    https://opac123.tsuda.ac.jp/opac/volume/718615

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著者プロフィール

鶴岡 路人(つるおか・みちと):1975年、東京都生まれ。慶應義塾大学総合政策学部准教授。慶應義塾大学法学部卒業後、同大学大学院法学研究科、米ジョージタウン大学大学院で学び、英ロンドン大学キングス・カレッジ戦争研究学部で博士号(PhD)取得。在ベルギー日本大使館専門調査員(NATO担当)、防衛省防衛研究所主任研究官などを経て、2017年から現職。専門は現代欧州政治、国際安全保障。主な著書に『EU離脱』(ちくま新書)『欧州戦争としてのウクライナ侵攻』(新潮選書)『模索するNATO――米欧同盟の実像』(千倉書房)など。

「2024年 『はじめての戦争と平和』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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