現金の呪いーー紙幣をいつ廃止するか?

  • 日経BP
3.54
  • (5)
  • (16)
  • (11)
  • (4)
  • (1)
本棚登録 : 192
感想 : 17
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (442ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784822255077

作品紹介・あらすじ

世界的なベストセラー『国家は破綻する 金融危機の800年』(原題:TIME IS DIFFERENT) の共著者であるケネス・ロゴフ・ハーバード大学教授の最新作。原題は、CURSE OF CASH。
直訳すると、「現金の呪い」となるが、その深い意味については、齊藤誠一橋大学大学院教授の解説が詳しい。

ロゴフ教授は「キャッシュレス」社会ではなく、「レスキャッシュ」、つまり現金の少ない社会への移行を説く。ビットコインなどの暗号通貨への移行を想定しているかといえばそうではない。
現行の高額紙幣の廃止による「レスキャッシュ」社会こそ、あまたある経済社会の問題を解消するカギとなる、という。もちろん、ゼロ金利制約をもたらす現金の壁を取り払い、
マイナス金利を大胆に実施できることも大きなプラスとみる。

以下は、ロゴフ教授の日本語版への序文から一部抜粋した。

「現代の先進国でも、現金はいまなお重要な役割を果たしている。
とくに小口の取引をするときやプライバシーを守りたいとき、そして大規模な災害が発生したときには現金
が欠かせない。だが現金は、大規模な脱税や犯罪など、本来の目的以外の用途でも暗躍している。
本書では多くのデータと歴史的事実を引きながら、政策当局は現金の光の部分だけでなく闇の部分にももっと目配りすべきであると説く。
ここでお断りしておきたいのは、筆者が提案するのはあくまで「レスキャッシュ社会」(現金の少ない社会)への移行であって、
けっして「キャッシュレス社会」(現金のない社会)を主張しているわけではないことだ。本文中でも、遠い将来にわたって、仮に中央銀行がデジタル通貨の導入に踏み切っても
なお、物理的な通貨を維持することは必要だと繰り返し主張している。ただし政府は、まっとうな市民に現金の利便性を確保しつつ、地下経済に関与する企業や個人が
大口の現金取引をおいそれとはできないようなシステムを設計する必要がある。
(中略)
言うまでもなく、金融政策は万能ではない。日本の人口問題も、硬直的な移民政策も、金融政策ではいかんともしがたい。
だが日本が長年にわたってデフレに悩まされていること、この問題の解決には徴税効率を高める必要があること、かつIT化が進んでいることを考え合わせれば、
地下経済への現金供給を抑制し税逃れを防止する策を講じるのに、日本はまさに理想的な国と言えよう。レスキャッシュ社会へ移行する方法は一つではないが、
おそらく最もシンプルで、最も非干渉的なやり方は、高額紙幣の段階的廃止であろう。なお段階的とは五~七年かけてゆっくり進めるという意味であり、
まずは一万円札から始めるのがよいだろう。一万円札は、日本の通貨流通高のじつに九〇%以上を占めている。」

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • かなり分厚い本だが、とても興味深いテーマを掘り下げているので、難なく読めた。

    収入が全て丸裸のサラリーマンにとっては、レスキャッシュで収税額が増えるのは喜ばしいこと。
    地下経済は麻薬を取り扱うギャング、ヤクザだけの話ではなく、、、宗教団体、政治家だって使っていると思われ、、、

    賄賂がなくなれば、それに伴って無駄に嵩ましされて消費される土木工事などの支出が減り、財政がスリム化できる。。良いことづくめだ!

  • 大部の訳本だがまずまず読みやすい。高額紙幣の廃止により地下経済を無くすことをメリットに挙げているが、その地下経済の規模が想像以上になると推計されているのが興味深かった。

  • 現金にまつわる貨幣論と金融政策についての意欲的提言がされている本です。

    現代先進国における現金の表立った使用率が低く、現金の存在が脱税・犯罪といった地下経済(政府が了知できない範囲の経済)温床となっていることを指摘し、税捕捉や公安の向上のために高額紙幣を撤廃する「レスキャッシュ」(現金を完全に無くす「キャッシュレス」ではない)ことを提言した上で、これに向けて低所得者への口座開設・維持費用やデビットカード・スマートフォンなどの決済手段確保費用の補助が必要であるとしています。上記の目的もありますが、主眼はマイナス金利政策の実効性確保にあり、現状で-0.75%位が試みられているマイナス金利も、これ以上下げると預金を高額紙幣で引き出し退蔵することを誘発してしまうため、より低い金利を付けられるようにするためにもレスキャッシュが必要だとし、本の後半の大部分を費やしてマイナス金利を中心としたこれまでの金融政策の内容と課題について整理しています。

    マイナス金利については著者も指摘しているように万能薬ではなく、他の金融政策に対して相対的に有望に見えること、万策尽きた現状においてまだ試せていない政策であるため有効性を完全に否定できないことがマイナス金利の一つの特徴となっています。著者のスタンスとしては、レスキャッシュが実現しマイナス金利が加減なく実現できる社会においても、マイナス金利は選べる金融政策の一つであること、多少の痛みは伴ってもマイナス金利によって政策をブーストさせることでデフレを短期間で終了させ、長期的には比較的良い政策判断となると考えられることがあります。(もっとも、あくまでマイナス金利が想定通りに作用すればの話ですし、今は作用しても将来作用しなくなるような金融システムの不全が生じる可能性はあります)

    本の冒頭では現金の文化史・経済史が概観されていてこれだけでも面白い内容です。また、金融政策の比較吟味の本としてもよく整理されています(充分平易であるとは言えませんが)。何よりもレスキャッシュの提言自体がこれからの金融社会のビジョンを示しており、ついでに書名から誤解して期待されると考えられる仮想通貨についても一応触れられており(これもかなり簡潔にポイントが付かれています)、綜合的にして今読むべき現代貨幣論と言えます。

  • 表紙を見て面白そう、というだけで購入しましたが、正直本の意図を読み間違えて購入していました。タイトルが「現金の呪い」ということで、てっきりロゴフ氏が電子通貨、ビットコイン系統の話をするのかと思いましたが(それはそれで非常に興味深いのですが)、そうではなく、副題にもあるように「紙幣をいつ廃止するか?」がむしろ重要な主題です。高額紙幣の多くがその匿名性をもとに地下経済や犯罪に使われていること、よって高額紙幣をなくすことで、かなりの地下経済、犯罪抑制効果があり、納税額も増えるので、紙幣発行から得られるシニョレッジを補って余るだろうということが書かれています。さらに論を進めて、高額紙幣をなくすことで、中央銀行がマイナス金利を導入しやすくなる利点についても記載されています。つまり高額紙幣がたくさん流通しているのに大きなマイナス金利を導入しようものなら、預金を引き出して高額紙幣で貯蔵するという方法をとられる可能性が高いので、マイナス金利の効果が発揮できなくなるというわけです。ロゴフ氏はマイナス金利が万能だとは言っていませんが、中央銀行ができることを拡大し不況からの脱出を短期間で達成できるだという理由から非常に前向きなトーンで語られています。私は金融は素人なので、彼の意見が正しいかどうかはまったくわかりませんが、世間にはこういう議論があるのか、という意味ではとても勉強になりました。ただ素人にはなかなか難解な本だとは思います。

  • 摂南大学図書館OPACへ⇒
    https://opac2.lib.setsunan.ac.jp/webopac/BB50066136

  • 高額紙幣の段階的廃止を主張し、そのメリットについて書かれた本。地下経済の規模推定などは特に興味を惹かれた。

  • お金
    経済

  • 現金がもたらす闇の部分(脱税・汚職といった犯罪などの地下経済)に当局はもっと敏感になれと説く。その上で、レス・キャッシュ社会(現金が少ない社会)への移行を提言している。その過程で貧困層が取り残されないように、ちゃんとセーフティーネットを構築すること。少額の紙幣・硬貨の流通はそのままに、あとはデビットカードや電子決済できるカードの支給、ベーシックインカムを組み合わせた金融包摂性をいかに社会に作り出すかが重要である、と。
    ただ、これらはキャッシュ・レス社会(現金のない社会)の主張ではないので注意。
    現金にまつわる新たな貨幣論は一読の価値あり。

  •  ハーバード大教授である筆者が本書で説くのは、高額紙幣の廃止によるレスキャッシュ社会への段階的な移行である。
     高額紙幣は、発行量から計算すると流通量は少ない。地下経済で使われていると言う。通常生活では、高額紙幣はなくてもカードなりモバイル決済なり代替手段は今は多くあって困ることはない。また、マイナス金利など金融政策もより有効になる。国外に流通している紙幣が日本円は少ないので、やりやすいだろうと言うのだ。
     実務面からはいろいろ反論はあるだろうが、今後の向かう方向として検討すべきことのように思う。実際に中国では現金の代わりにQRコード決済が進んでいるし、そうなっていくのではないだろうか。
     本書は400頁の大著で、ていねいに説明がされているが、マクロ経済の初歩知識があるとより理解が深まると思われる。詳しい人に、きちんと議論をしてもらいたいなあ。

全17件中 1 - 10件を表示

村井章子の作品

この本を読んでいる人は、こんな本も本棚に登録しています。

有効な左矢印 無効な左矢印
スティーヴン・D...
トマ・ピケティ
有効な右矢印 無効な右矢印
  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×