軍事とロジスティクス

著者 :
  • 日経BP
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  • Amazon.co.jp ・本 (496ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784822246464

作品紹介・あらすじ

ロジスティクスは「後方」ではない。イラク、アフガンの戦場における最新動向、海上自衛隊の給油支援活動、航空自衛隊の空輸活動の本質、戦場における民間請負会社の実態など、日本人が知らない世界を今、明らかにする。

感想・レビュー・書評

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  • 90年初頭の湾岸戦争ではコンテナが前線に届くまで5回開けられ確認され中身を入れ替えられていた。これはコストの面だけではなく、軍事侵攻の速度にも直接の影響を与えていた。
    しかし、その後コンテナ内の品物ひとつひとつにICチップを取り付けることで、箱詰めから前線まで、今品物がどこにありどういう状態なのかをいつでもどこでも把握できるようになった。
    どこでも、というのは、前線でも、という意味で、前線の過酷な環境で動くチープなラップトップコンピュータでも把握できるようになった、ということだ。GPSとデータベースに連動し、部隊の要求したロケット砲やガスマスクがどこを移動しているのかをすぐにつかめる。

    実はコンテナ自体が、流通の主役となったのが1950年代の終りだ。
    そういった「たまたま」の技術の積み重ねの上に、それらの流通の先端はある。

    なので次に「コンテナ物語」を読んでいるところ。

    この本、随分前に読んだのだけれど、上に記した内容が、一袋どの本に買いてあったのかをすっかり忘れていたので、思い出しついでに書く。

  • 主にアメリカ軍の近年のロジスティックについて書かれてある。まっアメリカ軍ほど世界中大量に兵力を投入する国は今はないからね。

    近年の(軍事の)ロジスティックでコンテナが重要だってことは「コンテナ物語―世界を変えたのは「箱」の発明だった」でさらっと書かれていたがこれほど利用されているかとびっくり。米軍はコンテナ船を作ってるんだね。

    アフガニスタンやイラクなどの紛争地域でロジスティックが襲撃のターゲットとなっていることと、危険な地域を通過しなければいけないのは、従来の正規戦のようなロジスティックは「後方の業務」ではないことを理解。

    また民間企業の活用も近年増えているとのこと。戦争というものが従来の戦争の概念である、国と国の戦い、兵士同士のルールのある戦い、兵士と民間人との明確な区別、紛争地域(前線)と非紛争地域、のようなものは今まさに変化していると感じた。

  • 2008年刊行ということでやや古いが、アフガニスタン・イラクの戦役を中心に、アメリカ軍・イギリス軍でのロジスティクスの革新と、あまり明るみに出なかった問題、当時試行されていた技術・システムとをまとめた内容。伝統的な地上でのトラック輸送から、アメリカ軍の海外展開能力を支える、船舶プラットフォームを基盤とするもの、そして何より圧倒的なスピードを誇る空輸と、陸海空の様々な部分での、様々な物品の輸送という問題を取り扱う。

    湾岸戦争では技術が未発達であったことから、物資の分配に問題が発生していたが、イラク戦争ではRFIDタグの活用によりコンテナの管理が極めて円滑に行われた。しかし、タグのついたコンテナから出されて以降は従来の問題が再燃した。また、物資の優先順位の問題もあり、交換部品が不足することがあった。輸送車列に対するゲリラ攻撃も深刻だったことから、トラックの装甲化や護衛車両の開発が進んだが、コストの問題、特にそれの維持自体がロジスティクスの負担を増やす面もあり、刊行時点では成果が確認されていなかった。

    またロジスティクスをはじめ軍の様々な分野の民間委託も進んでいるが、かえって保護の負担が増えたり、契約不履行の違約金を払うだけで実際に現場の部隊が困窮したり、官民間の駆け引きもあったりということで、一筋縄ではいかないよう。民間委託した結果、現地人を雇うことで人件費を抑える向きもあるようだが、これにはセキュリティ上の問題もありそうで、イギリスの輸送機が誘導路でIEDにより破壊された事例などもあることを考えると、難しいと思う。

    アメリカの海外展開能力を支える海のアセットについては、半官半民といった形で運営される、RORO船を中心とした船隊がグアム・ディエゴガルシア・地中海に配備され、必要に応じて展開できる体制が整えられており、人を別途運ぶことで即座に行動開始できる。これは陸についても同様で、冷戦期に組織された、事前にアセットを展開しておいて、有事に人のみを空輸するものともつながる。船はコストが安く大量に運べることから、船の高速化により展開能力が向上することは今後特に、太平洋を挟んで中国と対峙するうえで、ゲームチェンジャーになるのではないかと考えるが、東欧や中央アジアなど、海から遠いところへの展開は依然として難しいことが分かった。

    空輸についてはNAMOという形で、事実上の輸送機シェアリングのようなシステムが作られていたことは知らなかった。今後考えられているアセットとして、巨大なティルトローターや飛行船というのがあり、大部隊をあたかもワープさせるかのように、様々な場所に移動できるというのは興味深い。

    今後あるべき姿として、現場の部隊同士で互いに必要なものを補い合うことで、中央集権的に物資が配分されるモデルから脱却し、そもそも補給部隊というもの自体がなくなるというのは面白いと思った。

  • イラク・アフガニスタンでの戦闘における米軍やNATOの補給を中心として、現代におけるロジスティクスの形態を紹介しています。

    イラク戦争では非常に速い速度で各部隊が一番乗りを競うようにバクダッドに進軍し、アフガニスタンの戦いでは特殊部隊を中心として非対称戦を行いました。そこでは冷戦のような補給体制では通用しない、新しい補給が行われました。

    本著ではそれら補給がどのように行われたのか、湾岸戦争で行われた補給と比較して、参加した部隊・使用された新技術を紹介し、これからのロジスティクスを示しています。

    統合作戦化が進む現代において、地域・陸海空(海兵隊)軍の合理化や効率化は必要不可欠です。比較的資金潤沢かつロジスティクス意識の高い米軍を参考として、いまだに補給任務を「後方」の仕事とし、震災でも課題とされた自衛隊のロジスティクスが改善されることを望みます。

  • タイトルから兵站の本質的な話を期待したが、内容は主に英米の現代のロジスティクスの紹介。それも戦略戦術の解説ではなく、現代の組織名称や機体のスペックの羅列が中心。軍事海上輸送コマンド(Military Sealift Command)が何かとか国防エネルギー支援センター(Defense Enery Support Center)がどうしたとか、艦隊補給艦ルイス・アンド・クラーク級の満載排水量が4万1592トンだとか、後継中型戦術車両の装甲増着キットECP-58が2004年9月に796輌分1億4460万ドルで発注されたとか…。しかしデータ本として見ても、統一性も一覧性もなくて把握しにくく、つまらない講義を受けてる時ってこんな気分だったけな、と学生時代を思い出させられる。
    各種専門用語や欧米の軍組織、機体の数値に造詣の深い好事家ならば、怪獣図鑑のノリで楽しめるのかもしれないが、それ以外の人には難しい一冊。

  • 図書館で借りる。
    筆者はロジスティクスが兵站・後方補給などと訳され、前線を支援する間接的な業務と捉えられがちであることに注意を促している。
    まずロジスティクスなしには戦争(戦闘)は行えないこと。そして(イラク地上戦においては、食料弾薬を積んだ輸送車両が狙われており、多くの人的被害が生じたことなどから)現代の戦争では攻撃の対称としてロジスティクスを破壊する行為が多く見られ、決して「後方」という言葉から想起されるような、安閑とした業務ではないということなどを理由としてあげている。

    イラク戦争でのRFIDが画期的にロジスティクスを効率化されたと、何かで読んだ気がするが、本書ではその効果を認めつつもそれが万能特効薬でなかったことを指摘している。

    防衛施設庁という組織が防衛庁とは別にあることがどうも不思議だったのだが、その歴史がGHQのロジスティクスを任務とする特別調達庁にさかのぼることを知り、いろいろと納得できた。

    こういう本をよむと民間のロジスティクスの雄、DHLやフェデックス、日本通運がどのようなシステムを気づき上げているのかに興味が湧く。

  • ――――――――――――――――――――――――――――――
    イラクにおける補給物資の六五パーセントは飲料水と燃料である。30
    ――――――――――――――――――――――――――――――
    「悪夢の神話」となっているが、湾岸戦争時に中東に送られた四万個のコンテナの半分は、その内容物と行き先が分からなかったため(…)湾岸戦争が終わった時点では、コンテナ八〇〇〇個以上が未開封状態であり、空輸用貨物パレット二五万枚が、何が載っているか分からないまま放置されていた。34

    しかし、イラク戦争では、そのような愚行が繰り返されることはなかった。35
    ――――――――――――――――――――――――――――――
    湾岸戦争で米軍部隊は六〇日分の物資を備蓄してから戦闘を開始した。

    それがイラク戦争では、必要な物を必要なときに届けるベロシティ。ロジスティックス方式の導入により、僅か五~七日分の水、食料、弾薬を携えるだけで新劇を行った。46
    ――――――――――――――――――――――――――――――
    イラク戦争に投じられた物資の九〇パーセント以上は、海上輸送(船)で運ばれた。68
    ――――――――――――――――――――――――――――――
    日本より二〇パーセントも広い国土に、たかだか十五万人の地上兵力しか投入していないため(…)フセイン政権時代には、国境警備隊、軍、警察など一〇〇万人を投じて国境を警備していたのが、ほとんど一夜にしてそれらの監視がなくなってしまったのだから、国境が消滅したのと同じ状態である。80
    ――――――――――――――――――――――――――――――
    世界銀行は二〇〇二年のイラクのGDPを十八四億ドルと見積もっているが、二〇〇五年中期までに米国がイラク作戦に投じた経費は三年間で二二〇〇億ドルで、その大半がロジスティック関係経費であった。90
    ――――――――――――――――――――――――――――――
    イラクにおいては、米兵損害の三分の二以上がロジスティックス部隊から出ている。92
    ―――――――――――――――――――――――――――――
    IEDはイラクの治安維持における最大の脅威となり、二〇〇八年初期時点で米軍死傷者の六七パーセントがIEDによる。104
    ――――――――――――――――――――――――――――――
    米陸軍によるとイラクにおける地上輸送物資の六五パーセントが(…)ボトル詰め飲料であるという。その輸送に要した経費は、二〇〇五年の場合二億ドルであった。117
    ――――――――――――――――――――――――――――――
    米本土からイラクまでの輸送経費は、重量一ポンド当たりコンテナの海上・陸上輸送なら〇・二五ドルであるが、パレットを使った空輸なら五ドルと、二〇倍もする。342
    ――――――――――――――――――――――――――――――
    米陸軍はイラクやアフガニスタンで、派遣部隊が交代する際には、その装備を残し、兵士だけを交代させるという方式をとり始めた。433
    ――――――――――――――――――――――――――――――
    戦闘部隊や支援部隊の間で柔軟に補給物資を「融通しあう」というものがある。442

    従来の、支援部隊が特定戦闘部隊と結びついて支援を行うという方式は消えていく可能性がある。444
    ――――――――――――――――――――――――――――――

  • 軍事と兵站についての本。2008年。軍事におけるロジスティクスの重要性やアフガニスタンでのロジスティクス活動、システムなどを紹介している。月刊「流通設計21」の内容をまとめたもの。戦争において武器や食料の補給は非常に重要な項目であり、敵方の補給路を断つことで敵を追い詰めるのは戦術の定石であり、ロジスティクスとはそれほど重要な項目である。イラク戦争でもロジスティクスの発達が、軍事作戦のスピードを早める要素になっており、ますます重要性が高まっている。最近では、RFIDの導入により、どこになにがどれだけ不足しているか、いつまでに補給すればよいか、などの情報をすべて一元管理できるようになっており、企業の生産現場以上のシステムが整ってきている。また、輸送手段も同様に発達しており、超大型輸送機などが開発されている。ただし、こちらは1企業だけで開発するには費用がかかりすぎる為、複数企業の出資により開発を進めている。
    軍事システムとして定着したら、ほぼ時を同じくして民間のシステムに展開されるであろう。

  • もう戦争には「前線」「後方」といった区別がなく、戦闘はどこでだって発生する。したがって正規軍ではもはや広い戦域をカバーできず、そこに民間軍事会社の伸長する余地がある。
    滑稽なのは、軍隊のような組織でさえ、デスクワークなどの、誰でもできる仕事はアウトソースし、軍人にしかできないエリアへリソースを集中するという、まるで一般企業のようなことが行われている、ということ。

  • 小飼弾氏推薦(09,10,12)

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