発達障害の人には世界がどう見えるのか (SB新書)

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  • Amazon.co.jp ・本 (208ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784815617950

作品紹介・あらすじ

発達障害の人が抱える生きづらさは、自分が見えている世界が他の人の見えている世界と異なることにある。それは周りに人によっても同様である。理解できないゆえに、当惑し、イライラし、疲弊してしまう。本書では、知覚実験、脳科学などによる最新研究をもとに、発達障害の人が見ている世界を明らかにし、発達障害の当事者の苦しみを軽減し、周りの人のとのコミュニケーションを円滑にするにはどうすればよいかを論じてく。

感想・レビュー・書評

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  • よい意味で「研究書」っぽくなく、とても読みやすくて、分かりやすかった。特にASD(自閉スペクトラム症)について詳しく取り上げられていた。ASDの特徴でよく言われる「木を見て森を見ず」という表現ではなく「木を詳細に見る能力がある」と解釈すれば、マイナスではなくなるという考え方に共感。

  • 発達障害の中でもASD、その中でも「感覚過敏」という特性に焦点を当てて論じられていた。
    簡単に言えば感覚過敏は認知能力の過不足によって引き起こされる。その機序をMRIやMRSを用いて証明している点が他書には無い特筆すべき点だろう。
    私の偏食や塗り薬を昔から毛嫌いしてるところは多少なりとも感覚過敏の特性の現れなのかもしれない。

    ただ、感覚過敏と感覚鈍麻は共存することがあり、また、感覚過敏だからといって全ての刺激(視覚・聴覚・嗅覚・味覚・触覚)に過敏になるわけではない。

    ✏2000年代にはfMRIによる研究が活発になり、認知活動や行動に関連する脳内メカニズムを明らかにする手法として盛んに用いられるようになりました。例えば、「被験者の手に振動を与えると、被験者の脳の中で触覚の処理に関連する体性感覚野という部位で、どのような神経活動がどの程度の強さで起こるのか?」といったことが評価できるようになったわけです。

    ✏感覚過敏について。辞書などによれば「周囲の音や匂い、味覚、触覚など外部からの刺激が過剰に感じられ、激しい苦痛を伴って不快に感じられる状態」とあります。あくまでも相対比較となりますが、定型発達者と比べ、ちょっとした刺激に反応してしまう状態を指しています。

    ✏「一人の中に感覚過敏と感覚鈍麻が同居する」ということもわかってきました。

    ✏感覚は入力、知覚、認知、情動・感情の全てに関連します。これらは1つだけを取り上げても学問分野が形成されるような、さまざまな要素を含む概念です。感覚は、それらの概念すべてにまたがる概念なのです。感覚過敏、感覚鈍麻という言葉も、「感覚過敏とは、つまりこういうことですよね」「感覚鈍麻とは、つまりこういうことですよね」とひと言で簡単に定義できるものではなく、多義的で曖昧であり、今後の研究の余地が大いにある言葉なのです。

    ✏ASD者の目は、周辺情報に惑わされにくいと同時に、「周辺情報を取り入れるのはどうも苦手」という面があるわけです。つまり、ASD者たちが「定型発達者と比べて、周辺情報との関連性を考慮しながら情報処理する」ということがあまり得意ではないということを示しています。

    ✏錯視とは「物理的な正確性」よりも「脳の効率性」を優先した結果ともいえるわけです。

    ✏私たちの研究チームは、脳の局所における脳内代謝物の測定を可能にする「磁気共鳴スペクトロスコピー(MRS)」という機器を用いて、ASD者の脳の計測を行いました。

    ✏このような情報処理を行っている脳の活動を研究していくと、定型発達者とASD者の間に「脳の活動のしかたの違い」が見られることがわかってきました。

    ✏脳内のある領域におけるGABAの量(少なさ)が大きなカギを握っている
    →脳の補足運動野という領域に含まれるGABAが少ないほど、上下肢の協調運動(縄跳びやスキップ、自転車や自動車の運転など、手や足など別々に動く身体部位をまとめて1つにして動かす運動のこと)に難しさを抱えている 。
    →脳の運動前野という領域に含まれるGABAが少ないほど、日常的に感覚過敏の症状が強く現れている。

    ✏残念なことに、GABAは体外から摂取しても脳には直接取り込まれないと基本的には考えられています。

    ✏なぜ、定型発達者は「いつもと違う道」に不安を感じないのか?敢えてわかりやすい言葉を使うならば、定型発達者は「ぼんやりと情報収集をしているから」です。

    ✏では、〝リミッター〟をかけずに情報処理を行うASD者にとってはどうでしょうか?  「いつもと同じ道」と「いつもとは違う道」では、道幅も違う、標識も違う、建物も違う。お店から漂ってくる匂いも違うし、耳にする音もまったく違う。皮膚で感じる細かな振動なども当然変わってくる……五感で得られる刺激のなにもかもが違います。つまり、「いつもと同じ道」と「いつもとは違う道」を、まったくの別世界のように感じている可能性があるのです。

    ✏ASD者は社会不安性障害や強迫性障害を併発しやすい。

    ✏ASD者は社会的な情報に鈍感なわけではなく、受け取った情報に対する反応の様式が定型発達者と異なることから来る失敗の経験の蓄積により、定型発達者よりも社会的な情報にナーバスになり、強い不安を持っている場合が多いと考えられます。

    ✏つまり、恐怖や不安の表情を目にすると、ASD者は刺激に対してさらに敏感な状態になるのです。

    ✏ASD者は世界を「自分中心」で捉えている可能性があります。

    ✏ですから、ASD者の周りにいる定型発達者の方々が維持すべき基本スタンスは、「その行動はおかしい、他の人に迷惑をかけてしまう」といった理由で直そうとすること  ではなく、「その行動をとるのはなぜなのかな?」と観察し、考え、行動の背景に思いをはせること  だと私は思っています。

    ✏研究の手法に関しても、従来のような「特定の脳部位の活動や構造を取り上げて、ひと括りにASD者と定型発達者を比較する」といった形に疑問が投げかけられています。 つまり、「ASD者全員が共通して持つ特徴がある」と仮定するのには無理があるということです。

    ✏自閉症〝でも〟ではなく、自閉症〝だから〟彼らは科学に貢献できると信じている。

    ✏効果的な支援を行うためには、一人ひとりのASD者の発達段階や感覚特性に合わせて何が最適なのかを都度判断するスキルが求められます。このような専門スキルを持った人たちと密な連携をとることが、ASD者の個性を認める社会、ASD者の生きやすい世界の構築につながっていくと私は思います。

    ✏今後、ASD者の方々がなぜコミュニケーションが苦手なのか、その理由がより明らかになるのではないかと考えています。そのカギは、感覚の時間処理の精度、つまり「どの感覚をどのタイミングで処理するか」が握っているのではないかと推測しています。

    ✏発達障害の研究は、さまざまな関係者と連携をとりながら、より横断的に行われるべきだと私は考えており、自分自身もそのような方向で活動していきたいと思っています。すでにアメリカ、オーストラリアなどでは、1つの大きな研究組織が束ね、基礎研究から臨床、特別支援教育、就労支援といった応用領域の研究を行う──といった形が見受けられます。

  • 私自身は発達障害当事者なのだけれど、過去に書かれてきた常識レベルの事柄をスマートに整理して、なおかつ最新の実験データを駆使して丁寧に発達障害者の知覚/認識の有り様についてまとめられているのに唸る。肝心なのは(「そううまくいったら苦労はないよ」と肩透かしを食う結論でもあるだろうが)個々人の認識が定型発達・発達障害を問わず「個性」の次元で違いうることを認めて、その「個性」が「生きづらさ」として顕在化する場合においてケアの対象となるべきというきめ細やかさが大事ということなのだろう。ここから始まる議論は意味がある

  • ニーズには合わせていかなければいけないが、
    その子だけ特別扱いするのも違うかな。
    色んな特性をもつ人がいる。
    ただそれだけのこと。

  • 目に見えない部分を、科学的に説明してくれる
    解説書。

    ▶︎読んでほしい人
    大人の発達障害と診断された人。

    ▶︎きっかけ
    ASDの友人のオススメ。

  • 内容はタイトルや帯の内容そのままです。2022年12月初版で、この日までに新しく解明された情報を強調しつつ、発達障害の人がどのように世界を捉えているか、学術的に解説していく新書。

    当事者がどう上手に生きていくかという直接的な教えは薄いので、そこは期待しない方が良いです。本書はあくまで当事者以外からは想像のしにくい当事者の感覚をシェアするものです。そこに学術的な解説を足されたような感じで、自己啓発っぽい要素はありません。

    著者の発達障害に係る社会の理想像は明快で、筋が通っており非常に印象が良いです。「一人一人誰もが違う。そんな個人の違いを潰す必要のない世界であってほしい」という言葉が173ページにありますが、本当にそう思って本書を書いてらっしゃるのだろうと、文章の節々から感じます。

    レビュー冒頭、新しく解明された情報が書かれてあると記載しましたが、本書は数年前に刊行された類書にはない情報が本当に多い印象です。感覚過敏は発達障害に見られる傾向として昔から言われていた印象ですが、そこに感覚鈍麻も加わり、多数のASDがこれらを併発しているという話という話はとても興味を持って理解できました。余談ですが、私は世の中がHSPブームの時、「そんな単純な話だろうか?」と半信半疑でしたが、先の情報を参照するとそこから解像度が一段上がったような感じで大変興味深かったです。

    なかなか難しい箇所もあって本書の全てを理解できたわけではありませんが、不安障害とエゴセントリックの項は自分の特性に心当たりがあるのでもう少し読んで見識を深めたいと思います。

  • 読んでよかった。発達障害の人が見えてる世界、どう感じているのかを科学的に解明・解説した本。

    メモ
    ・発達障害の分野は、研究と臨床の連携が薄い。
    ・ASDの人たちは錯視が起こらない。脳の効率性を重視せず、物理的な正確性が優先される。(木を見て森を見ず)
    ・今後、感覚鈍麻に関する研究が進んでいく。

  • 結構面白かった。
    発達障害を脳のメカニズムとして捉えて、具体的な説明がある部分と、逆によくある事象として、発達障害を持つ人の行動を具体的なストーリーとして見せるなど、非常にバランスの良い本。
    GABAの分泌不足による知覚過剰という話は納得。
    GABAは抑制系の神経伝達物質であり、過剰を抑制すると。ただ,これがないと、本当は無視して良いような機微な情報を知覚してしまい、非常に疲れる。
    だから、それが嫌だからいつも同じ道を通りたがると。なるほど。
    細かい触覚も知覚し、きのこの感覚が嫌だから食べられない、みたいなことが起こる。

    定型発達者がだんだん感じなくなるような順応も起きづらい。そのため、そういうものだ、というような感覚が理解できず、普通はこうだよね、みたいなことや文脈などが理解できなかったりする。

    これは一方直接的に物事を捉えるということで、本質的だったりしそうだし、うまくハマればビジネスにいきそう。
    ビジネスで成功した人が発達障害が多いというのはこのメカニズムからなんだと納得。
    ただ知能指数にうまく発達障害がかけ合わさった先の世界な気がしており、
    知能指数が普通だったりするとこの特性は生きづらい。

    この知覚過敏ということは理解しておこう。

  • 発達障害のうち特に自閉スペクトラム症が「どのように感じるか」を主テーマとした一冊。

    感覚が、入力・知覚・認知・情動というステップに分かれることを学んだ。また、そのステップごとの特性がある場合の説明がわかりやすかった。
    ASDには錯視が起こりづらく、定型発達者に何故錯視が起こりやすいかの理由としての「錯視は正確性より脳の効率性を重視した結果」など、なるほど〜と思った。
    ただしいくつかの説明については、もう少し論理関係の詳細が必要だと感じられた。

    ASDはスペクトラムであり、人によって状態像、感じ方は違うことが大前提である書きぶりが良いなあと思った。
    そして、特性を発揮して活躍することは素晴らしいことだけれど、それが今度はASDの人々の中で分断を生んでしまうことはあってはならないという指摘はとても同意できるものだった。

  • 不要

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著者プロフィール

国立障害者リハビリテーションセンター研究所脳機能系障害研究部研究員。立教大学大学院現代心理学研究科博士課程後期課程修了。博士(心理学)。国立障害者リハビリテーションセンター研究所脳機能系障害研究部流動研究員、日本学術振興会特別研究員PDなどを経て、現職。専門は実験心理学、認知神経科学。2014年度よりASD者を対象とした知覚の研究を開始し、MRIによる非侵襲脳機能計測手法を取り入れることでその神経基盤の解明を目指している。研究と並行してアウトリーチ活動を積極的に行い、特にASD者の感覚過敏についての科学的な理解の啓発に取り組む。著書に「科学から理解する 自閉スペクトラム症の感覚世界」(金子書房, 2022年8月刊行予定)がある。

「2022年 『発達障害の人には世界がどう見えるのか』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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