DEEP THINKING ディープ・シンキング 人工知能の思考を読む
- 日経BP (2017年11月25日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (416ページ)
- / ISBN・EAN: 9784822255411
作品紹介・あらすじ
伝説のチェス・プレイヤーが
「機械との競争」から学んだ〝創造〟の本質。
「洞察に満ちた一冊。一気に読み終えてしまった。」
羽生善治(将棋・永世名人)
コンピューターと死闘を繰り広げたチェスの元世界王者が、人工知能(AI)時代に人間がどのようにコンピュータと対峙し、協働すべきかを説いた、話題の書。
……機械が人間の仕事をどれだけ多くこなせるようになっても、私たちは機械と競争しているのではない。新たな課題を生みだし、自分の能力を伸ばし、生活を向上させるために自分自身と競争しているのだ。……もし私たちが、自分たちの生みだしたテクノロジーに対抗できなくなったと感じているなら、それは目標や夢の実現に向けた努力や意欲が足りないからにほかならない。私たちは「機械ができること」ではなく「機械がまだできないこと」にもっと頭を悩ませるべきだろう。(本書より)
感想・レビュー・書評
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チェスという競技を通して人工知能と20年以上にわたって向き合ってきた、カスパロフの著書。
カスパロフがチェスの天才であり、IBMが開発したスーパーコンピューター(当時は人工知能とかAIとは呼ばれていなかったように思う)との対戦で敗れたことが大きなニュースになったことは記憶していた。
しかし、彼がその後も人工知能の発展をモニタリングし続け、人工知能とは何か、ひいては人間の知性とは何かということを深く考え続けていたということは知らなかった。
この本の前半で述べられているように、人間の知性と人工知能の知性は異なる。そして機械が人間の能力に近づき追い越すために、人間と同じ方法を採る必要はない。
そのため、人工知能の発展は、様々な手段を行き来しながら進んできた。初期の段階では人間の知恵をインプットし活用する方法が採られたが、計算能力を最大限に生かした力づく演算に移り、その後、現在では再び人間の知恵を取り入れる手法がブレンドされてきているとのことである。
そして、チェスの競技において、最強の人間に勝利する力をすでに獲得したように、人工知能と人間が一対一で対戦をしたときに、基本的には人工知能の優位性はもはや疑うべくもない。
しかし、そこからがカスパロフの思考の最も大切なところである。
コンピューターはある局面における最善手を探すことはできる。しかし、なぜそれが最善手であるのかということを思考するのは、人間の知性にしかできない。このことは、人間と人工知能が協働する社会のあり方を描く上で、非常に重要なポイントとなる。
チェスの競技の世界においても、現在はコンピューターと人間がチームを組んで参戦することができる大会が増えてきており、その中で優勝するチームは、局面の判断に基づく分析のプロセスを人間が考え、それに基づきコンピューターを指導することで、コンピューターから最善手を導き出すことができるチームであるという。
そのような協働こそが、人工知能と人間が共存する社会が最高の成果を挙げられるためのあり方なのであろう。人工知能と人間というテーマで様々な本が書かれているが、それらの本と比較しても、カスパロフの洞察の深さに驚いた。
また、具体的なチェスの対戦を振り返りながら、カスパロフ自身の頭のなかで展開した思考とコンピューターがおこなった分析の解説を読むというのは、人間とコンピューターの知性の対決が臨場感を持って感じられ、非常にエキサイティングだった。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
有名なディープブルーとカスパロフとの対決を、カスパロフ自身が自伝的に記したもの。ディープブルーとの対決の詳細は手に汗握る展開を感じた。そんなに古い本ではないが、アルファ碁がイ・セドルに勝った今となっては、人工知論として古く感じてしまった。人工知能の進化のスピードに驚くとともに恐れを感じる。
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Singularity
シンギュラリティという言葉を技術発展の文脈で初めて使ったのは、天才数学者であり現在のコンピューターの動作原理を考案したとされるジョン・フォン・ノイマン氏(1903ー1957)と言われている。
その後、米国の数学者でSF作家のバーナー・ビンジ氏が1993年の論文「The Coming Technological Singularity 」で、シンギュラリティの概念を広めた。
さらに人工知能の世界的権威レイ・カーツワイル氏が、2005年発刊の『The Singularity is Near(邦題『ポスト・ヒューマン誕生』)』でシンギュラリティは2045年頃に実現するだろうと具体的な時期を予想したことからさまざまな議論が巻き起こった。