米軍再編

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  • Amazon.co.jp ・本 (399ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784828411897

作品紹介・あらすじ

在日米軍と基地の将来を考えるための「軍事的現実」が堂々400ページ。

感想・レビュー・書評

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  • 現在、米軍の最重要課題であるtransformationについて。

  • 米軍の再編問題は日本の国防にも関係する問題です。しかし、どうにも断片的な報道があるだけで、その全貌を理解しにくい状態にありました。そうした現状に不満を覚えて居られる方はこの本をお読み下さい。世界規模で行われている米軍の再編を分かり易く解説してくれています。

  •  米軍再編の全貌「 具体的な脅威としては、イスラム急進主義、北朝鮮やイランのような米国が 「無頼国家 (ローグ・ステーツ)」 と呼ぶ国々が核兵器を持つようになること、そして中国の台頭が考えられていた。これらの脅威、ないしはライバルの出現に対して、米国がその利権を損なわないように、そして世界をリードし続けるには、どのような米軍の構成と配備が必要だろうかを研究し実施するのが、「グローバル・ボスチャー・リビユー(GPR)」 の目的である。
     このため米国防総省は二〇〇一年八月から、全世界における米軍部隊の配備を検討するGPRに着手した。
     ところがその直後九月十一日に同時多発テロ事件が起こり、米国はテロとの戦いと米本土防衛に、より大きな比重を置くようになる。ここからGPRでは、将来米国にとってどのような脅威が予想され、またそれが発生する可能性の度合と、脅威の大きさはどの程度かを把握する研究から開始された。まず「2004戦略計画指針(SPG)」と呼ばれる秘密の研究作業により、将来、どんな脅威が予想されるかが導き出された。それを基に、二〇〇四年春からは各々の脅威に応じたシナリオの研究が実施され、その結果、最も発生の可能性が高く、また米国の安全保障にとっても脅威となる「破滅的な」ものから、発生の可能性は低いが脅威度は大きい「妨害型」の脅威、発生の可能性は高いが米国にとっての脅威度は低い「非正規型」の脅威、そして発生の可能性も脅威度も低い「伝統型」の脅威という四つに分類された。そして、これらの脅威に対抗するために必要な米軍の戦力を規定するQDR莱軍戦力構成に関する四年次見直し)2005計画が、二〇〇四年二月四日から着手されている。
    また二〇〇二竺月からは、米本土の基地を整理統合する計画「BRAC2005」が開始された。
    米本土の基地にはなお二五パーセントの余剰があり、それらを閉鎖することで巨額の予算を削減できる一方、在外米軍部隊を削減して米本土に引き揚げるとなると、その引き揚げ場所を先に決めておかなければならないからである。こうして、米国内のBRAC2005による米国内の基地整理と、GPRによる在外米軍部隊の再編成とは並行して行われる。また在外米軍部隊の縮小、増強、移転などには、その外回国家(ホストこ不イション)の合意が必要だから、この外交的協議も同時並行で進めねばならない。このGPRによる在外米軍の再編成が完了するには八〜一〇年を要すると見られている。
     ラムズフエルド国防長官は米軍の能力として、米本土の防衛、全世界四カ所での抑止横能の発揮、二カ所の地域紛争における敵の撃破、そして、その内の盲所において、敵政権の打飼と国家再建を含む決定的な瞼利を収める、ないしは二カ所での戦闘と同時並行的に小規模軍事作戦が遂行できることを求めた。「1〜4−211戦略」と呼ばれる。
     しかし、抑止という概念が棟能するのは、在来型の国家に対するものであって、テロリストのような相手には効果を発揮しない。このため、先制攻撃を含むあらゆる脅威に対抗できる柔軟な戦略をとれるようにするというのが、9・11同時多発テロ以後の米軍戦略の
    基本となった。
     さらにラムズフエルド国防長官は、敵を撃破するという米軍の戦闘能力において、世界のいかなる場所にも十日以内に所要の米軍戦力を展開し、三〇日以内に敵を撃破、その後三〇日以内に次の戦闘場所に展開できる態勢を整えられる「10―30―30目標(オブジェク
    ティプ)」の達成も求めている。
     これに伴って、在外米軍部隊とその基地・施設も大きな変化が撃」るようになった。新編成の部隊が海外配備になる一方、二〇〇四年時点でイラク、アフガニスタンをのぞいて、なお」八万人近い米軍兵力が海外に配備されていたが、そこから六〜七万人が削減される。削減の中心となるのが欧州で、削減分の三分の二、四〜五万人が米本土に引き揚げることになる。
    一方、全体的に米軍の能力を高める、あるいは作戦能力を向上させるための対策も実施される。米軍を迅速な展開ができる部隊に変身させるとともに、量よりも質で、つまり「所要の能力」を持つ米軍部隊に変化させる。これが米軍の「トランスフォーメーション」と呼ばれるもので、ステルス能力、遠距離精密攻撃能力、長距離の迅速展開能力などが基本となる。また運用に当たっては、従来の太平洋軍とか中央軍といった地域的区分による部隊の配備、指揮方式を改め、米軍部隊を所要の作戦に柔軟に対応できるように 「人工の壁」を撤廃する。そして、何より重要なのが、同盟国、友好国との連携を強化して、でき
    るだけそれらの国の協力支援、施設の利用を行うというのが基本方針である。
     そのため在外米軍基地は、戦略展開を支える拠点となる基地、予想される脅威に対抗するための主要作戦基地、必要な時に展開ができる前方展開施設、米軍装備と物資を事前に備蓄しておく施設、そして米軍艦船の寄港や空輸・展開の中継基地、あるいは訓練基地を提供してくれる安全保障協力対象国(地)に区分される。同時に、外国の領土にある基地を利用する度合をできるだけ減らすために、洋上の発進基地、事前の物資集積場所、移動・輸送手段を活用する「シー・ペイシング(SeaBasing)」構想が並行して進められる。
     この区分から、日本はイギリスと並んで、米軍の全世界展開を支える最も重要な戦略展開拠点(PPH)と位置付けられる。他にこのような重要な拠点と見なされるのは、太平洋のグァム島(米国の準州)とインド洋のディエゴ・ガルシア(イギリスから租借)だけである。日本はそれだけ戦略的に重要な位置にある莱本土から見て、イギリスが大西洋の反対側にあるように、日本は太平洋の反対側にある)と同時に、価値観が近く、政治的に安定し、高度の技術と経済力を持ち、既に相当な規模で米軍基地のインフラが存在するという条件を有しているからに他ならない。すなわち米国は日本を、米軍の全世界展開における、太平洋を越えた最重要前進拠点の一つと位置付けている。」
    インド洋のディエゴ・ガルシアアンドというインド洋にあるかどうかさえまったく知らない島にある軍事基地の詳細までが記してあって、ここまで調べ上げる労力に頭が下がる。インド洋のディエゴ・ガルシア、グアム島のアンダーセン空軍基地、グルジア、バルカン、トルコ、タイ、シンガポール、サイパン、シンガポール、オーストラリアなどなど、米軍の再編を、文字通りグローバル、世界の軍事再編として捉えた大著。そうではあるが、かなり読み易く、平易に書かれていること兵器の写真、米軍の戦略拠点(PPH)が地図によって明示されているので、再編状態が手に取るようにわかる。日本と米軍の関係だけを見ているとまったくその本質を見失うことになる。米軍再編はラムズフェルド国防長官による、軍隊の「プレゼンス」を前提とした旧陸軍の思考解体であり、国際的、グローバルな軍事は配置のリストラクチャリングであるということが分った。脅威のベースから、攻撃能力への思考の転換でもあるが、軍事経費の有効効率的なかけ方を軍備として実践しているところなのである。韓国、英国、独逸とその再編プログラムは、終結しようとしているが、ただ日本だけは、政府の政治的意思が、不明瞭なため米国の不興さえかっている。これは、おそらく米軍再編の本質を政府側が見えていないことに起因するのだろう、と思う。また、その本質は、日米安全保障条約の「片務性」に大きく規定されたまま、これまで防衛について日本の主権国家としてのあり方が、論議されたこなかったのも大きな制約原因だったのではなかろうか。日米安全保障条約の片務性を双務契約に変更するとこによって、防衛についての日本の米国からの開放が生まれるのだろが、これについて、歴代の首相の決断や説明責任が果たされず、まったくなされないまま、日本国憲法の問題に摩り替えられたまま、今日に至っている気がする。ともあれ、江畑はこのことについては論じてはいないが、片務性から双務性の議論は、戦後一貫してタブーであり、これからもタブーであるのだろう。
     さて、江畑謙介の労作は、米軍再編のグローバルの本質を詳細に論じながら、大きな前提を分らせてくれる。以下、引用。
    「 米軍事戦略におけるグアム島の価値
     米国の軍事戦略においてグアム島の価値は、まずその位置にある。前述のようなアジア・太平洋の主要地域との位置関係の他に、将来、軍事的対立が生じる潜在的可能性がある中国からの(弾道)ミサイル攻撃を受け難い距離的な特性も有している。
     中国からグアム島を攻撃するためには最低三〇〇〇キロの射程が必要とされる。中国が保有する弾道ミサイルで、ぎりぎりグアム島まで到達できる可能性がある射程を持つのはCSS−2(東風3)型(射程二八〇〇キロ)だけで、しかも、現在CSS−2は旧式化して退役してしまったか、退役しつつあると推測されている。一九八七年に存在が確認された東風21弾道ミサイル(CSS−5)は、潜水艦搭載型の巨浪1型TJll)を陸上発射型にしたもので、射程は一八〇〇キロ、改良型の東風21甲(21A型)で二〇〇〇キロである。一九九〇年代後半に射程が二七〇〇キロに延ばされた東風21乙(21B型)が開発され、さらに三二〇〇キロの東風21丙(21C型)が登場したともいわれるが、確認はされていない。これらの改良型が前の型に加えて配備されているのか、それとも部隊の数(発射数の数)は変らず、ただ新型に交換されているのかも分らない。東風21型の配備数五〇基とする説が主流で、その数が増えている様子がない。本当のところは分からないが、五〇基という数が真実に近いものであるなら、東風21型が通常弾頭を装備している限り、命中精度を高めてもその攻撃能力、従ってグアム島に対する軍事的脅威はそれほど大きなものではないだろう。
     中国はグアム島に届く射程七〇〇〇キロのCSS−3 (東風4)、射程一万三〇〇〇キロのCSS−4 (東風5)、新型の東風31 (射程八〇〇〇キロ) なども保有している。しかし、これらはいずれも戦略核攻撃用のICBM (大陸間弾道ミサイル) であって、元来、配備数が少ない上に、グアム島に核弾頭を撃ち込むとなれば、米本土からの核ミサイルの報復攻撃を覚悟せねばならない。
     このようなことから、米中衝突という事態になったとしても、お互いに本土を戦略核で攻撃するような状況でない場合、グアム島に通常弾頭のミサイルを撃ち込んで、米軍の軍事能力を削減するとか、米国にその軍事力の行使を (弾道ミサイル攻撃の脅迫によって) 思いとどまらせるという戦術はとれない。つまり、米国の方は軍事的選択肢が狭められる心配がない。
     さらにアンダーセン空軍基地から、平壊は一八三七海里(三四〇〇キロ)、台北は一四七九海里 (二七四〇キロ) で、いずれも空中給油を受ければ戦闘行動半径内にある。これは、いざとなれば北朝鮮や中国からの攻撃を懸念せずに、アンダーセンから戦闘機による攻撃ができることを意味する。二〇〇六〜一一年度の米国防支出計画により、F−15戦閲機の後継となるべきF/A−22ラプター戦闘攻撃機の調達数が大幅に削減される可能性が出てきたが、F/A−22がアンダーセンに恒常的に配備されるのではなくても、必要とあれば米本土から飛来してアンダーセンから東アジア方面への作戦が可能というのは、作戦計画上の大きな柔軟性を生み出すものとなろう。またグアム周辺は太平洋で、超音速飛行に何の制限もなく、そのまま、次に述べるFDM射爆場で実戦的な実弾訓練を実施できる点も大きな魅力である。
    こうした地理的な長所に加えて、グアム島の近くには、太平洋方面
    では貴重な実弾訓練場がある。グアムから北約二四〇キロ、サイパン畠に近い北緯」六度〇一分、東経一四六度〇四分の場所にあるファラドン・ド・メジニーラという無人島を中心とする射爆場で、FDMと通称される。島は長さ約五キロ、幅八〇〇メートルほどの細長い形をしていて、面積〇・八平方キロ、最大標高は八五・五メートルで、一九七六年から北マリアナ諸島連邦(米国自治領)政府より借用している。期限は一〇〇年、すなわち二〇七五年まである。
     空軍だけではなく、海軍の空母艦載機による実弾頭か訓練や水上艦による艦砲射撃訓練にも使用され、その使用率は月平均五日程度といわれる。米海軍は海兵隊地上部隊の訓練用に、島の上で野砲、迫撃砲、対戦車ミサイルの訓練を実施しようとしたが、北マリアナ諸島連邦政府の承認を得ることができず、また現時点では島には大量の不発弾がそのままになっていると推測されるため、人の上陸は禁止されている。」

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