- Amazon.co.jp ・本 (419ページ)
- / ISBN・EAN: 9784819112154
作品紹介・あらすじ
「裁判官はあくまで政治的に中立でなければならない」石田和外最高裁長官の言葉で、粛清人事が始まった。大阪地裁の村木健吾ら「現場組」は、司法反動の激流に抗し、「裁判官の独立」を守ろうとする。一方、父親が犯罪者という十字架を背負う津崎守は、「司法の巨人」弓削晃太郎に見込まれ、エリート司法官僚の道を歩き始める。最高裁は、札幌地裁の自衛隊訴訟判決に対する自民党の怒りを恐れ、「長沼シフト」を検討。松山地裁で白熱する伊方原発訴訟の攻防は、津崎をも巻き込む-。裁判所の内幕を抉る社会派巨編小説!
感想・レビュー・書評
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エリート街道を突き進む津崎と、護憲を掲げる団体に所属するだけで地方廻りを余儀なくされる正義感の強い村木、原発差し止め控訴に奔走する弁護士妹尾。
この3人を主人公とした法曹界のお話。
どこの世界にも権力争いはあるもので、当然“正義”であることを求められる司法の世界でも、ドロドロとしているということか。
自衛隊違憲、プライバシー保護、原発差し止めといった裁判を丁寧に描き、裁判官の激務ぶりがよくわかる。
でも、あれもこれも感があって、原発に絞った方がわかりやすいのでは…と思ってしまう。結構斜め読みをしてしまった。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
2人の立場の異なる(一人は現場回り、もう一人は最高裁事務局を中心とするエリートコース)裁判官を主人公とした小説。
2人の学生時代から裁判官としての終点までを、周囲の人々の人生模様も織り交ぜながら、重厚に描いている。2分冊でかなりの分量だが、苦も無く読み進めることができた。在るべき裁判官、司法とはいかなるものか、について考えさせられた。
(おそらく)周密な取材の上に書き上げられたノンフィクション小説のような側面も持ち合わせており、戦後の司法の在り方や原発訴訟の実態などを知ることができるという知的面白さもあった。 -
東京高裁長官の津崎、金沢地裁裁判長の村木、弁護士の妹尾の3人の主人公が、日本海原発建設差止め訴訟を前に、それぞれの立場からの思いが綴られるプロローグから、物語は一気にタイムスリップして司法試験前へと戻る。彼らの人生軌跡を辿りながら、当時の人物が実名で登場するなど、ノンフィクションまがいの展開に、公害、自衛隊、原発の訴訟を通して、司法の独立性に政治力が影響を与える過程をリアルに映し出していく。小説と事実の間を彷徨う感覚にさせる手法がいい。大作でありながら飽きさせず下巻へと引きつける。
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黒木亮氏らしい、正反対のサイド(津崎・村本)側からそれぞれの裁判官としての人生を描く。
これは私的な感想だが、原子力発電・国家権力に対する批判・懐疑的な色彩が強く出ている気がする。もっとも、市場原理の貫徹から来ているわけで左派的なものではないのだが。 -
裁判官の内情を中心として、実際に起った事件を裁判官側、原告側、および被告側それぞれの視点で描いた司法もの。
上巻では中心となる人物が、司法試験を突破し、裁判官や弁護士になるまでの過程が、実際に起きた事件を絡めながら描かれている。本書で紹介される事件は実際に起ったものばかりで、一部の登場人物は実在の人。裁判官の世界も民間企業と同様かあるいはそれ以上に権力争いや足の引っ張り合い等々ドス黒いものが渦巻いていることを丹念な取材を元に描いている。超難関の司法試験に合格し、さらに司法修習で大変な苦労をした後でも、まだ安泰ではないようである。
また、上下巻を通じて中心となる事件は原発訴訟で、この本を読むだけでも原発の仕組みにかなり詳しくなれる。 -
150711 中央図書館
エリート司法官僚と、実直な裁判官と、社会派の弁護士が、それぞれの立場で時代と関わり、交錯する運命を、細かいコマ割りで描いている。 -
漢字がいっぱい(←ひどい感想)。裁判官もサラリーマンでしかなく、政治とは切っても切り離せない事情がありありと出ている。裁判官の抱える仕事量や評価問題は興味深いけど、青法協をリベラルとしたりとちょっと左翼的。産経新聞で連載してたっていうのが一番驚いた。著者はだいぶ前のエッセイで拠点をイギリスに移したと書いてたけど、どうやって調べたんだろ。
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すごい作品でした!
まるでノンフィクションかと思えてしまうほど、実際にあった事件や裁判を元に知られざる裁判官の立場、司法の世界が描かれずっしり読み応えがありました。
公平で独立しているはずの司法の世界も、結局のところ目に見えない縛りで国の管理下にある判決を強いられたり、原発問題や公害問題など深くえぐられていました。
裁判用語と言うべき、難しい言い回しも多くて読み辛さで、読むのに結構時間はかかりましたが、面白さに最後まで読み終えることが出来ました。
様々な裁判を通して、日本の問題をえぐる強烈な作品でした! -
デビュー作「トップ・レフト」等、金融関係の著作が多い著者による初の司法小説。
出版されてから暫くたっていますが、この度読んでみました。
ストーリーは事実を基にしており、戦後の日本の司法の歴史を知る事が出来ます。
類書に今は絶版となっている「最高裁物語」がありますが、この本と本書の違いは、前者が明治時代から始まる近代日本の司法の歴史を取り上げ、特に石田和外元最高裁長官に始まる裁判所内のリベラル派の冷遇、強引な法解釈に基づく行政勝訴の連発等を主なテーマにしているのに対し、本書は原発運転停止を求める原発訴訟の歴史についても取り上げており、その始まりが1960年代からとなっております。
また、内容の方も小説にふさわしく、裁判所の主流派に属する男性と己が信じる道を歩み、その結果冷遇されてきた男性の二人を主軸にストーリーが展開していく物となっています。
結構読み応えがありますので、日本の司法について関心をお持ちの方は一読されて見るのも良いのではないでしょうか。 -
最近話題になっている,瀬木比呂志著「絶望の裁判所」をドラマティックにしたような小説です。
並行して読むとより背景が見えて,興味深いです。
信念と高邁な理想を抱いた裁判官が出世とは無縁に延々現場で判決を書き続け,他方,いかにも体温低そうな冷徹な裁判官が出世街道を驀進する…。
現在の裁判所は,ここまで極端ではないでしょうが,ここで描かれていることが決して絵空事ではない時代はあったのでしょう。
組織の中で生きる…ということはどこも同じ矛盾を抱えているものだと感じます。
以上は上巻までを読んだ感想です。
下巻はどのような展開になるのか,予想通りか,それとも予想が裏切られるのか,楽しみです。