ミジンコ先生の水環境ゼミ: 生態学から環境問題を視る

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  • 地人書館
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  • Amazon.co.jp ・本 (268ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784805207727

作品紹介・あらすじ

環境問題の「常識」が常識でなくなる目からウロコの水環境学。

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  • 内容は湖の生態学。湖内の食物連鎖や水温分布の変化によって植物プランクトンの発生量と湖の透明度が変わること、通常は大型ミジンコが優占し、魚とともに湖の生態系において重要な要因となっていることなどが説明されている。

    大型ミジンコのダフニアは細菌から大型の植物プランクトンまで食べるため、ダフニアが増えると湖の透明度が上昇する。湖が富栄養化すると生物量が増えるので魚が増え、魚が捕食するダフニアが減り、植物プランクトンを食べる効率は悪い小型のプランクトンが優占する(トップダウン効果)。欧米では、魚を捕獲して除去したり、魚食魚を放流することによってダフニアを増やし、水質の浄化を図る試みが広く行われており、6割で成功している(バイオマニピュレーション)。魚食魚としてはオオクチバス(ブラックバス)が用いられているが、日本では生態系に大きな問題を起こしている。

    コイやフナなどの底生性の魚は、泥の中に生息するユスリカ幼虫やイトミミズなどを食べ、糞を排出することによって水中の窒素やリンの濃度を上げるため、植物プランクトンを増やすことになる(ボトムアップ効果)。

    生物間の競争に強く優占している種は、有害化学物質に最も弱い傾向がある。したがって、低濃度の毒性によっても種の構成が変化して生態系は影響を受ける。ダフニアが減り、小型のプランクトンが優占した生態系では、食物連鎖は植物プランクトン→小型動物プランクトン→捕食性動物プランクトン→魚となる。食物連鎖が長くなるほど、捕食によるエネルギー損失が大きくなるため、生態系全体のエネルギー転換効率が低くなる。

    湖の表層は植物プランクトンの光合成によって酸素濃度が高いが、透明度が低い湖の湖底近くでは細菌による有機物の分解によって酸素濃度はゼロに近くなり、貝などの湖底生物に影響を与える。水深10m以上では、風による撹拌の影響を受けない冷たい深水層が形成される(成層)。表層の水温が4℃になると、湖底の水も動いて全体が混ざる(循環期)。特に春の循環期には、湖底の栄養塩が表層まで運ばれ、日射しも強いので植物プランクトンが増殖して湖の透明度が下がる。秋の循環期は日射しが弱いため、春ほど植物プランクトンは増殖しない。表層の水温が0℃になると再び成層し、湖面に氷が張ると風の影響を受けなくなるので安定する。気温が高く春と秋の循環期の間隔が長くなると、湖底の貧酸素層が拡大する。底が深い湖では、沈降して堆積した有機物が舞い上がることがないため、富栄養化しにくい。

    水の流れがある川ではプランクトンは生息できず、付着藻類と水生昆虫が生息する。天竜川上流域の伊那地方では、さざ虫(トビケラ、カワゲラ、ヒビトンボの幼虫)を佃煮にして食べる文化がある。上流の諏訪湖で発生した植物プランクトンによってつくられたアオコ(主に浮遊性藍藻)が川に流れ出て、濾過採食性の水生昆虫の餌になるため。

  • 生態系は一筋縄ではいかないことが良くわかった。

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