戦争がつくった現代の食卓-軍と加工食品の知られざる関係

  • 白揚社
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  • Amazon.co.jp ・本 (384ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784826901956

作品紹介・あらすじ

プロセスチーズ、パン、成型肉、レトルト食品、シリアルバー、スナック菓子、缶詰…スーパーマーケットでお馴染みの「安くて長持ちする美味しい食品」のルーツは兵士のための糧食だった!身近な食品がどのように開発され、軍と科学技術がどんな役割を果たしたのかを探る。

感想・レビュー・書評

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  • 現代の食卓では加工食品は珍しくない。
    缶詰、インスタントコーヒー、パウチ入り食品や飲料、日持ちがするパン、成型肉、エナジーバー(固形の栄養強化食品)。
    そうした食品の一般向け市場はなるほど大きいものだろうが、ではただただ一般市民をターゲットとして開発され売り出されたものかというと、控えめに言ってもそれだけではない。
    背後には、軍隊が直面する「必要性」があったのである。

    戦争は、軍隊の移動を伴う。
    兵士が戦争に従事し続けるためには、言うまでもなく食糧が必要である。戦争が大規模になり、長期化するにつれ、ロジスティックはますます重要になる。
    はるか昔であれば、戦闘の場に家畜を連れて行く、あるいは近くで食材を調達するといった形も取れたが、現代の戦争では非現実的だ。
    多くの兵士に、日持ちがし、携行が容易で、すぐに食べられ、腹持ちがよい食品を提供する。出るゴミの量が少なければなおよい。
    そうした食品の開発は一大事業だった。莫大な資金を掛け、多くの頭脳が集められて、さまざまな現代的「保存食品」が生まれた。現在流通している加工食品の多くは、米軍が戦闘糧食(レーション)を開発する際に生み出された技術によっている。
    軍の必要性から生まれた加工食品は、その利便性により、一般向けにも浸透し広がっていった。
    本書はこれらの加工食品の誕生と発展を追う。

    著者は料理好きのフードライター。なるべく手作りの料理を心がけていたが、あるとき、自分の「手作り」の昼食が、思いの外、加工食品に頼っていることに気が付き、愕然とする。加工食品開発の背景を探っていて、辿り着いたのが軍の糧食だった。

    米陸軍の糧食に関する研究・研究を行っているのは、マサチューセッツ州ネイティック研究所である。賞味期限が長いパン、成型肉、インスタントコーヒー、エナジーバーなどはここで開発された。

    糧食生まれの食品の代表格といえば缶詰だろうか。これはナポレオンの時代に生まれたものだ。金属の缶に熱殺菌した食品を詰め、密封する。ものを腐らせずに長期保存することを目的とする原理は比較的単純だが、即、食用に耐えるものができたかと言えばそうではない。米軍では19世紀末に大規模に缶詰牛肉の導入が行われたが、これが非常な悪臭を放ち、一大スキャンダルとなった。結論から言うと、細菌の繁殖ではなく、過剰な防腐処理による肉の変質のために悪臭が生じたという、皮肉な事件だった。
    だがこうした事件を経て、適切で食材の風味を妨げない処理が開発され、缶詰は一般にも普及していく。

    エナジーバーと呼ばれるものの多くは、チョコレートが主体である。高カロリーのチョコレートは、手軽に腹を満たすには好適だが、気温が上がると溶けやすい欠点がある。高温で溶けにくいが口中では溶ける製品、そして兵士が誘惑に負けないように「おいしすぎない」製品の開発が望まれた。

    エネルギーを生む食べ物といえば肉。今でこそ加工肉もありふれたものになったが、肉といえば塊肉、骨付きのものがあたりまえだった時代はそう遠いものではない。塊であれば、古くないか、蛆虫がついていないかの確認も容易だったが、一面、骨付きのものは手間がかかるし、廃棄物も出る。すぐ調理可能な成型肉は軍には理想的だった。だが、くず肉を寄せ集めて肉の形にする過程で、大量の添加物や保存剤が必要であった。

    食品自体に加え、ラップやパウチなど、包材の開発もまた重要であった。プラスチック系の新素材である。かさばる缶詰に比べ、軽く、丸めてしまえばゴミとなる容積も小さい。陸軍主導の開発プロジェクトには、名だたる大企業が名乗りを上げた。こうした研究の中から、多くのイノベーションが生まれた。

    加工食品やそれに関する技術により、一般市民も恩恵を受けていることは確かだが、実のところ、こうした食品は、そもそもが「特殊部隊」向けであることは念頭に置いておくべきだろう。長期保存が可能である一方で、手軽にエネルギー補給できることが大切なのだ。つまりそこからは、「体にいい」という視点は抜けている。
    新しい食品であるがゆえ、長期間摂取し続けた影響にも不明な点はある。
    加工食品開発に多くの人の知恵や努力があったことは確かだが、こうしたものを、特に子供が大量に採るべきかどうか、よく考える必要があるだろう。


    *本筋とは関係ないと言えば関係ないのですが、著者が、子供の弁当に、普通にエナジーバーとかクラッカーを入れているのにちょっと驚きました。ティーンの子が夜中にスナックをバカ食いしている挿話もありました。フードライターにして食に意識の高い著者にして、これなの?と目をぱちくりしました。この例だけでどうこういうのは早計かもしれないですが、日米の違いはやはりあるように感じますし、多少差し引いて読むべき部分はあるかと思います。

  • 行軍中に瓶詰め食品が割れることにキレたナポレオンがアイデア募集して缶詰が生まれた、という話は有名である。現在でも兵站と軍用糧食(レーション)では(米軍では)重要な問題であり、研究開発が続けられている。そこから生まれた加工食品の中で、現在では身近になったものの例として、インスタントコーヒー、エナジーバー、レトルト食品、濃縮還元ジュース、プロセスチーズ、などがある。食品加工、菌を増殖させない技術、梱包などの技術は民間にも転用されて、加工食品がスーパーに並ぶ。だから、アメリカ人が日常的に食べるものはレーション的なものなのだ。本書ではそれらの保存食につかわれるテクノロジーを解説している。

  • 本書を読み進める中で、現代活用されていて便利な食品のほとんどがアメリカ軍と関係があり、一般人向けではなく元々は軍人に向けて作られたということを学んだ。
    ふわふわな常温のパンやプロセスチーズ、缶詰食品やレトルトパウチの食品など、スーパーの陳列棚の多くを占めている食品であることに驚いた。
    もちろん、日々忙しく働いてるから活用していくことも必要だが、健康被害について、十分な立証がされていなかったりするものも多く存在するため、どれくらい摂取するのかコントロールすることが大事だと感じた。

  • 588.0253||Ma

  • SDGs|目標16 平和と公正をすべての人に|

    【貸出状況・配架場所はこちらから確認できます】
    https://lib-opac.bunri-u.ac.jp/opac/volume/710658

  • アメリカのネイティック研究所関連のことが多く書かれている。
    ネイティック研究所というものすごくデカイ研究所があってそこでいろいろ発明されたってことではないそうです。
    軍の需要とか研究成果の利用などを餌にして、業界や大学などをうまく使って色々なものが生み出されたってことだそうです。

    アメリカの食卓のことも書いてあったが、日本と比べ寂しいものを食べているんだと感じた。
    https://seisenudoku.seesaa.net/article/472425855.html

  • ふむ

  • 次スーパーいったら加工食品に対しての見方が変わると思う。
    人間生きたいと思ったら技術革新が進むんだなぁと思った。

  • 原題:Combat-Ready Kitchen : How the U.S. Military Shapes the Way You Eat
    著者:Anastacia Marx De Salcedo
    訳者:田沢 恭子
    装幀:椿屋事務所
    NDC:588.02 : 食品工業
    定価 本体 2600円(税別)
    四六判 上製 ・384ページ
    2017年 7月 3日 刊
    ISBNコード:978-4-8269-0195-6
    分類コード:C0030
    http://www.hakuyo-sha.co.jp/science/%E6%88%A6%E4%BA%89%E3%81%8C%E3%81%A4%E3%81%8F%E3%81%A3%E3%81%9F%E7%8F%BE%E4%BB%A3%E3%81%AE%E9%A3%9F%E5%8D%93/

    【目次】
    献辞/題辞 [001]
    目次 [003-005]

    第1章 子どもの弁当の正体 011

    第2章 ネイティック研究所――アメリカ食料供給システムの中枢 Ⅰ 021

    第3章 軍が出資する食品研究――アメリカ食料供給システムの中枢 Ⅱ 035

    第4章 レーションの黎明期を駆け足で 051

    第5章 破壊的なイノベーション、缶詰 069

    第6章 第二次世界大戦とレーション開発の立役者たち 095

    第7章 アメリカの活力の素、エナジーバー 115

    第8章 成型肉ステーキの焼き加減は? 149

    第9章 長もちするパンとプロセスチーズ 175

    第10章 プラスチック包装が世界を変える 209

    第11章 夜食には、三年前のピザをどうぞ 239

    第12章 スーパーマーケットのツアー 267

    第13章 アメリカ軍から生まれる次の注目株 289

    第14章 子どもに特殊部隊と同じものを食べさせる? 313

    謝辞 
    訳者あとがき 
    註 
    参考文献 

  • 加工食品の賞味・消費期限が長いのは、戦争のおかげ。戦地で食べられるために、食品企業が国を顧客に競争したために、保存期間が長くなった。

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