会社が消えた日 三洋電機10万人のそれから

著者 :
  • 日経BP
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  • Amazon.co.jp ・本 (324ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784822250171

作品紹介・あらすじ

新潟中越地震での工場被災をきっかけに経営危機が表面化、2006年に米ゴールドマン・サックスグループ、大和証券SMBCグループ、三井住友銀行の金融3社から3000億円の出資を受けた三洋電機。その後、携帯電話、デジカメ、白物家電、信販といった事業は切り売りされ、本体はパナソニックに買収された。散り散りになった旧経営陣は今何を思い、10万人の社員たちは今どこで何をしているのか。経営危機の渦中、同族企業の混乱を克明に取材し、その後も電機業界の動向を見続けてきた新聞記者が、多くのビジネスパーソンにとって決して他人事ではない「会社が消える日」を描く。
 たとえ今の職場がなくなっても、人生が終わるわけではない。では、どこに向かって次の一歩を踏み出すか。かつて三洋電機に在籍した人々のその後の歩みは、貴重な示唆に富んでいる。重苦しいテーマを扱いながら、本書が「希望の物語」となっているのは、そこに会社を失ったビジネスパーソンの明るくたくましい生き様が垣間見えるからだ。

感想・レビュー・書評

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  •  従業員10万人を抱えた三洋電機が上場廃止になり、パナソニックに吸収されて消滅していった顛末を、経営者やその後の従業員への取材を元に書いた本。

     伝統ある企業が破綻することは今では珍しくもないが、後ろ楯だと思っていたパナソニックがここまで冷酷な牙をむいてくるとは従業員は予想もしなかっただろう。もともと松下電器産業の兄弟会社のような存在だとは知っていたが、やはり会社が違うとライバル意識や確執があるようで、買収時の混乱もあって、すんなりパナソニックグループに残れた人は1割に満たないらしい。

     本書では、創業者一族である井植家の公私混同、電池技術が欲しいパナソニック、抜本改革を迫る金融機関とのスキャンダラスな対立構造を軸に名門企業の破綻劇を描いているのだが、それよりも印象に残るのは三洋電機の技術者や営業マンたちの仕事に取り組む姿だ。あえてそういう人を取り上げたのだろうが、破綻企業だろうと大企業や中小企業だろうと、会社を支えている従業員はどこにでもいることがわかる。
     シャープやソニーといった他社の例を見ても、経営者と現場の距離が遠かったと単純にくくれないところに、今の電機産業の変化の激しさと舵取りの難しさが見える。願わくは、パナソニックの住宅事業、車載事業の中で、三洋電機の技術がこれからも生き続けてほしい。

  • 2012年、超円高の最終年となったこの年、電機メーカーはパナソニック、ソニー、シャープが大幅赤字に陥り、赤字三兄弟と騒がれた。民主党政権の誕生とオバマ政権の自国産業強化策が重なり、日本の産業界は苦境にあった。これまで何度も苦しい時期はあった。しかし、この頃を境に家電は「輸入するもの」に変わり、量販店にはサムソンやLGの製品が並ぶようになった。この不可逆的な変化はどうして起こったのか、本書をこういう視点で読んでみるのも面白い。


    2005年とまだメードインジャパンが充分生きていた頃、筆者たちは家電業界の苦境と三洋電機の沈没を予測した。その予言の成功がこの本を書かせた最大の理由なのだろう。当時も、家電メーカーの乱立とガラパゴス化を懸念する声はあった。経産省が書かせていたのかもしれないけど、今にして思えば、彼らの方が正しかった。であればこそ、業界の問題点と進むべき道に深い洞察を加えてこそ、この本には価値がでる。


    三洋の滅びに焦点を当て、前半では征服者を恨み、後半では珠のような社員たちを活かせなかった経営陣への繰り言を述べる。そんな安易な構成で良いのか、というのが正直な感想。恨みや繰り言をベースにするのではなく、産業界の経営高度化に焦点を当てるとかすれば、もっと格調の高い本になったはず。多くの人が感じている違和感の源は、この辺にあるんじゃないか。

  • 前半は三洋電機の落日の日々、後半は元従業員たちの今。前半はゴシップ記事を読んでいるようでいや〜な感じでしたが、後半はなかなか前向きで良かった。次世代の電池開発に挑む社員の溌剌としたエネルギーや、60歳を超えて子供服チェーンでPB商品の開発に挑む人たちに元気を貰えた。それにしても日本も難しい時代に突入したものだ。いざという時に、身軽に振る舞えるような基礎体力を蓄えておかないといけないね。それにしても西松屋、いい感じです。

  • 本書を読んで、つくづく会社とは人の集まりだということを思い知らされた。

    人には人の数だけ生き方・考え方があり、その中でお互いのもつ共有部分を通して仕事が成り立っている。そのため会社が社員に対して求めるものは同じなれど、社員が会社に対して求めるものはそれぞれ異なってくる。

    ただその中で一つ言えることは、どこでどう働こうとも、その人自身に人間力・仕事力が備わっていれば、フィールドが変わっても必要とされ輝き続けることができるということだ。だからこそ、日々目の前の仕事に尽力し、また一方で自分自身と真摯に向き合うことが求めれてくるのではなかろうか?

    会社(の名前)が消え、社員が離散しようとも、その人自身の未来やそこで働いていたという過去が消えることはない。これだけ多くの人がいれば、その時々の流れの中で、偶然性が重なりあって思いもよらないことが起きることは十分考えられうる。

    起きる起きないという結果に一喜一憂するのではなく、あらゆる可能性に備えながらもポジティブな気持ちで明日に向かって日々過ごしていきたいものである。

  • 大手にいるサラリーマンは読むべき。
    今どき倒産しないが切り売りされる会社は沢山ある。
    そして優秀な人は次が見つかり転職。
    会社に愛があっても会社はあなたの人生までケアしないのは常識。
    私は会社に危機感を感じ転職しましたがまさに三洋電機のようでした。
    下手な転職本より役にたちました。

  • もうこの表紙の写真からして象徴的なのだが、ちょうどリアルタイムで会社が傾いていったのを経験している身にとっては非常に興味深かった。個人的にもSANYOの製品は割と好きだったし、東海道新幹線では岐阜の辺りのソーラーアークをよく見ていたので、余計に感慨深いというか。いずれにしても、月並みだが、いかに大会社とはいえ数十年のスパンだとしても絶対に安泰な会社などないということなのだろう。

  • 僕も倒産を二回も経験している。三洋電機は吸収合併で会社が消えたが、ぼくの場合は突然の閉鎖だった。いつものように会社に出勤すると門が閉鎖されていた。待ち構えられていたバスに乗せられ、会館に集められた社員は会社が自己倒産したのを知らされた。この本を読んで思ったのは、巨大な会社でも会社が無くなる現実の怖さを知った。
    自分の長年勤めた会社が無くなることは胸の中に空洞ができたような寂しさと悲しさがある。

  • 三洋電機の衰退とその後の社員を取材した1冊。弱った獲物を銀行、電機会社がハイエナのように食い散らかし、跡形もなく消えていく会社の末路を見た気がした。如何に技術があっても市場に評価される形にできなければ消えてしまうという事か。

  • 2011年上場廃止になった三洋電機。会社は消えても人生は終わらない。三洋がパナソニックに買収され、消滅に至るまでと、会社を失った元三洋電機社員の再生の物語。できまへんではなく、にっこり笑ってちょっと考えさせて下さいと言って、立ち向かうそんな人々のストーリー。メモ。(1)彼らの再生はかつての強さを取り戻す復活ではない。しかし、厳しい現実と折り合いをつけながら、彼等は新しい人生を掴み取った。そのしなやかさ、したたかさこそがこれからの日本に求められる一番大切な資質だと思う。
    (2)皆で団結して、1つの方向にわーっと走る。そういう勢いみたいな部分は三洋電機の方が上でした。しかし、緻密さ、真剣さ、詰めに欠けていた。居心地はいいんですけどね。
    (3)うちは常にお客さんの不満に耳を傾ける。ここが不便や、こんなもんがあったらええのに。そういう声を丹念に拾い集めて製品として形にするんです。これは面白い仕事でっせ。うちより大きい会社は立派な技術があって、立派な組織があるけど、お客さんを見ていませんわ。ごっつい広告費を掛けて強引にヒット商品を作るんですな。でも中にいる人間は歯車になっとる。あれで本当に楽しいんかな、と思いますね。
    (4)親父を何とか支えようと頑張る息子達。それが敏時代の三洋電機の姿だった。…社員に愛され、社員の馬力を引き出したという意味では立派な経営者である。
    (5)人減らしというのは麻薬です。纏まった人数を減らすというのは固定費が軽くなって、一時的に業績が回復した様に見えるんです。でも付加価値を生む人材を切り捨てて、ダメだと分かっていても手を出してしまう。だから、人員削減は会社を蝕む麻薬なんです。
    (6)西松屋では自分が作った商品が直ぐ店頭に並びます。だから失敗すると、直ぐに分かるんです。そうすると、何で売れへんのかなあと考える。なんぼ偉そうな理屈を捏ねても結果が直ぐに出ますからね。とにかくお客様と近いんですよ。

  • 2000年以降、本当にいろんなことがあったと改めて思う。
    渦中にいる間は分からないけれど、時間が経って振り返ると、歴史に残るほどの過渡期であり、また、変化はまだ続いていることを痛感する。
    電気業界は、研究対象として追跡調査するには格好の対象だろう。第三者からすれば、行く末がどうなるか、楽しみかもしれない。
    一方、当事者からすれば、これはもう、生き残るかどうかの死活問題だ。
    会社は一人ひとりの従業員で成り立っている。本書では、その一人ひとりの人生がクローズアップされていて、会社の構造改革の裏にはさまざまな人生が隠れていることを考えさせられた。
    挫折を味わった人、これから味わう人、まだまだ多数おられる気がする。
    一人ひとりが築き上げる人生が、この過渡期の後に迎える世界を創り上げるものだと確信する。

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著者プロフィール

大西 康之(オオニシ ヤスユキ)
ジャーナリスト
1965年生まれ。愛知県出身。1988年早稲田大学法学部卒業、日本経済新聞社入社。欧州総局(ロンドン)、日本経済新聞編集委員、日経ビジネス編集委員などを経て2016年4月に独立。著書に『稲盛和夫 最後の闘い JAL再生にかけた経営者人生』『ファースト・ペンギン 楽天・三木谷浩史の挑戦』(以上、日本経済新聞出版)、『三洋電機 井植敏の告白』『会社が消えた日 三洋電機10万人のそれから』(以上、日経BP)、『ロケット・ササキ ジョブズが憧れた伝説のエンジニア・佐々木正』(新潮社)などがある。

「2021年 『起業の天才!』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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