犬から見た世界: その目で耳で鼻で感じていること

  • 白揚社
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  • Amazon.co.jp ・本 (374ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784826990516

作品紹介・あらすじ

犬には世界がどんなふうに見えているのだろう?
心理学者で動物行動学者、そして大の愛犬家である著者が、認知科学を駆使して犬の感覚を探ります。

8年に及ぶ研究の結果、見えてきたのは思いがけない豊かな犬の心の世界でした。

すぐれた嗅覚によって、犬は人が想像するよりもずっと複雑なことを理解できる。網膜に入る光を人間より速く処理できるため、飼い主の微妙な表情の変化に気づくことができる。声の高低を聞きとることで、飼い主の繊細な心の動きを見抜ける――人間が犬を理解している以上に、犬は人間のことを理解しているのです。

感想・レビュー・書評

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  • 読み終わって頭の中に残ったのは、「アイコンタクト」と「匂いの視覚」。
    「アイコンタクト」:人が飼い犬を良く見ているように、犬も飼い主を注意深く見ている。
    だから人が視線をそらすと、犬はその先にあるものにも関心が向く。
    「匂いの視覚」:人は主に視覚によって現在を見ているが、犬は視覚と嗅覚によって見ている。
    匂いの強弱によって新旧を感じるので現在と同時に過去も感じている。視覚だけからでは得られない距離感も「匂いの視覚」から得ている。
    私は犬を飼っていないので犬の日常を知らない。犬を飼っている人が読むともっと面白いのかもしれませんね。

  • 犬の行動学の専門家による犬の行動についての分析書。自分で行っている観察結果や他の科学者の研究成果を基に、犬の性質や行動を科学的に論じている。著者は、ソニーのアイボの開発にも携わった経験を持つほどの著名な女性博士であり、精緻な分析と説得力ある論述が展開されている。訳もよく読みやすい。
    「人間が世界を見るように、犬は世界を嗅ぐ。犬の宇宙は、複雑な匂いの層からできている。匂いの世界は、少なくとも視覚の世界と同じくらい豊かである」p88
    「(いろいろな犬にマーキングされた)消火栓に堆積している見えない匂いの山は、コミュニティー・センターの掲示板である」p105
    「犬は人間に聞こえる音(20Hz~20kHz)の大部分を聞くだけでなく、45kHzまでの音を検知できる」p117
    「(人間の目は)赤、青、緑の波長に反応する。犬は、青か緑の領域にある色彩を最もよく認識する」p157
    「犬は、人間よりも閃光融合頻度が高い(より瞬間的認識が高い。動くものに敏感)」p160
    「犬は視野が広く、周辺にあるものがよく見えるが、真ん前にあるものはそれほどよく見えない。自分の前足はおそらくはっきり焦点が合っていない」p162
    「犬には「視線をたどる能力」がある(視線での指し示しがわかる)。犬は、人間の行動から可能な限り情報を収集しようとする性質がある」p179
    「霊長類と比べると、犬ははるかに人間に似ていない。だが私たちの視線の背後にあるものに気づき、それを使って情報を手に入れ、あるいは自分たちの利益になるように使うということになると、はるかに優れたスキルを発揮する」p188
    「犬は問題解決に人間を使うことにおいて、すばらしく巧みであるが、人間がそばにいないときに問題を解決するのは不得意である」p210

  • あまりにも身近にいるため、ついつい擬人化してしまったり、わかったつもりでいたりしがちだけれど、当たり前のことながら、全く別の種であるし、別の行動原理があり、別の視点がある。何を考えているかなんて、全く分からない。それでもお互いに分かりあいたい、寄り添いたいと思う気持ちは種を超える。彼らは私たちをじっと観察している。私も彼をしっかり見つめよう。
    あれ?これは別に、人間同士でも言えることか・・・。

  • 犬と楽しく暮らしたことがある人なら誰しも同意するだろう。犬は人のよき友となる。

    だが一方で、人が犬を「よく」理解してきたかと問えば、必ずしもそうとは言えない。
    先祖である狼としての側面が強調され過ぎることもあるし、逆に過度に擬人化され過ぎることもある。
    本書の原題は”Inside of a dog”。
    犬であるとは一体どのような感じであるものなのか。犬がどのように外の世界を感じているのか。
    犬の行動学の研究者でもあり、自身も犬を飼っている著者が、科学者の冷静な視点と飼い主の温かいまなざしを持って、考察している。

    著者の見方は、二十世紀初頭の生物学者、ヤーコプ・フォン・ユクスキュル(著書に『生物から見た世界』など)が提唱する「環世界(ウムヴェルト)」に基盤を置いている。
    たとえばマダニには視覚・聴覚が存在しないが嗅覚、触覚、温度感覚が優れている。ダニはひたすら、温血動物が発する脂肪酸の匂いを追い求め、暖かい方に向かい、「血」という食事にありつく。たとえ人とダニが同じ森の中にいたとしても、両者が感じる世界はずいぶんと違うことだろう。
    この見方を、最近の研究とともに、犬に当てはめてみたらどうだろうか、というのが本書の主題である。

    犬は嗅覚が優れている。犬がシャンプーを嫌うのは、自分の匂いが消され、(犬にとっては)刺激の強い匂いを付けられるからでもある。訓練された犬は時間の経過による時間の変化も感知する。病気(例えば癌)に罹患した人を犬に「嗅ぎ当てさせる」訓練を行っている研究者もいるという。これは産生される化学物質の組み合わせが疾患によって特徴的であるためだ。
    犬はまた、嗅覚を補助する鋤鼻器を持っている。主にフェロモンを感じ取るもので、雌の尿に引き寄せられるのはこの器官の能力による。

    犬の視覚はそれほど優れているわけではないが、「閃光融合(フリッカーフュージョン)」頻度は人よりも短い。これはいわば、目が「スナップショット」を撮影できる頻度のことで、人は毎秒60コマ分を区別できるのに対して、犬は70~80コマを認識する。フリスビーをキャッチできる能力はこれによる。犬は、ほんの何十分の1秒分だけ、世界を人より早く見ているのである。
    著者が犬同士の遊びを撮影したビデオをゆっくりと再生してみたところ、犬たちは遊びに誘う仕草を遊びの合間に繰り返していたという。人には見えない素早さで。

    こうした五感のほか、行動学の観点から、仲間と同じ行動をする「模倣」「刺激強化」、飼い主が何を考えているかを感じ取る「心の理論」といった興味深い話題が扱われている。
    また、犬の体高に関する考察もおもしろい。高さ1m数十cmから見る世界と高さ20~30cmから見る世界は確かに違っていることだろう。

    犬が使っている感覚と人が使っている感覚は、いささか異なっている。発展させてきたものが違うということは、同じ環境にいても感じるものが違うということだ。それでもなお、犬と人が仲良く暮らしているというのも不思議なことだ。

    本書が与えてくれる楽しみは、本書に記載された事実を知ることだけではない。
    あなたがもしも犬を飼っているのなら、本書を読んだ後、犬と散歩に出掛けよう。鼻をうごめかしている犬・仲間の犬に会った犬・草むらに向かって狙いを定めた犬が、今、何を考えているのか、何を感じているのか、想像してみる喜びもまた、本書がくれる贈り物である。

    あなたの犬と、楽しい暮らしを。


    *著者によれば、動物研究において、往々にして、被験体は2~3頭であるという。少数の個体を研究して、それが種の代表であるとするわけだが、これは確かに危なっかしい。

    *この著者のパートナーが『そして、僕はOEDを読んだ』のアモン・シェイなのだそうで。本と本はときに、思わぬ線で結ばれるのだった。

    *『ステーキ!』でも言及されていたテンプル・グランディンにも少し触れられていた。そのうち読んでみよう・・・。

  • ブディアンスキーの「犬の科学」にユクスキュルの「生物から見た世界」(日本語のタイトルは、著者の考え方がこれに基づいていることから、それになぞらえてつけられたものらしい。原題は「Inside Of A Dog」)のエッセンスを加え、より生物学的動物行動学的な側面の考察を深めた感じの本書。
    加えて、テンプル・グランディンやオリヴァー・サックス、ローレンツの著作、ロシアのベリャーエフのキツネの実験、ハーロウの実験、ネオテニーとしての犬など、見知ったことがらが多く引き合いに出されていたので非常に入り込みやすかったが、正直なところやや翻訳が読みにくかったかな…。
    理路整然としていて、徹底的に公平に科学的に犬の世界を垣間見ようと努めた文章だったので、余計にそう感じられたのかもしれないけれど。

    非常に興味深かったのは、犬にとっては、嗅覚というのが人間の視覚にあたる第一のもっとも頼れる感覚であり、それによって世界の捉え方が全く異なる、時間すらにおいで測る、というところ。犬の鼻が濡れている理由なんかにも触れられていて面白い。
    また、いわゆる認知心理学でいうところの「心の理論」の犬にかかわる考察も非常に面白かった。具体的な実験の結果を見ると、なるほど、我が家の犬でも思い当るところがある。

    長きにわたり、学者としての立場から犬の行動の観察・研究を続け、そこから導き出された結果は、犬は人が思う以上に「人に注目し観察している」ことであり、それこそが犬が人間のパートナーたり得た理由であり原点である、ということだ。
    人間が犬と全く別の生き物である以上、彼らの世界をそのままに知ることは難しい。それでも、このよきパートナーを理解することを放棄せず、犬は犬だからと擬人的に捉えるのを過剰に恐れることなく、かといって必要以上に人間の偏見を押しつけることなく、持てる限りの想像力と愛情で、犬を観察してみよう、犬の世界を想像してみようよ、そんなふうに締めくくられている。

    やっぱり著者は学者である以前に、パートナーとしての犬をこよなく愛しているのだな~。

    そして私はというと、犬って意外とすごいんだ!と驚く同時に、意外とダメなのね、やっぱり、とも思ったのでした…。
    まあ、ダメっぷりは、我が家の駄犬からも容易に想像してはいたけれども。それも含めて、仲間としての犬の存在に日々感謝し、幸せをもらっています。

    • ぽんきちさん
      これ、予約待ちです。ますます楽しみになりました(^^)。
      これ、予約待ちです。ますます楽しみになりました(^^)。
      2012/08/09
    • bokemaruさん
      ぽんきちさん
      花丸&コメントありがとうございます!
      私の稚拙なレビューでは、なかなか読んで得られた感動をうまくお伝えできないのがもどかし...
      ぽんきちさん
      花丸&コメントありがとうございます!
      私の稚拙なレビューでは、なかなか読んで得られた感動をうまくお伝えできないのがもどかしいのですが…。
      これを読んで、ますます犬が好きになりました(^-^)
      2012/08/10
  • 犬を理解することは難しい。犬を人間の概念や感覚の差分で当てはめるものではない。犬の中に入り込むのだ。
    そういう意味で、「擬人化」した話が多い中で、認知科学の視点で「犬から見た世界」を掘り下げた著書に出会えたことがうれしい。題名だけで買ってしまった。

    インターフェースとしていわゆる五感の犬ならでの特有さを掘り下げ、人間とは違う環世界を想像してみる。例えば主な感覚が嗅覚であることや嗅覚というものが時間の変化までも表現しうること、視覚の役割も人間とは違うこと、などなど。さらにフィードバックとして言葉がないことの代わりに様々な形で表現をする。
    一番気に入ったのは、犬は人を見て情報を得る、というところだ。そこが大きく他の生き物とは違うところ。

    でも、どんなに犬の環世界を想像してもしょせん人間の理解できる範囲でしかわかった気になれない。でもそういうアプローチは大切。犬だけじゃなく他人でも、ノミでも、地球でも。。。

  • 2024年3-4月期展示本です。
    最新の所在はOPACを確認してください。

    TEA-OPACへのリンクはこちら↓
    https://opac.tenri-u.ac.jp/opac/opac_details/?bibid=BB00251835

  • 5年前に犬を飼うにあたり結構な数の本を読んだが、犬と生活して得た知見から考えると、「犬そのもののことを知りたい」場合は本書が一番おすすめできます。

    自分の犬について書かれているパートなど特に冗長なのですが、犬を飼ってる方にとっては「あるある」な事例です。
    本書には犬の行動がどのような意味なのか書かれています。犬という人ではない家族を理解する近道です。

  • 擬人化ではなく、可能な限り人間の考え方を排除した「犬から見た世界」を科学する

  • 犬について勉強しようとしたら、これを読めば十分じゃないかなと思われます。
    ただ、若干の読みにくいさはありますけどね。

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著者プロフィール

【原著者】アレクサンドラ・ホロウィッツ(Alexandra Horowitz)
著書にニューヨークタイムズ・ベストセラーの『Inside of a Dog:What Dogs See, Smell, and Know』(犬から見た世界 その目で耳で鼻で感じていること:白揚社)、『On Looking』、『Being a Dog:Following the Dog Into a World of Smell』(犬であるとはどういうことか その鼻が教える匂いの世界:同)。コロンビア大学バーナード・カレッジのシニアリサーチフェローで、犬の認知研究室を主宰している。私生活では犬のフィネガンとアプトンに所有され、猫のエドセルに許容されている。

「2021年 『犬と人の絆 なぜ私たちは惹かれあうのか』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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