チェーホフ短篇集 (福武文庫 ち 101)

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  • Amazon.co.jp ・本 (250ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784828830896

感想・レビュー・書評

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  • 2011/5/31購入

  • 度々、読むことを中断しては考えさせられる作品だった。

    『ともしび』は、若者が抱くペシミズムな思想を題材にしたもの。
    技師の助手である学生が、以前は荒野だった土地に自分たちが建設した鉄道を前に、二千年もすればこの鉄道もこれを作った工夫も塵になって消えてしまうと言う。
    技師はそんな思想は年老いてから持つものであって、若い内は害毒でしかないということを自分の過去を振り返りながら学生に説き伏せようとする。
    「だれも何一つ知ってやしないんだし、何一つ言葉で証明することはできないんですから」
    という学生の言葉は強烈。

    『六号室』
    素晴らしい作品。
    ある田舎の病院には、狂人たち5人が収容されている別棟がある。
    病院の医師アンドレ・エフィームイチは知的で誠実だが芯が弱い性格で、
    人に命令したり強要することが全くできない。
    だから、彼は病院の醜悪な不衛生さや助手が病院の金を横領することを正すことはできない。
    また彼はペシミズムな思考を持ち、さらに苦痛や死は軽蔑すべきもので、
    それらは外面的なもので思索という内面的なものこそが何よりも重要なのだという考えだった。
    その彼が狂人の一人イワン・ドミートリチに出会い、これは病人だが町では唯一の思索する人間だと、彼との交友を心から楽しむ。
    だが狂人の方は、医師の思想は今まで苦痛と無関係の健康な人生を基盤にした高尚なたわごとであり、死を軽蔑することは生命を軽蔑することだと医師を軽蔑しきっているようだった。
    結局、医師は狂人と交友しすぎたために、周囲から彼自身も気が違ったと判断され、六号室に収容されてしまう。
    そこから抜け出そうとするが、部屋の番人に折檻を受けて、医師は初めて本当の苦痛と出会い、ようやく現実に直面する。

    他の作品も思想的だった。
    『恋について』と『犬を連れた奥さん』には共通の人物も出ていて、それぞれの時間の流れを意識して読むと面白そう。
    またチェーホフの文章は時折ユーモラスな場面があって、思想的な文学の中でも読みやすい方だと思った。

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著者プロフィール

一八六〇年、ロシア生まれ。モスクワ大学医学部を卒業し医師となる。一九〇四年、療養中のドイツで死去するまで、四四年の短い生涯に、数多くの名作を残す。若い頃、ユーモア短篇「ユモレスカ」を多く手がけた。代表作に、戯曲『かもめ』、『三人姉妹』、『ワーニャ伯父さん』、『桜の園』、小説『退屈な話』『六号病棟』『かわいい女』『犬を連れた奥さん』、ノンフィクション『サハリン島』など。

「2022年 『狩場の悲劇』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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