辛淑玉的現代にっぽん考: たんこぶ事始

著者 :
  • 七つ森書館
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感想 : 5
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  • Amazon.co.jp ・本 (159ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784822810139

作品紹介・あらすじ

恵まれた環境で育ち、住むところも、学費も、食べることも、就職も、病気の心配も、将来の計画を立てようもない不安も知ることなく育ってきた人々が、この国を動かしている。構造的弱者はどうやって生きていけばいいのだろうか。辛 淑玉が見る現代にっぽんの姿。

感想・レビュー・書評

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  • 304

  • 辛淑玉の本は、自分がアカンかもと思うときに借りてきて読んでる気がする。もう7年か8年前に、「いまのかんのさん、アカンと思う」と、辛淑玉の本を私にくれた友だちがいて、それが私に打ち込まれたクサビになっているからだと思う。そのときもらった本は『怒りの方法』。自分の怒り、このもやもやは、どないしたらええんかと思うときに、今も読みなおすことがある。

    5月の半ばに、図書館でこの2冊をみかけて借りてきた。サブタイトルは「たんこぶ事始」。ガン検査で引っかかった辛さんは、「あいつと、あいつと、あいつだけは(生きているうちに)ブチかましてやる」と闘志をもやし、許せないものばかりのなかで「目の上のたんこぶを取るまでは相手のたんこぶとなってあがき続ける」という決心をする。それが事始。

    辛さんの言葉を借りれば、日米安保体制に反対してきた筋金入りの組織、不器用で、ちょっと古臭く、宣伝もうまくない、国会議員も一人もいない、それでも反戦を支持する人たちが手弁当で支え続けている組織「新社会党」(1996年に社民党から独立して結成された政党)の機関誌で連載されたコラムを抜粋してまとめられたのがこの2冊。新社会党の現在の委員長は栗原君子さん(「生ましめんかな」の栗原貞子さんの娘)。

    子ども情報研究センターの機関誌『はらっぱ』に辛さんが連載してはる「サバイバル手帳」でも、ニュースの奥の奥まで、この底のとこまで分かってるか?と、きっちり問いかけてくる文章に、そこまでは知らずにいたと思うことが多い。この2冊も、そんな文章がつまっていた。

    「パチンコをしていた? だから何?」
    千葉県松戸市で、母親の留守中に出火して三人の子どもが死亡した。母親がパチンコに行っていたと、どのニュースも非難の嵐。
    ▼子育てに関して父親の責任が問われることがないのはなぜなのか?育児に伴うとてつもない疲労感も孤独感も知らないエリート記者たちの傲慢さがぷんぷん臭う。彼らは、なぜ育児中の女性がパチンコに行くのか、考えようともしない。遊ぶ金欲しさなどという簡単な断罪ならサルでもできる。パチンコに依存してしまう、その底なしの自己否定など、彼らには想像もできないのだろう。 … 誤解を恐れずに言うなら、彼女はパチンコをしていたからこそ、育児がなんとかやっていけたのだろう。
     …… 
     どの記事でも、鬼畜の母親は非難されるが、父親は無罪放免だ。
     オヤジよ、あんたたちはどこにいるのだ?(現代にっぽん考―たんこぶ事始、pp.148-149)

    「0.1%の人たち」
    村木厚子さんの無罪確定、1年3ヶ月ぶりに復職。
    ▼日本では検察が起訴すれば99.9%が有罪となる。つまり、お上が「お前は怪しい」と決めたらそのまま刑務所行きなのだ。村木さんは希少な残り0.1%の人となれた。そうなれたのは、彼女が闘える人だったからというだけでなく、社会が望む「美しい被害者」だったからだろう。 … だから、メディアも社会も心おきなく彼女を支援できたのだ。
     これが、例えば外国籍住民で、「水商売」で、派手な服装で、学歴もなく、難しい単語も使えず、感情を抑制できず、揉め事を抱えているような人だったらどうだろう? 社会は、同じように好意的に、同情的に事件を見てくれただろうか。
     物証もないまま、保険金詐欺を繰り返していたという人柄のために、口コミだけを根拠に死刑判決が確定した林真須美さんを思う。(危ういニッポン考―たんこぶ事始〈2〉、p.63)

    「議員の善意を飾るための『人権』」「正社員化で救えるのか?」「アホの男は国境を越える」等々、ひとつひとつは短い文章だけれど、どれを読んでも「この社会」の見方が変わってしまう気がする。

  • 在日のシンガー、浪速のパギやんのコンサートで入手。
    彼は大阪からコンサートのために一拍したホテルで、パスポートの定時を求められたという。まだそんな時代なのかと驚いた。

    だからこそ発言しなければという思いがきっぱりしたもの言いになるのだろう。刺激を受けた1冊。

  • 11/01/01ー1

  • 昨年あたりの時事的な事柄にカミつくコラムをまとめたもの。話の方向性としては概ねうなずけることが多い。でも、何でこんなに怒っていられるんだろう、疲れないかなー……と辛淑玉さんの本を読むといつも思います。

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著者プロフィール

1959年、東京都生まれ。在日コリアン三世。小中高と一貫して不登校をつづけ、かたわら6歳のときからラベルの糊付け、ヤクルト配達、新聞配達、皿洗い、パン屋のレジ、焼き肉屋、モデル……などあまたの職業を経験する。26歳のとき、人材育成コンサルタント会社「香科舎」を設立、同社代表。また盗聴法反対や石原慎太郎都知事の「三国人」発言問題など、多数の社会運動に積極的にかかわっている。ラジオやテレビなどでの発言も多い。著書に『強きを助け、弱気をくじく男たち!』(講談社)、『在日コリアンの胸のうち』(光文社)、『女が会社で』(マガジンハウス)ほか。

「2001年 『女に選ばれる男たち 男社会を変える』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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