やまと言葉の人間学

  • ぺりかん社 (2024年4月2日発売)
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Amazon.co.jp ・本 (328ページ) / ISBN・EAN: 9784831516626

作品紹介・あらすじ

表音文字「かな」と外来の表意文字「漢字」の複合体として発達した日本語。現代では明治期より量産されてきた翻訳語やカタカナ用語も氾濫している。だが医療の場において痛みを表す言葉が「しくしく」「ずきんずきん」であるように、主観を語る「やまと言葉」は具体的な感情表現として活きつづけている。「もてなし」「かなしみ」「ただしさ」「なぐさめ」など現代に活きる「やまと言葉」を取り上げ、古典文学から歌謡曲に至る豊富な用例を踏まえて考察する。長年に亘り「やまと言葉」をつぶさに眺め考えつづけてきた著者の遺作。

感想・レビュー・書評

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  • 決して国学のように純粋な日本語だけで考えようということではなく、漢語や翻訳語にかくれてあまり意識されることもなくなってきたやまと言葉を意識することにある。なんだかもののふの心に通じる話が多いなと思ったら、武道という月刊誌に投稿されていたものだった。武道だけでなく、茶や歌の道にも通じる言葉がたくさん出てきて、心に深く染みる話が多い。
    取り上げられたやまと言葉はもてなし、わざ、たしなみ、つつしみ、ほほえみ、きれいさ、かたじけなさ、いたわり、やさしさ、なつかしさ、こいしさ、よろこびとたのしみ、しあわせ、かなしみ、あわれ、どうせ、ゆめ、いさぎよさ、ただしさ、いかり、うらみ、がまん、おに、よわさとつよさ、たおやかさ、いのり、おかげとかげ、かぜ、なぐさめ、まつ、わかれ、さようなら。
    もてなしはおのずから感を催すようなる所作がよし(南方録)。みずから習い学び考えることによっておのずからの自然のところまでいかなければわざが完成したとは見られない。たしなむ心は他力(自然の働き)なり、仏法は「みずから」励むものでありながら「おのずから」に励まされてするもの。つつしむの語源はつつむと同義であるものを別のものですっぽりくるむ意、秘すれば花なりやわび、さびと通じる美学。ほほえみは長年育まれてきた作法、深く静かにたたえられた水のように穏やかな大仏の慈顔と同様、最高の幸福、無限の平安への祈り、梅がほほえみわたれるように。すまないは澄まない、清まない。かたはらいたしは本来は傍らの人の苦痛を意味して、他人事ながら苦痛となった。能のなつかしやは過去のものへではなく、今まさに眼前に相手を見出しそこへ惹きつけられるというよりリアルな現在形としてのなつかしやで、単なる過去への懐古ではなく言葉本来が持っていた現在性を復活させたもの。橘の香のようなにおいや音を契機に過去と現在が重なって感じ取られる瞬間こそが無限の深みをもった現在で、永遠の今ともいうべき超越的な経験の瞬間。忍恋が至極で、「恋しなん後の煙にそれとしれつゐにもらさぬ中のおもいを」。かなしむ以外にないことはきちんとかなしむことが、結局はこの世の仕組みをそうさだめた神々のおのづからの働きに従うことになり、そこに根本的な安心が得られてくる。あはれは「ああはれ」という間投詞、感動詞がつづまったもの、あっぱれも同じ言葉。「この世は夢」をどう生きるか、夢の外へ(浄土思想など)、夢の内へ(葉隠など)、夢と現のあわいへ(徒然草など変わる無常世界をそれとして楽しもうとする)。「我人、生る方がすき」という執着を残し、自覚的にそれを乗り越える武士こそ頼もしい武士、それを言っているのが碧巌録を7巻までにとどめよとした甲陽軍鑑。かぜは生命のもとと考えられ、神が吹かすものとも考えられた。尉とは火のしをかけてしわを伸ばすこと、慰めは心をなだめ正しくする意。会うは別れの始め、別れゆく世界が厳としてあるということをあらためて確認承認し、そこに生きてきた自分自身をあらためて確認承認する、そこにはじめて別れが成立する。当然悲しみがあるが、後ろ髪をひかれるからこそ最後まで気が違わないで死んでゆくことができる。さようならはさようであるならばという意味の接続詞だった。世の中には出会いや別れをふくめて自分の力だけではどうにもならない不可避、必然の働きがあり、日本人はそれをそれとして静かに引き受けてきた、その意味のあるさようなら。そしてその先どうなるかを語らないままに別れている。この先どうなるかは問わないままに、ともあれ、過去をふまえ、現在を確認総括することにおいて、この先へと何らかのかたちでつながって行けるのではないかといういわば呪いのようなものとも考えられる。

  • 東2法経図・6F開架:121A/Ta67y//K

  • 【本学OPACへのリンク☟】

    https://opac123.tsuda.ac.jp/opac/volume/722749

  • もてなし、やさしさ、たしなみ、つつしみ、なつかしさ、かなしみ、さようなら、などなど、やまと言葉の語源に遡り、古来からの使用例を辿って、その言葉に込められてきた日本人の魂のあり方が、平明で静かな筆致で語られる。
    とても味わい深い一冊だった。
    総括として、著者は九鬼周造を引用して次のように語る。

    九鬼周造は、日本の思想文化の大事な要素として「自然」「意気」「諦念」の三つを挙げている。「自然」という「おのずから」と、「意気」という「みずから」、そして「諦念」という「あきらめ」とが、われわれの発想の基本としてあるというのである。

    竹内哲学がここに見事に要約されている。

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著者プロフィール

竹内 整一(たけうち・せいいち):1946年長野県生まれ。東京大学大学院人文科学研究科倫理学専攻博士課程中退。東京大学名誉教授。専門は倫理学、日本思想史。日本人の精神の歴史を辿りなおしながら、それが現在に生きるわれわれに、どのように繋がっているのかを探求している。主な著書に、『魂と無常』(春秋社)、『花びらは散る 花は散らない』『日本思想の言葉』(角川選書)、『「やさしさ」と日本人』(ちくま学芸文庫)、『ありてなければ』(角川ソフィア文庫)など。

「2023年 『「おのずから」と「みずから」』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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