霊 星新一・室生犀星ほか (文豪ノ怪談 ジュニア・セレクション)

制作 : 東雅夫 
  • 汐文社
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感想 : 6
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  • Amazon.co.jp ・本 (300ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784811323312

感想・レビュー・書評

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  • 文豪ノジュニアセレクションの1冊。テーマは「霊」。怖いだけでなく、霊に親しみを感じたり、生前親しかった相手の霊との交流は哀切漂う。 そんな優しいお話に出会うと、あの世とこの世の境は案外薄いと感じる。

    【倉橋由美子「霊魂」】
    「わたしが死んだら、わたしの霊魂をおそばに参らせますわ」
    それなら死は別れではなくその後また別の日々が始まるのか。

    【岡本綺堂「木曾の旅人」】
    木曽の山小屋の親子のもとに現れた客人。
    倅はひどく怯え、犬は激しく吠え立てた。

    【室生犀星「後の日の童子」】
    これは、哀切極まりない。室生犀星が、まだ乳幼児の時に亡くした長男のことを書いた「童子」という連作短編がある(未読)。これはその後日談だということ。
     語り手夫婦は長男を失った。その長男は童子の姿で毎夕家に訪ねてくる。
     死んだ後も成長している童子。童子の足跡は湿っている。自分の死んだあとに生まれた妹への嫉妬を見せる。
     日がたち、両親と童子はお互いの姿をぼんやりとしか認識できなくなる。


    【水木しげる「ノツゴ」】
    最近夢を見るんだ。自分は”ケケケの毛太郎”という漫画を書いているんだけど、毛太郎は墓場から生まれてくるんだ。自分はなぜそんなことを思いついたのだろう。名もない霊が脳をノックして作らせたのだろうか。
    そして最近毛太郎が生まれたのと同じ情景の夢を見るんだ。
    ある地域では、男が余って娘っ子たちも父無し子を生むことが多かった。育てられないから墓場に埋められたその赤子たちはノツゴと呼ばれた。
    中には息を吹き返して穴から這い上がるものもいて、生きノツゴと呼ばれたらしい。
    ある記録をみたら、おや、この生きノツゴの誕生日は、自分と同じじゃないか。

    【三浦哲郎「お菊」】
    タクシー運転手が病院前で乗せた若い女は、病院で死に魂が両親のいる家に戻ったのだ、という話。
    女や両親の様子、道中の描写が実に見事でとても優しい。

    彼女の家はそれはそれは見事な菊畑を栽培している。
    <道の片側のゆるやかな斜面が見渡す限りの菊畑で、その中腹にある藁葺き屋根の女の家は、まるで黄色い海に揉まれて傾いている屋形船のように見えたからです。P234>
    そして女の両親はタクシー運転手に、「この運転手さんが娘を連れてきてくれたんだと」と、泣きながら頭を下げたという様子。
    そして、自分の乗せた客が亡霊だと知った運転手は、
    <でも私には、自分の乗せたお菊ちゃんが生きた人間のなにかだったとは、どうしても思えないのです、あれが生きた人間以外のなにかだったら、自分含めて世の中の人はみんな同類だと思いました。P244>
    と戸惑う。
    室生犀星「童子」だとか、この小説とかを読むと、あの世とこの世の境は案外薄いと感じる。

    【久生十蘭「黄泉から」】
    戦後の新盆。フランス人教授は戦死した教え子たちを招いて晩餐会を開くという。
    だから光太郎も従妹のおけいを呼んでみようかと思った。
    おけいは光太郎のお嫁さんになりたがっていた。だが光太郎はそんなつもりはなかった。
    その後おけいは、戦下のニューギニアに女性タイピストとして派遣され、病で死んだ。
    真似事の降霊会を始めたら、おけいの同僚の女性が訪ねてきて、彼女の最期を教えてくれた。
    おけいの意志を感じた光太郎は、このあとフランス人教授の晩餐会にいくであろうおけいに、光太郎は手をのべた。

    <日が暮れて、いよいよご臨終が近くなると、なんともいえない美しい顔つきにおなりになって、あたし「松虫」が好きなのよとおっしゃって、いい声で上げ歌のところを朗読なさいました。
    そこへ部隊長がいらして、ご苦労だった、こんなところで死なせるのはほんとうに気の毒だ。おまえなにかしてもらいたいことはないか。遠慮しないで言いなさい。どんなことでもいい、といわれますと、おけいさんは、では、雪をみせていただきますとおっしゃいました。
    雪…雪って、あの降る雪のことか。ええ。そうですわ。これは困った、神様でない限りニューギニアに雪など降らせられるわけはなかろうじゃないか…P278>
    周りの人も女性本人も死ぬことを当たり前としてその時を迎えようとしていることと、しかしこんなところで若い女性が病気になり衰弱しの命が終わるということへの「本当に気の毒だ」という感情とが混じったなんとも複雑さ人間の優しさと尊厳を感じる。
    そしてこの「雪が見たい」という願いは叶えられるのだが、その描写も実に美しい。


    【幻妖チャレンジ! 謡曲「松蟲」】
    最初に原文が書かれて、その後に現代語訳で書かれています。

    野で死んだ友人を訪ねた男。
    請われるように現れた友人の亡霊と、束の間の時を過ごす。
    進む世界にいる者と、その場に留まる者の境目が揺らぐ。
    そしてこの二人の関係の濃さは、雨月物語「菊花の契」と同じようで、友情というかそれ以上というか。

  • 霊をテーマにした怪談アンソロジー。なんだかあまりにもベタすぎるテーマじゃないかと思ったのですが。そうでもないなあ。むしろ、どれもが怪談ではあるのだけれど、ほぼ怖さを感じなかったのが意外。むしろ愛らしかったり切なかったり。霊が悪いものばかりとも限りませんしね。
    お気に入りは倉橋由美子「霊魂」。……なんだか可愛い。この霊魂がなぜかとっても可愛いのです。ううむ、こんなのだったらいても……いや、やっぱり困るかなあ(苦笑)。
    三浦哲郎「お菊」も好き。あまりにありがちでベタなストーリーなのだけれど、情緒あふれる表現に満ちた物語で、どこかしら心温まるような印象でした。

  • 星新一の「あれ」はなんか…星新一らしいオチが明確な絶望じゃなくて…なんか不穏に終わったな…。
    倉橋由美子の「霊魂」はお前結局悪霊だったんじゃねーーーーかオチ。怖いわ。
    岡本綺堂の「木曾の旅人」は生きてる人間が一番…オチ。子どもと犬はすごい。
    室生犀星の「後の日野童子」は幻想文学~~~なんだけど、どこか淋しい…。
    水木しげるの「ノツゴ」は面白かった!初めて漫画以外の作品読んだけど面白…しげる…。本の裏表紙にいるカワイイの、金井田英津子女史画のノツゴだったんだな…。かわいい…。
    三浦哲郎の「お菊」はベタっちゃベタだけど、なんか綺麗だったな…。いつもの三浦節…。
    久生十蘭の「黄泉から」はラストが・・・・ラストがなんとも言えない…。
    謡曲「松蟲」は、衆道の気配知らんかった…、さすが皆川博子先生…。

  • 「星新一・室生犀星......。みんな怖い話が好きだった? 文豪がのこした怪談を分かりやすく編集した読み物シリーズ。総ルビ、丁寧な注釈つき。きれいな挿絵を豊富に使い読みやすくなっています。シリーズ最終巻のテーマは、霊、そして魂のゆくえ......。装画と挿し絵は、金井田英津子!」(汐文社HPより)

    【収録作品】

    星新一「あれ」

    倉橋由美子「霊魂」

    岡本綺堂「木曾の旅人」

    室生犀星「後の日の童子」

    水木しげる「ノツゴ」

    三浦哲郎「お菊」

    久生十蘭「黄泉から」

    【幻妖チャレンジ!】

    謡曲「松蟲」

  • 星新一や倉橋由美子作の、常道をあえて外したような変わり種ホラーを導入にして、徐々に掲載作品の作風がシフトし、編者解説に出ていた「ゴースト・ストーリー」という単語のイメージがぴたっとはまるような「怖い」というよりはむしろ「美しい」幽霊譚に。とくに久生十蘭「黄泉から」の余韻。いいものを読んだ…と心から思える本でした。

  • 久しぶりに怖い夢を見た。
    このシリーズ読んでるからかしらん…。
    <収録作品>
    あれ/星新一
    霊魂/倉橋由美子
    木曾の旅人/岡本綺堂
    後の日の童子/室生犀星
    ノツゴ/水木しげる
    お菊/三浦哲郎
    黄泉から/久生十蘭
    【幻妖チャレンジ!】
    謡曲「松蟲」
    編者解説

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著者プロフィール

1926 - 1997。SF作家。生涯にわたり膨大な量の質の高い掌編小説を書き続けたことから「ショートショートの神様」とも称された。日本SFの草創期から執筆活動を行っており、日本SF作家クラブの初代会長を務めた。1968年に『妄想銀行』で日本推理作家協会賞を受賞。また、1998年には日本SF大賞特別賞を受賞している。

「2023年 『不思議の国の猫たち』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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