FACTFULNESS(ファクトフルネス) 10の思い込みを乗り越え、データを基に世界を正しく見る習慣

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  • Amazon.co.jp ・本 (400ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784822289607

感想・レビュー・書評

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  • まず著者が強調したいことの一つは、世界は皆が思っているよりもよいものであり、さらにどんどんよくなっている、ということである。そして、その事実をデータによって確認していく。世界がよくなっているということを強調することは正しい活動である。また、それを数値にして認識することは、何かの判断をそこから得るためにとても大事な姿勢である。

    所得が増え、子どもの死亡率が下がることで、寿命が伸び、出生率が下がり、社会の年齢構成が大きく変わるのは全世界でほぼ共通に進みつつあることだ。その事実については、ある意味では共通理解でもあり、ベストセラーになったユヴァル・ノア・ハラリの『サピエンス全史』でも、現代は、飢饉、疾病、戦争を克服して、かつてないほど寿命が伸びた、という事実が強調されている。そういえば、自分の母方の兄弟は7人いるが、今それだけの兄弟がいる家庭を探すことは大変難しい。日本でもこの1~2世代の間において大きな変化があったのだ。

    この本で著者の言うことはおおむね正しいと言える。ここで大事にするべきことは、著者が使っている質問や数字の意味を、読者であるわれわれ自身が懐疑的に見る姿勢を持つことである。例えば、おそらくは著者が何度も使ったであろう質問1「現在、低所得国に暮らす女子の何割が、初等教育を修了するでしょう? A.20%、B.40%、C.60%」(答えはC)である。
    この問題の日本人の正答率は7%だということだが、選択肢が、A.40%、B.60%、C.80%だとしたら結果は大きく違うものになるだろう。さらに言うと典型的なナッジングの手法でもあるが、選択肢を A.20%、B.40%、C.60%、D.80%、としても正答率が上がることが期待できる。これは、揚げ足取りだろうか。著者の主張に従うのであれば、こういった印象操作があることについても逆に疑って、より真実に近いものを知るように注意するべきなのである。

    さらに加えると、質問2「世界で最も多くの人が住んでいるのはどこでしょう? A.低所得国、B.中所得国、C.高所得国」(答えはB)という問題に至っては、高所得国/中所得国/低所得国の定義を明確にしないと質問として成立しないし、正解は中国とインドがどのレベルに当てはまるのかによって変わってくる。著者もこの後の議論においては高所得/中所得/低所得という分類ではなく、所得層を独自に複数のレベルに分けている。レベル1は1日1ドルの所得、レベル2は1日4ドル、レベル3は1日16ドル、レベル4は1日32ドル。このレベルの差で大きく生活の質が変わってくるということを具体的な例を引いて説明している。著者は、ここでレベル2とレベル3を中所得国として30億人の人がこの層にいるという。しかし、レベル2は低所得と言っても間違いではないだろうし、実際にレベル2とレベル3は差があるからこそレベルを分けている。これもまた揚げ足取りなのだろうか。

    しつこいが、質問4「世界の平均寿命は現在およそ何歳でしょう?A.50歳、B.60歳、C.70歳」(答えはC)。これも選択肢をA.60歳、B.70歳、C.80歳にすると正解率が劇的に上がるだろうし、選択肢を増やしてA.50歳、B.60歳、C.70歳、D.80歳、としても、単に知識の問題だとしたらおかしなことだが、正答率はおそらく上がる。

    単純な「世界はどのように変化していると思いますか?」という質問についても、その質問をどういう文脈に置くのか、どういう質問と並べて訊くのかによって数字は大きく変わってくるだろう。

    ただ、著者も例に取る福島原発事故のその後の被爆被害についての事実分析(福島の原発事故による被曝でなくなった人は、ひとりも見つかっていない - 人々の命が失われた原因は被爆ではなく、被爆を恐れての避難だった)を考えると、悪いニュースはすぐに広がるが、そうでないニュースはそれが事実であろうがなかろうが拡がらない、ということについては著者が指摘する通り十分に意識をしておく必要がある。特に、福島原発事故の前にはチェルノブイリ原発事故という参照にすべき事象もあったにも関わらずだ。もちろん、チェルノブイリの事故こそ、事実が何であったのかを正しく知ることの重要性と難しさを教えてくれるものである。また、原発事故の事例に続いて書かれる環境保護を主としたDDTの禁止についても、トレードオフの関係について十分に考えるために事実を共有することの重要性を認識することができる例である。ワクチンの事故、テロの危険、飛行機事故、そういった滅多に起きないことのリスクを過大視しすぎることのデメリットについても世の中に広く共有されるに越したことはない。
    また著者の過去の経験として挙げられたものだが、モザンビーグの病院では、目の前の患者を救うことに全精力を傾けるよりも、地域全体の公衆衛生プログラムを上げることに力を使ったことが正しく効果的だったというのは素晴らしい分析とそれに基づく行動として賞賛されるべきだと思う。

    著者の言わんとすることは原則として正しく、著者が伝えようとすることもおそらくはその意図に沿って理解されると世の中はよくなるようなものだろう。そして、準備された質問がその認識を説得的にするために工夫されたものであることも間違いない。だからこそ、いったんは事実の解釈について、著者が書くことであっても懐疑的に見る姿勢を持つことが逆説的に著者の意図に沿うものなのである。

    この本を読んで、著者のいうファクトは素晴らしい、皆が気が付いていなかったところだ(自分はわかっていたけど、という態度を取る人も多いが)、目から鱗が落ちた、と単純に言う人は、おそらくはデータやメディアに騙される人だろう。本書の内容は多くのデータを元にしてはいて、多くのものよりも優れているのかもしれないが、この本に書かれていることは他のすべてのことと同じく事実に対するひとつの解釈であることは間違いない。「ファクトフルネス」の重要性を信じるのであれば、著者のいうことを事実として鵜呑みにするのではなく、より事実に近いものに当たって、そこからあなたの解釈を導き出す過程を踏むという姿勢やプロセスが大事だということだ。

    ニーチェの、「事実というものは存在しない。存在するのは解釈だけである」という言葉を侮ってはいけない。

    「事実に基づかない「真実」を鵜呑みにしないためには、情報だけでなく、自分自身を批判的に見る力が欠かせません。「この情報源を信頼していいのか?」と問う前に、「自分は自分を信頼していいのか?」と問うべきなのです。...「この情報は真実でない」と決めつける前に、「自分は事実を見る準備ができていない」と考えたいものです」

    と、訳者あとがきにある通り、虚心坦懐になることがとても重要だ。常に自分自身に帰ってくる言葉だ。こうやって今書いた私自身の書評の言葉にも。

    よい本だと思うが、データの重要性について考えるならば、この本自体を鵜呑みにしないことが重要だろう。この本の内容が間違っているということではない。この本が、内容自体ではなく姿勢を重視するものであるのだから、それに従うとするならば著者の言うことに対しても批判的に読み込む姿勢を身に付けることが著者の意図に適うことでもあるのだから。

  • 面白かった。
    人間は過去に学んだ知識に引っ張られ過ぎて現実を見誤る。
    そういった様々な「本能」に抗う術、すなわち「ファクトフルネス」=現実を正しく認識する方法と心構え を学べる本です。

    • 大野弘紀さん
      私も、これは良書だと思います。
      私も、これは良書だと思います。
      2019/05/12
  • 最近、中島京子の「のろのろ歩け」を読んだ。そこでの北京、上海、台湾はオイラが持つイメージを刷新してくれた。古いものと新しいものが混在しているけど、間違いなく街やそこに住む人たちが進化しようとしている。アメリカやヨーロッパにばかり素敵なものがあると疑わなかったオイラにとってはいい刺激になった。「ファクトフルネス」ではこれからのアジアやアフリカの躍進が取り上げられているけど、納得できる。駅や電車では多くのアジアの人たちを目にするようになった。観光はもちろん働きに来たり勉強をしに来たりしているんだろうけど、オイラなんかより教養や経済力とか豊かな人が大勢いるんだと思う。でも、そんなふうに思うようになったのは最近のことだ。日本は豊かだと疑わなかったし、そこにいるオイラだって世界の中で、いやアジアでは特に豊かだと思っていたけど世界を知らなかっただけみたい。そういえば、最近は台湾のエレファントジムってバンドをよく聴いている。学生の頃だったら考えられないし、興味を持たなかったはず。アジアにロックなんて!と先入観を持っていたけど他にも魅力的なバンドはたくさんある。知らないって怖い、というか勿体ない。謙虚さと好奇心があれば、心を楽にしていつも何か面白いことを発見し続けられる!頭が固くなっているからこそ実践しなくちゃと思う。

    • onecupmikaさん
      あいちょーや周りの方々の優しさ、ちゃんと届いていますよ。
      だから、私、会社のことも出会った一人一人のことも大切で忘れられなかったのかもしれま...
      あいちょーや周りの方々の優しさ、ちゃんと届いていますよ。
      だから、私、会社のことも出会った一人一人のことも大切で忘れられなかったのかもしれません。
      私こそ、頭固くて見えてなかったものがたくさんあることに気づけたように思います。
      読書や音楽っていいですね。
      2019/04/14
  • 思い込みというのはたしかに世の中に溢れている。世の中の出来事はテレビや新聞、インターネットで手軽に情報を得ることができる。
    だがその反面、簡単に情報操作ができてしまう。本書でも言っている通り、アフリカやフィリピンなどの国は未だに靴も履かず不衛生な環境で生活しているものだと思っていたし、これからも変わらないと思っていた。貧しい国だから、これからずっと貧しいと決めつけていて、そこで思考が停止していた。
    世界は変わり続けている。人間だって、100年前と今とでは確実に技術やテクノロジーが進歩しているのだから、自分たちが義務教育で教わったことはどんどんアップデートしていかなくてはならない。
    チンパンジーのように思い込みや経験というフィルターを一切なくそうとは思わないが、常に「これって本当?」と問題意識をもつことはこれから先非常に重要になると感じた。

  • 世界は刻一刻と悪くなってるとか、人口が直線的に増えていくとか、人間の本能の「穴」を指摘する一冊。
    アフリカや貧しい国を事実以上に現実よりも過小評価する事で、優越感(あの人たちとは違う)に浸ろうとする先進国の過ちがあるのかなと思った。

  • 知識のアップデートと、人間に備わる本能を説く一冊。
    焦る気持ちをすぐに行動に移さず、落ち着いて冷静に分析することの大切さを教えてくれる。
    人を責めるより、俯瞰的に全体像やシステム環境を見直す視点を今後は鍛えようと思う。インフラ面や社会基盤の整備が、途上国の底上げに最も近道。
    自分自身を批判的に見ることの大切さを学んだ。

  • こんなに世界が良くなってるなんて全く知らなかった。
    グラフとデータで見える化された事実に感動しました。

  • チンパンジークイズは2問くらいしか正解できず。
    いかに世界について無知であるかがわかった。
    各章にてグラフや写真が裏付けとなり納得できることが多かった。

    ドルストリートでは、生活レベルを写真を用いて表現しており、この時点で私の持っているイメージとは違っていた。各レベルにどれくらいの人がいるのかも予想とはまったく違っていた。

    なんの裏付けもない本能で世界を見てしまっている事に気付かされたとともに、本当の世界を教えてくれる内容。

    以下、記録。

    【ネガティブ本能】

    私の持つ、日本以外の国のイメージは、人目をひくような内容のニュースから形成されていることを知らされた。
    たしかにメディアではプラスのとこよりもネガティブでショッキングな内容の方が注目を浴びる。

    【恐怖本能】

    恐ろしいものには自然と目がいってしまい、落ち着きがなくなる。
    世間は勝手に恐ろしく見えてしまうもの。現実をしっかり見て、リスクを正しく計算する。
    行動する前に落ち着くこと。難しいけど重要なこと。


    【過大視本能】

    目の前の数字が本当に正しいのか。
    大きい数字はそのままだと大きいが、ほかの数字と比較してどうか。
    割合でだすことも非常に役立つこと。

    【宿命本能】

    国や、宗教、文化が変わらないように見えるのは変化が少しずつ起きているから。
    小さな変化を追いかける。
    アフリカの方々の夢はこうだろうと勝手に上から決めてしまっていた。その人はその地域に生まれたひとだからという前提で。

    【犯人探し本能】

    犯人を探すのではなく、原因を探す。

    【焦り本能】

    ラスト一つ、この時間だけ!のような話は、ただ焦り本能を煽っているだけ。

  • 思い込みや思考のバイアスに、安直に頼るな、頭をつかうことに手抜きするな、という戒め。

  • ビジネス書なのに、心理書のようだった。
    「いつやるの?いまでしょ!」って訳されてる文章、おもしろい。テンポよくすらすら入ってきた。

    もう一回じっくり読みたい。

著者プロフィール

ハンス・ロスリングは、医師、グローバルヘルスの教授、そして教育者としても著名である。世界保健機構やユニセフのアドバイザーを務め、スウェーデンで国境なき医師団を立ち上げたほか、ギャップマインダー財団を設立した。ハンスのTEDトークは延べ3500万回以上も再生されており、タイム誌が選ぶ世界で最も影響力の大きな100人に選ばれた。2017年に他界したが、人生最後の年は本書の執筆に捧げた。

「2019年 『FACTFULNESS(ファクトフルネス)』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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