クニマスは生きていた!

著者 :
  • 汐文社
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  • Amazon.co.jp ・本 (164ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784811324234

作品紹介・あらすじ

奇跡の魚・クニマスが私たちに問いかける「命のつながり」とは…。最後のクニマス漁師だった三浦久兵衛さんと、久さん親子の姿を通して描いた、感動の物語。

感想・レビュー・書評

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  • 田沢湖は約180~170万年前に火山の噴火によってできたと言われている、ボコッと深い穴のあいたような形状の湖である。水深は最も深いところで約423メートル。そして60近くの沢から流入する水によって、その透明度はすばらしく高かった。
    深いということは太陽の光が届きにくく、水も冷たい。そして透明だということは、エサが少ないということを意味する。だがそのような厳しい条件でも、クニマスにとっては適した生息環境だったのである。言い換えれば、そのような稀な条件が重なった環境ゆえに生息できたのである。
    -戦前の国策によって水力発電所が作られ、水を蓄えるために湖近くの水量の多い強酸性の川から水が引かれるまでは-

    この本は、クニマス漁師として“最後の世代”にあたる三浦久兵衛さんと、その意思を受け継いだ息子の久さんが、消えたクニマスを何とかして再び田沢湖で見たいと熱意をこめた取り組みを聞いた同じ秋田県出身の著者が、田沢湖とクニマスとがたどってきた歴史に三浦親子の事績を織り交ぜてまとめたもの。

    それにしても、今から80年前ほどに、国が電力の確保を優先して地元住民の生活を激変させるような形で事業を推し進め、その結果、地元にもたらされたのは自然の恵みの大きな損失であり、しかもそれはもとに戻したいと思った時には簡単には元に戻せないという事実に慄然とする。

    “あの原発事故”と二重写しではないか。

    この本で書かれているのは、あくまでクニマスを採って生計を立てる自分たちが、そのクニマスが滅ぶのを目の前にしても何もできなかった悔しさであって、国策に対して直接的に異を唱えているわけではない。しかし、環境を過小評価した国による発電所建設の推進が、自然をはじめ人々の生活や地域社会に不可逆的にダメージを与えたという点では、同じではないか。

    他方で、クニマスが他所で生息していたというのはある意味で奇跡であり、その奇跡をさらに発展させ、クニマスを「再び」田沢湖で自生させよう、という希望でこの本は終わる。

    しかしこの本を隅々まで注意深く読めば、私たちは現状では決して楽観視できないという事実も知ることになる。クニマスが現在自生している山梨県の西湖では、この本の発行までの数年において、年々クニマスの推定生息数が減ってきているという。

    減少の原因の特定は難しいが、冷たい水を好むゆえに田沢湖では水深の深い場所で生息していたと思われるクニマスに、気候変動(地球温暖化)の影が忍び寄っているのではないか。
    それが原因でクニマスが「再び」絶滅してしまうとしたら、絶滅の原因は過去のものではなく、現に今を生きる私たちだ。
    21世紀の知恵でクニマスを未来に向けて守り切るのか、それとも80年前と同様に自分たちの環境に対する配慮の足りなさによって再びクニマスを絶滅させてしまうのか。

    今まさに、私たちが問われている。

  • 2010年12月15日、秋田県仙北市の田沢湖で絶滅したと思われていたクニマス(国鱒)が、山梨県の西湖で発見されたとのニュースが日本中を駆け巡りました。

    秋田県の田沢湖は日本で最も深い湖。かつてはその透明度から「神秘の湖」と呼ばれ、クニマス、イワナ、ウナギ、コイ、サクラマスなど20種類もの魚が住んでいました。中でもクニマスは土地の人に愛されてきました。西湖に伝わる龍神となった辰子姫伝説の中で、木の尻と言われる松明が湖に触れたとたんに魚の姿に変わり、それがクニマスだと言われています。
    けれど1940年(昭和15年)、田沢湖の近くを流れる玉川の水が引き込まれました。水力発電と農業用水のためのダム湖にすることになったからです。「毒水」とも呼ばれた玉川の酸性水(玉川の上流には玉川温泉があり、強酸性の湯が噴出している)が導かれたことにより、世界で田沢湖にしかいなかったクニマスは姿を消しました。

    先祖代々クニマスの漁師だった三浦久兵衛さんは、田沢湖がダム湖になる事を止めることができなかったことを後悔していた。けれど、ダム湖となる前に、久兵衛さんの祖父の金治郎さんは、クニマスが生きられるよう、クニマスの卵を本栖湖、西湖、琵琶湖などをはじめ長野県や富山県などの湖に送っていました。クニマスの養殖にも力を入れていた金次郎さん。当時13歳だった久兵衛さん。戦争が終わり、1988年、久次郎さんは金治郎さんが託した湖をめぐり、クニマスがいないか探しはじめました。しかしクニマスは深く水温の低い、きれいな水の所にしか住めない魚。なかなか見つけることはできなかった。久次郎さんの活動はテレビや新聞でも取り上げられるようになり、懸賞金付きのクニマス探しキャンペーンにも発展した。クニマス鑑定委員会が設けられ、クニマスを見つけたら100万円もらえるというもの。しかし似た魚はいてもクニマスは見つからない。懸賞金は500万円にもひきあげられたけれど、クニマスを見つけることはできなかった。
    久兵衛さんが亡くなり、その意思を継いだ久さんは、丸木舟でクニマス漁をしていたころに想いを馳せ、丸木舟を作り、地域の人とともにクニマス探しを続けていました。
    そんな時、山梨県の西湖で、絶滅したと言われていたクニマスが70年ぶりに発見されました。

    喜びにあるれる久さんや地域の人々。けれど、それだけでは終わりません。クニマスが田沢湖へ里帰りできるよう、田沢湖をもとの綺麗な水に戻すべく活動がはじまりました。
    次世代に美しい湖や川を残すこと、久さんたちの活動はこれからも続きます。





  • OK 久兵衛

  • クニマスってサカナクンのイメージばかりだったけどこんなドラマがあったのね。この物語を知れて良かったです。我々が自然を壊してきた歴史は決して忘れてはいけない。とても考えさせられました。

  • 「台東区図書館POPコンテスト2021」の「奨励賞」者が紹介していた本。
    課題図書のハズ、読んでいたのでは?と確認したら、未登録だった。読んでいなかったのかな?

  • さかなクンが表に出ていたニュースですが
    地元の人目線だとまた違う印象です

  • 息子くんが読書感想文を書くのに選んだ1冊。

    実は、光村図書の中1の国語科の教科書にも同じテーマで書かれた教材文あり。

    田沢湖におけるクニマス絶滅の最大の要因は天皇制にあると、この1冊を読んでいちばんよくわかったことである。

    そのことをいつか息子くんに伝えることができたらなと思いつつ…

  • 課題図書(2018年度、高学年)

  • いなくなったのはそんな原因だったのか。
    その工事でどれぐらいの見返りがあったのだろう。
    どれぐらい地域の人の暮らしは豊かになったのかな。
    流域ひとつ潰すことに匹敵するような見返りはあったんだろうか。
    今もなおそのままってことは、それだけの重要性があるってことなのかなあ。

  • 2018年課題図書高学年(その1)

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著者プロフィール

秋田県出身。オーストラリアのキャンベラに30年住んだ後、秋田市に仕事の拠点を移す。『クニマスは生きていた!』は第64回青少年読書感想文全国コンクール課題図書。ほか『生きるんだ!ラッキー』など著書多数。

「2019年 『自由への道』 で使われていた紹介文から引用しています。」

池田まき子の作品

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