LIFE SCIENCE 長生きせざるをえない時代の生命科学講義

  • 日経BP (2020年12月18日発売)
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本 ・本 (352ページ) / ISBN・EAN: 9784822288662

作品紹介・あらすじ

科学が発展しすぎた時代に、まどわされず、自分で考えるための基礎教養
人生100年と言われる時代ですが、それはただ寿命が延びただけの話。
寝たきりやアルツハイマーで何年も過ごさなければならないのが、いまの現状です。しかし、生命科学は「死ぬ寸前まで健康でいる」ために日々発展しています。

この本は、世界的生命科学者が、細胞の話といった生命科学の基本から、抗体やウイルスの話、そして、最先端の知見を、極めて分かりやすく教えてくれる本です。

どんな病気も「細胞」がまず悪くなることなので、基礎である細胞の理解をまず足掛かりに、この本を読み終わるころには、さまざまな「体」にまつわることが理解できるようになっています。

筆者は、2016年にノーベル賞を受賞して話題になって「オートファジー」の世界的権威でもあります。
オートファジーがわかれば、「細胞を新品にする機能」=「アルツハイマーや生活習慣病をなくす可能性がある」ことになるので、必然的に病気の最先端研究まで知ることもできます。

昔は医療にそんなに選択肢がなかったので、知らなくてもよかったのですが、現代は、医療はもちろん、生活にも生命科学は入りこんでおり、いちど学んでおかないと自分で判断ができません。

この本は、読み進むうちに「科学的思考」も身につくようにつくっています。この本を読み終わるころには、正しさを見抜く力、エセ科学やニュースにまどわされない力もきっと身についているはずです。

感想・レビュー・書評

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  • 『未来の科学者たちへ』という著書で大隈先生が紹介していたアヒル先生こと吉森保先生。オートファジーの権威。読みたかった本なのでテンションが上がる。また、本書の大まかな中身はYouTubeでも見ることができる。事前に動画を見ていたが、理解が更に深まった。

    科学における相関関係と因果関係の話から入る。遺伝子操作ができるようになったことで、因果関係をはっきり示すことができるようになった。対照群がないものは、エセ科学とみなされても仕方がない。査読は匿名が原則だが、最近では実名でもいいと言う学術誌も増えているとか、質の良い論文かどうかを判断する指標は、他の論文にどれだけ多く引用されたかと言う被引用数だとか。

    そこからゆっくり専門分野であるオートファジーの話へ。動画で説明されていたが、本の製作にあたっては文系のアシスタント?が分かりにくい部分に対して徹底的に注文をつけて直したらしいので、流石の読み易さ。

    ー ミトコンドリアは、オルガネラの一種で、生命活動に必要なエネルギーを作り出す発電所。ミトコンドリアよりタンパク質は小さい。体は、タンパク質以外のものも含むのに、遺伝子はタンパク質しか規定していない。なぜなら、タンパク質がそれ以外のものを作ったり取り込んだりできるから。ほとんどのDNAは、細胞の中の核と言うオルガネラの中にしまわれています。

    ー 人間の細胞は、タンパク質が動かしている。数万種類のタンパク質がある細胞を構成し、組織や器官など体の構造になる構造、タンパク質。コラーゲンなど。物質を生体内の別の場所に運ぶ輸送タンパク質、病原体から体を守る抗体もタンパク質。最も多いのが酵素。タンパク質の約半数が酵素。

    ー ミトコンドリアが壊れると活性酸素が出る。酸素ではなく、体内に侵入した細菌やウィルスの攻撃から体を守ってくくれる。ミトコンドリアがエネルギーを作る際にも活性酸素が発生する。つまり、ミトコンドリアが傷つくと活性酸素の制御ができなくなると言う事。ミトコンドリアが傷つくことによって出てくるのは、他にも、細胞を自滅させる物質がある。感染した細胞が自爆してウィルスごと死ぬ。

    ー ホルモンは内分泌細胞と呼ばれる細胞で作られ、血液中に出される。そして血液によって全身に運ばれる。運ばれてきた。ホルモンを受け取る細胞は標的細胞と呼ばれる。この標的細胞は決まったホルモンを受け取る受容体=レセプターを持っている。

    ー 情報を伝達する手段は、血液を介したホルモンだけではなく、神経網の経路がある。血液が体を1周するのに20秒位かかるのに対して、神経の情報伝達速度は毎秒120メートル。つまり0.0 1秒位で体のどこにでも情報を伝えられる。神経網では神経伝達物質が情報を伝える。ホルモンのように血管を通らなくて良く、伝達が速い。

    ー なぜ歳をとると、オートファジーの能力が低下するのか、それがわかれば低下を食い止めて、神経変性疾患にならないようにできるのではないか。オートファジーが起こりすぎないようにするルビコンと言うタンパク質。高脂肪食によって肝臓でルビコンが増えていた。

    ー インスリンシグナルもTORシグナルも抑制されると、オートファジーが活性化するし、生殖細胞の除去やミトコンドリアの機能抑制も同様にオートファジーが活性化する。

    ー スペルミジンがオートファジーを活性化させる。スペルミジンは私たちの体内の細胞でも合成されています。アミノ酸から作られます。人間は歳をとるとルビコンが増え、スペルミジンは作れなくなり、オートファジーがガタ落ちする。

    不老を目指すのではなく、健康寿命を延ばしたいのだという目的も分かりやすい。ノーベル賞候補かなどと周りがお世辞を言うが、本当にそうなのかも知れない。

  • 【自由研究】人はなぜ老いるのか?②

    わかったこと
    ●死なない生き物がいる!
    →それはベニクラゲ。
    ●老いない生き物がいる!
    →それはアホウドリやハダカデバネズミ。
    ●死なない生き物がいるのに、なぜ人は老いそして死ぬのか?
    →その方が有利だから!(?)
    人間はむしろ「死や老いを非常に積極的に選んだ」可能性が高い。(絶滅を避けるため?)
    ●死を選んで生き延びたのに今老化を拒んでいる!
    →科学が発達したから
    ●死なないことはいいことか?
    →科学をどう使うかまでは、科学は答えを持ち合わせていません。
    ●老化は病気か?
    →今の医学は病気とはみなしていません。

    +++
    健康でいるため最終的には「腹八分目で、運動に尽きる」!これには笑いました。

    人類はなぜあえて〈老いと死〉を選んできたのでしょうか?選んだのにそれを拒むことは何を意味するのでしょうか?

    つづく

  • エセ科学にだまされる人とだまされない人の違い | 日経BOOKプラス
    https://bookplus.nikkei.com/atcl/column/030100213/030100001/

    はじめに:『LIFE SCIENCE(ライフサイエンス) 長生きせざるをえない時代の生命科学講義』 | 日経BOOKプラス
    https://bookplus.nikkei.com/atcl/column/032900009/033000007/

    LIFE SCIENCE(ライフサイエンス) | 日経BOOKプラス
    https://bookplus.nikkei.com/atcl/catalog/20/P88660/

  • 非常に面白く読めた。

    3章からはページを繰る指が止まらなかった。

    死なない生物がいること、完璧な健康を維持し老化しないが、あらかじめ定められたときが来るといきなり死ぬ動物がいることを知らず驚いた(しかも、よく名前を聞く動物)。

    「オートファジー」という作用について、体内でどのように細胞が機能して行われているのか分かった。
    今後、この分野の研究が更に進んで、神経変性疾患などの治療に役立って欲しいと思う。

    また、著者の吉森先生の実直で飾らない、そして少しお茶目な語り口に好感を持った。

  • 【はじめに】
    著者は、細胞老化研究でも非常に注目されているオートファジーの研究者。ノーベル賞を受賞した大隅さんの弟子筋に当たり、哺乳類の細胞でのオートファジーの研究で知られている。世界で初めてオートファジーの「動き」を撮影したのも著者たちのグループだそうだ。

    その著者いわく、「生命科学は現代人にとって必須の教養になりつつある」という。

    そして、生命の基本は細胞であり、細胞を知ることで、人間の体の働き、遺伝、病気などが理解できるようになるとのこと。人間も、他の哺乳類どころか酵母や細菌も、基本である細胞の仕組みはほとんど同じである。37兆個の細胞からなる人間を知るためには、細胞のことを知らないといけない。著者が専門とするオートファジーは、細胞の機能の中でも老化や病気に深く関わるものであり、そうであるがゆえに大いに注目を集めているのである。なにせ、老化こそが飢餓、疫病、戦争を克服した人類が次に挑むべき敵(的(まと))であるのだから。

    『LIFE SCIENCE』というタイトルと装丁は、先行したベストセラー『LIFE SHIFT』や『LIFE SPAN』に合わせにいった感があるが、中身は極めて真っ当で「必須の教養」たる生命科学の勉強になる本である。

    【概要】
    本の筋立てとしては、まずは科学的思考の重要性から入るが、その準備運動を経た後の最初のメインが「細胞とは何か」である。何ごとも複雑なものには階層構造が存在し、ここでタンパク質、オルガネラ(細胞小器官)、細胞という階層構造について明晰な理解が必要だと説いている。特にオルガネラという聞きなれない言葉で示されるものが理解の鍵になる。

    「生命の特徴はこうした階層制と、動的平衡にあります」 ―― 著者はこのように言う。動的平衡は福岡伸一氏の著作で一躍有名になったが、オートファジーはこの生命の動的平衡の中で重要な役割を果たしている。

    著者はオートファジーのことを、「細胞が自分の力で新品にする機能」と表現する。古くなった細胞の成分を回収し、それをもとに新しい細胞を組立てるのだ。毎日食事で供給する物質以外にもこういった形で体細胞は作られていく。

    生き物はなぜ死ぬのか ―― 答えは、すべての命は死ぬべく定められているから ―― では全くない。生き物は本来死なないようにできているという。実際、ベニクラゲというクラゲは死なない。

    リチャード・ファインマンは次のように語ったという。
    「生体のふるまいを調べても、死が避けがたいことを示すものはまだ何一つ見つかっていない。だとすれば死とは少しも必然ではなく、この厄介事の原因を生物学者が発見するのも時間の問題と思われる」

    生き物はなぜ死ぬのかの答えは、おそらくは「多くの生き物は進化の過程で死んだ方が有利だったのではないか」という。つまり、生き物は「わざわざ」老化しているのだ。そして、それが進化の帰結だとすれば遺伝子にその仕組みが刻み込まれているということだ。だからこそ、その仕組みを見つけることが、多くの科学者の目標になっている。

    それとともにオートファジーが着目されている理由の中のひとつが、免疫機構と関係しているからだ。免疫機構は細胞の新陳代謝の仕組みを使い回してできたものである。また、オートファジーがタンパク質の塊の除去にも働いていることからアルツハイマー病などの神経変性疾患にも関係しているのでは、とも言われている。最新のアルツハイマー病治療薬が免疫機構を活用したものだということだったが、いろいろと関係しているのかもしれない。

    【寿命を延ばすために】
    この本でも『LIFE SPAN』のように老化を遅らせたり、防止したりするための処方箋が記載されている。ここは外せないところなので、順番に見ていきたい。
    ① カロリー制限: 『LIFE SPAN』で紹介されたものと同じである。かなり多くのところで紹介されるようになっているらしく、最近かみさんが16時間の断食がいいらしいと言ってきたので驚いた。
    ②インスリンシグナルの抑制: こちらも『LIFE SPAN』で出てきた糖尿病治療薬メトホルミンの話である。AMPK活性の話でもある。
    ③TORシグナルの抑制: こちらも『LIFE SPAN』でも出てきていた。イースター島の土壌から見つかったというラパマイシン(mTOR阻害薬)を飲むといいという話だ。
    ④生殖細胞の除去: この話は『LIFE SPAN』にはなかったと思う。宦官は長生きしたということだろうか。
    ⑤ミトコンドリアの抑制: こちら何か副作用もありそうですが、効果があると言われているという。

    ①~⑤の話はすべてオートファジーの活性化につながる話なので、著者は「オートファジーが要かも」と言うのである。上記で『LIFE SPAN』にあったかどうかということを記したが、著者も『LIFE SPAN』のシンクレア教授のことは意識をしていて、老化の統合理論であるとする「老化の情報理論」に夢中でオートファージの階層まで注意が向いていないのではとしている。この辺り静かな対抗意識が見えて面白い。

    著者はさらに、自分が見つけた「ルビコン」という物質について着目する。ルビコンが増えることでオートファジーの動きが悪くなることがわかっている上に、ルビコンは加齢によって細胞内で急にその量を増やしているという。オートファジーの活性化が老化防止の鍵であるなら、このルビコンの量が増えるのを抑制するか、増えた量を下げることで目的を果たすことができるのではというのが著者の考えだ。
    その方法として納豆やキノコに含まれるスペルミジンや、ワインに含まれるレスベラトール(こちらは『LIFE SPAN』にも出てきた)の摂取も効くかもしれないという。

    で、結局まとめると「腹八分で、運動する。脂っこい食事を避ける」ということなのでちょっとがっかり。

    【所感】
    オートファジーの研究は、大隅先生が先鞭を付けただけあって、世界でも日本の研究が進んでいるという。しかしながら、ビジネスの段になるといつも後れを取るらしい。著者もこれまでビジネスには疎く、例えば特許の取得も怠ってきたという。それではいけないとして、最近オートファジーのベンチャー企業を立ち上げたという。

    著者の力の入れ方を読むと、老化防止研究もかなり進んでいると感じることができるし、何よりベンチャーを設立したということはお金が集まったということに他ならない。今後、急速な研究の進展を切に期待するものである。また、少しオートファジー関連の本を読んでみようかなと、思った。『LIFE SPAN』を読み切って、面白いと感じた人ならば、文句なくお奨め。

    ----
    『LIFE SPAN: 老いなき世界』(デビッドA・・シンクレア)のレビュー
    https://booklog.jp/users/sawataku/archives/1/4492046747

  • オートファジー(細胞が自らの一部を分解する作用(自食作用)と言う言葉をマス・メディアて目にするのは、大抵は、ダイエットやアンチエイジング、美容等キャッチーな効果と共に語られることが多いような気がする。もう少し詳しく語ってもノーベル賞を受賞した大隅博士の研究テーマぐらいか。そんなこんなで分かったような気がしていて実は全く本質を知らない生命科学の世界。
    本書の著者は、その大隅博士のもとでオートファジーの研究に携わり今では世界的にも著名な研究者。当初はオートファジーについて書こうとした著者が、辣腕編集者と実力ノンフィクション作家の協力のもとで出来上がったのが本作。
    構成は、科学者のロジカルシンキングとは何か、生命科学とかなにか、細胞の働き、病気とは何かを、誰もが読んで理解できるような極力平易な説明と言葉で解説し、それから、メインディッシュのオートファジーについて語っている。
    生命科学についての入門書としても素晴らしいし、世にはびこるエセ科学者に対抗てきる科学的思考についも学べる内容だ。

  • 「ゲノム解析は「私」の世界をどう変えるのか?」に続いて、
    ライフサイエンス系で読みやすそうなものをチョイス。
    こちらも面白いです。

    ※ゲノム解析は「私」の世界をどう変えるのか?
    https://booklog.jp/users/noguri/archives/1/4799321676#comment

    著者は大阪大学の教授なのですが、
    大学の先生って難しいことを難しくしか言えない人のイメージがありましたが、
    この人は珍しく当てはまらないようです。
    とても分かりやすい。これは素人でも読める本です。

    大昔、生物のクラスで「こんなこと勉強したな~」と
    思いながら、読んでいました。

    後半からは、オートファージというほとんど聞いたことのない著者の研究の話に移っていき、
    レベルもそれなりに上がっていくのですが、
    著者の分かりやすい口調(文調?)のお陰で何とか読み進めることができました。

    文系の人でも全然イケると思います。
    色々ホットな分野である生命科学を学んでみようと思っている人にとっては、
    とてもおススメな一冊です。

  • 著者は、日本を代表する生命科学研究者の一人。
    「オートファジー」(細胞の自食作用)の研究で2016年のノーベル生理学・医学賞を得た大隅良典博士の弟子に当たる。
    当然、著者の専門も細胞生物学、とくにオートファジーである。

    本書もオートファジー研究の最前線を紹介した本であり、エビデンスに基づく健康長寿本と言える。
    つまり、デビッド・シンクレアらの『LIFESPAN――老いなき世界』や、ジェームズ・W・クレメントらの『SWITCH――オートファジーで手に入れる究極の健康長寿』の類書である。

    3冊のうちでは、本書が最もわかりやすい。
    わかりやすさの理由の第一は、オートファジーの解説は後半に回し、前半で生命科学の「基本のき」から説明している構成にある。

    1章では〝科学的思考とは何か?〟が解説され、2章では〝細胞とは何か?〟が、3章では〝病気とは何か?〟が解説される。
    しかも、その3章は岩波ジュニア新書的な、中学生でもわかる書き方がなされている(ホメ言葉として書いている。そもそも私は岩波ジュニア新書が好きで、いまでもよく読む)。

    前半3章で大前提となる基礎知識を説明したうえで、後半でオートファジーの仕組みと、それに基づく健康長寿のコツがレクチャーされるのだ。

    わかりやすさの理由の第二は、プロのライターが著者にインタビューして構成していること。
    構成を担当したのは栗下直也氏。とくにサイエンスライターというわけではない文系ライター・栗下氏が、文系人間でもわかるような形でまとめている。

    ゆえに、本書はすこぶる平明で秀逸なオートファジー入門になっている。

  • 文章がとても平易でわかりやすいのでおすすめです。

    相関と因果は、科学的な思考において重要。
    世の中本当に、ただの相関関係でこじつけの様に断定している事が多すぎると常日頃感じていたので、吉森先生が文章にしている事で自信がもてた。

    最後の方の、オートファジーの活性化にあたっての生活の上でのポイント。取り入れたいのは納豆だったりワインだったり、運動だったり。割と今まで体に良いと言われてきているものなので受け入れやすい。また、油はあまり良くない。
    意外だったのが、3食きちんと食べるよりも1食抜く、あるいは1食はカロリーを抑えるということ。
    飢餓状態がオートファジーの活性化に効果があるらしい。

    ゆく川の流れは絶えずしてしかももとの水にあらず

    方丈記の引用があったがまさにそうで、こんなふうに読んだ本の感想を書いている今でも、細胞レベルでは一瞬前の私とは僅かに違う自分に常に入れ替わっているんだなと。いやー奥深い。

  • 【本書の詳細】
    ①科学という学問のあり方と科学に対する向き合い方
    科学は、仮説と検証の積み重ねによって、真理に限りなく近づく学問である。科学の目によって、私たちは、極小の世界から極大の世界まで遥かに見渡すことができる。
    科学の考え方の基本は「相関」と「因果」。
    相関というのは目に見える関係で、研究の観察結果である。
    因果というのは確実な原因と結果の関係である。
    目に見える相関だけで判断せず、「なぜ?」と疑問を持ち、裏にある因果を探ることが大切だ。

    ②細胞の基本構成要素「タンパク質」
    細胞の主役はタンパク質であり、生命のサイズの最も小さいところ、階層の一番下に属している。
    最小単位であるタンパク質がたくさん集まったものを「超分子複合体」といい、それより大きいものに「オルガネラ(細胞小器官)」がある。オルガネラとは細胞の中にある臓器のようなもので、身近なものではミトコンドリアがこれにあたる。

    生命の特徴は、タンパク質を構成単位の基本とした「階層性」と、「動的平衡」(中身が変わっているのに見た目が変わらないこと)にある。

    原則的に、ひとつのタンパク質の形質はひとつの遺伝子によって決められている。遺伝子を決める素材は「DNA」であり、DNAのアルファベット(G,A,T,C)が3つ並んでアミノ酸になる。そのアミノ酸を並べたものがタンパク質だ。文字は並び方によって形質が変わるため、4つの文字からさまざまなアミノ酸が作られている。
    このタンパク質が、脂質や核酸など、タンパク質以外の様々な身体の物質を作り出している。

    遺伝子やDNAという物質に対して、遺伝子全体の遺伝情報、つまり「意味」を示すものを「ゲノム」という。遺伝子やDNAが本と文字なら、ゲノムは本全体の文の意味と考えてもらえばいい。人間のDNAは解読されたが、全ての文の意味はまだ分かっていない。


    ③病気について
    病気を引き起こす原因としてウイルスがある。ウイルスとはゲノムと殻しかない物質である。ゲノムのコピーまではできるがその先のタンパク質を作れないため、他の生き物の細胞に侵入して自分のタンパク質を作っている。こうした特異な性質から、ウイルスが生物なのか非生物なのかについては議論が分かれており、はっきりしていない。

    ウイルスは鍵のような物を保有しており、この鍵と細胞の鍵穴が合致することで細胞に侵入できる。人間の体内で作られる抗体は、ウイルスにくっつき鍵の形を変えて侵入を防ぐ。うまく鍵の部分にくっつけば侵入を防げるが、鍵ではない部分にくっつくものもある。当然ウイルスの侵入は防げないが、これも抗体と言われている。そのため、「抗体がある=ウイルスにかからない」と慢心してはいけない。
    抗体を司るのが免疫システムだ。免疫システムは、ウイルスが侵入すると様々な形の抗体を無数に作って対応する。
    一方、一度侵入したウイルスを記憶しておき、再度侵入された際に的確に抗体を作ることで撃退する免疫システムもある。

    ※用語解説
    「交差反応」:ある病原体に対して効く免疫の反応が、別の病原体にも有効であること。

    病気の他の原因として、細胞自身の異常が挙げられる。
    細胞の中にあるミトコンドリアがエネルギーを作る際には活性酵素が発生する。活性酵素は細胞伝達物質や免疫機能として働く一方で、過剰に生産されると細胞を傷つける。ミトコンドリアが傷つくと活性酵素の制御ができなくなるため、タンパク質や脂質やDNAに悪さをし始め、がんなどを引き起こす。ミトコンドリアは細胞内の発電所といってもいいぐらい重要な器官なのだ。


    ④不死と不老
    ベニクラゲという生き物は不死である。また、アホウドリは老化せず、健康体のままぽっくりと死ぬことが確認されている。
    しかし、何故大抵の生物には老化と死が待っているのだろうか?
    それは、種の全滅を回避するためである。自らの種を地球に広げるためには、子孫を作り、形質を進化させ、何種類もの異なった遺伝子を残して行ったほうがよい。天変地異や疫病を乗り越え種全体を繁栄させるためには、個体自身が死んだほうが効率的であるのだ。
    老化も死も、生物に備わっている避けられない運命ではなく、その生き物が選び取った結果である。

    ⑤不老を解決する「オートファジー」機能
    「オートファジー」とは、細胞の中の恒常性を保つ機能であり、細胞の中のものを分解してリサイクルしている。これが解明されれば、病気を防いだり健康寿命を延ばすことが出来るかもしれない。

    オートファジーの役割は次の3つだ。
    (1)飢餓状態になったときに、細胞のなかの栄養素を分解してエネルギーにしている
    (2)細胞の中身を入れ替える
    →恒常性を維持するために、毎日壊しては作り直している。
    (3)有害物を除去する
    →細胞の中に入り込んだ病原体を自ら除去するための免疫機能である。病原菌以外でも、壊れたリソソームを除去し、病気にかからないように恒常性を保っている。

    細胞は死んで生まれ変わることで恒常性を維持するが、神経細胞と心筋細胞は死んでも復活しない一度きりの細胞だ。これらが死ぬことでアルツハイマーやパーキンソン病が起こっている。また、オートファジーが関係していると思われる病気には、生活習慣病、神経変性疾患、肝臓がん、腎臓の病気、心不全などがある。

    オートファジーの研究は、治療法の無かったこれらの病気を解決するカギになるかもしれない。年を取るとオートファジーの機能が低下するが、その原因を突き止めれば老化を止めることができるかもしれないのだ。

    オートファジーは「ルビコン」と呼ばれる物質により阻害されていることが最近の研究で分かった。生き物は年をとるとルビコンが増えていき、これが老化による様々な病気を引き起こしていると考えられている。
    ルビコンを研究することで、老化と死が必然のものではなくなるかもしれない。

    ルビコンのせいで老化が起きると言っても、ルビコンは一部の器官にとっては必要不可欠な物質であるため、おいそれと除去できるものではない。
    そのため、日常生活レベルでは、オートファジーを高める食事を心がけるのがいいだろう。

    納豆、キノコ、味噌、醤油、赤ワイン、チーズなどがオートファジー機能を高めると言われている。
    また、一日のうち一食を抜くなど、カロリー制限をしたほうがよいことも分かっている。ただし、どういう方法がよいかはまだ分かっていない。極端な断食はやめた方がいいだろう。
    また、脂っこいものを食べすぎるとルビコンがたくさん作られることが分かっている。

    究極的な結論は、腹八分にし、運動し、脂っこいものを避けるようにすることである。


    【感想】
    不老不死――人類が長い間望んできた生物の究極の形は、決して実現不可能なものではない。死や老化は必然のものではなく、種の繁栄のためにゲノムに埋め込まれた競争戦略にすぎないのかもしれない。そして、種の繁栄を気にしなくなった人間にとって、これらはもはや克服できる事象になりうる。何ともワクワクする話だ。そして、健康寿命の延伸という目線から、不老の研究が着々と進んでいると言うのだからまた面白い。
    筆者も文中で言及しているが、同じような分野の本として「LIFE SPAN」が刊行されている。著者のデビット・A・シンクレア氏は、老いを「治療できる病」とみなしている。また、ips細胞を使った若返りにより寿命を延ばしていくことについても言及している。読もうと思ってまだ手をつけていないため、近々こちらも読んでみたいと思った。

    一点、本の中身とはずれるが、表紙と帯に「最先端の生命科学を私たちは何も知らない」と書かれていることについて、あまりよい表現ではないと思う。
    筆者が文中で繰り返し強調しているのは、巷にはびこる様々な科学的通説に対して「何故?」という意識を持ち、因果関係を理解することの大切さであった。筆者は、人々が基礎的な知識と洞察力を持つことで社会全体の科学的知見が底上げされるのが望ましいと考えており、本書もそのために、平易な言葉を用いて生命科学の基礎の基礎から解説する構成をとっていた。したがって、こうしたいかにも「最先端科学を扱っています」というアオリは適切ではないと感じた。

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著者プロフィール

大阪大学大学院生命機能研究科教授、医学系研究科教授。
1958年生まれ。大阪大学理学部生物学科卒業後、同大学医学研究科中退、私大助手、ドイツ留学などを経て、1996年、国立基礎生物学研究所で大隅良典氏(2016年ノーベル生理学・医学賞受賞)のもとで助教授に。その後、国立遺伝学研究所教授、大阪大学微生物病研究所教授を経て現職。著書に『ライフサイエンス』(日経BP社)など。


「2022年 『生命を守るしくみ オートファジー 老化、寿命、病気を左右する精巧なメカニズム』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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