カニバリズム論 (福武文庫 な 202)

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  • ベネッセコーポレーション
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  • Amazon.co.jp ・本 (288ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784828830551

感想・レビュー・書評

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  • (2023/09/07読了分)法月綸太郎「カニバリズム小論」で引用されていたのを目の当たりにして再読。p.75の一節は、彼我を別物として、悪を悪として安易に断罪して思考停止するはたやすいが危険、というように受け取った。これはまた現代にも活きる思想と受け止めた。◆私は、民衆の「性善説」を嘲弄はしない。しかし、「性善説」の神話を民衆に押しつける「良識」の「屎リアリズム」は嫌悪する。絶対的な「性善説」はありえず、また、絶対的な「性悪説」もありえない。すなわち、われわれのすべては彼らと同じであり、それゆえに、われわれは、いつでも悪や愚行を犯す蓋然性を具えている。p.71◆スウィフト「奴婢訓」岩波文庫、開高健「最後の晩餐」、塚本邦雄「檻」あたりは読んでみたく思った。(2017/04/23読了分)何年ぶりかの再読。言いたいのは、カッコ付きの「良識」。自分たちが良識だと信じて止まない、良識ぶった良識なんかくそくらえ、という叫びではないのか、と思った。カニバリズムを題材として掲げつつも。過去のカニバリズムが起きた事件を取り上げ、その経過を描き、生き残ったものがどう遇され、裁かれ、あるいは受け入れられたのか、もし日本で同じことが起こったら、どう受け入れられるか、自分が同じ状況に置かれたらどうするか、ということも含めて。清代に書かれた「鏡花縁」は手に取ってみたく思った。また、副題に、一つの三島由紀夫論のために、と付けながら、一語も三島由紀夫に触れなかった「王国維とその死について」はやられた感があったが、国家への対し方に通ずるものがあったのでは、と解題に触れられ「社会上の習慣は許多の善人を殺し、文学上の習慣は許多の天才を殺す」(王国維)

  • 借りたもの。
    洋の東西における食人嗜好の違いを比較しながら、禁忌であり、飢餓、宗教的倒錯とエロティシズム、そして究極の美食である事を指摘。
    西洋と東洋における血の概念(西洋は切りつけた時の流出・噴出するイメージ、中国は解剖学に基づいた体内を循環するもので、粘質である)の違い等を例に挙げ、中国における人肉は「肉」すなわち「モノ」と見なす現実的な視点であるという。
    故に中国では人肉嗜食が食文化に成り得たと。
    “食べなければ死、食べれば悪という絶体絶命の深淵に置かれた人肉は、なんと精神的な存在物であることか。(p.76)”
    それは食文化から迷宮としての人体への言及に至り、狂気や倒錯、退廃的な世界を、主に中国の文学から垣間見る。

    この文学エッセイは世界、特に中国の残酷物語についてではない。
    その根底には、世間の「良識」を疑えというメッセージが込められている。

  • 直接カニバリズムに関わることが書かれているのは第1部。喫茶店でコーヒー飲みながら読んでいたら気持ち悪くなった。やはり気持ち悪いものは気持ち悪い。中盤以降の2・3部は中国の魔術、マゾヒズム、国民性、等の怪奇事情。ハキハキした明解な文章でわかりやすい。個人的には「失敗した」天才青年、王国維の悲劇が印象的。

  • 1970年代の本。

    カニバリズムという観点から中国文学や中国特有の思考を論じていく。

    新奇な説が多くあり非常に面白かった。
    このような思索ができれば、きっと物事を考えるのが楽しいだろうなぁと思った。

    中国の纏足文化はエロスの対象が育ってきた環境に影響を受ける例として重要。

    また、美と徳は同居しないという説には首肯。

    さらに、著者が説の論拠として幾度か使用している単語家族という漢字の語源による当時の思想推測は興味深い。

  • 2009/3/5購入

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著者プロフィール

1933年生まれ.
1956年,北海道大学文学部中国文学科卒業.
北海道大学文学部助教授.
主 著:
砂漠に埋もれた文字—パスパ文字のはなし (塙書房,1971)
海燕(長編小説) (潮出版社,1973)
中国人の思考様式—小説の世界から (講談社,1974)
カニバリズム論 (潮出版社,1975)
悪魔のいない文学—中国の小説と絵画 (朝日新聞社,1977)


「1979年 『辺境の風景 日本と中国の国境意識』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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