コンテナ物語 世界を変えたのは「箱」の発明だった 増補改訂版

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  • Amazon.co.jp ・本 (452ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784822289935

作品紹介・あらすじ

■ビル・ゲイツの推薦の言葉
「二〇世紀後半、あるイノベーションが誕生し、全世界でビジネスのやり方を変えた。ソフトウェア産業の話ではない。それが起きたのは、海運業だ。おそらく大方の人があまり考えたことのないようなそのイノベーションは、あの輸送用のコンテナである。コンテナは、この夏私が読んだ最高におもしろい本『コンテナ物語』の主役を務めている。コンテナが世界を変えていく物語はじつに魅力的で、それだけでもこの本を読む十分な理由になる。そのうえこの本は、それと気づかないうちに、事業経営やイノベーションの役割についての固定観念に活を入れてくれるのである。」

世界経済とグローバル貿易を飛躍させた「箱」の物語として、国際物流の生きた教科書として2005年の刊行(日本語版は2007年)以来、版を重ねてきたロングセラー、レビンソン『コンテナ物語』の最新情報を加えた改訂版。前回から10年以上を経て、コンテナ船の巨大化が進み、世界の港湾も巨大化・自動化が進んできた。米中貿易戦争の激化もあり、コンテナの将来は予断を許さない。解説・森川健(野村総研)

感想・レビュー・書評

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  • 【感想】
    2020年の夏ごろから、コンテナ船の運賃が徐々に上がっている。

    原因の1つ目はコロナによる物流の停滞だ。本書でも述べられているとおり、コンテナがもたらした革命は箱そのものにあるのではなく、供給者から消費者までの間のサプライチェーンを効率的に融合させたことにある。
    コンテナといえば船輸を思い浮かべがちだが、海上移動は運送全体の一部分でしかない。実際には荷主による出荷、トラック・鉄道会社による運送を経て船に積まれ、海上を運ばれる。揚げた先で更に陸路輸送を行い、やっと消費者のもとに届けられる。
    この「陸路輸送」の部分が、コロナで停滞した。港にはコンテナの積み下ろし待ちの船が増えていき、遅延がひどく発生するようになったのだ。

    原因の2つ目は、単純に需要が増加したからだ。コロナによる巣ごもり需要で、家具や家電を中心にモノの需要が上がった。需要に対して供給元はコロナで歯止めを食らったままであったが、世界の工場である中国のコロナ回復が予想以上に早かった。供給元が息を吹き返すことはできたものの、中国の取引相手である欧米の物流はストップしたままである。これが世界全体に波及し、運賃の上昇が起こった。

    ちなみに、コンテナ船業界は赤字が常態化しているという。
    2018年には、川崎汽船、商船三井、日本郵船の海運大手三社が定期コンテナ船事業を統合し、「ONE」を設立する。しかし収益の改善は厳しく、その後、海運業界の国際カルテルである「ザ・アライアンス」に参加。業界の再編によりなんとか生きながらえている状態だ。
    コロナにより需要がいったん増加したものの、業界全体が回復できるかは分からない。まさに今潮目にいると言っていいだろう。

    現状、商船の収益性を向上するためには、「積載量を増やす」か「価格を安くする」の2択であり、過当競争が避けられない。ここから収益性を改善するべくイノベーションを起こせるか。
    今や、マクリーンが起こしたような「革命」を、海運業界は再び欲している。
    ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

    【まとめ】
    1 コンテナはいかにして世界を変えたか?(概要版)
    コンテナが出現する前の世界では、モノを輸送するのは実にカネのかかることだった。輸送費があまりに高くつくせいで、地球の裏側に送るのはもちろん、アメリカの東海岸から中西部に送るだけでも経費倒れになりかねなかった。
    コンテナの登場で、モノの輸送は大幅に安くなった。そして輸送費の下落が、世界の経済を大きく変えたのである。

    まず、輸送にかかるコストが大幅に安くなることは、輸出品と輸入品の増加を促す。港における作業時間も圧倒的に短くなり、取引のスパンが細かくなる。巨大なコンテナ専用船の荷役は、小さな在来船と比べ、人手も時間も60分の1で済むからだ。

    変わったのはモノの値段だけではない。経済のありかたも変わった。
    消費地に近いことだけが取り柄の高コスト体質のメーカーを、グローバリゼーションの競争市場に巻き込んだ。地場産業をアウトソーシングに切り替えさせ、世界経済の統合を促したのである。

    おそろしいスピードで進行する港での作業によって、コンテナ貨物は全世界をカバーするシームレスな輸送システムを移動していく。1日800キロ移動し、貨物がいっぱいに詰まった35トンコンテナ1個の運賃は、ファーストクラスの航空券1枚よりも安い。港でかかるコスト――貨物を一つひとつ揚げ積みするのにかかる人件費や係船料が切り詰められたおかげで、商品価格に輸送費が上乗せされすぎることが無くなったのだ。

    また、時間の節約と正確性の向上も実現する。コンテナとコンピュータの組み合わせによって荷役の時間が驚異的に短縮され、保管の手間がかからなくなった。ジャストインタイム方式で、顧客が必要なときに生産し、コンテナに収めて指定時刻に納品する、ということが可能になった。これによってメーカーは在庫を大量に抱える必要がなくなり、サプライチェーンの信頼性が高まったのである。


    2 昔ながらのふ頭
    かつて港湾作業が労働集約型産業であったころ、海上貨物輸送にかかる経費の60~70%は、船が海にいる間ではなく、波止場にいる場合に発生していた。そうなると、港湾設備の改善や大型船の建造に投資するのはほとんど意味を成さない。人力で荷役をする限り、作業時間を短縮し港と船を効率よく使うことは到底望めなかった。コンテナが登場してからも、しばらくの間は在来方式よりメリットがあると思われていなかった。


    3 マクリーンの登場
    海運業の改革は、トラック一台から財を成したマルコム・パーセル・マクリーンの登場によって始まる。
    1953年、すでに運送業界のトップランナーとして活躍していたマクリーンはとあるアイデアを思いつく。混雑した沿岸道路を走るぐらいなら、トレーラーごと船に乗せて運べばいい。荷揚げ港には別のトラックが迎えに来て、トレーラーだけをピックアップすれば事足りる。また、トレーラーから車輪を取っ払ってただの箱にすれば、段積みが可能となり、より省スペースで輸送できる。
    積み下ろしの際には、船に据え付けられている専用のウインチを取っ払い、ふ頭側にクレーンを設置すればよい。コンテナにスプレッダーを取りつけてウインチで吊り揚げれば、沖仲仕がコンテナの屋根によじ登ってクレーンのフックを固定する必要はない。
    なによりコストが低いのだ。中型の貨物船に一般貨物を積み込む場合、56年当時はトン当たり5.83ドルかかったが、マクリーンの船ではトン当たり15.8セントしかかからなかった。

    輸送コストの圧縮に必要なのは単なる金属製の箱ではなく、「貨物を扱う新しいシステム」なのだということを、マクリーンは理解していた。
    ガンは「海運業界の意識」である。船よろしく変化の遅い環境に慣れきっており、潤沢な補助金のもとで経営をしているため、イノベーションを産もうという土壌もない。マクリーンは海運業界に革命を起こしてやろうと決意したのだった。


    4 ニューヨーク港の没落
    コンテナリゼーションは、ふ頭に勤める労働者と、ふ頭以外で運輸業に携わる労働者にも多大な影響を与える。港に近いというメリットが用をなさなくなったのだ。ニューヨーク側のふ頭を利用する船の数は減り、トラックの数も減っていく。輸送コスト構造の変化は製造業全体にも波及し、工場が一斉にニューヨークから郊外に移転し始めたのである。


    5 規格
    米海自管理局は、サイズがバラバラのコンテナ開発に規制をかける。高さに関しては8フィートで各船会社から合意を得たが、幅と長さ、積載量については紛糾する。誰もが自社の流通経路に合うよう、自社製造コンテナのサイズを最適化していたからだ。
    その後、長さ10、20、30、40フィートコンテナが米国規格から国際規格になったにもかかわらず、規格外のコンテナは堂々と流通していた。
    1965年までは、バラバラのサイズ、バラバラの金具がコンテナリゼーションの発展を妨げていたが、1966年にサイズと隅金具が定まり、国際コンテナ輸送の見通しが立ってきたのである。


    6 ベトナム戦争
    1965年冬。アメリカ政府はベトナムへの緊急増派を開始し、たちまち物資補給の混乱が始まる。これを解決したのがコンテナリゼーションだった。
    当初、ベトナムに積み荷を安全に下すのはほとんど不可能だった。水深が浅すぎて外航船は桟橋に近づくことさえできず、かつ米軍は16種類もの補給方式を運用していたにもかかわらず、中央管理システムの類は一切存在しなかった。港は船でパンク状態になり、ふ頭に揚げられた貨物が何日も野ざらしになっていることも少なくなかった。そして、荷の大半が混載状態だったのだ。
    この事態に手を挙げたのが、マクリーンが創設した海運企業「シーランド」だ。突貫工事によりカムラン港を大型コンテナ港に生まれ変わらせ、大型コンテナ船が一週おきにコンテナ600個を規則正しく運ぶようになった。こうして、コンテナリゼーションが兵站改革の一端を担うようになったのである。


    7 他国の台頭
    コンテナ・ブームの第二幕が繰り広げられたのは太平洋だった。
    マクリーンはベトナム戦争からの戻り船を横浜と神戸に寄港していた。この間、日本とカリフォルニアの間を行き交うコンテナ貨物の量は、重量ベースで北大西洋全体の2/3に達している。わずか3年足らずで、日本からアメリカに送られる輸出貨物の1/3がコンテナ化されたのだ。
    コンテナのメリットを最初に実感したのはエレクトロニクス・メーカーであり、日本製品はアメリカ市場を、続いてヨーロッパ市場を席巻するようになる。日本以外では香港・台湾・シンガポールといったアジアの国が好調であり、コンテナ供給量はどんどん拡大していった。
    そして、需要以上に供給の拡大が続いた結果、貨物の争奪戦が起こり、運賃は下がっていく。コンテナはバラ積み船に比べて建造費用が3倍もかかり、かつコンテナを港から港まで運ぶだけなので、ビジネスモデルに差がつかず、価格競争が起きやすい。そうなると有利なのは物価の安いアジア周辺国家だった。
    マクリーンが持ち株を売却しR・Jレイノルズの取締役会をひっそりと去って行ったのは、1977年2月のことだった。


    8 巨大化
    船は大型化の一途を辿っていく。コンテナ輸送における規模の経済の効果は大きく、しかもはっきりしていたからだ。
    1966年に大西洋を横断した最初のコンテナ船、シーランドの「フェアランド号」は全長140メートルにすぎなかったが、1988年になるとパナマ運河を航行できないほどの大型船も発注されるようになっていた。
    これに合わせて港も大型化していく。大きい港は道路や鉄道の便もよいため貨物が滞留することがなく、処理能力が高いほどコストは下がっていくからだ。


    9 これからのコンテナ
    市場は何度もまちがいを犯し、民間部門も政府部門も何度も判断を誤った。そのたびにコンテナリゼーションは足を引っ張られたが、ついに「貨物を箱に入れて運ぶ」メリットと劇的なコスト削減効果が威力を発揮し、コンテナリゼーションは世界を席巻した。
    今やこの箱は、ひどく厄介な社会問題を引き起こすようにもなっている。
    ①大量のコンテナが放置されるようになった
    ②ディーゼル燃料で動くコンテナ船やトラックなどの排気ガスが深刻な環境汚染を引き起こしている
    ③コンテナがテロに使われるようになり、公安局がセキュリティ強化に頭を抱えている

  • ビルゲイツが絶賛した本書ですが、めちゃくちゃ面白かったです。
    コンテナ「箱」が、陸(トラック、鉄道)、海(港湾、船)、空(飛行機)、組合、荷主、消費者、戦争までも変えた!!という歴史です。
    コンテナの歴史について、めちゃくちゃ調べて描かれているので、こういう本は本当に安く感じます❕

    コンテナリゼーションの流れは、一度動き出すと止まらない❕いくら労働組合や反対組織が反対しても止まらない❕
    現代の流れと、とても似ているように感じました。
    何か参考になるものがあると思います。
    ぜひぜひ読んでみてください

  • 世界中のコンテナが揃って同じような見た目とサイズである事実を、今まで一切気にしたことがなかった。最初から各国仲良く揃えたのではなく、長い歴史と苦悩の間に世界で統一されるようになったのだ。となると他のものはどうなのか気になってくる。例えば飛行機も世界中で同じような見た目とサイズが採用されているが、これにもコンテナのような葛藤と改革があったのだろうと思うと感慨深い。

  • 示唆深い本でした。イノベーションがいかに生まれ、抵抗する既存勢力と向き合い、政府や顧客の支持を取り付けてルールをつくり、新しい市場を切り拓いていくのかの様々なエッセンスが詰まったとても読み応えのある内容ですね。

    コンテナというシンプルに思えるものが、グローバリゼーションを一気に加速させて産業史、我々の生活を大きく変えたことがとてもわかりやすく、データも交えて示されています。

    この本の主人公といえるマルコム・マクリーンの人間模様を描いたドラマとして充分楽しめます。日本の高度経済成長もコンテナのグローバル化に寄与し、さらに日本の成長にもドライブがかかったという相乗効果もよくわかる。

    構成もよかったなあ。

  • ビル・ゲイツ推薦本。さすがに!かなり面白かった。物流革命が世界を変えたって話はタイトルのままなのだけど、この面白さこそ、物流のダイナミズムよ!長編だけど、まったく飽きない。最後はグローバル・サプライチェーンマネジメントの話なんかもでてきてお勉強にもなりました。良書。

  • マルク・レビンソン「コンテナ物語」読了。ただの運送用の箱というコンテナのイメージが本書を読んで根本から覆った。既存の港湾の仕事を破壊するだけでなく、世界の物流を変えていった事は、インターネットのインパクトに匹敵かそれ以上に衝撃的だった。イノベーションによる不測の事態を考える上でとても役立つと思う。

  • ここ数年、天候不順や感染症の蔓延を発端に不安定な物流の現状を目の当たりにしている。特に、海運におけるコンテナ不足はたびたび問題となっている。今や当たり前に活用しているコンテナ、コンテナの歴史を見つめ直し、その将来を考察している本書は、物流との関係を断ち切れない現代人は必読だと感じた。
    マルコム・マクリーンの優れた先見性は、あの時代に海運業を貨物を運ぶ産業と認識していたことと筆者は述べている。何かを発明することの重要性が注目されがちだが、埋もれた発明品を適応させるため、現状の制度を変えるマクリーンのパワフルさこそがコンテナの導入に繋がったのだろう。
    本書の中で最も印象に残ってるのは7章の規格である。規格化は国際コンテナ輸送の実現に不可欠なピースであった。技術的また政治的な様々な問題に折り合いをつけながら、コンテナのサイズ、素材そして隅金具と規格化に翻弄した人々の苦労が伝わってきた。技術の過渡期における統一規格の作成は、不確定な技術革新に理解を示し挑戦決断することができてこそ果たすことができるのだろうと考えた。

  • 978-4-8222-8993-5 c0095¥2800E

    コンテナ物語

    世界を変えたのは「箱」の発明だった 増補改訂版

    著者:マルク・レビンソン
    訳者:村井章子(むらい あきこ)
    発行:日経BP








    2007年1月22日 第1版1刷発行
    2019年1月15日 第1版第12刷発行
    2019年10月28日 増補改訂版第1刷発行
    2022年7月15日 増補改訂版第8刷発行

  • コンテナ船を発明したトラック運送業者マルコム・マクリーンの果敢な挑戦を軸に、世界経済を一変させた知られざる物流の歴史を描く。
    図書館スタッフ

  • 内容的には難しいが、合理的経済の歴史、またグローバル化の意味が理解できる本

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