ビジネス・フォー・パンクス

制作 : 楠木 建(解説) 
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  • Amazon.co.jp ・本 (392ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784822251703

作品紹介・あらすじ

これほど僕の喜びのツボを押しまくりやがってくる本は滅多にない。
――楠木建(解説より)

2007年に約300万円で始めたクラフトビールの会社が、
わずか7年で売上70億円を超える急成長を遂げる。

熱狂的なファンを世界中でどうやって獲得したのか?
どうやってクラウドファンディングで20億円も集めたのか?
スコットランド発祥のBrewDogの奇跡のマーケティングを、創業者本人が語る!

BrewDog(ブリュードッグ)の経営の根幹は、"パンクの哲学"にある。

・始めるのはビジネスじゃない。革命戦争だ
・人の話は聞くな。アドバイスは無視しろ
・事業計画なんか時間の無駄だ
・嫌われ者になれ
・永遠に青二才でいろ
・すべてがマーケティングだ
・顧客ではなく、ファンをつくれ

――著者の熱い言葉に加え、ジョニー・ラモーン、マルコム・マクラーレン、
カート・コバーンら、パンクの伝説をつくった先人たちの言葉も収録。

感想・レビュー・書評

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  • 冷静さと情熱と皮肉のバランスが素敵。

  • 数年ぶりの再読。
    改めてとても良い本でした。

    ビジネスの作り方・考え方について、
    そもそも何のための会社を始めるのかについて、
    起業する際に押さえておくべきポイントについて、
    企業文化とは、などなど。
    まさに今の時代、つまり商品が社会に溢れ、世の中が国境を超えて繋がっている時代に起業する方・リーダーとしてやっていく方におすすめの本。

  •  めっちゃ面白かったし、勉強になった。しかし、パンクを標榜しているが、書いていることは実に堅実でまともであった。今自分たちのほうがよっぽどいい加減ではないかと思う。


    どんなビジネスを始めるにせよ、創業者は、力強く、壮大で、直観的に伝わり、短い言葉にすべてを込めた使命を掲げ、会社がそこから外れないように手を尽くす責任がある。

     使命を持つことで、自分のすることすべてを、より高い次元の文脈に位置づけ、事業に参加している全員を共通の目標に向かわせることができる。

     …ケチで、倹約家の、守銭奴(どの順番でも構わない)。どんな手を使ってでも節約し、キャッシュを守って生き延びろ。
     キャッシュは絶対の存在だ。揺るぎない忠誠を誓わなければならない。スタートアップではわずかな資金源が命綱になる。資金は会社の血液であり、酸素だ。嘘じゃない。

     立ち上げ期に仕事を人任せにするのは、負け犬のすることだ。成長している間も、外注や提携にはとにかく慎重になるべきだ。どこも口先ばかりで、でかいことを言っても、結局のところ本人のように手塩にかけてビジネスを育てる理由は持ち合わせていない。異常なほど事業のことを考えてこそ、初めの時期を乗り切ることができる。
     思い返せば、ぼくらは全部やった。ブリュードッグを始めてから数年間、ぼくら2人は、バーコードの使い方や商標登録、ラベルのデザイン、壁の立て方、ウェブサイトのつくり方、会計、インボイスの作成、溝の掘り方、助成金の申請、醸造設備の据え付け、動画編集、ボトリング機械の修理、その他いろいろのことについて、あっという間に詳しくなった。全部自分の手でやる以外に選択肢がなかったからだ。

     営業のやり過ぎのせいでスタートアップを死なせてしまわないために、いくつか簡単なポイントがある。
     一つ目は、最高の商品をつくることだ。立ち上げ期に何より重要なのは、営業担当やマーケティング担当を雇うことではなく、自分たちで時間をかけ、いい商品、いいサービスを用意することだ。十分に練り上げ、つくり込み、仕上げなければならない。そうすれば、上客が集まり、彼らからの口コミで知名度が上がり、それが需要に結びつく。事業がうまく軌道に乗らず、盛り上がりが起きないようなら、肝心の商品やサービスの改善に力を入れるべきだ。
     二つ目は、自分や共同創業者が現場の動きの近くにいるようにすることだ。調査だの、研究だの、フォーカスグループだの、フィードバックだの、他人のフィルターを通した情報はどれも忘れていい。腰を上げて、現場に入らなければならない。…
     …
     三つめは、「売る」という概念が完全に変化したという事実に気づくことだ。
     …自分たちが会社としてどう行動し、機能し、考えを伝えるかは、自分たちが世の中にどう受け止められるか、そして、どれくらい商品が買われるかに直接関わってくる。自分たちの行動すべてが販売活動であり、社員全員の行動が常に販売活動になる。そういうつもりで行動しなければならない。
     
     値下げをすると、すべてを安売りすることになり、後戻りできなくなる。

     単純に言えば、マーケティングは、世の中の自分たちに対するイメージをつくり、利益に結びつけるための行動だ。マーケティングでは、会社の使命と商品・サービスの統一感を保ちながら、顧客をより近くに引き寄せようとする。長く地道な仕事だが、きちんとやれば、潜在顧客が実際の顧客になり、顧客が熱心なファンになってくれる。
     相手が異星人でもない限り、マーケティングに力を与えるのは感情だ。事実だとか論理だとかの固い話にいくら説得力があっても、人が腹を決めるときというのは感情に従うものが、ここでは「悪魔は細部に宿る」という心得が実によく当てはまる。顧客はどんな細かいことも見逃さず、目にしたことをもとに論理に反するような感情的な決断をする。頭で考えることはあまり足しにはならないが、心に感じたことは大体いつでも役に立つ。小さなことが大きな違いを生むのだから、小さいことすべてを感動もののレベルまで高めておこう。顧客とつながり、共鳴し、関係を築けるチャンスは一つも見逃してはいけない。
     感情に訴えなければならないときには、小さなことが大きな違いを生む。だから、一番細かいことまで含め、自分の行動すべてを最高級に磨きあげ、さらに、それを自分の使命の中に位置づけなければならない。そして、自分の行動のすべてを通じて、自分や会社の望む姿、あるべき姿を表現しなければならない。簡単な仕事じゃない。しかし、人生で一番難しい仕事というのは、それだけの価値があるものだ。新しい世界に踏み出し、凡人の群れを抜け出し、力を発揮するチャンスを与えてくれる。
     今の消費者は、既存のブランドを押しつけられるより、自分でブランドを見つけ出すことを好む。だから、マーケティングの苦労も地道な努力も報われ、利益につながる。「すごい!」「なんだこれ!」「気に入った!」「かっこいい!」と思わせられれば、そのブランドが定番になる。消費者は従来のマーケティングで売り込まれる量産品より、自分で発掘した希少品のほうに共感する。素晴らしいことに、消費者に発掘してもらうマーケティングのほうが安上がりで、しかも頼りになる。
     すべてがマーケティングだと言ったが、それはつまり、どんなものでも顧客とのつながりを深めるために利用できるという意味でもある。そして、自分の行動のすべてに使命とブランドイメージを焼きつけなければ、共感を呼び起こし、結びつきと勢いを生み出すことはできない。
     ブリュードッグの特徴は、とにかく熱く、常識にとらわれないことと、そこに独自の笑いのセンスとパンクロックの切れ味が融合していることだ。ぼくらは、その熱さ、非常識さ、笑い、 パンクロック感をブランドの4大要素として、行動のすべてに染み渡らせようとしている。そして、いつも人をニヤリとさせるチャンスを狙っている。ブランドも人も同じで、笑いは愛を勝ち取るための最大の武器なのだ。
     例えば次ページのビアマット。普通のビアマットのデザインは、ロゴマークが描かれているだけか、せいぜい大げさなキャッチコピーが入っているくらいで、まったく面白みがない。で も、ブリュードッグのは違う。ぼくらは、ありふれた、ほとんど目に入らないような地味なビアマットをマーケティングツールに変身させ、ビール好きの心に働きかけ、ブリュードッグの理念を伝えるために使うことにした。すると、このビアマットはソーシャルメディアで50万回以上もシェアされ、金をかけずとも認知度がぐっと高まり、あちこちで人気になった。

     相手構わず放り投げられた浅はかで退屈な広告をありがたがる人間はいない。古いメディアにいつまでも頼っているブランドと同じで、こうした広告の宣伝文句には中身がない。今の消費者は、自分にとって意味のあるものから刺激を受け、関わり合いたいと思っている。価値を感じられるものを求めているのだ。そうした消費者の欲求を満たすのに金がかからないのだから、こんなに素晴らしいことはない。
     彼らが欲しがっているのは本物であり、質であり、情熱であり、実感であり、こだわりだ。低予算のマーケティング戦略で効果をあげるためには、会社が自分たちのブランドや使命、価値を体現していることが裏付けられるオンラインコンテンツを、十分に用意しなければならない。

     堅実に商売をしていて、マーケティングについて人並み以上に理解できているなら、この例のような方法は効果的だし、役に立つだろう。しかし、本当に世界に足跡を残したいなら、 もっと強烈なオンライン戦略が必要だ。ここで肝心なのは、消費者とのやり取りやコミュニティーづくりをおろそかにせず、自分たちのブランドは本物なのだと伝えられる定番のオンラインコンテンツを十分に用意することだ。それが守れなければ、オンライン戦略にいくら強烈な仕掛けを加えても、お粗末な作り物にしか見えなくなり、すべてが台無しになってしまう。 しかし、ブランド構築のための信頼できる、ごまかしのないコンテンツと、爆発力のある過激な仕掛けを組み合わせれば、桁外れの効果を生むことができる。
     ブリュードッグでは、毎日のオンラインコンテンツ戦略に、一か八かで次のような過激なものを差し込んだ。
    160
    ・マイナス20度の冷凍庫に裸で入り、動画に撮ってブログに載せる
     (氷点下でビールを凍らせてアルコール度数を高めた「Tactical Nuclear Penguin (戦略核ペンギン)」というビールの宣伝)。
    ・車にはねられたリスの死骸をアルコール度数5%のビールのパッケージに使う。
     (「The End of History(歴史の終わり)」というビールの宣伝。イタチやリスの死骸を剥製にして、口からビールを注げるようにボトルをパッケージングした。この銘柄を 「人類史上最も度数の高いビール」「ビールの終末(死)」と呼び、それにかけた)。
    ・ヘリでロンドン上空を飛びながらネコの剥製をパラシュートで地上に落とす。
     (「Death to the Fat Cats (くたばれ金持ちども)」と銘打った「パンク株Ⅳ」の宣伝)。
    ・国会議事堂の壁に自分たちの姿を大写しにする
    (ロンドンで2店舗目のクラフトビール・バー開店をアピールするため、市内の有名建築物にプロジェクターで自分たちの姿やロゴを投影した)。
    ・ロシア大統領のまねをする
     (プーチン露大統領の顔写真とロシアの同性愛者政策を批判するキャッチコピーをラベルに載せたビールを発売した際、上半身裸で馬に乗った大統領の写真と同じ構図の写真を公式ブログに載せた)。
    ・低身長症のパンクと一緒に1週間ぶっとおしで政府に規制変更
    (3分の2パイントという小さめのグラスでビールを提供できるよう、300年以上前からある法律の規定を変えさせた)。
     詳しくは後に書くが、重要な点は、過激なコンテンツを投入する前の段階で、長い時間をかけてコンテンツを充実させ、ブランドを確立し、信頼性とこだわりをはっきり示していたからこそ、こうしたハイリスクな戦略が成果をあげ、世界中で話題になり、支持されたということだ。
     ブリュードッグの低予算、高インパクト、高リスクの戦略には重要な点がもう一つある。そ れは、実行中のコミュニケーションのとり方だ。ぼくらは公開するあらゆる情報を通じ、ブリュードッグの派手な行動が核となる使命と結びついていることを強調した。例えば、
    ・低身長症の人を雇ったのは、ビールの豊かな風味が一番生きる小 さめのグラスをバーで使えるよう、ビールの提供単位を小さくすることを政府に訴えるためだった。
    ・車にはねられた小動物をパッケージに使ったのは、見る人にショックを与えてビールについて違った考え方をさせるためだっ た。見る人が動揺するようなものをつくり、それによって常識に挑戦し、ビールの素晴らしい新世界がすぐそこで見つけてもらうのを待っているのだと気づかせたかった。
     派手なパフォーマンスが実際に効果を発揮するには、それが本質的な部分で使命と結びついていることと、すでに揺るぎない支持と信頼できるブランドが確立できていることが条件になる。
     多くのコンテンツが注目を集めようと競い合っている。予算規模がどうであれ、人に話題にしてもらいたければ、話題にするだけの価値があることを実際にやらなければ勝負にならない。
     これは、言い訳のしようのないハイリスクな方法だ。心臓の弱い人には勧めない。それでも、爆発力のあるコンテンツを少しでも投入できれば、ブランドがより強く豊かになり、説得力のあるブランドコンテンツに固定ファンができ、勢いが生まれる。
     地道にこつこつと繰り返そう。同じことを何度も。ブランドは年月をかけて辛抱強く築いていくものだ。

     販売活動については、3つだけシンプルなルールを知っておけばいい。
    1 商品に集中する
    2 隠さず、誠実に
    3 価格競争はしない

     …企業文化は無数の要素から影響を受け、いくつもの部分から成り立っている。ここでは最も重要で、扱いやすいものかを五つ見ていこう。…
    1完璧に明確な使命
     使命は、社外よりも社内に対してのほうがずっと重要だ。会社の使命を具体的な行動に反映させ、外部の人たちの心に響かせ、本物に見えるように示すには、会社の魂を映す鏡を磨き上げなければならない。それに加えて、明確な目標と力強いビジョンを掲げれば、社内を結束させられる。そしてチームは結束すればするほど、力を発揮するようになる。唯一無二の魅力的な使命があれば、チームに刺激と活力を与え、共通の大義と集団としての目標に向けて結束させられる。対外的に意味のあることは、社内に対しても、むしろ社内でのほうが重要なのだ。
    2こだわりが価値
    3革命に加わる

     ブリュードッグの立ち上げ期には、面接はすべてぼくとマーティンがやった。…
     ちょっとした交流を通じて、人間性を見ることも、根性を試すことも、企業文化になじむかを肌で感じることもできる。失敗や成功にどう反応するか。チームのほかのメンバーとどういうやり取りをするか。ストライクの喜び方を見れば、人間性について多くのことがわかる。

     「オン・ボーディング」とは、新しいメンバーを会社に迎え入れるための仕組みを意味する。長編ラブストーリーの始まりでもある。恋に落ちるのは会社と新入社員だ。一生続く恋愛になる。できるだけうまく関係をスタートさせて、行き詰まらないよう手入れし、盛り上がりをつくりながら、エンディングにたどり着かなければならない。
     新入社員を迎えてから最初の数日、それどころか心臓が何回か脈打つほんの短い時間が極めて重要だ。彼らの志に命を吹き込めば、彼らのほうもこちらのビジョンに命を吹き込んでくれる。オン・ボーディングで彼らを刺激し、仕事に打ち込ませられれば、その分だけ短期、中期、長期のそれぞれでパフォーマンスを引き出せる。
     オン・ボーディングがうまくいけば離職率が下がり、生産性が上がり、企業文化が強まる。これは事実だ。
     新入りにとって最初の手掛かりになるのが、新入社員用資料だ。きちんと参考になるウェルカムパック(新たな社員にわたす資料セット。会社の説明や社員の心得、担当業務の概要などを含む)を用意しよう。しかし、大半の企業が真逆のことをしている。そもそも資料がないというのが最悪のケースだが、良くても労働法絡みの退屈な話が延々と書いてあるだけだったりする。題名をつけるなら「ドアホに贈る会社地獄入門――あんたが入ったのは絶望の世界だ」というのが似合いそうな資料しかない。
     新入社員用資料は、経営者が自分の手で、自分の言葉で書き、ビジョンを反映させよう。金の亡者に成り下がった弁護士の視点で自分の会社を説明するなど、新人を巻き添えに自爆するようなものだ。
     従業員ハンドブックはロードマップであるべきだ。経営者と新入社員を成長の最短経路に導く地図であり、公式ウェブサイトや顧客向け広告に見劣りしない最高の仕上りが求められる。自分たちのビジョン、価値観、使命、文化が明快に、簡潔に伝わらなければならない。自慢の恋人のように、家族に紹介したくなるハンドブックをつくろう。「母さん、こちら従業員ハンドブックさん。従業員ハンドブックさんだよ。本気で愛してるんだ」と言えるくらいのハンドブックを。

     残念ながら、ビジネスの世界では忠誠心は移ろいやすい。調子のいいときに好かれるのは簡単だ。しかし、事故で大炎上しているようなときは、それが100倍難しい。苦しいとき、プレッシャーがかかっているとき、大荒れの混乱に放り込まれたときにこそ、人の本性が見える。極限の逆境の中で、忠誠心の持ち主とそうでない連中の区別がつく。
     難しい時期には、誰が本当のチームの中心なのかがわかる。プレッシャーがかかると、弱い連中はぽっきり折れるし、移り気な連中は去るし、根性のない連中は崩れて消えるが、最高に優秀な連中だけは灯台のように光を放ち続ける。正真正銘の窮地に陥ったときは、普段にも増してチームに目を向けるといい。知っておくべきことがよくわかるはずだ。
     忠誠心は与え合うものだ。自分から十分に与えなければ、相手から与えられることもない。 忠誠心のあるリーダーの下に、忠誠心のあるチームができる。そして、忠誠心のあるチームが勝負を制する。変化することがますます当たり前になる時代にあって、少し古風に見える忠誠 心はいつまでも変わらない。
     チーム一人ひとりの間、そして顧客や仕入れ先との間の忠誠心はどれも、長期的な成長を支える柱だ。
     チーム内に相互の忠誠心を築くことができれば、企業文化はより豊かになる。そしてそれが、北極のブリザードのような最悪の状況を乗り切る力になる。

     ぼくは毎週、緊急度の高い順に五つ、課題をリストに書き出して壁に貼り、網膜に焼きつくほど強い気持ちでにらみつけている。それから、解決するために全力を尽くす。また、ブ リュードッグが隔週で開いている経営会議には、経営陣の一人ひとりがそのとき最大の問題と考えていることをリストにして持ち寄る。ぼくらは逃げも隠れもしない。すべての問題に果敢に立ち向かう。自分たちの仕事を、すべての面で絶えず改善しているのだ。どんな会社も改善 の手を止めることは許されない。精力的に、強い気持ちで問題や課題の解決に集中することで、改善が進む。どんな産業のどんな会社も、あり余るほどのトラブルや問題、課題に直面する。 会社の成否は直面する課題の多さで決まるわけではない。最後には、自分たちの進む先にある 障害をどれだけ多く受け入れ、取り組むかで決まる。「ポイントの半分は、まず問題に気づけるか。そして残りの半分は、問題を絶えず受け入れ 取り組む姿勢を保てるかだ。その姿勢があれば、問題が顕在化し、状況がひどくなる前に、可能性の段階で気づくセンスが身につく。まず気づき、それから優先リストに入れ、集中して、解決しよう。
     いい出来事も数多く起きるため、嬉しい話だけに意識を向け、すべての問題に蓋をして隠してしまうのは簡単だ。前進や成功、勝利、成長の話だけを聞きたいという欲求がどうしてもつきまとう。しかし、困難もまた、いい話に劣らず重要であり、見失ってはいけない。困難を無視したり気づかなかったりすれば、どんどん厄介になり、消えない痛手を負うことになる。問題を一つ見落とすだけで、その問題が姿を変え、巨大化し、会社を簡単につぶせるまでになってしまうかもしれない。
     自分が置かれている状況の中で一番厳しい事実を絶えず見つめ、積極的に受け入れることで、解決策が見つかり、その問題をチャンスに変えることさえできる。都合の悪い事実から目を背け、耳をふさいでいる暇はない。無知だからこその幸福に浸り、わざと知らないふりすれば会社は破滅する。
     会社が直面する最も緊急で難しい問題に、常に勇気を持って立ち向かうには、使命に対する完ぺきな自信と完全で冷徹な現実主義を融合させ、自分のものにしなければならない。一言でいうなら、冷徹な楽観主義者でいろということだ。
     自信を持って、問題に向き合おう。

     会社にとって重要なこと―粗利益、苦情件数、人員確保、出荷精度、労働コスト、為替、生産量低減、既存店売上高伸び率、売上高賃料比率、営業利益、減価償却前利益 (EBITDA)、 その他いくつもの指標――があれば、こまめに記録し、観察しなければならない。まだ会社が小さく、立ち上げ直後で、指標を把握しておくことが重要に思えなくても、習慣づけておくことが役に立つ。何かを観察し始めたら、次はその改善に取りかかれる。
     ピーター・ドラッカーは「測定できるものは、管理できる」とはっきり言っている。この言葉が持つ力はまだ十分に生かされていない。何かに深く注意を向けると、それまであり得なかったところに思考回路がつながり、以前なら絶対に見えなかったものが見えるようになり、会社の行方を左右するようなことを、それまでより簡単に改善できるようになる。
     業績を測り、重要な指標を定期的に記録し、状況を見失わないようにするための第一歩は、とにかく月次決算書をまとめることだ。決算をまとめれば、すべての重要な財務指標に定期的に目を通し、策を考え、管理することになる。一番初歩的なものでも、月次決算をまとめることで、少なくとも会社の経営権を守れる可能性は高まる。ここをさぼった者に勝ち目はない。月次決算書をまとめるだけで世界を変えられるとは絶対に言えないが、これなしで世界を変えることも絶対に不可能だ。
     月次決算書(月次損益計算書とも言う)はただつくるだけでなく、月末から7日以内にまとめなければならない。作成に時間がかかりすぎて、できあがる頃には決算書の中身が意思決定の役に立たなくなっているという企業は多い。それから、決算書には必ず、売上高、売上原価、 間接費、粗利益、EBITDA、売上高純利益率を入れるべきだ。また、債権、債務、そして何より大事な現預金など、バランスシートの項目も定期的に、こまめに確かめなければならない。
     定期観測の必要な重要業績指標(KPI)はほかにもあり、それぞれの会社やそのときの優先事項によって変わる。例えば(ほんの一部だが)、平均取引費用、離職率、苦情件数、引き合い、出荷精度、売上高構成比、返金、廃棄、売上高成長率、新規顧客数、オンラインでの顧客との 接触、従業員満足度などだ。どの指標を追跡するかは、事業や目的によって大きく変わる。
     ブリュードッグでは毎月、決算書と貸借対照表の形にまとめたすべての財務指標と重要な追跡指標(バーの既存店売上高伸び率や大口顧客に関するデータ、平均取引費用、離職率、内部のテイスティング委員会がつけたビールの平均得点、醸造関連データなど)を合わせた資料を作成している。
     会社の健康診断のようなものだ。予防は緊急手術よりも体にいい。新しく生まれた企業の80%が潰れている現実を考えれば、定期健診の重要性はいくら強調してもしすぎることはない。測定も、記録もしないでうまく管理できるわけがない。常に最新の情報が手元になければ、命がけの決断を情報不足のまま下すことになる。それに、リソースをどう割り振っていいか、まったくわからない。これは生きるか死ぬかの選択だ。

     自分のアイデアを他人との集まりの場でさらし、犠牲にしてはいけない。構想から命が抜かれ、魂が葬り去られる。図体のでかい集団に加わると、足を引っ張られ、動きが鈍り、転ばされる。こういう集団は「慣れ合い」という名の独裁者に支配され、妥協の温床になっている。慣れ合いの中で冒険はできないし、妥協から革新は生まれない。

  • ■感想
    目が覚める一冊。読んでて飽きないし、一気に読めます。答えは自分の中に作る、これをいかに実践するか、ということ。

    ■要諦
    ・自分がやることを徹底的にしぼりこみ、まだ市場が存在しないところに焦点をあげる。他のブランドから差別するのではなく、自ら育てる。ブランドを超えたところに存在意義を訴えることができれば、成功する
    ・事業計画に時間をかけるより、必要なのはスピード感を持って行動すること。今はそう言うハイスピードの時代。計画よりスピード感を頭に叩き込むこと。
    ・売る、と言う行為が変化した。消費者は良い面だけで、騙せない時代。Y世代は情報を持っていて、騙せない。より本質的な価値に響く。自分たちの行動全てが販売活動。
    ・Think small, be big
    ・財務は専門家以上の知識を身につけよ。財務に弱い企業が倒産しているし、ハゲタカは財務の情報格差につけ込んでくる。
    ・財務の当面の目標 キャッシュフローモデル、PLBSをつくる、原価計算して売上利益率と売上総純利益率を出す、バーンレートを計算する、損益分岐点を計算する
    ・仕入れは新たな販売活動 小さく使って、大きく考えよう
    ・あらゆる資金源を絞り尽くす 助成金、融資も複数行、原価や管理費の効率を上げる、売掛管理、パンク株、クラウドファウンディング、仕入れ先、リース後購入
    ・価格は死に物狂いで守る。守るテクニックとして、松竹梅法がある。
    ・事業が自分のものでなくなったら世界を変えることは不可能だ。
    ・機会費用に精通せよ。あるものに使うと別のものに使えなくなる。
    ・ブランドは自分のものではない。顧客のもので顧客がつくるもの。ブランドは最も価値のある資産で、世界を変える戦いで最強の武器になる。どう思われているかが全て。戦略として、どう思われたいか、仕向けることはできる。長い時間をかけて、信念を顧客に浸透させてブランドを構築していく。同じことを何度も地道に繰り返すのがブランド構築の基本。
    ・コミュニティを作って顧客をファンにする
    ・まずは使命。
    ・パンク企業の3本の柱。企業文化、品質、粗利。
    ・企業文化。とは、組織を作る基本素材で、組織のあらゆる行動の原動力で、指針となるもの。企業文化をあるべきものにすることがリーダーの仕事の大部分。企業文化を支えるものの一つが使命。完璧に明確な使命。
    ・抜群のリーダーシップとは。鳥肌を立たせる、狂ったように褒める、部下に時間を割く、セーフティネットになる、優秀な人材をチームに加える、主体的である
    ・頭の中に将来のことを考えるスペースをつくる。メール返信を二日に1本にする。50/50ルール。BAUオペレーションには50しか注ぎ込めない。心地いいリアクション型フローワークの罠があるため。
    ・前向きなエネルギー 敢えてアドレナリンが出るようなことを行う。快適な場所は平凡な連中が当たり前のことをやるためにある。
    ・先に動く。動いてから考える。
    ・スピード感。1日前倒しになれば1日分のコストが浮く。
    ・カオスを生き抜くことになる。秘訣は、スピードと混乱を受け入れること、コミュニケーション重視すること、人の設備は早めに投入して成長曲線を上回る、財務に気を配ること
    ・雑音ではなく意味のあるメッセージを コミュニケーションは専門家クラスになること。コミュニケーションでミスると時間の無駄でしかない。はっきり伝える、ありのままはなす、興味が湧くように伝えること
    ・顧客の関心を最大化せよ 顧客への情報提供も機会費用の考え方。何でも伝えたらいいのではない。人材、時間活用も同じ。
    ・ウィンウィンになるような交渉 銀行が意欲的になり貸したくて仕方なくなるような交渉をせよ。
    ・いらない集団にかまうな ブレスト、コラボは自分で答えが出せない負け犬

  • もともとパンク気質ある私がこれ読んで自信つけたらどうするんだ?と心配しながら読んだけど、面白かった。
    財務を重要視して、商品のクオリティにこだわる様子はとても好感。
    事業計画やめちまえとか、人生にはノーと言いたい人ばかりに囲まれるとか、交流イベントは間抜けの集まりだとか、国が変わってもどこも似たような雰囲気なのねとニヤける。
    けど、私が苦手な側の人達もこれ読んだら「そーだそーだ!」と言う書き方してるんだろうとは思う。

  • 面白かった。全てオープンに正直に書いてあるなと思った。また、ファンベースを体現してると思う。
    過激な内容もありつつ、至極まともな内容と思った。
    自分も頑張ろう〜

  • バンクな表現で真面目な話。
    クラフトビールストーリーです。

  • 面白かったけど,翻訳がパンクしてるけど,結構実直というか,成功者のセオリーには共通点があって,意識するとしないに関わらず,抑えるとこは抑えてるんだよなぁ,と言うのが感想.ビジネス書を読めば読むほど,そこにたどり着く.

  • 強い使命感を持ってビジネスを立ち上げたい人と本ブランドのファンが読むと楽しめそうな一冊。
    具体的に役に立つノウハウではなく、マインド論が多い印象。
    ビールを飲める人は遅くとも読後にブリュードッグのビールが欲しくなりそうなので、本と一緒に買っておくとよし。

  • ビジネスのこと、勉強になります。
    「あらゆる資金源を搾り尽くせ。」
    肝に銘じます。

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著者プロフィール

ブリュードッグは2007年、ジェームズ・ワットとマーティン・ディッキーにより設立されると同時にクラフトビール革命を始めた。2人で始めたこの会社は、4大陸にまたがる600人超の従業員を抱える会社に成長し、飲食業界で最も成長の早い会社の一つとなる。事実、サンデータイムズ紙「成長の早い会社リスト」に5年連続で載った唯一の会社である。ビールの品質において国際的な評価を得、世界60カ国に輸出し、成長を続ける50のブリュードッグバーのネットワークを築いている。

「2019年 『クラフトビール フォア ザ ピープル』 で使われていた紹介文から引用しています。」

ジェームズ・ワットの作品

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