- Amazon.co.jp ・本 (288ページ)
- / ISBN・EAN: 9784806714460
作品紹介・あらすじ
人びとが暮らしの中で寄り添ってきた虫たちのいとなみを、ていねいに解き明かす。
感想・レビュー・書評
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原題は”Fireflies, Honey and Silk”。蛍と蜂蜜と絹。虫なくしては生まれなかった、人の生活の彩りの物語である。
虫を利用した古今東西の事例をゆるやかにカテゴリーわけして紹介していく。派手ではないが、静かに興味をそそる1冊である。
構成は:
第1章 人に好かれる昆虫たち
第2章 蚕と絹の世界
第3章 カイガラムシと赤い染料
第4章 きらびやかな昆虫の宝石
第5章 ミツバチの作るろうそく
第6章 蜂の生み出す紙、虫こぶのインク
第7章 時にはごちそうとなる昆虫たち
第8章 ハチミツ物語
第9章 昆虫医療
第10章 コオロギのコーラス ノミのサーカス
多種の昆虫のエピソードが数多いのだが、蜂と絹の印象が強いように思う。
絹というとカイコをまず思い浮かべるが、silkには広義には「カイコが作る絹に似ているもの」も含まれるようで、例えば、クモの糸もsilkと呼んだりする。こうした「シルク」は、カイコを始めとする蛾や蝶の一部の幼虫、スズメバチの幼虫、アリ、マルハナバチ等の蜂等、複数が知られる。
種によってシルクを作る器官が異なったりするため、別々に進化してきたと考えられるようだ。それだけ、「シルク」には利用価値があったということだろう。
カイコのシルクもクモのシルクもフィブロインと呼ばれるタンパク質で出来ているようだが、微妙に組成が違ったりするのかもしれない。
カイコの繭を茹でながら糸を取るのは、フィブロイン(絹の元)を、粘性が高いセリシンが固めており、フィブロインを得るには水溶性のセリシンを溶かす必要があるためである。
4万匹ほどのカイコは1トン以上の桑を食べ、77kg程度の絹を作るという(収率7.7%・・・さて多いと感じるか、少ないと感じるか・・・)。
ミツバチはさまざまな面で人の生活に関わってきた。ハチミツを作るのはもちろんだが、蝋も重要だった。蜜蝋は蝋燭・封蝋などとして、1000年以上、大切に使用されてきた。蝋は蜜の糖分を脂質に変えたものであり、蝋を作るには20倍の量の蜜が必要となる。
ミツバチは授粉にも大切な役割を果たしているため、近年問題になっている蜂群崩壊症候群(CCD)は、農作物や食肉にまで影響を与えうる。
驚いたのは昆虫医療。
ウジ療法やツチハンミョウの催淫薬は効いたことがあったが、何と縫合にハキリアリを使っていたことがあるという。傷口の適当な場所を狙ってハキリアリに噛みつかせる。がっちり挟んだら、頭を切り落としてしまう(!)。そのままにしておくと数日で傷は癒え、そののち頭部を取り外すのだという。・・・ま、医療用のクリップやホチキスだって原理は同じですか・・・。
ウジ療法は、死滅し、感染した組織をウジに食べさせてしまうもの。ウジは死んだ組織しか食べないので、非常にきれいになるらしい。近年、また注目を浴びているという。
その他、装飾品としての虫の利用、アブラムシやセミの甘露、カイガラムシの赤い色素、昆虫食、闘蟋、死肉掃除屋のカツオブシムシなどにも触れられ、古今東西幅広い虫の「雑学」である。
<参考文献等>
・クモの糸:日本人研究者のなかなかユニークな研究記です。後者の方が新しく、ジュニア向けのため読みやすいかも知れません。
『クモの糸のミステリー』
『クモの糸の秘密』
・CCD(蜂群崩壊症候群)
『ハチはなぜ大量死したのか』
・ウジ療法:本当に見直されていて、FDAが認可したりしているようです。
日経サイエンス 2013年6月号「よみがえったウジ療法」
http://www.nikkei-science.com/?p=35273
・ツチハンミョウ:毒ですから! 使っちゃダメですよ。
『図説世界史を変えた50の動物』
・闘蟋:賭博はやっぱり楽しいようですね。
『闘蟋―中国のコオロギ文化』
・カツオブシムシ→司法昆虫学:この本は大分前に読んだと思うのですが。死体についた虫を、死亡時刻の推定に使おうという研究です。いろいろな研究があるものです。
『死体につく虫が犯人を告げる』
・昆虫食
『昆虫食入門』
すみません、自分で読んだのは『楽しい昆虫料理』なのですが、多分、上記の方がマイルドだと思います(^^;)。
**巻末の参考文献は、和訳書が出ているものもすべて原著しか記載されていないのが残念といえば残念。そこまで興味を持った読者なら、自分で調べられるだろうということか・・・。にしてもいささか不親切に思うのだが。
**挿絵が細密ですばらしい。特に挿絵画家の名前がなかったので、著者自身の手によるものだろうか。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
人間の生活との関わり合いから、虫のことを紹介した一冊。専門的で詳しい解説が書かれているわけではないが、虫が人間の文明と密接に関係してきたことが本書から分かる。平易な文章であり、昆虫の解説書という本ではないので、虫に興味があまりなかったような人でも興味を持って読み進めることができる。本書内にあるのは写真ではなくイラストなので、ページをめくってグロテスクな写真に驚く心配もない。
文章が少し単調なので途中で飽きがくるが、自分の興味のあるページまで飛んで読んでも問題はない。 -
exchange
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面白かったです。
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昆虫学者である著者が虫と文明との関係を書いた一冊。昆虫が苦手だという人にこそ読んで欲しい。例えば、テントウムシは殺虫剤が効かない虫に対しての駆除的役割を果たし林檎農園の危機を救い、果汁産業の発展に一役買った。人類が成長していく上で昆虫は欠かせない存在なのだと知らされます。
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虫のうち人に役に立つものを紹介。
インクが虫が木に作るコブから作られるとは思いもしなかった。 -
西洋における虫と人々の関係性がメインだけれども、ちょいちょい日本も例に出てきてそれが何故だかうれしい
もう少し挿絵があった方が分かりやすいかなという気もした
装丁がとても好み -
いうまでもなく
われわれ人類より
ずっと昔から この地球上に存在していた虫たち
人類が勝手に
刺されたり
食べたり
嫌がったり
愛でたり
してきた分だけ
そこに 文明が
残っていったのでしょう -
おもしろいんだけど、ちょっと雑多な印象。
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読者を虫の世界へと誘う、品のあるエッセイ。小泉八雲が好きな人のようで、日本人の情緒にもあたたかい視線をむけている。少しずつめくっていく本。注釈充実。英文で読んだほうが味わえる本なのかもしれない。カタカナ表記が多くなってしまうのは如何ともしがたく…。