DEEP THINKING ディープ・シンキング 人工知能の思考を読む

制作 : 羽生善治 
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感想 : 5
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  • Amazon.co.jp ・本 (416ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784822255411

作品紹介・あらすじ

伝説のチェス・プレイヤーが
「機械との競争」から学んだ〝創造〟の本質。

「洞察に満ちた一冊。一気に読み終えてしまった。」
羽生善治(将棋・永世名人)

コンピューターと死闘を繰り広げたチェスの元世界王者が、人工知能(AI)時代に人間がどのようにコンピュータと対峙し、協働すべきかを説いた、話題の書。

……機械が人間の仕事をどれだけ多くこなせるようになっても、私たちは機械と競争しているのではない。新たな課題を生みだし、自分の能力を伸ばし、生活を向上させるために自分自身と競争しているのだ。……もし私たちが、自分たちの生みだしたテクノロジーに対抗できなくなったと感じているなら、それは目標や夢の実現に向けた努力や意欲が足りないからにほかならない。私たちは「機械ができること」ではなく「機械がまだできないこと」にもっと頭を悩ませるべきだろう。(本書より)

感想・レビュー・書評

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  • チェスという競技を通して人工知能と20年以上にわたって向き合ってきた、カスパロフの著書。

    カスパロフがチェスの天才であり、IBMが開発したスーパーコンピューター(当時は人工知能とかAIとは呼ばれていなかったように思う)との対戦で敗れたことが大きなニュースになったことは記憶していた。

    しかし、彼がその後も人工知能の発展をモニタリングし続け、人工知能とは何か、ひいては人間の知性とは何かということを深く考え続けていたということは知らなかった。

    この本の前半で述べられているように、人間の知性と人工知能の知性は異なる。そして機械が人間の能力に近づき追い越すために、人間と同じ方法を採る必要はない。

    そのため、人工知能の発展は、様々な手段を行き来しながら進んできた。初期の段階では人間の知恵をインプットし活用する方法が採られたが、計算能力を最大限に生かした力づく演算に移り、その後、現在では再び人間の知恵を取り入れる手法がブレンドされてきているとのことである。

    そして、チェスの競技において、最強の人間に勝利する力をすでに獲得したように、人工知能と人間が一対一で対戦をしたときに、基本的には人工知能の優位性はもはや疑うべくもない。

    しかし、そこからがカスパロフの思考の最も大切なところである。

    コンピューターはある局面における最善手を探すことはできる。しかし、なぜそれが最善手であるのかということを思考するのは、人間の知性にしかできない。このことは、人間と人工知能が協働する社会のあり方を描く上で、非常に重要なポイントとなる。

    チェスの競技の世界においても、現在はコンピューターと人間がチームを組んで参戦することができる大会が増えてきており、その中で優勝するチームは、局面の判断に基づく分析のプロセスを人間が考え、それに基づきコンピューターを指導することで、コンピューターから最善手を導き出すことができるチームであるという。

    そのような協働こそが、人工知能と人間が共存する社会が最高の成果を挙げられるためのあり方なのであろう。人工知能と人間というテーマで様々な本が書かれているが、それらの本と比較しても、カスパロフの洞察の深さに驚いた。

    また、具体的なチェスの対戦を振り返りながら、カスパロフ自身の頭のなかで展開した思考とコンピューターがおこなった分析の解説を読むというのは、人間とコンピューターの知性の対決が臨場感を持って感じられ、非常にエキサイティングだった。

  • 有名なディープブルーとカスパロフとの対決を、カスパロフ自身が自伝的に記したもの。ディープブルーとの対決の詳細は手に汗握る展開を感じた。そんなに古い本ではないが、アルファ碁がイ・セドルに勝った今となっては、人工知論として古く感じてしまった。人工知能の進化のスピードに驚くとともに恐れを感じる。

  • Singularity
    シンギュラリティという言葉を技術発展の文脈で初めて使ったのは、天才数学者であり現在のコンピューターの動作原理を考案したとされるジョン・フォン・ノイマン氏(1903ー1957)と言われている。
    その後、米国の数学者でSF作家のバーナー・ビンジ氏が1993年の論文「The Coming Technological Singularity 」で、シンギュラリティの概念を広めた。
    さらに人工知能の世界的権威レイ・カーツワイル氏が、2005年発刊の『The Singularity is Near(邦題『ポスト・ヒューマン誕生』)』でシンギュラリティは2045年頃に実現するだろうと具体的な時期を予想したことからさまざまな議論が巻き起こった。

  • チェスの世界チャンピオンが、コンピュータとの対戦を振り返り、その進化やその時々の思考について解説?した本。

    AIの進化の歴史?を理解するには面白いかも。ただ、チェスの知識があったほうが、かなり面白く読める気がする。チェスを知らない私は一部退屈だった。かつとても長いので読み切るのが大変… 興味はあったのだが…

    ディープブルーとの対戦については、多少なりとも不満が見え隠れする。真実はわからないが、この人の記述が真だとするならば、政治やマーケティングの世界に巻き込まれたんだなぁ、という感じ。とはいえ、相手は企業なので、対応としてはやむなしな気はする。スポーツマンシップに則っているか、と言われると、疑問だが。

    筆者の考えは色々なところに散りばめられているが、いくつか同感だと思ったのは、技術が進歩するときには、多かれ少なかれ、混乱というか反対意見が出るというか、そういうものがあるということ。自動車が普及するときには、それまでその役割を担ってきた人から反発されたり。ただ、これまでもそれらは乗り越えられてきた歴史があり、かつ、それによって人が不幸になった例はないので、今の人工知能が仕事を奪う、という主張も、同じような歴史になるのだろう。そのためには、技術の進歩を、前向きに捉え、現状維持に固執することなく、良い方向に変化させようと努力しなければならない。まぁ言うは易し、なんだけども。人は変化を嫌うから。
    エレベーターの自動化の例は面白かった。技術的には当初から自動化できたが、人からの反発を考えてまずはオペレータに操作させてたんだ。その後、エレベーターに人々が慣れたら、自動化したらしい。

    同じように以前はコンピュータが人間にチェスで勝つようになったら、チェス界はどうなるのか、なくなるのではないか、という話があったようだ。今ではコンピュータは相当強くなったが、チェスはなくなることはなく、むしろコンピュータとうまく使って、進化?しているようだ。これも人が人工知能の今後活用して行った先にある世界の縮図な気がする。人間を置き換えるのではなく、人間をサポートする、ということで。ここでも、やはり前向きに変化を捉えられるか、が必要なのだろう。コンピュータに乗って変わられることを悩むのではなく、コンピュータが何ができないか、を考えていく、ということで。

    コンピュータが常識や偏見に囚われず、客観的なデータに基づいて判断することは、メリットでもあり、デメリットでも有る気がする。所詮データがなければ何もできず、保持できるデータには限りがある。一見無関係な事柄でも実は関係している、ということはある。人間はそれを常識や今まで学んできた幅広い見識から推論することができるが、おそらく、コンピュータにそれをやらせるのは限界がある。チェスのようなゲームにおいては精神的な駆け引きに強い(そんな精神はないから)のはメリットだろうけど。そういう意味ではクレーム処理とかは向くのかも。

    また、人工知能は、なぜその答えになったのか、が説明できない。そのため、そこから何かを学んだりすることができないので、そこもデメリットだろう。教育に活用する話もあるが、生徒になぜこうなるのか、を教えられないとダメだろう。教育は答えを教えるのではなく、考え方を教えるのが主目的だから。そういう意味で、教師を置き換える、ことはないだろう。それはチェスの世界でも、同じようだし。



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著者プロフィール

1963年4月、旧ソ連邦の構成国、アゼルバイジャン・ソヴィエト社会主義共和国バクー生まれ。元チェス選手。現在は政治家。2011年より人権財団の会長。
22歳でチェスの世界チャンピンとなり、通算15年もの間チェスの世界チャンピオンのタイトルを保持。
1996年、1997年の2度、IBM製のスーパーコンピューター「ディープ・ブルー」と「人類の代表」としてチェス六番勝負をした。
2014年11月には、将棋の羽生善治四冠(当時)とチェスの対局を行なった。
2005年にチェストーナメントから引退。引退後は、政治家としてロシアの民主化運動に尽力している。
著書に『決定力を鍛える』(NHK出版)、『ディープ・シンキング 人工知能の思考を読む』(日経BP)などがある。

「2023年 『悪寒の冬』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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