アナ-キ-・国家・ユ-トピア: 国家の正当性とその限界

  • 木鐸社
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  • Amazon.co.jp ・本 (586ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784833221702

感想・レビュー・書評

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  • 現代のリベラリズムの思想の根幹を成すロールズの正義論の出版の3年後の1974年に、思想的に対極とも言えるリバタリアニズムについて議論した書籍。アメリカの政治思想においては党派の二極を構成する両者であるが、本書を読むとそれらの前提条件においてはそう大差は無く、いくつかの規範的分析の差異が議論の発展を経て増大され全く異なるイデオロギーとなっていることが分かる。

    本書は三部構成となっており、タイトルの通りそれぞれアナーキー、国家、ユートピアがテーマとなっている。第一部では、最小国家形成以前の自然状態においていくつかの協会や契約のみが存在する「超最小国家」について議論され、国家の必要性について検討される。第二部では、最小国家を超えた拡張国家がどの程度まで許容され得るか、理想の国家の大きさと役割について、主にロールズの正義論をもとに考察をすすめる。第三部では、ユートピア的理論への考察を深めることでユートピアが最小国家と一致することを確認し、第一部・第二部における最小国家の結論を裏付ける位置づけとなっている。

    本書の議論の特徴としては、結論ありきでエビデンスを並べて説得力を高めるというよりむしろ、思考実験や事例の考察を通して妥当な事実を積み重ねていくことで議論を進めていくというような内容となっており、この特徴から著者は本書を「哲学的探検」と形容している。実際、ある事項を検討することを目的として、一見関連性のない事例の考察や極端で非現実的な条件の思考実験が提示され、まさに「探検」の表現に匹敵する論理のカオスを多く経験することになる。この特徴ゆえ、前提知識のない学生であっても理解することが可能となっており、また同時に、本書には教科書的な結論の列挙ではカバーできない魅力が詰まっている。知的刺激も強く、非常に満足な読書となった。人生で一度は読むべき書籍。


    ちなみに、たまに巷で耳にする「経験機械」だとか「快楽機械」の思考実験も本書が出典。
    「あなたが望むどんな経験でも与えてくれる「経験機械」があると仮定する。あなたは人生の様々な経験を予め選択・プログラムする。脳に電極を取り付けてタンクの中に入ると、あなたは自分がそこにいることを知らず全てが実際に起こっていると考える。一生繋がれることを望むか?(一部改変)」
    この思考実験において多くの人は経験機械に繋がれることを望まないことから、著者は人生にはどのように感じるかという意味の経験以外になにか要素があるはずであると考える。(その要素としては本書では「アイデンティティ」=何者であるかと「レガシー」=何をするかが挙げられている。)国家についての議論であるはずの本書に人生についての考察が含まれているという事実からも、本書における論理のカオスが垣間見えるであろう。

    • Y.K.さん
      https://ocw.u-tokyo.ac.jp/lecture_919/

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      2021/01/03
  • この著作、昔は大好きだったが、今読むとつまらない。
    ノージックの頭のキレはわかる。たしかにロジカルで分かりやすいけど、しかしやはり彼にとってこの話題は、一時のおもちゃでしかなかったのか?
    ロールズの、人生を懸けた考察の方が、全然深みがあるわ。


    リバタリアニズムlibertarianismについて ―― ノージックを中心に

    自由主義を徹底的に擁護する思想。
    国家を完全に廃止する「無政府資本主義(=アナルコ・キャピタリズム)」論か、あるいは国家の機能を司法・治安・国防に限定する「最小国家」論を主張する。

    ノージックは後者。
     ←→ アナーキスト
     ←→ リベラリスト

    アナーキズムとのちがい
     ……国家は、自然状態から勝手に生成してしまう。

    リベラリズムとのちがい
     ……権原理論

    ユートピアとのちがい
     ……ちがいというか、ユートピアのための枠がすなわち最小国家である。

    まとめ
     ……最小国家は我々を、侵すことのできない個人、他人が手段として使うことのできない人格として扱う。
       最小国家によって、我々は持っている権利から生じる尊厳を伴う人格として扱われる。
       それゆえ我々は、自由な人生が生きられるのです。

    『アナーキー・国家・ユートピア』の意義
    これは主に以下の2つの点で、当時の学界に大きな影響を与えました↓
    ① 「小さな政府」の経済的効率性の証明とは別に、その道徳性を論証する試みであること
    ② ロールズ”A Theory of Justice” (1971) のパラダイムに対する根底的な批判を通じて、正義論においても一石を投じたこと

    アナーキー・国家・ユートピア
    問題提起
    個人の生得的権利を侵さずに、国家がなしうること――があるのならば、それ――はなにか?

    アナーキズムをたおす
    自然状態から最小国家が、神の見えざる手に導かれて、生成する過程を検討します。

    * ここでのアナーキーは、ロックの自然状態(各人が概ね諸々の道徳的制約を守り、行動すべき形で概して行動している状態)を想定している。


    第一段階:自然状態
    ―しかし、自然法を破って他人を搾取する者もいる。そのときに……
    ・ みんな自分に有利に事件を解決しようとする(過度の報復)
    ・ 自分より強い相手だったら、賠償の取立てができずに泣き寝入り
          →数人で組んで対抗する
            ||
    第二段階:複数の保護協会が林立
     ―しかし、協会の全ての者が、いつでも出動できる状態にいられるわけではない。なので……
    ・ 保護業務を行うために雇われる者が出て、保護サービスを売る仕事をする企業家が出る【分業】

     ―しかし、自己防衛を装って他人の権利を侵害したがる者や、ケンカ好きの者に使われ、コストがかさむ。
      なので……
    ・ 「正しいのはどちらか」を決定するインセンティブが生まれる【合理的な私利】

     ―しかし、異なった保護協会が、異なった正義の裁定を下すこともある。そのときは……
    ・ 二つの協会が、武力で戦う
          →敗れた協会の依頼人たちは、勝った協会と取引関係を結びたがる【市場の圧力】

    ・ 地理的区域上に、各協会の勢力範囲が形成される
          →ある協会の勢力の中心付近に住む、別の協会の依頼人は、移住するか、取引先を近くの協会
    に変える【 〃 】

    ・ 二つの協会が、対等かつ頻繁に戦う
          →両協会はコストの大きさを悟り、正義の裁定が異なったときには、裏で話し合いを持って同
    意へ至るか、第三の判定者を設置して、その決定に従う(⇒統一された連邦司法制度)
    【規模の利益】

     いずれにしても、一定の地理区間内にいるほとんどの人が所属する、何らかの共通の制度が生成
            ||
    第三段階:支配的保護協会(超最小国家)
    ―これはすなわち国家か?
     支配的保護協会は、①ある人々に、自分の権利の実行(=自己救済)を許すようにみえる
    ②領土内のすべての個人を保護するわけではない
    ・ しかしもし、協会の正義の裁定が誤っていた場合、「依頼人を権利の侵害から守る」ということは即ち「独立人の権利を侵害する」ということ(※1)
              
    ヴェーバー「一定の領域内での実力行使の独占が、国家の条件として決定的なものである」
    この状態の協会は、当該領域内での実力行使を、事実上独占している
          ||
    第四段階:最小国家
    (※1)
     →その不利益の賠償のために、協会は独立人にも保護サービスを提供しなければならない。

    最小国家の条件 ① 当該領域内での実力行使を独占し、
            ② 領域内の全成員に保護サービスを提供する

    拡張国家擁護論をたおす
    ロールズの「配分的正義」に対して、「保有物の正義justice in holding」を提唱

    権原理論entitlement theory
    ① 労働価値説に従って正当に獲得された原始所有物に、権原を持つ
    ② 正当に獲得されたものは、すべて自由に移転できる
    ③ 上の二つの繰り返し以外に、保有物に対して権原を持つことはない

    正当な原始的取得とは?
    ・ 他者にも同じくらい十分にその資源が残っている、あるいは
    ・ 占有によって他者の状態が悪化しない
    状態で、正当な原始的取得がおこなわれ得る。

    ②に関して、別に我々は誰かが分けたパイをもらった後、その雑な切り方を訂正するために最後の調整を行っている子供の立場にいるのではない。
    誰かに分配を決められたのではなく、自発的な交換によって分配が行われている。
    (ウィルト・チェンバレンの例で、直観的理解を求めています)

    実際、配分的正義を主張する人々は、各人の「必要」「道徳的功績」「限界生産量」「いかに一所懸命に努力したか」などなどに応じて、各人に分配せよ、と言っている。
    しかし分配以前に生産があるのであり、あらゆる生産物は、それらの上に権原を有する人々に既に属しているものとして、この世に生み出されるのである。
    ※ ちなみに自発的な贈与は否定していません。


    ユートピアとの関係
    ひとつの安定したユートピア、というのはあり得ない。
    だって、あなたの想定する理想社会(コミュニティ)と私の想定するそれは、違うから。
    無数のコミュニティがあり、それらを自由に行き来できるとき、コミュニティ全てを包む枠が、ユートピアであると言えるだろう。
    そしてそれは、最小国家に等しい。

  • https://ameblo.jp/yasuryokei/entry-12753102967.html

    Robert Nozick(1938.11.16 - 2002.1.23)

  • 第7章 配分的正義

    260
    ロックによる獲得の正義の原理

    功利主義

    266
    ハイエクの話。

    278
    おおお、アマーティヤ・センの話まで出てくる。

    292
    ロックの獲得論

    306
    ジョン・ロールズの『正義論』

    481
    ユートピアの理論

  • 今の自分レベルではとても理解できないことがわかったので、読みたいとして評価はなし

  • 5775円購入2010-11-08

  • [ 内容 ]


    [ 目次 ]


    [ 問題提起 ]


    [ 結論 ]


    [ コメント ]


    [ 読了した日 ]

  • 130630 中央図書館

  • 最小国家論のバイブルをフランクに書評してみた http://ymkjp.blogspot.jp/2013/02/blog-post_18.html

  • 【目次】



    謝辞

    第一部 自然状態の理論、または如何にして、実際に試みないで国家へと戻るか
     第一章 なぜ自然状態の理論なのか
      政治哲学
      説明的な政治(国家)理論
     第二章 自然状態
      複数の保護協会
      支配的保護協会
      見えざる手説明
      支配的保護協会は国家か?
     第三章 道徳的制約と国家
      最小国家と超最小国家
      道徳的制約と道徳的目的
      なぜ附随制約なのか
      自由尊重主義的な制約
      動物と制約
      経験機械
      道徳理論の非決定性
      制約の基礎は何か
      個人主義の無政府社会(アナーキスト)
     第四章 禁止・賠償・リスク
      独立法人と支配的保護機関
      禁止と賠償
      なぜ禁止するのか
      応酬刑論と抑止刑論
      交換利益の分割
      恐怖と禁止
      なぜ常に禁止しないのか
      リスク
      賠償原理
      生産的取引
     第五章 国家
      正義の私的実行の禁止
      「公正原理」
      手続的権利
      支配的保護期間はいかに行動しうるか
      事実上の独占
      他者の保護
      国家
      国家についての見えざる手説明
     第六章 国家擁護論の補足的検討
      この過程を止めるべきか
      先制攻撃
      [国家生成]過程における行動
      正当性
      全員の有する処罰刑
      予防的規制
     原註

    第二部 最小国家を越えて?
     第七章 配分的正義
       その1
      権原理論
      歴史原理と結果状態原理
      パタン化
      いかにして自由がパタンを崩壊を崩壊させるか
      センの議論
      再分配と所有権
      ロックの獲得[原始取得]論
      但し書き
       その2
      ロールズ理論
      社会的協同
      協同の条件と格差原理
      原初状態と結果状態原理
      マクロとミクロ
      自然資産と恣意性
      積極論
      消極論
      集団資産
     第八章 平等、嫉妬、搾取、等
      平等
      機会の平等
      自尊心と嫉妬
      有意義な労働
      労働者による管理
      マルクス主義的搾取
      随意的交換
      人間愛
      自分に影響することに対する発言権
      非中立的国家
      再分配はいかに機能するか
     第九章 大衆所有
      整合性と並行事例
      最小を越える国家の派生
      仮説的歴史

    第三部 ユートピア
     第一〇章 ユートピアのための枠
      モデル
      我々の世界へのモデルの投影
      枠
      企画法と濾過法
      ユートピアの共通基盤としての枠
      コミュニティーと国家
      変化する様々なコミュニティー
      様々なコミュニティーの総体
      ユートピアの手段と目的
      ユートピアはいかに機能するか
      ユートピアと最小国家

    原註
    訳者あとがき
    参考文献
    索引

    *****

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著者プロフィール

ロバート・ノージック(Robert Nozick): 1938-2002年。アメリカの哲学者。コロンビア大学で学士号を、プリンストン大学で博士号を取得。ハーバード大学教授を務めた。『アナーキー・国家・ユートピア』で政治哲学者として注目を集める。その後は、政治哲学を離れ、認識論から価値論にわたる広範な問題について独創的な考察を行う。他の著書に『考えることを考える』などがある。

「2024年 『生のなかの螺旋』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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