キリン解剖記 (ナツメ社サイエンス)

著者 :
  • ナツメ社
4.25
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  • (1)
本棚登録 : 798
レビュー : 114
  • Amazon.co.jp ・本 (216ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784816366796

作品紹介・あらすじ

長い首を器用に操るキリンの不思議に、解剖学で迫る!「キリンの首の骨や筋肉ってどうなっているの?」「他の動物との違いや共通点は?」「そもそも、解剖ってどうやるの?」「何のために研究を続けるの?」etc. 10年で約30頭のキリンを解剖してきた研究者による、出会い、学び、発見の物語。

感想・レビュー・書評

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  • キリン研究を志した郡司芽久さん(女性・当時23歳)は、論文のテーマが決まらなかった時、先輩にこのように言われた。「凡人が普通に考えて普通に思いつくようなことって、きっと誰かがもう既にやっていることだと思うんだよね。もしやられていなかったとしても、大して面白くないことか、証明不可能なことか。本当に面白い研究テーマって、凡人の俺らが、考えて考えて、それこそノイローゼになるぐらい考え抜いた後、更にその一歩先にあるんじゃないかな」(99p)
    まぁ、世の中の偉大な発見は「証明不可能」なことを証明してみせたり、「偶然」に見つかることが多いかもしれないけど、その辺りは「天才」に任せて、確かに凡人の私たちにはこんな処に落ち着くんだと思う。その辺りを素人の私も「楽しく」読めるように丁寧に書いている。「難しい事を分かりやすく面白く描く」これって、一つの才能だろう。

    で、偶然にも若いのにキリンを20体以上動物園から献体してもらいキリン研究をこころざして約7年間で「キリンの胸椎は、胸椎だけど、動くんじゃないだろうか?」という研究論文を書く(当時26歳)。

    200万年以上前から哺乳類は人間含めてみんな7つの頸椎しか持っていない(マナティとナマケモノは例外)のだけど、キリンは8番目の"首の骨"を持っているのではないか?ということを20代で見つけたわけだ。偶然にも多数解剖できた彼女は基本的にラッキーな所もあったとは思うが、半分以上は情熱とキリンへの愛情が論文を書かせたのだろう(現在30歳)。

    それだけである。「偉大な発見」じゃない。哺乳類の進化の鍵を見つけたというわけでも無い(と思う)。でも、進化の秘密を少しかすった(とは思う)。キリンは生き残るために、そうやって身体機能を少し変えたのだ。科学の世界が面白いのは、評価された研究ならば、まるで自分の研究成果のように「知識」として、他の研究成果を著作権料を払わずにこういう本で披露できることだ(コラムとして、他の研究成果がたくさん紹介されている)。だから、数年後に郡司さんの研究が大きな謎解明に役立つかもしれない。

    郡司さんは、「世界で1番キリンを解剖している人間」だと自分を紹介している。「解剖すればするほど、その動物のことを好きになっていく」と言っている。人間ならばホラーだけど、動物ならばあり得るかなと思う(でも、考えたらちょっと怖い)。「今は亡きキリンたちの「第二の生涯」ともいえる死後の物語を読んで欲しい」と著者は思ってこれを書いたという。そういう愛情の表現の仕方もあるのだ。

    (成る程と思ったキリン知識の一つ)
    ※中国ではキリンのことを「長頸鹿」と呼び、麒麟とは呼ばない。呼んだのはただ一度、明の時代、鄭和がアフリカからキリンを持ち帰り、永楽帝に「これが(あの伝説の)麒麟です」と奏上したらしい。その記録を読んだ『解体新書』の桂川甫周が「洋書のジラフと、この麒麟は同一だろう」と推察した。だから、日本ではキリンのことを麒麟と書くのである。因みに、インドに生息していた絶滅したキリンの仲間、ジラファ・シヴァレンスは長頸ではなく、伝説霊獣の麒麟によく似ているそうだ。むしろヘラジカのような姿をしている(鹿ではない)。なるほど、麒麟伝説は何処から来たのか、少し興味がある。

  • 読みたくて読みたくて、2カ月以上順番待ちしていた本。
    なのにあまりの面白さに一気読みしてしまい、もったいないので再読したところ。
    これはもう、皆さんにぜひともお勧め。
    「好き」を仕事にするというシンプルな気持ちが、どんな泥臭い作業でも根底から支える力になるのだと教えられる。研究の過程にもワクワクさせられ、何よりも著者の生きる姿勢や探求心そのものが感動を呼ぶだろう。
    何がしかの研究の道に進みたいという方、進路を考え始める中高生も。
    そして「そんな研究が何の役に立つの?」と思われる方には特に。

    子供の頃からキリンが大好きだったという郡司芽久さん。
    その気持ちのまま、東京大学一年の時に「キリンの研究がしたい」と思い始める。
    10年間キリン解剖に関わり、哺乳類は頸椎7個が共通だがキリンの第一胸椎は8番目の首の骨としての機能を持つということを発見する。
    その論文で博士号を取得するのだが、読ませるのはそこまでの道のり。

    世間がクリスマスで賑わう中、ひとり冷え込む解剖室で挑戦したはじめての解剖。
    しかしそこで得たのは、「何も分からなかった」という無力感と、いたずらに遺体を傷つけてしまったという罪悪感。しかも、その苦悩を乗り越えたとしても、研究者としての将来が約束されているわけでもない。
    様々な葛藤がありながらも、著者はメスを投げ出さず、研究への情熱を絶やさない。

    師や先輩のアドバイスを真摯に受け止め、よく見てよく聴き、よく考える。
    そうして優れた観察者となっていく。
    大好きなキリンたちへの愛情も忘れない。
    遺体を献体してくれる動物園スタッフや遺体を運ぶ業者さんたちへも謝辞を送る。
    訃報が届けば、全ての予定を投げ捨てて現場に駆け付ける日々。
    その格闘の末に新発見をし、名実ともに「キリン博士」となっていくところは本当に感慨深く、心に訴えるものがある。
    才能とは、努力を継続することだと、つくづくそう思う。

    「解体」と「解剖」の違い。「解剖」の過程。キリンは何種類?
    動物園での見分け方や、キリンの角の数と役割、頭の重さ、標本の製作、
    日ごろ目にすることもない蘊蓄もたくさん。
    著者によるソフトなイラストも随所に入り、とても読みやすい。
    博物館では「無目的・無制限・無計画」の三つの無が理念だということも知らなかっただけに新鮮なおどろきだった。
    「人間の都合で、博物館に収める標本を制限してはいけない。
    たとえ今は必要がなくても、100年後、誰かが必要とするかもしれない。
    その人のために、標本を作り、残し続けていく。それが博物館の仕事だ。」

    周りに強いられて知識を詰め込む「勉強」ではなく、主体的に対象を研究していく「学問」。
    その過程の限りない喜びを、教えてくれる。
    それが、本書の最大の魅力かもしれない。
    ああ、読んで良かった。

    • 夜型さん
      キリンは謎が多い生き物ですね。
      すごーく小さな声で会話をしていると大昔に聞いて以来、謎です。
      この本の作者さん、涙ぐましい努力をなさって...
      キリンは謎が多い生き物ですね。
      すごーく小さな声で会話をしていると大昔に聞いて以来、謎です。
      この本の作者さん、涙ぐましい努力をなさっているようですね…。
      「様々な分野から優秀な研究者を集めたドリームチームのような研究グループで、総力を上げて「科研費の申請書類のサイズを3MB以下に抑える」ことに取り組んでいる、なう
      (3MB以上だとオンラインシステム上ではねられて申請できない)

      いま日本各地で多くの研究者が同じことしてるのかなと思うと涙が…」
      「「1.5MBにできました!」
      「よし、アップロードだ!」

      オンラインで書類をアップ、PDF化

      「なぜか図が消えました!」
      「なぜだ!!!!」

      みたいなことを繰り返している…」
      日本はやたらと研究職に厳しいですね!博士号の価値がないです…。
      そのうち優秀な研究者たちが海外に流出して言ってしまうかも知れません。
      *キリンさんにそっくりなオカピも大好きです!
      2019/10/19
    • nejidonさん
      夜型読書人さん、こんにちは(^^♪
      コメントありがとうございます!とても嬉しいです♪
      自分でもキリンさんが好きで、動物園では真っ先に見に...
      夜型読書人さん、こんにちは(^^♪
      コメントありがとうございます!とても嬉しいです♪
      自分でもキリンさんが好きで、動物園では真っ先に見に行きます。
      (でもケンカする時はかなり怖いですよね)
      あの長い長い首の謎。その解明に挑んだお話です。
      「オカピ」はずいぶん前にズーラシアで見ましたね。
      とても綺麗な柄で驚きました。この本にも後半に登場します。
      引用されたカッコ内は切実ですね。かなり苦労されているようで。
      何がしかの賞を受賞した時は称賛されますが、日ごろはどれほど辛酸をなめているか。
      この本の中ではそこまでは語られませんが、想像に難くありません。
      好きなことをやっているのだから自分で苦労しなさいとでも言うのでしょうか?
      バックボーンもなしに、研究など続けられるはずもないのです。
      はい、すでに海外に相当流出していますよ。悲しいかな、それが現実です。
      若い研修者たちがやる気を失わないように、手立てはないものかと。。

      そうそう!今夜21時から「少年寅次郎」が始まります。
      夜型読書人さんもぜひご覧いただけたらと思います。
      2019/10/19
  • 27歳で念願のキリン博士になった郡司さんの解剖を通して、キリンの首の動きのメカニズムを解明していった過程が興味深く、挿絵もはさみながら分かりやすく書かれている

    ヒトと同じ7個の頚椎数でありながら、高いところの葉を食べ、低いところの水を飲むという相反する二つの動きを可能にしたのは高い可動性を持つ『8番目の首の骨=第一胸椎』にあった!
    明らかになっていく過程は、知的好奇心をそそられ、おもしろかったが、それにもましてこの人の迷いのない素直な考え方がとても痛快だった

    人生の大半を仕事に費やすのなら、一生楽しめる大好きなものを仕事にしたいなあ

    生まれてから今までずっと好きなものって何だっけ

    生き物が大好きだったな。動物の中でも特にキリンが好きだった

    キリンの研究がしたいです!

    なんて単純明解でストレートなんだろう
    「好きこそものの上手なれ」は、郡司さんのためにあるのではないかと思うぐらいだ
    そして、こんな郡司さんを育てたのが、お母さんなのだ
    このお母さんがとてもユニークで自由で楽しい
    郡司さん自身が語っている

    「知識は生活を豊かにし、目にとまるものに価値を与え、新たな気づきを生み、日常生活を輝かせてくれる。私は、母の姿を通じて、知識を身につけることの楽しさと素晴らしさを学んできたような気がする。そして、誰かに強いられて知識を詰め込む『勉強
    』と、自らの喜びとして主体的に知識を得る『学問』の違いに気がついたのだと思う」

    と。我が子にこんなことを言われている母親、羨ましい!

  • キリン大好きなキリン博士が、キリンを解剖しまくり、「8番目の『首の骨』」の大発見をする解剖エッセイ。
    年末年始もキリンの解剖に明け暮れ、十年間で30頭ものキリンをバラし続けたキリン博士の語るエピソードは興味深く、時に笑えて、一気に読めてしまう。
    「キリンは絶対に面白い」「ノミナを忘れよ」など印象的な言葉も多々。「標本の作りやすさもキリンと良いところ」ってのは笑いました。そこか。。笑

    本質である、キリンの身体構造を明らかにしていく過程も非常に面白く読めました。
    ・重くて長い首の上下運動を支えるために、首に強力な靭帯(項靭帯)が入っていて、キリンが死んで横に倒れると、首が反ってしまうらしい。(馬の仲間でもあるんだろうか?)
    ・第1胸椎が動く!という大発見。腱の繋がり方と、椎骨の形状がで気づいた、と。肋骨が付いているのに、13度も動くものなんだなあ。オカピとの比較解剖や、CTスキャナーを使って、形状と可動域を明らかにしていく。専門外の人にもわかりやすいアプローチでした。

    8番目の骨とか、キリンが実は貧血がち?とにかく動物園行きたくなるエピソードもたくさんです。キリンに会いたくなってきました。

  • 哺乳類の頸椎は、一般的な定義に基づくと基本的には7個で一定だ。この基本ルールから外れる哺乳類はマナティとナマケモノだけ。マナティの頸椎は6個で一定なのでまだ許せるのだが、ナマケモノの逸脱っぷりはすごい。

    ☆そして、このキリンの骨は8個だと発表したのがこの人。
    興味を持ったものをじっくり観察した結果である。
    ここでも、やはりキーワードは
    『子どもっぽさ』。

  • ★4.5
    キリンに特別な思い入れがあったわけではないけれど、綴られる全てが興味深かった。中でも、キリンの解体・解剖の方法、キリンの首の構造がとても面白い。が、何よりも、大好きなキリンへの著者の情熱、謎を追求し続ける姿勢が本当に凄い。そして、子どもの頃から大好きが続いていることが微笑ましく、その大好きな対象を研究・仕事に出来たことが純粋に羨ましい。著者の人柄が文章にも出ているようで、優しさが滲み出ている気がした。これからもキリンの謎を解き明かしていってほしいし、研究者を目指す若い世代に読んでもらいたい1冊。

  • ほぼ一年ほど前でしょうか
    いつものようにラジオをつけて
    車の運転をしていました
    何の番組かは忘れてしまったのですが
    「今日は キリン解剖学者のグンジメグさんが 
     スタジオにきてくださっています」
    との声が耳に入ってきました
    えっ キリンの解剖学…
    と思いつつ 聴きこんでいくと
    いやはや その面白いこと楽しいこと
    若き研究者さんの弾むような口調、
    こんなに面白いことは世の中にない!
    の思いが言葉の端々から伝わってくる

    それから ほぼ一年
    いきつけの図書館の新刊の棚を
    何気なく眺めていたら
    あっ「キリン解剖」
    あっ グンジメグさん て 郡司芽久さんなのだ

    これこそ 研究
    これこそ 学問
    これこそ 学び

    郡司芽久さんのような
    若き研究者が
    この日本に ちゃんと存在する
    もう それだけで
    豊かな気持ちになれるのです

  • 確か、ブクログでこの本を知り、「ごめん、キリンが死んじゃって・・・・・・」の一言に惹かれて、レビューをいくつか拝見して、面白そうだ、と思って購入。カバーも表紙も可愛らしくて、読む前からワクワク。
    『読み始めた頃よりもキリンを好きになっていたら、とても嬉しい』と筆者は書いていますが、はい、好きになりました。そして、キリンが絶滅危急種だと言うことも知りました(危急種、自体を初めて知りました)

    キリンの事、解剖のこと、少しだけ理系の研究の世界のこと(トレンドは分子生物学(遺伝子とか)だと言うこと等)を知れたことも、私にとっては新鮮だし、読んで良かったけど、筆者の郡司さん始め、魅力的な人達のことが知れたことが1番良かったな。私自身の特性であるのかもしれないけど、素晴らしい技術、研究、最先端の動向、そう言う知識か増えることも大切なことではあるんだけど、結局、様々な事の根幹は【人】なのだと感じるから。

    ・遠藤先生。きっと偉大な研究者なのだろうけど、何より人として魅力的な方なんだろうなーと感じる。(あ、ノーベル賞を受賞された吉野先生もチャーミング全開だよな)
    さて、キリンの研究『できるんじゃない?』と『止めても聞く耳を持たなかった』どちらの記憶が正しいのか?(笑)
    ・お母様。すっごく素敵。雨が降りそうだからと帰って高校中退とは、かなりぶっ飛んだ方だとは思うけど、「雨が降っても学校に行くんだから偉い」と褒められて育つ子供は『子供心を忘れない』大人になれるのかも。こうしなきゃいけない、こう言う道に進むのが正解だ、とか思わない強さが自然に身に付いたのでは。
    そして50になってお香にはまり、講師になってしまうお母様は、やはり地頭が良いのでしょうね。

    それから、『好きなことを好きだと言うことの大事さ』『同じような興味を持った人が近づいてきてくれる。手を差し伸べてくれる人や、チャンスを与えてくれる人にも出会える』って筆者が書いているのだけど、なんかこれ、どこかで聞いたんだよなー、としばらく考えていたのだけど。これ、三浦しをんさんの【愛なき世界】で植物研究の研究者の話に出てきていたんだ、と気づく。勿論、しをんさんのは小説なのだけど、人との出会いってそう言うものなのだろうなと改めて思う。
    遠藤先生も「人生において本当に大事な人間とは、どんな道を選んでも必ず出会う」とおっしゃったそうだけど、まさに!筆者にとっての本当に大事な遠藤先生との出会い。そして先生にキリンの研究をしたいと言葉にして伝えた郡司さん。すごいな。

  • キリンの研究者による解剖と研究の記録。
    そして、作者が研究者になるに至った経緯。

    初心者向けに、と所々書かれているがなかなか、キリンの研究の初心者になり得る人は少ない気がする。と、思わず微笑んでしまうが、たとえ少数でも本当にこの道を志す人には必読の書だと思う。

    キリンへの愛が溢れる一冊。
    好きなことを仕事にすることの覚悟と学びと大変さと楽しさといろいろが詰まっている。
    読んで良かった。本当に良かった。

  • まさにキリンの解剖の話ですが、著者の探究心とユーモアが自然と心に響く素敵な本でした。

    また、読み終わったあと、自然と、私もたくさんの人に感謝して生きなきゃいけないな、と自戒させられる本です。

    いろんな人に薦めたい。

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著者プロフィール

研究者。筑波大学システム情報系研究員。2017年3月、東京大学大学院農学生命科学研究科博士課程にて博士号(農学)を取得。同年4月より日本学術振興会特別研究員PDとして国立科学博物館勤務後、2020年4月より現職。帝京科学大学非常勤講師(動物解剖学)。専門は解剖学・形態学。第7回日本学術振興会育志賞を受賞。著書に『キリン解剖記』(ナツメ社)。

「2020年 『世界一キモイいきもの図鑑』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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