土と内臓―微生物がつくる世界 ( )

  • 築地書館
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  • Amazon.co.jp ・本 (392ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784806715245

作品紹介・あらすじ

肥満、アレルギー、コメ、ジャガイモ――
みんな微生物が作り出していた!
植物の根と、人の内臓は、豊かな微生物生態圏の中で、
同じ働き方をしている。

感想・レビュー・書評

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  • 「土と内臓 微生物がつくる世界」 体の中の隠された大自然 |好書好日
    https://book.asahi.com/article/12521835

    微生物がいなければ人間も植物も生きられない 『土と内臓』 | J-CAST BOOKウォッチ
    https://books.j-cast.com/2017/08/06005883.html

    土と内臓 | 築地書館
    http://www.tsukiji-shokan.co.jp/mokuroku/ISBN978-4-8067-1524-5.html

  • 思い切った邦題だが、原題は"The Hidden Half of Nature- - - The Microbial Roots of Life and Health"。「自然の隠された裏側。微生物が担う生命と健康の根幹」といったあたりか。

    土にも生物にも元来、多くの微生物が住み着き、「共同体」としてバランスを取りながら存在してきたのに、近年、前者は抗生物質や食習慣、後者は化学肥料や単一作物の連続栽培などで、微生物叢が破壊され、あるいは単純化されてきている。現代病の頻発や収穫量の減少はそこから来ているのではないかというのが全体としての趣旨である。
    これにプラスして、微生物学の歴史も記載される。
    微生物学は専門外である学者夫妻が、専門用語や専門的すぎる言い回しを排して、わかりやすく解説するというのがミソで、読みやすく、興味深い読み物となっている。

    執筆のきっかけは妻がガンになったこと。
    宣告後、自らの食生活を見直し、また趣味の庭いじりに奮闘する中で、世界の中で微生物が果たす役割の大きさに気付いていく。
    幸いにも治療は功を奏し、著者らの食生活も改善されて、夫は減量にも成功したようである。
    治療や食事、園芸を通し、現代社会に考察を加える間に、レーウェンフックから始まる、微生物学の発展史があり、これがなかなかおもしろい。コッホとパスツールが実はあまり仲良くなかったとか、レーウェンフックの小さな珍しい生き物を見るためにロシア大帝やイングランド女王もデルフトを訪れたなど、小ネタも適度に混ぜ込まれている。糞便移植療法などの新しい話もあり、人と微生物との関わりをざっくり俯瞰するにはよさそうだ。

    肝は、「土」も「内臓」も、実は複雑であるのに、過度に単純化されてしまったことで、さまざまな不具合が表出しているという問題提起である。
    化学肥料も抗生物質も登場したときには、世紀の発明・発見だった。これさえあれば、安価に健康で豊かな暮らしが手に入ると思われた。
    だがそれは目に見えない複雑さを切り捨て、バックグラウンドを痩せ衰えさせることにつながっていった。このあたり、多分に微生物が培養できるものばかりでなく、そして人は培養できるものにばかり目を奪われて、見えないものになかなか気が付かなかったことが関連している。

    主張としては、非常にわかりやすく、説得力があるのだが、一面、ガンを初めとする現代病を避けるために推奨される食生活というあたりは、ちょっと根拠が薄いようにも思われる。いずれにしろ、アメリカ流の大容量のコーヒーと甘いスコーン、肉をがっつり、野菜はちょっぴりという食事はよいとは思わないし、スローフードもよいのではあろうが、精製糖や精製炭水化物が即悪というのもいささかヒステリックで短絡的に聞こえる。
    野菜をたっぷり食べて、食物繊維を取り、ふすま入りの穀物を食べるのは悪くはないのだろうけど、それで直ちに現代病が予防できるかというと個人的には少々疑問だ。

    厚さもそれなりにあるので、一見、取っつきにくい本に見えそうだが、いろいろ考えさせてなかなかの掘り出し物であった。


    *学名の表記で1つ。ラクトバキラス(=Lactobacillus?)、バキラス(=Bacillus?)という表記があるが、ちょっと違和感が。ラテン語の原則としてはcをkで読むものらしいが、生物学的には慣用的にバチルスかバシラスを使うと思う。本文では原語が併記されていなかったので、新しい細菌なのかとちょっと驚いたが、文脈的にはバチルスっぽい。

    *こぼれ話的におもしろかったのは、種痘で知られるジェンナーがカッコウの託卵の研究もしていたという話。あとはミトコンドリア共生説で論争を巻き起こしたリン・マーギュリスが天文学者のカール・セーガンの最初の妻だったという話か。

  • 私の内臓は土壌であり、栄養素を吸収する腸は植物の根である。土壌環境は微生物のバランスで決まり、ミネラルを必要とする。人間は細菌と共に生きるのであり、植物も細菌と共に生きている。マイクロバイオーム。何だかストンと納得するような言説であり、健康を改めて意識し、その知識をそれこそ根っこから吸い上げられるような、面白い本だ。

    ミネラル欠乏について。銅はヘモグロビンが正しく機能するためと、正常な骨形成のために欠かせない。マグネシウムは少なくとも300の酵素反応に必須の元素で、不足すると注意欠如多動性障害、双極性障害、うつ病、統合失調症の原因に。鉄不足は貧血と学習や仕事の能力低下を。亜鉛は少なくとも200の酵素反応に必要で、正常な成長、組織の修復、傷の治癒に欠かせない。亜鉛が欠乏すると感染症にかかりやすくなる。

    ガーデニングが趣味の家族がいるが、著者同様、土壌改良がミソであり、植物に癒されるのだという。私自身はその境地にないが、自然の揺らぎの中で読書をすれば、微生物や細菌を含む生態系に包まれているようで心地良い。自らが土壌である、という意識も悪くない。

  • 世界は、なんとフラクタルにできているんだ!
    分厚いけれど飽きさせない導入部、そして研究者の歴史も読み応えあって「へぇー」の連発。
    植物の根≒人間の腸
    であり、
    土壌環境≒腸内環境
    なので、肥満もアレルギーも癌もうつ病も、栄養満点の有機的な土壌で作られた野菜を食べれば、ほぼOKということらしい。
    植物が健康的に育つには、土が大事。
    お茶の出涸らしや動物の糞といった自然のものを土に混ぜば、微生物が勝手に育ててくれる模様。
    農薬を使うと植物の根が張りにくく、土の栄養価も激減する。
    微生物は、土にも内臓にもいて、よき働きをしてぅれるので、味方にした方がいい。

  • すごい!おもしろい。
    はじめの岩だらけの庭の土づくりのところからどんどん引き込まれた。
    人間の消化管と植物の根の働きが似ているって、ひゃー。
    自然界の様々な微生物のはたらきの話はちょっとややこしいけど、歴史的に微生物を人間が見つけてどうやって理解してきたかという話は興味深いし、共著者がガンになってしまってから食事を見直す話もなるほど、であった。食生活を変えることは腸内環境を整えること、豊かな土壌を作ることと同じなのだ!
    人間も自然の一部だということをあらためて実感した。このコロナの時代に、またちょっと違った目でウイルスとか微生物を捉える視点を得た感じ。

  • 爆裂に面白い。
    土壌生態学、土壌生物学、医学微生物学、様々な学問分野の歴史や、絶妙な比喩を交えながら、膨大な調査を語りに語りまくる、好奇心くすぐられる一冊。
    読了してみると、土と内臓、というタイトルの深さに感動。
    今日から内臓大改造、実践。楽しみ。

  • 原題は「The Hidden Half of Nature」。自然の隠された半分、といった意味で、こっちのほうがしっくり来る。目に見えない微生物の働きが、自然、あるいは人間に多大な影響を与えている、という話。
    最近、植物と協力して働く菌類や土壌生物、また腸内フローラと呼ばれる微生物群の働きに興味を持っているので、楽しみに読んだ。

    著者は夫婦で、ガーデニングを始めた奥さんの話に始まる冒頭の話は調子よく、面白かったのだが、途中だからだんだん発散してきて、顕微鏡の発見まで遡る。面白かったけれど、寄り道が多すぎてポイントがぼやけてしまうという科学系の翻訳書にありがちなパターンで、その点は残念だった。300ページを超える結構厚い本で、半分か1/3の分量でまとめてくれたらなあ。

    土壌と菌類の関係は欧米ではそれなりに重視されているらしいが、日本ではなぜかあまり知られておらず、もっと知りたい。
    腸内フローラと人間の健康の関係についてはこれからさらに研究が進み、いろいろ新しいことがわかりそうだ。盲腸炎になったから切っちゃうとか、お腹調子悪いから簡単に抗生物質を使うとか、そういうこともこれからは見直されるのかもしれないな、と思いつつ、引き続きこの分野はウォッチしていきたい。

  • 高温多湿の夏という季節をもつ日本において、腐敗・発酵・微生物の作用はけっこう身近なものだと思っていた。
    北米在住の著者にとっては、そうではなかったらしい。自分をとりまく庭などの環境、そして病を患った自身の体の感覚を経験的に綴りつつ、科学的検証も同時に併記している。著者夫妻はもともと研究畑だが、微生物については対象外とのこと。複雑に絡み合う自然界、ヒトも含めてその繋がりは分野以外となると、科学的根拠に基づいて話すのは難しい。経験をもとに科学的リテラシーを持って推敲された文章と訳文は説得力がある。
    人と微生物、人と自然の共生について、改めて問い直す文章は、コロナ真っ只中の現在に非常に響く内容だ。

  •  タイトルからは、この二つがどのようにつながるのかがよくわからないまま読み始めることになった。前半では、植物がよく育つためには土壌の細菌が大切であって、化学肥料を加えさえしたらいいわけではないということを、筆者たちの庭での実体験から始まり、農業の歴史を振り返りながら解説してくれる。そして後半になると、おなじように腸内の細菌が大切であるということを解説してくれる。いきなり腸内細菌の話しから始まるよりは、前半の土壌の話があったからこそ後半がすんなりと理解しやすかったと思う。うまく構成されている。あまり読みやすい本というわけでもないが、読んでよかったと思う本。自分の生活も少し変わりそうに思う、食事と体調には気を付けようと思う。

  • 根圏と大腸という、これまで省みられることの少なかった「世界の隠れた半分」における、驚くほど精巧なフィードバックループ。本書は両者における微生物たちの役割に光を当てるとともに、利便性と快適性を重視するあまりこの豊潤な小宇宙を軽視してきた現代人の生活に警鐘を鳴らす。地質学者と環境計画学者の夫婦の共著だが、それぞれのアネクドーツが生化学という専門外領域への関心を呼び覚まし、本書の執筆に繋がったというのが面白い。

    本書は微生物の発見の歴史や、進化の過程における「シンビオジェネシス(共生)」の解説を経たのち、人間の農作物への関与の歴史の詳述に入る。モンゴメリーは、植物の生長に必要な窒素・カリウム・リンの供給を重視する「最小律」に過度に傾斜してきた19世紀以降の欧米農学を批判し、自身の庭づくりの体験から、サー・アルバート・ハワードが提唱した、化学成分に加え細菌類と植物の相互作用である「肥沃度」を重視すべきと説く。

    ここで紹介されるのが農作物と土中微生物の共生により形作られる「根圏」。微生物は作物の根が化学成分を吸収しやすくするタンパク質やホルモン等を提供し、見返りに農作物は炭素やフィトケミカルを分泌し有益な微生物を呼び寄せる。殺虫剤の多用はこのような共生関係を破壊し、結果的に植物の抵抗力を損なっていると警告する。

    ここまでが本書のいわばA面。盤面をひっくり返してB面に針を落とすと、共著者のもう片方であるA・ビクレー自身のガン罹患体験が語られる。慢性的な炎症がDNAコピーミスを惹起し、ガンの遠因となることを確認した後、GALT(消化管を取り巻く免疫組織)における腸内細菌・セグメント細菌が、免疫抑制/促進のバランスをとる役割を果たしていることが紹介される。もちろんここでの記述は「根圏」におけるのと同様、人体とこれらの非病原性細菌を含むマイクロバイオームの共生(commensalism)にフォーカスが当てられたものとのなっている。

    ここから感染症の原因としての微生物に人間がいかに対処してきたが語られる。微生物を一掃することで感染症が撲滅できるというパスツールの信念、治療とは病原菌の特定であり、培養できない微生物は研究の埒外としたコッホのスタンスは、人類への重要な科学的貢献ではあったが、副作用として「理解するより撲滅せよ」という短絡を生み、その後の抗生物質の多用に繋がったことが指摘される。

    そして、リポ多糖(内毒素)を産生する細菌を優遇し、炎症増、代謝低下を惹起する欧米的食生活へのカウンターとして、中国の細菌学者趙立平により提唱されたWTP(全粒・伝統的食材・プレバイオティクス)が紹介される。全粒穀物などの多糖類(食物繊維・セルロース等)はその消化しにくさのため小腸で吸収されるのではなく大腸発酵細菌により発酵され、SCFA(短鎖脂肪酸…酢酪酸・酢酸・プロピオン酸)という人体に有益な物質に変換されるというのだ。欧米系の、特に精白された穀物中心の食事が、早すぎる消化により糖分が急速に吸収されるため、余分な糖分が脂肪として蓄積され、内毒素の存在の下ではIL-6の放出により炎症を誘発してしまうのとは対照的だ。有益な生きた細菌をそのまま取り込む「プロバイオティクス」とともに、慢性的炎症を抑え免疫系を調整する細菌との共生を前提とした食生活への転換が提唱されている。

    現在流通している食品の中には、本書で紹介されているアイデアが反映されたものがすでにある。それはもちろん一部の動きでしかなく、未だに農業の現場では消毒薬が爆撃のように使用されているし、畜産や医療においても抗生物質が使用されなくなることは当面ないだろう。しかし結局のところ、地表の上と下は、人体の表と裏をひっくり返したのと相似形なのだ。そう考えてみると、「世界の隠された半分」にいるのは微生物などではなく、通常彼らの宿主とされている我々人間の側なのではないかと思えてくる。人間は、豊潤な生物世界の片隅での部分最適にとらわれるあまり、ロングランでの有益性に対してブラインドでありすぎたということなのだろう。

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著者プロフィール

ワシントン大学地形学教授。
地形の発達、および地質学的プロセスが生態系と人間社会に及ぼす影響の研究で、
国際的に認められた地質学者である。
天才賞と呼ばれるマッカーサーフェローに2008 年に選ばれる。
ポピュラーサイエンス関連でKing of Fish: The Thousand ─ year Run of Salmon(未訳2003 年)、
『土の文明史─ローマ帝国、マヤ文明を滅ぼし、米国、中国を衰退させる土の話』(築地書館 2010 年)、
『土と内臓─微生物がつくる世界』(アン・ビクレーと共著 築地書館 2016 年)、
『岩は嘘をつかない─地質学が読み解くノアの洪水と地球の歴史』(白揚社 2015 年)の3冊の著作がある。
また、ダム撤去を追った『ダムネーション』(2014 年)などのドキュメンタリー映画ほか、
テレビ、ラジオ番組にも出演している。
執筆と研究以外の時間は、バンド「ビッグ・ダート」でギターを担当する。

「2018年 『土・牛・微生物』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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