事実はなぜ人の意見を変えられないのか-説得力と影響力の科学

  • 白揚社
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  • Amazon.co.jp ・本 (288ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784826902137

感想・レビュー・書評

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  • 「とても重要なメッセージを持つ人や、最も役に立つ助言のできる人が、必ずしも絶大な影響力を持つわけではないように私は感じる。怪しげなバイオ技術に数十億ドルを投資できるよう説得できた起業家がいる一方で、地球の未来のために取り組むように国民を説得できなかった政治家もいる。」(7p)

    著者が「わかりやすい例」として取り出したのは、2015年9月大統領共和党候補者の決定に寄与した討論会のTV番組である。カーソン候補は「知性」を狙ってきたのに対して、ドナルド・トランプ候補はその他全ての部分に訴えたのである。結果、ドナルドが大統領になった。

    現在、大量の情報が個人に押し寄せている。そのことで、かえって自分の信念に固執するようになっている。彼らが意見を変えるのは、「意欲や感情に訴えかけられた時」である。この本は脳科学者らしく、その事やその他の要因を一冊かけて詳細に述べてゆくだろう。

    以下私的メモ(これは、私に有用だと思える事柄を羅列したメモであって、皆さんに分かりにくい書き方もある。読み飛ばしても構わない事柄です。もし、以下の事柄があなたにも有用だと感じられたとしたら、それはあなたが主体的に感じ取ったからです)

    ・事前の信念を持つ人に対して、間違いを証明しようとすると拒否感が出る。共通点に基づいて話をすることによって、相手の行動に影響を与える。

    ・アイデアを伝える最も効果的な方法の一つは、気持ちを共有すること。感情はとりわけ伝染しやすい。
    ←芸能人のコロナ死は、だからあの時最も効果的だった。

    ・電光掲示板に「現在の手洗い率」をリアルタイムで示すことで、10%から一気に90%に跳ね上がった。
    ←3、4月に都内の駅や交差点の人出率を毎日テレビで映したのは、だから最も効果的だったということなのだろう。実際一気に人出率が下がった。

    ・恐怖や強制によって行動させ影響を与えることは難しい。反対に、選択肢を与えて主体性を高めると、相手は話を率直に聞く。大切なのは、認識であり、客観的事実ではない。「今日は◯◯の日よ」と思い出させる、というやり方で行動に移させるという認知症老人への呼びかけもある。

    ・映画「サイドウェイ(2004)」で主人公マイルスが「メルローなんて俺は死んでも飲まないぞ」と言ったために、メルローの売り上げかガタ落ちした。反対に彼が好んだピノノワールはうなぎ登り。両親や影響力のある人を真似るのは、本能。

    ・ヒトは言葉を発して数万年経ち、5200年前に書き言葉が現れ、600年前に印刷技術、20世紀初頭にラジオ、50年代に一般人向けテレビ、90年代からインターネット、現代では誰もが情報を共有して他人に影響を与えるようになった。しかし、数万年間、脳の基本的な組織に著しい変化は見られない。
    ←つまり、「昔ながらのやり方」で大量の情報を処理しきれない大衆に影響を与えることは、実際可能なようだ。コロナ禍後の世界が心配だ。
    ←しかし、脳から脳へ、直接影響を与える実験は既に始まっているらしい。「第四間氷期」のように死人の脳から犯人を見つけるのはもう直ぐなのかもしれない。

  • 例えば、"地球温暖化はCO2の増加が原因ではない!"という意見について、賛同する人とそうでない人が討論している。
    それぞれが自分がそう考えるようになった知識や経験と、それを裏付ける(自分の考えにとって都合のいい)事実のデータを持っている。
    お互いが事実だと思っているデータを示して相手の考えを変えようとする。
    しかしどちらも自分の信念に反する意見には強く抵抗するか価値がないものとして無視するので考えを変えることはない。

    つまり、事実を懇切丁寧に示しても人の考えはそう簡単には変えられないということ。
    それどころか、嘘(事実を操作した快楽or恐怖の内容)で人をコントロールできるのである。
    政治家、宗教家、セールスマン、占い師、詐欺師、などなど。
    あたかも(あなたにとって都合の良い)嘘を真実のように語り、(自分にとって都合の悪い)事実は隠して巧みに人の心をコントロールしている。

    本書は、様々な面白い実験とその結果が示されていて読み飽きない。
    しかしながら、行動経済学や池谷裕二さんの著作と共通する内容も多いと感じた。

    脳(と心)の癖を理解しそれを利用することで、他人を動かす戦略を知りたい人は読む価値があると思う。
    特に他人を自分の希望通りに動かす必要を感じていない私は、他人に動かされるのを防ぐための知識として読みました。

  • レビューを書く際に、冒頭に何を書くべきか、迷うことがよくある。
    セリフを抜き出して書くべきか、いきなり感想を書くべきか。

    この本における冒頭は、
    『相手に何かを伝えるとき、自分ならこう言われたら納得するだろう、という前提を持った上で説明することは間違いである。』
    と説くところから、始まる。

    その、よくやる間違いの一つが、このタイトルでもあるように「事実をもとに伝えること」だ。
    自分にとっては当たり前のことであっても、他人からすれば当たり前でないこと、むしろその考えに否定的であることも多い。

    人は、自分の意見に近いものを積極的に取り入れて、遠いものは避ける傾向がある。
    相手に伝えるためには、自分と相手の共通の利点を探す。
    そして、自分がそれに関わっていて、なおかつコントロールできる、という感覚を持たせることが、人を動かす上で必要なことのようだ。

    あとがきの『事実で人の考えを変えられないということは、裏を返せば、事実でないもので人をコントロールできることでもあります。(P262)』という言葉は締めくくりとして、強く印象に残った。

    しかし、『人間はおそらく他の動物とは違い、意識して心の目を状況の異なる側面に向け、反射的な反応を克服する力をもっている。(P174)』

    都合のいいようにパッケージし直されてないか。反射的な反応ばかりしていないか。聞く側の自分としてはできるだけ客観的な事実をもとに、一旦止まって考え直していきたい。

  • 担当している仕事について、統計の専門家のちからも借りて各指標値を解析した結果、いろいろと興味深いことがわかったので、関係者を集めてプレゼンテーションをしたことがある。びっくりされたり感心されたりはしたのだが、いくつかの改善提案は積極的には取り上げられず、問題点は解決されないまま、ぱっとしない状況が続く。がっかりというより、キョトン、という感じが強かった。解析結果を見れば相関関係は明らかで、打つべき手ははっきりしているのに、なぜマネージャたちは決断しない? 話が理解できなかったのだろうか? 

    という経験をちょくちょくするので、この本を見逃すことはできなかった。著者は神経科学者。豊富な研究、実験に基づいて、ひとがいかに事実を受け入れないかを教えてくれる。例えば、
    ・自分の意見を裏付けるデータばかりを受け入れる
    ・データではなく、人の意見に影響される
    ・悲観的な意見より楽観的な意見を受け入れる
    ・人に頼んだほうが成功する可能性が高い、とわかっていても、自分でやりたがる
    という事実が実験結果とともに提示される。しかもこういう傾向は、一定のテストを受けて分析能力が高い、と評価された人たちのほうがむしろ強いのだそうだ。
    ・・・自覚はないけれど、ぼくもそうなんだろうか? 自信がなくなってきた。ひょっとしたら認知がずれているのはぼくのほうで、決断しないマネージャのほうが正しかったりするのだろうか?
    でもこの数値はどう見ても・・・

    ぼくは、プレゼンテーションの前に本書を読んで、伝え方を工夫すべきだったのかもしれない。方法はいくつか思いつく。例えば解析結果はこうなったが、どうすれば解決するかわからない、とマネージャにふるスタイルをとって、正解に上手に誘導して自分で考えたんだ、と思い込むようにさせるとか、聴衆にサクラを仕込んでおいて扇動してもらうとか、データの受け入れやすい部分を強調して、聴衆の感情に訴えかけるとか・・・

    でも、そういう寝技、手練手管はばかばかしいな、とぼくは思ってしまう。仮にも相当の経験を積んでいるはずのマネージャなんだから、客観的に数値を評価するのは当たり前でしょ? それができないならマネージャの資格はない・・・というか、事実以外の方法で人を動かすというのは、要は「ズル」だよね?

    なんて言っているから出世しないんだな、ぼくは、たぶん。

    出世したいあなたも、出世に興味のないあなたも、一読をおすすめする。

  • 事実を、事実と認めない人が増加している。
    科学的な根拠を重視しない傾向がある。
    どうして、そんな風になっているのかを知るには、とてもタメになった。
    確かに 1510年にコペルニクスによって、地動説が唱えられたがローマ法王ベネディクト16世によって、2008年に認められた。
    実に、500年もかかるものである。
    ダーウィンの進化論もまだ認めていない現実がある。
    なぜ、そのように事実を事実として認めなくなったのかといえば、情報の洪水によって、事実に反対する根拠を出すものもあり、頭がいい人ほど、事実を認めない傾向にあるという。

    しかし、この本は、その事実を認めない意見をどうやって、
    変えるべきかを論じているが、その展開は 脳科学に基づく
    脳の報酬系などの事例から 読み解こうとしている。
    様々な事例が、豊富にあって、読み物としても、面白かった。
    つまり、相手にどう影響を与えるのか?を キイワードにして、事前の信念、感情、インセンティブ、主体性、好奇心、ストレスの心の状態などから、意見を変える ことができるための方策を考察する。

    マシュマロ実験が、興味深かった。
    目の前にあるマシュマロ。15分待つと マシュマロが2個になるという
    将来の期待値で、目の前の1個のマシュマロを我慢できるかということだ。
    時間軸の期待がどうなっているのかということだが、
    信頼できる人が「待ちなさい」といえば、待てるが
    信頼できない人が、そう言っても待てない。
    結局は、感情が大きく判断の基準となってくるのである。
    日本の年功序列や、未来は明るいとか、我慢が人間を作るとか、日本の古い価値観が よく見えてくるような気がする。
    未来が 不確実であればあるほど、目の前のマシュマロは食べてしまう。今の時代は、我慢を美徳にしない。
    トランプのTwitterは、新しい支配の仕組みを作っている。
    突然、トランプが Twitterで発言することで、世界が動く。多数決で組み立てられていた仕組みが、たった一人の大統領のつぶやきで世界が変わる。少数が、時代を変えることもできる時代とも言える。
    感情によって、大きく動かすことが、できてきた。
    言葉から、文字となり、印刷が生まれ、ラジオ・テレビ そしてインターネット。
    人間は、コミュニケーションの武器をどんどんと獲得して行った。そんなに、手段が変化しても 人間の脳は あまり変わっていない。脳が 喜びを感じる報酬系によって、行動が判断されて行く。
    人は、支配されたり、管理されたりするよりも、
    自分でコントロールができることの方が、主体性を発揮し、幸福となる。飴と鞭でコントロールされるよりも、選ぶことができることに喜びを見出すことができるって、結構 面白い世界になったもんだ。

  • 自分の意見が、どのようなものに影響されるのか、という話。

    人はデータが自分の意見に沿っている場合に限って有効性を評価する、とか、認知能力が優れている人ほどデータを歪めて自分に都合の良い材料にしてしまう、というのも昨今の状況ではさもありなんという感じで納得。
    テストで正しい回答を分かっていても、自分以外の全員が違った回答をしていると知ると回答を修正するばかりか、半分ぐらいの場合は本来の記憶まで書き換わってしまうというのは怖かった。でも記憶って確かにけっこうあいまいだしな。たまに昔のことを全然覚えてないどころか、どんどん変な風に変えているんじゃないかと不安になることがある。

    あとはマシュマロ・テストの話が面白かった。今は確か親の経済状況の方が「自制心」より大きな影響があるってことになったはずだけど、この著者は子供の大人に対する信頼度という尺度を提示していて、実験で結果も出している。
    こうやってフィルターを変えることで、同じ実験でも全然違う結果が見えてくるわけで、科学的であることというのがいかに難しいか。「情動はこうしてつくられる」でも純粋な影響を計る実験の困難さ、間違った結論に導かれ続けた歴史が書かれていたが、この本で読んだことだって10年後には違った面が指摘されるのかもしれない。事物をどのように解釈するか、という点において、いまだ人間に委ねられた部分はあまりに多いのだなと思った。

  • 読了。
    今まで全く知らなかった知見が新たに発見されたというような驚きはなかったが、それでも最後まで飽きなく読み進められた。事例が豊富でわかりやすい読み口であった。
    そして読むことによって確実に私の中に情報や意思決定に対する応答が変わったと思う。
    一つ一つは言われてみればそうかもしれないな、という内容が筋道立てて例を伴い繰り返し言われることで頭に刷り込まれ、日常のひとときに私に警告を鳴らす。
    人は客観的事実よりも感情に意思を揺らがされやすいこと、自分の意見を補強するものを好んで見出そうとすること、他人の意見に思ったよりも同調してしまうこと。自らの思っていた理論的な決定力が著者のナラティブを伴うエビデンスによって少しずつ剥がされていく。いい体験でした。

  • 人は、自分が公平で客観的であると思っていても、非常に自分勝手な生き物なのだなあと、あらためて思った。そして自分が相手を説得するために取ってきた方法に、誤りが多いことも。
    仕事や育児で、「自分の思う通りに動かす」ということではなく、「適切な方向に促す」という意図で、いろいろ有効な手段が紹介されていて、なんとか活用したい。

    人に何かをさせたいときと、何かをさせたくないときで、異なるやり方が適切であるという点が面白かった。

    トランプ大統領のむちゃくちゃな主張が多くの人に通ってしまう描写は震えを感じる。本能的なのか計算しているのか、とにかく悪くも稀有な才能である。

  • タイトルは本書の1~2章をキャッチーにまとめただけで、サブタイトルの「説得力と影響力の科学」、原題のThe Influential Mindが本書をよく表わしている。
    著者は認知神経科学という心理学と脳科学の学際のような研究をされ、実験を通した人の行動だけでなく、その時に脳がどのように反応しているのか、なぜそのような作りになっているのかを解き明かす。
    皆で協力し合いながらも、ゆるゆるとした時間が流れ、時折起こる危険に本能的に反応していれば都合がよかった。そんな時代に長く適合した脳と付き合いながら生活していかなければいけない。脳の働きからは逃れらないが、どんな反応をしがちなのか、知っているだけでもプラスに思える。
    一般人にも分かりやすく、読みやすい翻訳も良かった。

  • 脳にはクセがあり、事実を虚心坦懐に受け入れられない。その前提とクセの内容(≒感情)を理解した上で、事実を交えた「総力戦」「両利き」の視点で人を動かす。

    <本書の内容>
    第1章 確証バイアスの話
     都合の良いデータや事実のみ受け入れがち。
     都合の悪いものには調査方法やサンプルにケチをつける。

    第2章 脳の同期〜相手に同じ景色を見てもらう〜
     感情は伝播する。脳も同期する。
     同期するほど相手を説得しやすい。(強固な事実よりも!)

    第3章 報酬で動かし恐怖で凍る(タイトルのとおり)
     PositiveでDo NegativeでDon't
     動かすにはマイナス要素、恐怖や脅しはダメ。

    第4章 主体性を持たせる
     Yes or Yesの話を科学的に解説。
     全て自主的に決めさせるのではなく、
     自分で決めるか相手に決めさせるかを決めさせることが
     主体性や権限を与えることになるわけ。
     子どもに時間割を決めさせるとやらされ勉強でなくなる。

    第5章 伝えたいことは知りたい情報とセットで
     人は不安な情報をシャットアウトする。
     一方で楽しみなことは積極的に知ろうとする。

    第6章 ストレスマネジメントによる正しい思考
     ピンチになると、すなわちストレスを感じると思考は低下する。

    第7章/第8章 社会や他者の影響
     生まれた時から他者から学習するようプログラムされた脳。
     特に"平均バイアス"や多数決は危険である。

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