だれが「本」を殺すのか

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  • プレジデント社
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  • Amazon.co.jp ・本 (461ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784833417167

作品紹介・あらすじ

活字離れ、少子化、出版界の制度疲労、そしてデジタル化の波-いま、グーテンベルク以来の巨大な地殻変動。未曾有の危機に、「本」が悲鳴を上げている!!この「事件」を、豪腕「大宅賞」作家が取材・執筆に丸2年1千枚に刻み込んだ渾身のノンフィクション。

感想・レビュー・書評

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  • たまにベストセラーランキングなどを見ると驚く。宗教関係は除いたとしても、どうしてこんな本が売れているのかって。同じく、山手線をジャックして広告をしている本のあまりのつまらなそう度合いにもあきれる。
    あきれるって言ったって、実際にそれが売れているのだし、そもそも人様の好みに偉そうなことをいうべきではない。それは分かっている。分かっているけど、「全然分かんねえよ。」と思う。

    その反面、私は新聞の書評欄が好きだ。実際に出ている本をみても、いい本が多いと思う。こういう本が出版されて、実際に金を出して買っている人がいるというのはいいものだなと思う。

    この断層はどこでできるのだろうか。
    私が傲慢な教養主義者だから?

    私は本屋が苦手だし、嫌いだ。本屋に行くと脅迫されている気がする。
    私が好きなのは図書館とAmazonだ。読む、検索する、読む、検索する、この流れが一番いい。例えば、この本を読んで、藤原書店の「地中海」を図書館でネットから予約した。図書館になかったらAmazonで検索し古本を探す。それでもなかったら新刊を買う。
    だいたい、この本も図書館で借りたものである。安く上げることが目的ではないので(安いほうがありがたいけど)、著者には申し訳ないと思いながらも、だってしょうがないじゃない、って思う。

    本が好きなだけに、こういうのは一体何なのだろうと思ってこの本を読んでみた。だけど結局よくわからなかった。
    ただずっと読みながら思っていたことが、最終章の最後で言及されていて、それはうれしかった。
    「読者はパトロンなのだ」って。

    うん。そう思う。だって、この本を読んでいてずっと意外に思っていたのは、「本というのは初版で500部〜2000部ぐらいしか刷らない」ということだった。そんなので(カツカツとはいえ)成り立つの? というのが意外だった。
    だったらこんなの、最初から顔の見える商売じゃん。お得意さんが1000人だったら、個体認識するのが最初からあたりまえじゃないのか? なぜそれができないのか、というところから逆算して考えるべきじゃないのかな。

    「1000人のお得意さんにリピートオーダーをしてもらう」というビジネスモデルをまず考え、それを実現するツールとして、本とか書店とか集金方法とかを考えるべきなんじゃないかな。

    ベストセラーはビジネスモデルが違う。こっちは一見さん相手に大量生産大量露出大量販売するもので、だったら薄利多売にすればいいのに、バーゲニングパワーの使えない今の商慣習が問題になると思う。

    思うに、二つのビジネスモデルが同じ体裁で並んでいて、ごっちゃになっているから、「結局よう分からん」と思ってしまったのではないかと思う。

    • なおきさん
      「1000人のお得意さんにリピートオーダーをしてもらう」というビジネスモデルは、2020年の現在であれば、当然出版社は考えるべきでしょう。た...
      「1000人のお得意さんにリピートオーダーをしてもらう」というビジネスモデルは、2020年の現在であれば、当然出版社は考えるべきでしょう。ただし、本書が出た2001年に実現可能だったかというと、絶対無理ではないにせよ、採算性を考えると現実的ではなかったように思います。電子書籍プラットフォームがあちこち立上り、新聞社も軒並みオンライン購読サービスが揃いました。これからが正念場ではないでしょうか。
      2020/10/16
  • 東京国際ブックフェアの氏の講演の前に一度読んでおきたかったので、読んだ。氏もあとがきで述べている通り、作家の手によって本の原稿が生まれてから、読者の手に渡り読まれるまで、編集、版元、取次、書店、図書館など、本のライフサイクル全体を対象としたノンフィクションである。膨大な取材に基づいて書かれていて、恐らく、本書以上の本のライフサイクル全体を書き表した本はないのではないだろうか?出版に携わるもの、これから電子出版に携わろうとしている者にとって、出版全体を俯瞰する上で、必読の書と言える。

    プロローグ 本の悲鳴が聞こえる! 5
    第一章 書店 「本屋」のあの魅力は、どこへ消えたのか 15
    第二章 流通 読みたい本ほど、なぜ手に入らない? 73
    第三章 版元 売れる出版社、売られる出版社 163
    第四章 地方出版 「地方」出版社が示す「いくつかの未来図」 213
    第五章 編集者 「あの本」を編んでいたのは、誰か 261
    第六章 図書館 図書館が「時代」と斬り結ぶ日 307
    第七章 書評 そして「書評」も、消費されていく 351
    第八章 電子出版 グーテンベルグ以来の「新たな波頭」 395
    エピローグ 「本」の生死をわけるもの 449
    あとがき 459

    <hr>
    プロローグ
    008 書籍の返品率:2000年39.5%、新刊出版点数67000、推定総発行部数1320百万冊、返品洪水521百万冊

    第一章
    017 1960年:新刊発行点数11000点、75年に倍、83年に3倍、93年に4倍、2000年に6倍以上
    019 1976年:推定売場面積:27万坪、96年124万坪、4.6倍
    020 要約:出店の投資で経営が赤字になっても別にあまり困らない。いざとなったら返品し、支払わなければいい。極端な話、地方の書店だと、取次に支払いの7%しか払っていない。
    039 読書家や文化人が集まるサロンを書店の上に夢想するのは、それこそ「オールドファッション」ということになるのだろうか。
    044 紀伊国屋:売上1200億円、そのうち4割を営業本部が占める
    047 「本」という商品の特徴の一つは、生産者と消費者が背中あわせにいることである。「本」の消費者はいつでも「本」の生産者になりうる可能性を持っている。読むことは書くことをたえず内包している。にもかかわず、版元と読者の間の距離、意識のズレは広がる一方である。そしてそのことが、活字で書かれた本をますます売れなくさせる原因の一つとなっている。
    048 新製品の発売を機に、旧作をそれなりの値段で買い取るのはゲームソフト業界などではもはや常識である。むしろ、そうしたサービスをやってこなかったのは書店業界だけだったといった方がいい。
    054 新刊バブルの原因は、何よりもまず高給取りの大手出版編集者にあります。編集者がノルマで本を出し、その本がパターン配本される。
    067 産業構造からいえば、新刊を追いかける書店がフローで、図書館はストック。日本の2兆7000億円の出版産業マーケットで、公共図書館の扱いは3%を切る。アメリカは20%、スウェーデンは約半分。
    067 永井伸和「本の学校・今井ブックセンター」 企画編集、印刷、製本、出版営業、書店での販売技術まで、本の出版と流通に関わらずすべての実地教育がなされている

    第二章
    078 ヤマト運輸が宅急便自体をはじめたのは76年。そのときすでにお届け先の家庭から、本は書店に注文してもなぜ届かないんだ、という声が相当あった」
    083 本という商品が金融と同様、電子情報にしやすい。
    087 再販制:戦時中つくられた統制会社の日配(日本出版配給株式会社)が、戦後GHQの手で解体され、トーハン、日販に代表される現在の独占的取次体制が生まれた。
    088 注文した本がなぜこんなにも待たなければ届かないのか
    092 産業構造的にいえば、日本の出版業界は中小企業の集合体でしかない。
    100 取次の経営というのは出版社に対する買掛金と、書店に対する売掛金、そのバランスシートでやっている。
    103 2000年11月待つ現在、セブンイレブンが雑誌を含むと紀伊国屋書店をしのぐ売上をもつ日本一の「書店」
    104 出版物というのはひと昔前までは、頭を下げて押し戴くものだった
    106 セブンイレブンが、全国の店舗をネットワークで結んで画期的ロジスティックスのインフラづくりができたのは、鈴木の独占体制があるからこそである。これに対し、出版業界がいつまでたっても流通のインフラづくりができないのは、版元、取次、書店それぞれの思惑がありすぎるからだろう。
    110 値付けの必要のない再販制をこれ以上維持していくことは、小売業者たちに仕入の緊張感と仕事に対する熱意を失わせ、ひいては業界全体の沈滞を招くことになる。

    第三章
    174 資金繰りが苦しいと、売れても売れなくても本を大量に出してしまう。そのときは一応売り上げが立つ。しかしいずれ返品がくる。見てくれをよくするために、決算の期末に本をドーンと出す。翌月、返本がドーンとくる。
    189 かつて10万部以上売れていた「講座・哲学」が20分の1の5000部まで落ちてしまったのは、逆説的に聞こえるかもしれないが、大学生の飛躍的な増大と関係しているように思う、という。

    第四章
    224 日本人のメンタリティーの中に本というものが、かなり特別なものとして意識されている。

    第五章
    291 フリーターでもやっていけるという今のような時代はもう5年もすると終わるでしょう。やっぱり大学で勉強して本を読んでないと、社会に出ても使いものにならない時代が必ずくる。もしこなかったら日本はもう終わりです。

    第六章
    337 そもそも図書館の機能を考えると、大きくわけて?資料の保存、?資料の提供の二つがあると思います。
    339 世界有数の蔵書を誇る同館(ニューヨーク公共図書館)はインターネットなどの情報端末の使用も無料で、ゼロックスのコピー機やポラロイドカメラなど二十世紀を代表する技術のアイデアも、ここの資料を閲覧することによって生まれたという。
    343 浦安市立中央図書館館長の常世田良「図書館活動は”文化政策”だと思われがちですが、諸外国では図書館活動は”情報政策”なんです。だから無料のインターネット端末がある。図書館は単に本好きの人に小説を貸し出す場所ではなく、誰にでも情報を届けるという機能が本来ある。図書館評価の問題でも、アメリカは第三者機関が評価基準をもっている。日本のように自治体が評価してすむ問題かどうかは大いに疑問です。」

    第八章
    406 「本とコンピュータ」編集長津野海太郎「コンピュータはあくまで情報の生産のために開発された道具なおであって、生産された情報を気持よく消費するための道具ではないという問題である。ディスプレイ装置も例外ではない。「モニター」という別名で示すように、本来、それは最終結果にたどりつく以前にしごとの過程をのぞき見し、監視し、まちがいをチェックするための、どちらかといえば補助的な道具として誕生した(中略)その点で、読む道具としての機能だけを長い時間をかけて洗練させてきた本とは性格がことなる。
    428 富田倫生(青空文庫)「印刷本は国家を作った。インターネットの電子本は、その境を一瞬に越える。」
    429 富田「紙として本をつくるんだ、という前提から起因する版元や流通、書店は、その前提が外されれば、たしかに消えますね。しかし、”間”にあったものが、紙に付随してあったものなのか、それとも本質的に必要なものなのか、と考えるべきだと思うんです。」
    434 パソコン画面の上だろうと原稿用紙の上だろうと、そこに自分の思いを書きつけただけでは、「本」にはならない。
    438 2000年3月14日、スティーブン・キングがオンライン上で新作短編小説「Riding the Bullet」を2ドル50セントで発売すると、48時間で50万部という電子出版市場最大のベストセラーとなった。

    エピローグ
    450 すぐれた本とは何か。日常の時間の流れに一瞬シワを寄せ、活字から目を転じたとき、外界の尺度が読む前と少し狂ってみえる本のことである。
    453 本は不要とはいわないが、不急の商品である。すぐに効果は現れない遅効性のメディアといいかえてもいいだろう。
    456 読者はいまという時代を情報と知識と娯楽で語れる作家のタメになって面白い本を、こういう時代だからこそ心から切望している。
    456 「アカデミー愛とぴあ」調布市立中央図書館、会員数3000名以上、22サークル

  • 本の逆襲
    内沼晋太郎

  • 2023/09/21 読了 ★★★★★

  • 978-4-8334-1716-2
    C0095¥1800E.

    だれが「本」を殺すのか
    2001年2月15日 第1刷発行
    著者:佐野眞一(さの しんいち)
    発行所:株式会社プレジデント社

    目次
    プロローグ
    本の悲鳴が聞こえる!
    1 書店 
    「本屋」のあの魅力は、どこへ消えたのか
    2 流通
    読みたい本程、なぜ手に入らないか?
    3 版元
    売れる出版社、売られる出版社
    4 地方出版
    「地方」出版が示す「いくつかの未来図」
    5 編集者
    「あの本」を編んでいたのは、だれか
    6 図書館
    図書館が「時代」と切り結ぶ日
    7 書評
    そして「書評」も、消費されていく
    8 電子出版
    グーテンベルク以来の「新たな波頭」
    エピローグ 「本」の生死を分けるもの
    あとがき
    ------------------
    本書はプレジデント誌に「本は届いているか」1999年2月~2000年3月号までに断続連載を改稿し、加筆したもの。


    ゾッキ本 ぞっき本ぞっきぼん 特価本のこと。 「ぞっき」の語源は「まとめて」という意味の商売人の隠語だという。 出版社が金融のために「まとめて」処分した特価本は,定価の 20~30%という割引価格で小売店に流れる。

    この本は20年以上前の本です。だから、新しい情報ではなく、当時はこんな感じだったんだ‥。と読みました。
    大好きな本ですが、知らないことだらけでした。
    本は本屋さんに行って、そこにある中から選んで買うもんだと思ってました。
    社会人になると、本屋さんで、この本が欲しいというと、取り寄せてくれると知りました。短冊のようなものに名前を記入して(スリップではなく)お金を払って「2週間くらいかかります」と言われ、首を長くして待った記憶があります。ネット社会になってから、アマゾンでポチッとすると、あっという間に手元に届き、読みたい気持ちが褪せないうちに楽しめました。現在は電子書籍で瞬時に読めるようになりました。
    田舎の町に住んでいますが、「本屋さん」はほんとに少なくなりました。チェーン店の書店、は残ってくれています。どの店の棚も似てます。チェーン店なので仕方ないことかもしれないけど。

    未だに個人的には紙本が好きで、見返しの紙質、児童書なら表紙の裏やカバーの裏まで、宝探しのように楽しみます。借りてきた本ならシオリの先のへたり具合で、この本人気あるんだ‥。なんて勝手に想像してます。

    現在、ネット書籍や電子書籍も含めて、この先どうなるのかなぁと思いながらも、物としての本、見返しや扉紙の質感、目次のデザインや字体などが作品をより楽しませてくれる一冊にであうと、奥付に装丁やデザインをした人の名前を探してしまう。息遣いが聞こえる本は伝えるものの厚みが違う気がする。
    一方商品としての本となると、値段もかかわってくるのは当然。
    難しい本は読めないけれど、底辺でこっそり楽しんでいる自分が居る。

    電子書籍も否定しません、老眼にやさしいですし、大量の本は避難所に持っていけませんが、タブレットなら持ち込めます。マンガは苦手ですが、たくさんの本(の中身が必要な書籍)を管理するには良い物だと感じています。

    改めて、本が読める環境をありがたいことだと感じました。
    なんか、へんてこな感想になっちゃったなw

  • 情報の消化と消費の違い、本とは知性と等価なものか、知識と等価なものか、媒体がそれが保持する内容と独立して媒体自身の自立した意味を持つのか?本好きなものとしてまた考えさせられる。

  • 本を巡る人、仕組みを冷静にひも解く。もちろん図書館も一章をさいて俎上に上がっている。

  • 本が書かれてから、電子書籍がだいぶ普及してきている時代になりました。携帯もスマホへ。でも、今でも十分説得力のある本。
    「本」の業界全体の構造的問題の根深さを感じます。今更どうしようもない状況になりつつあるのでしょうか。

  • 第一章書店のみ読了。
    うちの近所でも中規模の書店がなくなってしまった。
    大型書店の出店攻勢は、他の小売業界すべてに共通することだが、本屋は返本できるせいで在庫を抱えるリスクがなく、空き店舗に誘致されやすいことに驚く。大手出版社が自社本を売ったらキャッシュバックするシステムのために、ほんとうの良著が軽く目立つ本に隠れて売れないのは嘆くべきであろう。

  • 本を読むことは好きではあるが、本書を読んで「本をめぐる世界」を初めて知ることができたように思えた。
    「版元-取次-書店-読者」という本をめぐる世界が、日本においてここまで、どうしようもなく行き詰っているとは知らなかった。
    「編集」や「図書館」などについても初めて知ることも多く、その意味では「知らない世界」を知ることができたのだが、本書はいまひとつ読む魅力に欠ける。
     これは、やはり「どうしようもなく行き詰った世界」の紹介だけに、この世界に「夢」というか「面白みが欠ける」せいではないか。
     それにしても、著者の膨大かつ緻密な取材力は健在である。
     よき取材対象に恵まれたときの著者の本は★5つなのだが、本書はややあまでみても、★三つが良いとこかと思えた。

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著者プロフィール

1947年東京生まれ。早稲田大学第一文学部卒業。編集者、業界紙勤務を経てノンフィクション作家となる。1997年、民俗学者宮本常一と渋沢敬三の生涯を描いた『旅する巨人』(文藝春秋)で第28回大宅壮一ノンフィクション賞を受賞。2009年、『甘粕正彦乱心の曠野』(新潮社)で第31回講談社ノンフィクション賞を受賞。

「2014年 『津波と原発』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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