エミリーに薔薇を (福武文庫 ふ 401)

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  • Amazon.co.jp ・本 (295ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784828830780

感想・レビュー・書評

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  • 同じ訳者・同じ書名・同じ8編が、先日中公文庫で復刊され、しかも中上健次の講演「フォークナー衝撃」他一篇を含む、とのことなので勿論欲しいが、税込1100円……ぐぬぬと歯ぎしりしながら、110円で買った福武文庫で読んだ。
    なぜなら、何年も何年も前から池澤夏樹が出す出す言っていたマルカム・カウリー編「ポータブル・フォークナー」が、この秋ようやく出ることになって喜んでいたら、なんと予価税込み6490円……ぐぬぬPART2……先に備えて出費は避けておこうと考えた次第。
    8分の4は新潮文庫の短編集で既読だし。

    で、この4作「正義」「女王ありき」「過去」「デルタの秋」、なかなか苦戦した。
    特に、今までの読書ではあまり目にしなかった(はずの)マッキャスリン家と、その姻戚のエドモンズ家にまつわる「過去」「デルタの秋」はとりわけ、いったい誰が誰の何にあたるのか混乱した。
    「過去」では生まれていなかったアイザックが、「デルタの秋」では老人になって郷愁に浸っていたり……時間のレンジの広さ、拠って立つ長編や先行する作品を未読だからだが……この経験が、意外と嬉しい。
    20年以上前に中上健次を読んだとき、誰が誰とどういう関係なのか、カードが一斉にめくられるように、わからない状態からわかる状態へ移行した感覚を思い出したからだ。
    勿論記憶力減退、中上より込み入っているので混乱の中メモ必須だが、同じ土地における開発、老い、世代の移り変わりの中で人が感じる郷愁と愛惜のような感覚が、得られて、フォークナー、読めば読むほど好きになる。

    「ポータブル・フォークナー」は時系列なのだとか……やはり必須だな。
    あと文庫では岩波文庫の「熊 他三篇」が気になるが、新品在庫切れ、「寓話(上下)」は明らかに無理だろう、もちろん講談社現代文庫「死の床に横たわりて」は高騰しすぎ、福武文庫「魔法の木」は気になるが。

    ■赤い葉 ※既読

    ・スリー・バスケット。インディアン。60歳。ずんぐり。
    ・ルイス・ベリー。インディアン。二人組で愚痴をたらたら言いながら、逃亡黒人奴隷を追う。
    ・ドゥーム。一代目首長。
    ・イセティベハ。二代目。死去し、黒人が捕まるまで、徐々に腐っていく。(ドゥームが死んだとき逃げた黒人奴隷を三日で捕まえた)
    ・モケタッベ。三代目。肥満のせいで自分で歩けないどころか、首長の証である赤い踵の靴を履くこともできない。
    ・シュール・ブロンド・ドゥ・ヴィトリ。勲爵士(シュヴァリエ)。パリ人。ドゥームと組む。赤い踵の靴をイセティベハに土産。
    ・ドゥームの妻。
    ・黒人。逃亡し、農場の周囲で隠れる。23年イセティベハに仕えた。殉死は嫌。
    ・頭領株。

    1,インディアン二人視点。愚痴っぽい。
    2,首長3代の来歴。
    3,インディアン二人視点。モケタッベに報告。
    4,黒人視点。
    5,インディアン二人視点。
    6,捕まってから。井戸、水、ヒョウタン。

    チカソー・インディアンには、首長(ザ・マン)が死んだとき従僕が殉死する習俗がある。
    が、従僕の黒人にはそんな習俗がないので、逃亡。
    逃亡6日、黄色人種が黒人を追い立てる。
    黒人奴隷制度を作ったのは白人なのに……苦い。
    強烈な描写。

    ■正義

    ・ぼく=クウェインティン・コンプソン。
    ・おじいさん。
    ・ロスカス。
    ・キャディとジェイソン。妹と弟。
    ・サム・ファーザーズ。黒人居住地に住む大工。半分黒人。ブルー・ガムといいう蔑称。昔はハッド=ツー=ファーザーズ(ふたりの父を持つ子)と頭に名付けられた。
    ・ストークスさん。農場の管理人。
    (2-4)
    ・ハーマン・バスケット。
    ・クローフィッシュ=フォード。おら(サム・ファーザーズ)のとうちゃん。
    ・ドゥーム。黒人を6人連れて7年ぶりに帰郷。もとの名はイッケモチュッベ。頭の妹の子で、本来は跡継ぎではない。ニュー・オーリンズではデイヴィッド・キャリコートと名乗る。
    ・頭(かしら)。息子、弟あり。
    ・サムタイムズ=ウェイクアップ。頭の弟。
    ・ウィスキー商人。
    ・黒人の女。
    ・ウイロー=ベアラー。
    ・蒸気船の白人たち。
    ・ひとりの黒人。クローフィッシュ=フォードが欲しがっている黒人女の、亭主。
    ・黄色い赤ん坊。=サム・ファーザーズ=ハッド=ツー=ファーザーズ(ふたりの父を持つ子)

    「赤い葉」の前日譚。
    1と5では、僕=クウェインティン・コンプソンが語り手。
    間に挟まれた2-4は、クウェインティンに対する、半分黒人サム・ファーザーズの語り。
    おらがハッド=ツー=ファーザーズ(ふたりの父を持つ子)と呼ばれた経緯を話すだ。
    ドゥームが蒸気船で帰郷したとき黒人を連れ帰ったが、ハーマン・バスケットと一緒にドゥームを迎えたおらの父ちゃんクローフィッシュ=フォードが、頭を毒殺して成り代わろうと画策するドゥームの手助けをすることで、黒人女を貰おうとしただ。
    しかし黒人女の亭主の黒人男が、正義を貫いてくれとドゥームに言い、闘鶏で女を賭けることになったが、もう黄色い赤ん坊が生まれただ。
    5,その後は柵を作ったものだ、と聞いた僕=クウェインティンが、祖父に馬車の上で話したのが、12歳。
    クウェインティンはやはり、徹頭徹尾「聞く人」。

    ■エミリーに薔薇を ※既読

    ・わたしたち。ジェファソンの人々。(お高くとまった)エミリーを「憐れみたい」。中上を連想。
    ・ミス・エミリー・グレアソン。74歳で死去した老婆。屋敷に長く人を寄せ付けなかった。砒素で殺したホーマーの死体を、40年隠していた。
    ・ホーマー・バロン。北部人。舗道建設の現場監督。エミリーと付き合い、結婚するかと思いきや、姿を消す。
    ・サートリス大佐。ジェファソン初代市長。昔、エミリーの税金を免除したことがある。父の死を憐れんで。
    ・黒人男。エミリーの召使。
    ・スティーヴンズ判事。かつての市長の老人。エミリー宅が臭うという近隣住人による苦情を受ける。
    ・ワイアット夫人。エミリーの大伯母。狂気。
    ・エミリーの父。の死体を、エミリーは屋敷に匿っていた。
    ・エミリーのふたりの従姉妹。葬式。

    「わたしたち」という噂の出どころのような語り手は、実に小説的。
    が、ほこりが舞う部屋の寝台の、枕にできた、頭のかたちのくぼみに、髪の毛……こちらは凄まじく映像的な描写。
    幻想小説の域だなと感じたので、検索してみたら、なんと「世界のオカルト文学・幻想文学・総解説」では「死者との結婚に契る誇り高き愛の物語」と解説されているんだとか。

    ■あの夕陽 ※既読

    ・ナンシー。黒人。洗濯女。他の男の子を妊娠。ジーズアスに怯えている。
    ・ジーズアス。黒人。その夫。頬に傷。嫉妬深い。
    ・ディルシー。黒人。病気。料理女。(子は、長男ヴァーシュ、次男TP、長女フローニー)
    ・私。クウェンティン・コンプソン。9歳。「響きと怒り」「アブサロム、アブサロム!」の語り手の少年期。
    ・父。ジェイソン三世。コンプソン。
    ・母。
    ・妹キャディー。キャンダシー。
    ・弟ジェイソン四世。子供。
    ・ストーヴァル。銀行の支配人。バプティスト派教会の執事。
    ・レイチェルおばさん。ジーズアスの親?
    ・ヴァーシュ。ディルシーの夫?
    ・ラヴレイディー。保険屋。

    尻軽の黒人女ナンシーが、夫ジーズアスの復讐に怯えて、白人の雇い主ジェイソンに頼るという構図(……孕んだのはジェイソンの子かもしれない)。
    「響きと怒り」の前日譚でもある。クウェンティンが視点人物=語り手。

    ■ウォッシュ ※既読「孫むすめ」

    ・トマス・サトペン。60男。戦争から帰ってきて零落。ワッシを番頭・運搬夫にして、商店。
    ・ワッシ・ジョーンズ。(ウォッシュ)。ホワイト・トラッシュ。サトペンを崇拝していたが、孫娘の出産を馬に譬えられて、大鎌で殺害。孫娘をも殺し、放火。。
    ・ミリー・ジョーンズ。15歳。ワッシの孫娘。サトペンの子を出産したが、女児。
    ・黒人の産婆。
    ・白人少年。サトペンの死体を目撃。

    「アブサロム、アブサロム!」のワンシーン。

    ■女王ありき

    ・エルノーラ。黒人女性の料理番。
    ・アイサム。エルノーラの息子。庭師。
    ・サディ。エルノーラの娘。ヴァージニアの世話。
    ・ジョン・サートリス→その息子ベイヤード→その息子ジョン→その息子ベイヤード、みな死んだ。(※ジョン→ベイヤード→ジョン2世→ジョン2世とベイヤード3世の双子)
    ・サイモン。エルノーラの母の夫。死。
    ・キャスピー。エルノーラの夫。盗みで刑務所。
    ・ジョビー。エルノーラの息子。?
    ・ヴァージニア・デュ・プレ(ミス・ジェニー)。90歳。初代ジョンの妹。車椅子。
    ・ナシッサ。二代目ベイヤードの未亡人。
    ・ボーリー。ナシッサの息子。母と一日たりと離れたことがない。
    ・ナシッサを尋ねてきた北部人。

    「サートリス」(≒「土にまみれた旗」)の後日譚。
    ベイヤード・サートリスが飛行機試乗で死んだあとに妻ナシッサが男児を生んだが、その10年後。
    結婚前のナシッサがスノープス一族に付け文される挿話を受けて。
    が、メインはジェニーおばさん90歳。
    家には女ばかり。
    1-2の視点人物は黒人娘エルノーラ。
    ナシッサが急にメンフィスに行く間ヴァージニアの世話を言いつけられたが、ナシッサはまた急に帰ってきて、息子ボーリーと小川に行ったりしている。
    エルノーラはナシッサに批判的。ヴァージニアを尊敬。
    3-の視点人物はヴァージニアとボーリーとナシッサ。
    ナシッサが若い頃みだらな付け文を貰ってヴァージニアに相談したことがあった。
    先日ナシッサを北部人の男が訪れ、三日後にナシッサは説明もなくメンフィスへ行って、帰ってきた。
    ナシッサが説明するには、13年前に相談した手紙を、燃やしたと嘘をついて隠していたら、ある日盗まれてしまって、恐れていたけれど、あの北部人が盗人を追って証拠品で手紙を持っていたので、取り戻しに行ったのです。
    4,エルノーラは祖母ー母ー息子の話を聞いている。

    ■過去

    ・アイザック・マッキャスリン。アイクおじさん。80近く。(の経験ではなく、)妻の死後譲られたバンガローの一部屋で、義理の妹と子供達と同居。
    ・マッキャスリン・エドモンズ。(の経験。)アイザックの父の妹の孫。1850年生まれ。アイザックの16歳上。
    ・バックおじさん(セオフィラス・マッキャスリン)。双子。マッキャスリン家初代ルーシャス・キンタスの息子。60歳くらい。独身主義だったが、ソフォンシバ・ビーチャムと結婚→息子がアイザック・マッキャスリン。
    ・バディおじさん(アモデュース・マッキャスリン)。双子。マッキャスリン家初代ルーシャス・キンタスの息子。
    ・トミース・タール。逃亡した黒んぼ。
    ・ヒューバート・ビーチャム。馬で半日の隣の農場。妹の嫁ぎ先をどうするか。熊のいる土地。
    ・ミス・ソフォンシバ・ビーチャム。ヒューバートの娘で、独身。栗色の歯。土地をウォーリスと呼ばせたい。
    ・テニー。ビーチャム家の女中。黒んぼ。トミース・タールの恋人。
    ・ジョーナス。

    サートリス家およびコンプソン家の凋落、成り上がるスノープス家、に加えて後期活躍するのが、マッキャスリン家と、その姻戚のエドモンズ家。
    1,この話は、アイザックの兄代わり父代わりのマッキャスリンの話である。
    2、彼マッキャスリン少年(だったころの話)は、黒んぼのトミース・タールが逃げたが、どうせいつものように馬で半日のヒューバート・ビーチャム家の女中を頼ってのことだろう、と判断したバックおじさんと一緒に、馬で行く。バディおじさんが送り出す。
    バックおじさんは、ヒューバートと黒んぼを捕まえられるかどうかで賭け。その妹ソフォンシバが気になる。
    トミース・タールはこっそりマッキャスリンに話し掛けてきて、匿われているのだと言う。
    夜、捕まえられそうなすんでのところで逃げられる。
    やれやれとバックおじさんが適当な部屋のベッドに這入ったら、ソフォンシバが悲鳴。
    3,翌日、ヒューバートがバックおじさんを冷やかす。独身主義のバックおじさんは誤解だと主張。そろそろ年貢の納め時だ的なことを言われる。
    賭けの続きで、トミース・タールが焦がれる黒人女中テニーをバックが買えばご破算になるだろうと話し、アイザックがカードを配る役。
    何度か賭けをし、賭けの場に当のトミース・タールが来たりして。
    4,以上の話をマッキャスリンがバディおじさんにした。老いぼれ犬のモーゼ。(と、のちにマッキャスリンがアイザックに話した。)

    ■デルタの秋

    ・老人。彼。アイクおじさん。アイザック・マッキャスリン。80近い。親戚の子ら3人と料理人の黒んぼを連れて。
    ・ロス・エドモンズ。去年モーター・ボートでキャンプ地近くで食料を水に落として、最寄りの町へ買いに行ったら一晩帰ってこなかった。そのあいだ女と何か。
    ・ウィル・レギット。
    ・三人目の男。ワイアット?
    ・アイシャム。料理人の黒んぼ。
    ・サム・ファーザーズじいさん。
    ・女。エドモンズとの関係を、アイクに話す。

    アイザック物語の最終編。晩年。私有財産を拒否して自然へ。
    昔デルタ地帯には熊がいた。
    が、道路ができ獲物のいる地域は奥に引っ込んでいった(まるで彼の寿命のように)。
    老人アイクは親戚の子らと車でキャンプ地へ。
    何十年も、毎年11月にその土地に向かっている。
    妻の義理の妹と同居するバンガローを離れて、テントで過ごすのが好きだが、これが最後になるかもしれん。
    道中、牝鹿を撃つことをなじられる。
    60年前に、コンプソン老将軍、ド・スペイン少佐、ロスやレギットの爺さんとこの土地で猟をしたことを思い出す。
    神様についての話。
    夜、眠れないだろう、だがそれでいい、回想、サム・ファーザーズじいさん70歳が12歳の自分に猟を教えてくれた。
    その後家を持ったが、妻も息子も失い、テントで過ごす11月の2週間が自分の家庭になった。
    この、所有してない共有の土地こそ、自分の土地だ。
    明け方エドモンズが去ろうとするのに声をかける。もしも女がきたら渡してくれと封筒に金を託される。
    間もなく小型ボートで女が来る。
    一年前にエドモンズとここで出会い、ニュー・メキシコで逢瀬し、結婚などしないと合意の上過ごした。妊娠した。送金された。狩りの時期が来たのでもしかしたらと道端で待っていたら、車で彼を見た。それで来た。
    アイクに、彼は本来なら出自からいえばマッキャスリンだったのに、残念ながらエドモンズにならなけりゃならなかった(「過去」で描かれた、賭けのシーンに言及)。私は彼をりっぱな男にしたかったのに、あんたが駄目にした、と。
    見ると女も黒んぼの血が混じっている。(テニース・ジムが祖父。テニースはテニーの子。)
    女を送り出して、いつか全人種の見分けがつかなくなればと夢想。
    レギットと話す。

    ◇解説 高橋正雄

  • フォークナー初期から晩年までの短編集
    ヨクナパトウファ・サーガから多くを採用しており、
    昔のアメリカ南部の雰囲気がよく出ている。

    持っているはずだが行方不明

  • 2008/9/4購入
    2010/5/31購入

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著者プロフィール

1897年アメリカ生まれ。南部の架空の町を舞台にした作品を多く生み出す。著書に『八月の光』『響きと怒り』『アブサロム、アブサロム!』など多数。1950年ノーベル文学賞受賞。1962年没。

「2022年 『ポータブル・フォークナー』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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