- Amazon.co.jp ・本 (241ページ)
- / ISBN・EAN: 9784805505274
作品紹介・あらすじ
建築や構造物は人間が造りあげた以上、それは生命体と同様ついには死にいたる。ピラミッド、ローマの水道橋、ピサの斜塔やヨーロッパの教会堂、出雲大社や羅城門から文学作品まで、古今東西の事例の「死にいたる諸相」を検視した建築崩壊の歴史。
感想・レビュー・書評
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ふむ
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建築という営みと人間の情念はいかに絡まりあってきたか…本書はこれを「崩壊」という切り口で語ってみようとしたものである(あとがきより)
著者自身が書いているように、論文という形はあえて取らず、しかしただの面白本では片づけられない高いレベルでまとめられた読み物だと思う。世界各国様々集められた建物の崩壊と、それにまつわるエピソードが興味深い。
<blockquote>P6 ”崩壊とは一種甘美なものなのだよ”(画家デシデリオを評した言葉)
P123 以上紹介して来た伝承を通して確実に言えるのは、天譴としてであれ、僥倖としてであれ、崩壊を意味づけて受け止めようとする心性が広く存在していたことである。
P126 奇蹟なるものは、そう簡単に起こりそうもないことを知るべきであろう。蛇足ながら、功徳を積んでもいない者が僥倖を期待するのは見当違いだということも。
P139 (グァリーニは)建築について論ずる中で、古代ローマの建築とゴシックの建築を対比し、こう述べる。
「ローマ人たちは、自分たちの建物が堅固であることを望み、しかも、そう見えることを欲した。これに対して、ゴート人たちは、極端な高さ、細さに魅せられた。彼らは、自分たちの教会堂が実際には堅固であっても、細く見え、建っているのが奇蹟であるかのように思われることを欲した。(中略)これら二つの相反する思考のうち、どちらが栄誉あるものかを判定するのは、高い見識を有する者にとって、一考に値する問題である。」</blockquote> -
建築の棚にあった本だけど、中身は『崩壊』をテーマにしたエッセイのようなもの。建築美術を扱っている人が書いたもので、具体的な例や記録が多め。直接的なシナリオ資料にはなりづらいけれど、ヒント集になりそうな本でした。あえていうなら、イメージふくらませ用の本。
崩壊に関する人々の思い入れ、ロマン、恐れ、崩壊にまつわる予言やジンクス。ピサの斜塔は数年前に補修したけれど、まっすぐに直しはしませんでしたとか。斜塔にバイアグラ積んだトラックが激突したせいで、塔がまっすぐに立つとかいうたわごとも載ってた(^_^; ハムラビ法典では、建てた家が崩壊してその家の息子が死んだ時、家を建てた大工の息子の命であがなわなければならないという話も。応報の法典にもほどがある……。
そして実際の崩壊っぷり。教会の礎石を削って遺体を埋葬したために、天井ドームが支えきれなくなって上から崩れていくとか。日本の崩壊例は雷や火災によるものが多かったのも興味深く。
あと、崩壊は崩壊途中の状態と、崩壊後の“朽ちた”建物の状態と、の2つを光景として切り取っていた点も、面白い着眼点だなぁと思いました。
総じて、この作者さんの感じたこと、書いてくださったことは共感しやすかった。一つ一つの内容になるほどなぁと思うことができた、読み物として楽しい本でした。