- Amazon.co.jp ・本 (224ページ)
- / ISBN・EAN: 9784806714439
作品紹介・あらすじ
田中角栄首相により電撃的に成し遂げられた日中国交回復から40年。激動の中国政治、経済、社会、メディアと、日中関係がすっきり展望できる、日本を代表するジャーナリスト、チャイナ・ウオッチャーによる書き下ろし。
感想・レビュー・書評
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日中の壁―この厚い壁は乗り越えられるのか《赤松正雄の読書録ブログ》
日中国交回復がなった昭和47年。私は、公明新聞政治部の記者として国会の取材にあたっていた。前年に公明党の訪中団による野党外交の展開もあり、内外に亘る当時の高揚感は忘れ難い。あれから40年。尖閣諸島を巡る日中両国の動きは、一触即発の事態も起こしかねないほど深刻だ。
「そのうち中国経済は破綻する」「いくつかの連邦国家に分裂する」そう予測をしていたチャイナウオッチャーが先頃、どうもその見たては誤ったとの見解を、若干の恥じらいと共に見せたのを複雑な思いで聴いた。
双方がつの突き合わせる状況を前に、この8月に刊行されたばかりの『日中の壁』(日中ジャーナリスト交流会議編)を読んだ。2007年から4年間、日中両国を代表するジャーナリスト達が毎回7、8人ほどずつ参加して、東京と北京の地で交互に徹底討論した。そのうち、日本人側の13人の報告をまとめたものだ。司会役は田原総一朗氏。
「選挙をやってリーダーを決めている国家の景気が悪く、選挙をやっていない中国の景気がいいというのは興味深い」―田勢康弘氏(元日経記者。早大教授)は「欧米でもロシアも韓国も台湾も、選挙で国家指導者を選出する国家はみな景気が悪い。民主主義という統治システムがマーケットや情報革命のスピードについていけないからだろう」と、指摘する。表現の自由を享受する日本のメデイアは、政治の無力化が続くことを存分に非難しているが、それによって必要な諸改革が進んだ痕跡はない。「自由だからと言ってそう威張れたものではないな、と自覚せざるを得な」い、とあとがきで結んでいる広瀬道貞氏(元テレビ朝日会長)らの呟きは印象深い。
中国で頻発する反日デモの怒声は、真夏の遠雷のように、遠き戦場の砲声のように日本人の心胆を脅かす。かつて中国を故なく低く見ていた人間ほど、ありうるかもしれない「報復」に神経を尖らせる。
参加メンバーのうち最も若く唯一の女性である倉重奈苗氏(朝日新聞記者)は、「尖閣問題をめぐる攻防」の中で中国が脅威であるかどうかは周辺国が判断するものではないかと、会議の場で問いかけた。周辺の脅威にはならないと中国政府が繰り返すことの無意味さを鋭くついたのだが、中国側は、一様に押し黙ったまま回答はなかった、と。「相手がどう受け止めて、自らをどのように見ているのか。そのことを機敏に察する感受性なしに正しい外交的感覚は生まれない」と指弾し、客観的な事実の追求を執拗に求めて胸に迫る。
田原氏は、このデイスカッションを通じて中国が確実に変わったことを実感し、心からお互いが信頼できる関係になったという。それが、今まさに試されようとしている。願わくば、中国側の参加者たちの発言録も合わせて掲載して欲しかった。詳細をみるコメント0件をすべて表示