「渡良瀬」前日譚というふうに読めるけれど、作品単体だとどうだろう。ここまで電気工事にのめりこむ主人公を理解しきれない部分はあるかもしれない。表題作の「ショート・サーキット」は(短絡事故という意味らしい)、「ア・ルース・ボーイ」と「渡良瀬」のちょうど真ん中に位置する作品で、どっちにも振れ切ってない曖昧な時期を描いたものだという印象がある。もちろん私小説だという認識で作者の背景ありきで読んでしまえば気にならなくなるし、知れて嬉しい。
ふたつめの話である「プレーリー・ドッグの街」がいちばん好きだった。主人公と電気工仲間と家族以外に娼婦という要素が入ってき、その交流を読んでいくのがたのしい。そしてかなしい。読んでいるときに自分の感情がどう動くかをはっきり見れたのがこの作品だった。ただこの作品にそれ以上はないのだろうけれど。