世界の果てまで連れてって (福武文庫 さ 301)

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  • Amazon.co.jp ・本 (367ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784828830841

感想・レビュー・書評

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  • なんか十の位切り上げするとセリーヌ。セリーヌから社会への呪詛を差し引いて小ぶりにして、代わりに淫猥さとアルコールを足した感じ。あらすじは三行で終わるけど、そこに膨大なイメージが繋がって絡まって膨張して、小説というよりはむしろ絵画、あるいはメヴラーナの旋回舞踏。セリーヌはリゴドンダンスで北を目指すけど、こっちはパリの劇場の上を回り続ける。スカートの裾の如くイメージがぐるぐると広がりながら回り、酩酊し、溺れて、あらすじなんかどうでも良いや。

    それにしても、レイモンクノーといい、セリーヌといい「フランス語分かんないけど、原文も多分こんな感じなんやろな」と思わせる生田耕作の翻訳、ぱねぇっす。
    著者は国籍不明、密輸宝石商、ルンペン、軽業師、外人部隊などといった職と国を転々とし、アポリネールやサティ、ヘンリー・ミラーに影響を与えた隻腕の詩人サンドラール。なんかやたらおもろい付随情報多いね。

  • 「芸術家と女。破廉恥と名声。わたしは彼がわたしにやらせた淫らな行為のほうを他の連中がわたしに授けた栄誉よりも信頼してるの。行為だけが人間を解放するから。人間の思想なんてものは挫折した行為の産物よ」70才を越えても男漁りを続ける老女優テレーズを主人公にした奇書。登場人物たちが必要以上によく喋る。頭の中に浮かんだことを自動筆記のように言葉にしていくシュールレアリスム。自然主義にして必要以上に下品に秩序なく叫ぶ。排出するようにエロスが語られる。この小説の爆発するようなエネルギーはかなり疲れる。「世界の果てまで連れてって〈黴毒〉ヴェロール!」

  • チャトウィンが『パタゴニア』の冒頭に引いたという「シベリア横断鉄道」、ドローネの透明感ある色鮮やかな絵のついた長編詩だ。そのサンドラールが書いた『世界の果てまで連れてって』。片腕のスイス人、世界放浪者の、なんとなくロマンティックでコスモポリタンな雰囲気を想像して読みはじめたらとんでもなかった。
    出だしから主人公は男をくわえこんでいる。黴毒。吐瀉物。糞まみれ。七〇を過ぎた老女優テレーズの淫蕩と女優魂、その生命力の塊、な荒唐無稽、爆走話だった。で。
    これはもうひとつの卒塔婆小町である。というのはムチャだろうか。でも私のなかではそうなのだ。老いた女がいる。世界が、それも末世が、ひろびろと拡がっている。恐ろしい自由だ。歌。性。なんでもいい。私は私にしか捕われはしなかった。もはや見分けはつかない。
    月岡芳年の卒塔婆小町図は、月をみあげ微笑んでいる。ずっとそう思っていた。見直すと、口許はごく自然で、笑むというほどでもなく、もちろん嘆いてもいない。でもやはり、私には微笑ってみえるのだ。こちらでは老婆が微笑み、あちらでは哄笑している。
    誇りの一生である。

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著者プロフィール

ブレーズ・サンドラール…1887‐1961年。スイスに生まれる。幼少時から、イタリア、ロシア、ドイツなどを転々とし、パリに落ち着く。創作活動の傍らシャガール、レジェ、モディリアニなどの画家たちと交流し、1912年に発表した長篇詩『ニューヨークの復活祭』は、アポリネールにも影響を与えたとされる。第一次世界大戦ではフランスの外人部隊で従軍するが、戦闘中に重傷を負い、右腕を失う。1916年フランス国籍を取得、1919年に第一詩集『全世界』を発表。邦訳が出ている作品に『黄金』(白水社)、『モラヴァジーヌの冒険』(河出書房新社)、『パリ東西南北』(月曜社)などがある。

「2022年 『世界の果てまで連れてって!…』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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