東アジア共同体憲章案: 実現可能な未来をひらく論議のために

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  • 昭和堂
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  • Amazon.co.jp ・本 (239ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784812208397

作品紹介・あらすじ

東アジア共同体をめぐる国内外の論議をリード。グローバル・ガバナンスに貢献する、東アジアらしい「共同体」の構想。ヨーロッパや東南アジアの経験もふまえ、実現可能な制度を提案する。

感想・レビュー・書評

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  • 他の東アジア共同体論の本は、全て「形成するとしたら、このような問題がありますよ」という内容を日本の視点から論じていた。
    この本は日中韓の国際問題等を抜きとして、「形成するとしたら、このような形式になりますよ」という内容を、あくまでも地域統合機構として捉えている。
    視点が非常に面白い内容だった。

    1-1-4
    本憲章案の狙い:初期構成国はASEAN+3(範囲を閉じたわけではない)
    →・東アジアの全国際フォーラムの共通構成国である点
      ・域内貿易比率が50%を超えている点(EU:65%、NAFTA:45%)
    1-2-5
    共同体不可能論に対する反駁
     (1)共同体の構築は、政治的な意思による決断を本質とし、構築作業を進めながら
       当事者も自己変容するようなダイナミックな作業だという点
     (2)地域共同体の構成は、地域ごとの独自の創造的な努力によればよい点
       (地域統合はすべてEUモデルでなければならない、という訳ではない)
    一国単位の政治か、一国単位と世界単位の政治の中間に地域単位の政治を開拓するか
     →経済活動、環境保護、非伝統的安全保障という共通の関心事項(地域益)
     が多くある東アジア地域
    ゲゼルシャフト(損得計算)とゲマインシャフト(精神的な紐帯が濃い)
     共同体の性質を定義する観念的な作業をするよりも、
     具体的名な理念や原則や目的を何と定めるか、意思決定方式をどうするといった、
     制度の具体的な要素を明らかにしながら全体的な制度の性質を
     実践の中で定めていくほうが…実効的であろう
    日本での東アジア外交流儀の認識
     →法的な拘束と強制を嫌い、自発的な協力を得るために、
      事前に協議し全員合意を達成することを特徴とする
     ⇒ASEANの最近の動向:2007年にASEAN憲章を締結し、組織の法制度化に着手した。
      =実行生不足を実感?
    2節のまとめ
     「東アジア共同体論」とは、究極的には、一国の政治だけで十分には対処できなくなっている問題が
     数多く特定されている今日において、従来のように一国単位(と世界単位)の政治を維持するか、
     それともその中間に東アジア地域単位という新たな政治の場をつくり、国、マクロ地域、世界の
     それぞれの次元に適した政治課題をそれぞれの場で行うことで各国も統治力を補強するかの政治的な決断である。
    1-3-2
    バラッサの経済統合論
     (1)自由貿易地域-域内で関税を撤廃する
     (2)関税同盟-対外関税を設定する
     (3)共同市場-域内で資本や労働の自由移動を認める
     (4)経済同盟-構成国間でマクロ経済政策を調整する
     (5)経済統合-通貨統合を実現
    2-1-1
    ASEAN Way
     公式・非公式の協議を柔軟に行い、意思疎通を密にして徐々に全員一致(コンセンサス)をつくるやり方
     合意したことにも法的拘束力をもたせず、東アジア諸国の国情の多様性や世界情勢の変化に照らして
     各国の自発的履行に任せるのが適切
     →過去の主張となりつつある
    (1)1990年代から制度の法的整備へますます向かっている
      → AFTA等。
      法制度化=1.強制の手段
           2.治癒所構築的役割
      ASEAN憲章…協議と全員一致による意思決定のルールの側面を法的拘束力のあるものとして規定
             一方で合意の実施段階については法的拘束や規律をあまりかけない制度にした
    2-1-2
    東アジアの地域主義の他の地域主義との比較
    (1)世界秩序形成と相互補完的な地域主義であること
      グローバル化に対する国家統治力の回復プロジェクト群の一つとして地域主義を位置づける
    (2)非国家主体も参加できる地域主義であること
      国会外の主体もマクロ地域統治に徐々に直接的に関与を認められてきている
    (3)経済社会の分野横断的な政策形成を可能にする地域主義であること

    東アジア特有の課題
    (1)日中韓3ヶ国の地域主義石を形成するために、日中韓の共通のパートナーであるASEANの実績と調和する地域主義とすること
      「東アジア地域主義」は今だ確立していない。EUや南アメリカは相互的に地域単位の政治を行う医師が共有されている。
      現状は日中韓とASEANにおけるそれぞれの地域主義=「ASEAN+1*3」に過ぎない。
    (2)林立する地域国際枠組み相互を連携させる
      関連なく作られた国際的協力枠組みが「重層的に存在する」…実態はメンバーとしてのASEAN+#が共通しているに過ぎない
       経済…APEC、AFTA、EPA
       安保…ARF、日米同盟、6ヶ国協議
       人権…東アジアに国際機構は存在せず
       →制度間に活動内容や目的に共通項がない
      EUの場合
       経済(EC)、安保(NATO、WEU)、人権保障(欧州評議会)が同時並列的に作成
       規範の共有ができている。
      ⇒残された課題:これらを関連付ける工夫をする
              連携を背後から支援する地域の共有価値や規範を発見する
    2-2-2
    共同体政策の範囲に対する2つの考え方
     (1)活動範囲を狭く限定して、特性の政策分野においてのみ活動する
     (2)活動範囲を狭く限定せず、広範な政策分野を対象とする
       ⇒日本での議論は(1)が多い
        森嶋通夫、谷口誠案
        経済建設のための共同体→大市場を形成する市場共同体→非経済分野を対象とする「東アジア連合」
        共同体の設立:範囲が限定されていれば一般的には容易とされている
               経済発展=各国の関心事項…経済共同体に限れば設立・運営は可能かもしれない
     ⇒本書では(2)の姿勢
        広範な分野を対象…固有の欠点を克服する可能性が生まれる
        経済分野と非経済分野を切り離して考えるのは容易ではない
        経済以外の領域にいける地域協力の必要性
    2-2-4
    「失われた」輪…日中韓間にFTAが存在しない
    バラッサの分類…関税同盟→共同市場→経済同盟→完全なる経済統合
    東アジア諸国の関税同盟の同意…現状では難しい
                          ⇒関税同盟は各国の関税を対外共通関税によって代替するために
                            国家主権の移転ないし制限を伴わざるを得ないため
    2-3-1
    地域共同体の構築は継続的…EU条約前文『欧州統合の過程』
                        ASEAN憲章『共同体形成過程において法的・組織的枠組みを規定するもの』
    1967年のバンコク宣言…条約の通常の体裁・手続きをとっておらず、一般的に政治宣言とみなされている
    地域共同体の機関
       政府間機関:政府代表によって構成される理事会
     非政府間機関:国債公務員によって構成される事務局、有識者による諮問的機関
     →権限をどのようにバランスを取るかに注目をする必要がある
    2-4-1
    立ち上げ当初の政治決定は主権委譲コストのかからない漸進的な制度進化にすべき
    →EUは硬い制度構築と異なる…東アジアの地域性

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著者プロフィール

早稲田大学法学学術院教授

「2019年 『EUとは何か〔第3版〕』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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