まちづくり幻想 地域再生はなぜこれほど失敗するのか (SB新書)

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  • Amazon.co.jp ・本 (256ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784815609122

作品紹介・あらすじ

アフターコロナで、地方移住が盛り上がる中、地方人気に脚光が当たっています。しかし、ほんとうに地方からの流出は止まったのか。それはまさに「幻想」だと、著者の木下さんは断言します。地方・まちづくりをめぐるニュースの数々は、本質をとらえない、思い込みが蔓延しています。

なぜ、地方が衰退するのか。地域再生は挫折するのか。
本書は、地方の最前線で長年地域おこしを見続けてきた著者による、幻想を打ち破り、ほんとうに地域が立ち直るための「本音の」まちづくり論です。地元の悪しき習慣から、行政との間違った関係性、「地域のために!」という情熱を注ぐ事業のブラック化など、豊富な事例をもとに明かします。読んだあとに、行動を促す1冊をめざします。

感想・レビュー・書評

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  • 地方創生が叫ばれて久しいが、なぜ日本はいまだに東京一極集中が是正されず、地方が衰退していく一方なのか。そもそもまちづくりに対する誤った認識(幻想)の上に行動しようとしているからではないのか。

    本書はまちづくりに関わる人や組織を、官と民、意思決定者と集団の4つの軸に分け、さらに外部の人間を加えた5つの立場から、まちづくりで起こりがちな幻想を分析し、過ちを犯さないための対応策について言及した本である。

    成功例ではなく、失敗の原因からまちづくりを分析しており、地域によって成功の方法は異なることやすぐに改善できる特効薬はないことも強調している。このような視点の本はあまり読んだことはなく、非常に勉強になった。

    著者の言いたいことは最終章にアクションとしてまとめられているが、それまでの章で特に著者が強調していることは、行政の補助金ではなく、地元にお金が落ちる自立的な構造を作ること、安易に外部の人間に頼らず、地元の人間が自ら企画・実行できるよう人材育成に時間とお金を注ぐこと、地域の中で同調圧力に巻き込まれず、責任の所在をはっきりさせ、覚悟をもって取り組むことである。
    先日、まちづくりの取り組みを行っている株式会社と小さな集落の話を聞く機会があったが、まさに本書と同じようなことを話されていて、非常に印象的だった。

    人口減少は地方衰退の結果であり、原因ではない。パソナが淡路島に移転して、地方移住のお手本のようにもてはやされているが、本社は東京のままで法人税は東京に入り、大量雇用は有期の非正規職員、食費や寮費などもパソナが吸い上げてしまっては、地方のメリットはほとんどないばかりか、地元の人間はよりよい条件で働くことのできる都市部に移動するだけである。
    また、地方の役所はすぐに東京の大手コンサルタントに外注し、自分たちでは何も考えずに形だけの結果を得ようとする。しかしそれではお金も東京に流れるだけだし、職員の企画力、判断力も損なわれる。高い外注費を払うくらいなら、役所の若手をしっかり勉強させ、自分たちで企画させる方が金銭的にも将来的にもメリットがある。

    まちづくりに焦点を当ててはいるが、組織論としても読むことができるので、組織に属する人全般におすすめできる本である。

  • まちづくりをしたい、しようと思う方はたくさんいらっしゃると思います。特にいろいろな地域団体の趣旨は自分の町をよくしたいとの思いの中からそのような活動をしている方が多いのではないでしょうか?しかし、まちづくりとはなんなのかを今一度考えさせられる機会をもらった本がこの本です。地域課題はそれぞれにあり、その解決方法も千差万別です。良い事例があればそれに飛び付き、そのやり方が地域を変えてくれるという幻想がよくあります。もし、自分の会社だったら利益を生み雇用を継続し、税金を納税できるように必死でやります。が、まちづくりとなると多くの人の気持ちのモチベーションの差がでてきます。となるとやはりそのまちづくりをしようと言った一人の人間の想い、行動力、継続力が必要です。その想いが伝播して協力者を増やし賛同者となるのだと思います。「100人の同意より一人の覚悟」この言葉がすごく好きになりました。だれがやりきるのか、最後はその部分に対しての責任感なんだと思います。その行動に心打たれ、共感者が増えていくのだと。いつの時代も一人の人間が立ち上がり、歴史を変えてきました。自分も本当に大切なこと、幻想ではなく、真実と実行力でまちづくりをしたいです。

  • 1.地方創生に興味を持っていたころに買っていたことを忘れていたので読みました。

    2.地方創生が失敗する根源は「地元の人」にあることを気づかせてくれます。成功体験を真似することは良いですが、補助金目当てに成功しないプロジェクトへ予算をばらまき、案の定失敗します。そうして、「まちづくりは失敗するもの」というマインドが形成され、新規移住者に無言の圧力を与えてきます。
    このようなことが当たり前に行われているから日本の地方創生は失敗が大半です。大切なことは地元の人たちがまちづくりに対して真剣に取り組み、自分の保身と常識を捨てて門徒を広くし、地域経済を潤すことで人口が増えていくということです。

    3.思えば、地元で勉強している大人を見たこともないし、公務員で凄いと思える人もいなかった。つまり、自分は将来こういう人になりたいと思える人は5人もいませんでした。地元に住んでいた自分ですらそうなのに、移住者ならなおさらだろうなと思いました。
    地方創生を成功させたいのであれば、ビジネスとして成立させることが絶対条件です。これは、沢山儲けろということではなく、最適所得を実現するということがまず第一歩です。年配の人には理解されない思考ですが、若者がこれを普及していく必要があるのだと思いました。

  •  つまるところは人の問題である。いかなる課題も失敗する理由も人的ミスによるものだが、成功に導くのも「人」である、と実感。行政だけでなく、会社などあらゆる組織にも置き換えられる。結局「人」を大事にしない事業や組織はダメになるよなぁ。一市民レベルでもできること…地元企業・店舗を応援することか。よし、転職しよう。

  • 宮崎駿さんの名言「大事なことは、だいたい面倒くさい」この本の、象徴的な言葉だ。出来ることから、やる。面倒な事ほど挑戦する。なるほど

  • 題名に在る「幻想」というのは何だろう?
    本書はその「幻想」なるものを説き、考える材料を供しようという一冊である。敢えて言えば、「幻想」というのは「事実や実情と実は違う思い込みと、それを基礎とする思考や行動」というようなことになるであろうか。「思考と行動」の基礎が「幻想」であるのだとすれば、「現実」の様々な事柄に向き合ってみたところで「所期の成果」というようなモノを望むこと等覚束無い筈だ。そしてその「幻想」に依拠して「“手段”と“目的”との混同」も多発しているようだ。
    本書の著者が綴った文章は色々と呼んだ記憶が在る。“地域再生”とか“地方創生”といういうように呼び習わされる事案に関連する事項について「本当にそういうことで構わないのであろうか?!」という論旨が多いと思う。本作も明らかにそういう系譜である。
    最近は「例の事情…」とでも言いたい感染症の問題で色々と動きが在るとされる中である。こういう状況下で「〇〇である!」と誰かが言っていて、それに基づいて如何こう論じている事例の中、「一寸だけデータを視れは、必ずしもそうでもない?」が見受けられるという。そしてそれは、最近の事情に限らず、既に長く積み上げられているという側面も否定出来ないという。色々な話しで「その言っていることの“前提”がよく解らない…」という例が多くなっているように感じるところである。
    かなり多くの…否、殆どの部分に関して「著者が論じるとおり…」であると思った。結局?個人的に思うのは、何かの事案について「本当にそういうことで構わないのであろうか?!」とでも言おうものなら「うるせぇ!!!!黙れ!!失せろ!!!」というような状況がそこら中に満ち溢れている、やがて「誰か“落とし前”は付けたのか?」と思わざるを得ない状態になっても、誰が如何するのでもないという「何処から如何いうように切り取っても真面ではない…」という状態が多く在るのではなかろうか?
    「幻想」?様々な芸術表現のような分野での「ファンタジー」というようなことであれば結構かもしれないが…「事実や実情と実は違う思い込みと、それを基礎とする思考や行動」という意味での「幻想」は、直ちに誅されなければなるまい。
    本当に「何故?」という位に「本当にそういうことで構わないのであろうか?!」というのが溢れているかもしれない中、多くの方に御勧めしたい一冊だ。否、御薦めしなければなるまい!

  • 「あの成功事例を地元にほしい!」、「予算を取ることこそ仕事だ」と信じる自治体の意思決定者。
    「よそ者・バカ者・若者」がいないと活性化できないと、自分で挑戦しない言い訳をする民間事業者。
    成功者を妬み、足を引っ張り合う内向き思考の地元の人たち。
    頼まれたことしかせず、自らリスクを負わない外の人。
    失敗する地域再生事業の多くは、取り組み内容以前として、思考の土台そのものに間違った思い込みがあるのだと言います。
    このようなまちづくり幻想を振り払う処方箋が示されます。

    地域活性化でもよくいわれる「みんなで頑張ろう」という話。みんなで頑張ろうとは、私は責任とらないよ、という意味です。
    会議でも「みんなで頑張りましょうよ」と言うので、「じゃあ、誰がいつまでに何をするのか分担決めましょう」と私が投げかけると、全員が下を向くなんてことに幾度となく出くわしています。みんなという言葉は明確な責任やタスクを雲散霧消にし、失敗した時も「みんなが悪いね」といったとんでもないお話で終わったりするのです。だから「みんな」という単位を壊す人は徹底的に集団から排除することで団結します。なぜならば「誰」という個人に分類していくことは「みんな」という存在しない主体に責任を押し付けることをできなくするからです。だから全会一致で、といって「みんな」で決めたことにしようとする人たちがいるのです。「みんな」なんて抽象的な主語はいりません。まずは「私」が何をするか、なのです。 ー 126ページ

  • 同調化圧力に与しないことの大切さや、過去の栄光に囚われることなく未来を志向すること、外部に知恵を求めるよりも時間をかけて人を育てること、一緒にリスクを背負い込む覚悟など、まちづくりだけでなく、一般的な組織論にかかわる問題がたくさん提起されていて、とても勉強になりました。補助金を当てにしたコンサル頼みのまちづくりが横行しているというのは、びっくりでした。

  • 久々に読む木下さんの本。相変わらず、書いてあること全てに腹落ちする。日本全国の議員、公務員、経営者にも読んでほしい。
    大事なのは成功事例の模倣ではなく、事例を参考にしながらも何が自分の地域にとって良いのか、とにかく「自分で考える」こと。そして失敗を恐れずに、行動すること。地方の方々と話す機会には、積極的にこの本に書いてあることを伝えていきたい。「大事なことは面倒なこと」……最後に刺さりました。

  • 地方や地域の再生の話だけじゃなく、普通の事業の話としても当てはまることばかりの内容だった。とにかく考えてやるっきゃないということ。

    そして、コンサルの搾取ぶりヤバすぎる。

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著者プロフィール

木下斉
1982年生まれ。高校在学時からまちづくり事業に取り組み、00年に全国商店街による共同出資会社を設立、同年「IT革命」で新語流行語大賞を受賞。早稲田大学政治経済学部政治学科卒業、一橋大学大学院商学研究科修士課程修了。08年に設立した熊本城東マネジメント株式会社をはじめ全国各地のまちづくり会社役員を兼務し、09年には全国各地の事業型まちづくり組織の連携と政策提言を行うために一般社団法人エリア・イノベーション・アライアンスを設立。15年から都市経営プロフェッショナルスクールを東北芸術工科大学、公民連携事業機構等と設立し、既に350名を超える卒業生を輩出。20年には北海道の新時代に向けた「えぞ財団」を仲間と共に発足している。また内閣府地域活性化伝道師等の政府アドバイザーも務める。著書『稼ぐまちが地方を変える』『凡人のための地域再生入門』『地方創生大全』等多数。

「2021年 『まちづくり幻想』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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