日本教の社会学

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  • Amazon.co.jp ・本 (365ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784828419237

感想・レビュー・書評

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  • 今は亡き2人の評論家の日本に関する対談。元々は1981年頃の本だが、今にも通じる論点が多々ある。
    現代日本は民主主義国家でもないし戦前は軍国主義でもなかった。日本の組織には規範の二重構造が存在する。日本教とも呼ぶべきものが日本人の根底に存在し、ドグマとしての空気や実体語と空体語がある。中国にはない本心というものの分析や、プロテスタンティズムと日本の労働倫理の違いなど。

  • 戦後の一番の問題は、なぜこのような規範に従っているか考えないこと。

    日本人が知らずうちに強く信じ込んでいる”日本教”を構造神学から読み解く。日本教には教義(組織神学)が存在しない。古来より天変地異が多かった日本では、歴史感覚に乏しくつねに「今」だけで、その瞬間ごとに生まれる「空気」が教義となる。情緒における美的感覚が即規範化し、「空気」を通してみた事実である”実情”に対して
    行動することが正直であるとされる。事実を事実として言うのは嘘つき、事実に対して行動すれば不正直。情緒規範であるため論理は通用せず、人の外面だけでなく内面の規範まで求められることになる。事実に対応する「実体語」を機能させる、「空体語」に対して行動することが規範化される。天皇を「実体語」として尊敬することは意味をなさない。戦前もまた天皇制ではなく、天皇信仰は空気によるものであった。

    本書は1981年のものであるが、冒頭で「1980年代というのは、日本の骨組みそのものにガタが来ているのではないか」と予言しており的中している。

  • 1991年8月 講談社[日本教の社会学]
    水と空気
    実体語と空体語

  • 途中で断念だが次回よむことはないので既読とした。

  • 日本人の思考の根底に佇むものを取り出して日本教と名前をつけ、外国(主にキリスト教圏)とどう違うのか比較されているのが面白かった。また、日本教がどのように成立してきたのか考察されているのも興味深かった。
    ただ、日本教の問題点の解決策がなかったのが残念。そもそも、そういう視点で書かれてはいないのかもしれないが。
    浅見絅斎、崎門学

  • 私は長らく山本七平を嫌悪していた。10代後半で本多勝一を読んだためだ。1980年代といえばまだまだ左翼が猛威を振るっていた頃である。『貧困なる精神』で「菊池寛賞を返す」(『潮』1982年1月号)を読んだ時は「これぞ男の生き方だ」と友人のシンマチにも無理矢理読ませたほどだ。その後、私は『週刊金曜日』を創刊号から購読し、首までどっぷりと戦後教育の毒に浸かりながらいつしか50歳となっていた。四十で惑いの中にいた私が五十で天命を知る由(よし)もない。
    https://sessendo.blogspot.com/2018/10/blog-post_6.html

  • 『日本教の社会学』読み終えた。『空気の研究』で知られる山本七平氏の実体語と空体語をキーフレームに、なぜ戦後日本は民主主義国家ではなく、戦前日本は軍国主義国家ではなかったのかを解き明かす。2人の宗教・神学史の構造的理解の深度がエグい。知の巨人対談。

    日本教の教義としての「空気」p137

    事実と規範との無媒介的癒着は、もう近代だとか前近代だとかいうんじゃなしに、日本社会の驚くべき特徴ですね。p148

  • 日本は不思議な国で、
    学校教育に宗教を教えることは、あまりしない。
    一種タブー化している。
    また、宗教に対して、複雑な感情を持っている。
    学校教育に、戦前国家神道を組み込んで、
    結果失敗したと思っているからだ。

    ただ、宗教と教育というのは、
    切っても切り離せないモノだということを、
    学んでいない。というか、意図的にやっている。

    ここら辺が、現在の日本の教育の
    「根本的なちぐはぐさ」を生んでいるかもしれない。

    宗教なんて、よくわからない。
    宗教なんて、恐ろしい。
    それが「普通」だと思っている。

    宗教は個人に規範と道徳を与えるが、
    多くの日本人にはそんなものはない。
    小室氏は、それをアノミー、無連帯と呼び、
    戦後、日本人が、バラバラになった有様の病巣を、
    そこに求めている。

    個人、個人が繋がりたくても、その手段が、
    多くの日本人にはない。
    ただ、「バカ騒ぎする」ことだけが、繋がれる道具だと思っている。

    じゃあ、「宗教」を持てばいいかというと、問題はそれほど単純じゃない、
    日本人は、みな「日本教」の信徒であるからだ。
    これが一種より深刻な問題として、日本人にのしかかっている。

    じゃあ、いったい日本人は、何を基準に行動しているかというと、
    明確なものはない。
    日本人の若い人が、世界的に見て、
    異常な不安を抱えているのは、誰でも知っているが、
    その原因にあるものが、
    行動規範というものが、日本にはないからだ。

    何が良くて、悪いのか、そんな当たり前なことも、
    多くの日本人からすれば、「わからない」のである。
    これは、考えてみれば、非常に恐ろしい。

    もっと恐ろしいのは、
    何が良いのか、悪いのか、その時の「空気」で決める。
    日本型の集団犯罪の動機を見ると、個人の動機が見えにくい場合が多々ある。
    その時、その場のノリでヤリマシタという場合がかなり多い。
    この意味で言えば、誰だって、犯罪者になりえる。

    「あの人もやっていたから、私もやりました」
    「あの空気に逆らえず、ずるずると、やってしまいました」

    空気が日本を支配し、日本人は、空気を読むことを、
    24時間行わないといけない。

    山本氏は、日本人は皆、空気を読むことを根本教義とする
    「日本教」の信徒という。

    つまり、「空気」を読めることが、日本人の日本人たるゆえんで、
    読めない人は、日本人とは言えなくなる。

    その空気を読むことを、コミュニケーション能力と言い、
    その能力の高い低いが、学校や企業の集団、組織で「うまくやる」、
    最も重要な能力の一つとなっている。また、日本における就職も、
    専門知識を重視されるわけでなく、組織、集団の中でのコミットメントを、
    重視される。

    当たり前だが、集団や組織を活性化・発展させる上で、
    集団や組織が目指す「目的」は非常に大事になる。
    その目的は、広い意味で、集団や組織を形成する個人へ「利益」として、
    還元されるべきものだろう。

    しかし、日本では個人の「利益」よりも大事なのは、
    「空気」を読むことで、個人の利益よりも、
    集団、組織の維持を「目的」としている所に、
    数々の悲劇の種が隠されている。

    少なくない人が、日本社会に違和感を持つときに、
    この「空気」を読むことへの嫌悪感を持つ。
    なぜなら、それは、全く論理的ではないからだ。
    合理的な思考をしていれば、少なくない人が疑問を持つ。

    日本での人間関係は常に緊張状態を強いられ、
    多くの理不尽を生んでいる。
    緊張したくなければ、徹底的に空気を読んで、
    組織、集団に染まらなければいけない。

    個人の意見や論理的整合性は、あまり必要とされていない。
    あくまでも、個人に求められるのは、組織・集団を維持する
    ための「空気を読む」能力である。

    今、日本を滅ぼそうとしているのは、
    この日本教かもしれない。
    日本は、歴史上、外部からの圧力によって変化したが、
    変化の仕方は、全く変わらず、その時の「空気」によるものだった。

    現在、起こっている社会的変化は、
    おそらは、多くの日本人を破滅と導くだろう。
    その兆候は、噴出している。その問題を外に求めるのは、
    やはり、日本人らしい行動様式かもしれない。

    先の大戦で、空気を多分に読んだ国民は、合理的な行動をして、
    結果、世界の文脈では、破滅的な不合理な行動をした。
    そして、取り返しのつかない犠牲を生んだ。
    戦後も、その’文脈と根本的には変わっていない。

    今も、その時の空気と同じことが日本で発生している。
    ばつが悪いのは、国民自身が、率先して、空気を読んで、
    破滅に行こうとしていることだ。
    これだけ、クレージーな国は、
    世界にはあまりないだろうと思う。

  • 日本人の特性を社会学と宗教学の異なる視点からアプローチしている。非常に面白い一冊です。是非読んで頂きたい。

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著者プロフィール

1932年、東京生まれ。京都大学理学部数学科卒。大阪大学大学院経済学研究科中退、東京大学大学院法学政治学研究科修了。マサチューセッツ工科大学、ミシガン大学、ハーバード大学に留学。1972年、東京大学から法学博士号を授与される。2010年没。著書は『ソビエト帝国の崩壊』『韓国の悲劇』『日本人のための経済原論』『日本人のための宗教原論』『戦争と国際法を知らない日本人へ』他多数。渡部昇一氏との共著に『自ら国を潰すのか』『封印の昭和史』がある。

「2023年 『「天皇」の原理』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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