戦略読書日記 〈本質を抉りだす思考のセンス〉

著者 :
  • プレジデント社
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本棚登録 : 793
レビュー : 80
  • Amazon.co.jp ・本 (496ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784833420549

作品紹介・あらすじ

『日本永代蔵』『最終戦争論』『一勝九敗』『プロフェッショナルマネジャー』『クアトロ・ラガッツィ』『生産システムの進化論』『日本の喜劇人』…。読んでは考え、考えては読む。本との対話に明け暮れた挙句の果てに立ち上る、極私的普遍の世界。楠木建の思考のセンスとスタイルが凝縮された一冊。

感想・レビュー・書評

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  • ・誰でもいいので、まずは自分の周囲のひとでセンスがよさそうな人をよく見る。そして見破る。「見破る」というのは、その背後にある論理をつかむということだ。
    →著者曰く、経営は「女にもてる」と同じようなセンスであり、それぞれの方法は個性的なものであって、資格のように学んで取得できるものではない。
    多数の著書からその個性と論理を抽出していて、とても面白い。

    ―元祖テレビ屋大奮戦! 井原高忠
    ・ここにも彼の戦略家としてのスタンスがみてとれる。「自分が丸ごと全部を動かせるという感覚が戦略を構想するリーダーには不可欠だ。戦略家は常に「全体」の「綜合」をする人でなければならない。

    ・早くスタジオに入れと言われたタレントが、入ってみたら10分もぼーっと待たされているような状況がしばしばある。「今VTRの頭出しが流れています」とか、「あと何分です」という情報がリアルタイムでわかれば、そこにいる全員が自分がなにをすべきか分かる。小道具が、次に草履を揃えなきゃとか、刀を二本用意しとかなきゃ、といった具合に、それぞれの持ち場で判断して自律的に動ける。
    戦略ストーリーとは全体の「動き」「流れ」についての構想である。分業は仕方ないにしても、戦略の実行局面では「分業しているけれども分断されていない状態」を保つ。ここにリーダーの本領がある。サブ・コンからトークバックを全開にして全員に指示を飛ばすというスタイルにはまことに味がある。理想的なリーダーの構えだ。

    ―一勝九敗 柳井正
    ・話が具体的な案件になると、具体のレベルで思考がひたすら横滑りする人が多いものだが、柳井さんにはそうしたことがない。どんなに具体的な問題であっても、柳井さんは必ず原理原則の抽象レベルにまで問題を引き上げ、ことの本質を突き詰める。そのうえでもう一度具体的な問題に降りてきて、意見や判断を述べる。急降下爆撃だ。
    柳井さんの思考は目の前で起こっている具体的な物事と抽象的な原理原則の体系と常時いったりきたりしている。この具体と抽象の振幅の幅がとんでもなく大きい。振幅の頻度が高く、脳内往復のスピードがきわめて速い。
    戦略ストーリーを構築する経営者の能力は、どれだけ大きな幅で、どれだけ高頻度で、どれだけ早いスピードで具体と抽象を行き来できるかで決まる。

    ・柳井さんの議論のスタイルを観察していると、口癖のように「当然ですけど」という言葉が頻発する。たとえば「われわれの商売は売場でお客様に商品を買ってもらわなければ何も始まらない。だから、つくることよりも売ることのほうが何倍も大切になる。当然ですけど」という調子である。場合によってはその後に「当たり前ですけど」と続いて念押しする。「商売は売場で完結しなければならない。あらゆる仕事が最高の売り場をつくるということに直結していなければならない。当然ですけど。当たり前ですけど」。
    →一勝九敗は有名な著なのでどうかと思ったら、著者が柳井さんと一緒に仕事をした実例から切り取られていて新たな発見が多かった。特にその「23条の経営理念」はとても当たり前のことなのだが、「わかる人には万能薬、わからない人にはただの水」で、例えば第一条は「顧客の要望に応え、顧客を創造する経営」なのだが、柳井さんはこれについて何時間でも「つまりこういうことである」という具体論を話すことができるそうだ。

    ―『バカな』と『なるほど』 吉原英樹
    ・いつぞやも僕の仕事場にわざわざいらして、唐突に「キミはこういうところがダメだ。このまま行くとダメになる」と割と本質的な批判をして、すーっと帰ってしまった。

    ・馬車を何台つなげても、蒸気機関車にならない。―シュンペーター

    ―スパークする思考 内田和成
    ・内田さん自身は、常に20くらいの引き出しを持っているのだという。引き出しにはそれぞれのテーマがあり、テーマはときどき入れ替わる。20ある「脳内引き出し」にはそれぞれ見出しがついている。これが内田さんの「注意」のフィルターになっている。このフィルターをもって情報のなかに身をおいていると、引っかかる情報は自然と引っかかって引き出しに仕分けされる。引っかからない情報はさしあたって自分には意味のない情報だからどうでもいい。無視するに限る。

    ―最終戦争論 石原莞爾
    ・石原という人が面白いのは、何かを考えるときに、必ずそれが「何ではないか」を考えているということだ。

    ・もしも石原莞爾が失脚せず、戦争指導していたらどうなったのか。石原を失脚させた東条英機は、石原よりはるかに格下であり、「担当者」の器量しかない人物だった。冷徹なリアリズムと歴史から抽出された骨太のロジックを併せ持った石原であれば、あのタイミングでは開戦しなかっただろう。開戦を余儀なくされても、機をとらえてすぐに引いただろう。いずれにしても、多くの人が言っているように、東条が石原だったら、歴史は大きく変わっていたはずである。
    ただし、それで彼の戦略ストーリーどおりに事が運び、予測したとおりに1970年ぐらいに世界最終戦争が起きていたら、それはそれで最悪ではある。

    ―『日本の経営』を創る 三枝匡
    ・経営人材は「育てられない」。だから「育つ」土壌を耕す。

    ―Hot Pepper ミラクルストーリー 平尾勇司
    ・ホットペッパーの本質は「特定の狭い地域に限定された消費情報を、今までにない形で流通させ、その地域の消費を喚起する」ことにあると定義された。ひいては「地元の消費を活性化し、地域を元気にする」。これがホットペッパーの目的となった。言葉としては素っ気ないが、「狭域情報ビジネス」は大義をとらえた志の高いコンセプトであった。
    面白いことに、このコンセプトはそれまでのリクルートの「勝利の方程式」のことごとく逆をいくものだった。

    ・「綜合」というとすぐに「シナジー」とか「組み合わせ」という言葉が出てきがちだ。しかし、ストーリーという戦略思考の真髄は、組み合わせよりも「順列」にある。物事の時間的な順番に焦点を合わせるからこそ、因果論理が明確になり、戦略に「動き」が出てくる。「流れ」を持ったストーリーになる。

    ・僕がもっとも感銘を受けたのは、平尾さんが構想したストーリーがその実行にかかわる人々の気持ちに火をつけ、人々を実行に向けて自然とやる気にさせるものになっているということだ。

    ―映画はやくざなり 笠原和夫
    ・データを頭に叩き込むと、「コンセプト」と「テーマ」が一層リアリティを帯び、深みを増してくる。しかし、だからといって、調査や資料の読み込みがコンセプトづくりに先行してはならない。先にあるべきはあくまでも本質を荒括りにするコンセプトとテーマでなくてはならない。
    僕が尊敬する経営者の一人に日本マクドナルドの原田泳幸さんがいる。原田さんがよく言う言葉に「リサーチから始まる戦略はモノにならない」というのがある。

    ・笠原は、「起・承・転・結」のそれぞれの区分のなかで、山場を「序・破・急」のリズムで刻んでいくことを心がけていた。

    ・この本の最後で「だからといって、骨法などに捉われて、自分の『切実なもの』を衰弱させてはならない」と笠原はクギを刺している。いちばん大切なのは「体の内側から盛り上がってくる熱気と、そして心の奥底に沈んでいる黒い錘りである」。

    ―市場と企業組織 O・E・ウィリアムソン
    ・経済取引のガバナンスには二つのメカニズムがある。一つが「市場」、もう一つが「組織」だ。だからタイトルが『市場と企業組織』になっている。市場の反対は組織で、組織の反対が市場だというのがウィリアムソンの考え方だ。

    ・「満足を呼び起こすような交換関係」といった「雰囲気」は、市場メカニズムでは十分に扱えない。「1リットルいくらで買います」といった具合に血液を必要なときに必要なだけ市場から吸い上げるシステムは理にかなっていないのである。
    こうした「雰囲気」にまつわる議論は、本書の中では付随的にしかなされていない。しかし、ここでウィリアムソンがぼんやりとモデルの中に入れている「雰囲気」こそが、僕はこれからの組織のよりどころではないかと考えている。
    …ようするに、「濃い組織でなければ、組織として存在する意味がない」というのが僕の仮説だ。なぜ市場がパワーを持つこの時代に「会社」をやっているのか。この問いに明確に答えられる組織でなければ市場メカニズムに侵食されて、会社としての存在理由を失ってしまう。

    ・初対面で人を判断できないのは底の浅い人間だけである。―オスカー・ワイルド

  • 抽象化と具体化
    バカなる
    完全分業と一貫型の違い
    歴史に学ぶ
    直列型のシナリオ
    冷たい経営
    豪放磊落
    自分の色

    学びを一言で綴っていくとそう言うこと。
    プロフェッショナルマネージャーとレイクロックの自伝は読んでみなくてはと思う。

  • 著者の好みの本とともに、繰り広げられる世界。
    この方、かなり本がお好きだとわかります。
    読みたくなった本がまた増えた。

  • 6章の石原莞爾についての考察が特に良かった。石原はナポレオンとフリードリヒ大王を思考の「極」として捉え自らの立ち位置、ひいては大日本帝国の立ち位置を模索する。ヘーゲルの弁証法やポーターのマトリクス分析等を思わせる石原の発想と行動力に感動。

  • “至高の思考に触れる”「思考のセンス」を引き上げるエッセンスが現役のプロの視点で綴られた短篇集となります。「考える」のレベルを一段引き上げたい方はぜひご一読ください!

    所蔵情報
    https://keiai-media.opac.jp/opac/Holding_list/search?rgtn=090980

  • 前作「ストーリーとしての競争戦略」の内容を書評で具体化するコンセプトだ。文章はゴツゴツしているけれども、内容はとても良い。

    下記引用
    p24 本人が面白がっていること
    自分で心底面白くなければ、人がついてくるわけがない
    誰もが喜ぶということは、本当に喜ぶ人は誰もいないのと同じである

    p38戦略ストーリーを構築する経営者の能力は、どれだけ大きな幅で、どれだけ高頻度で、どれだけ速いスピードで具体と抽象を行き来できるかで決まる

    p53自分でよくわかっていることしか書いていないということだ。中途半端にしか理解していないことは書いていない

    p65情報の豊かさは注意の貧困をつくる

    p66情報は、集めるな整理するな覚えるな

    p68二〇ぐらいの引き出しを頭の中に持ちましょう

    p72情報のインプットを増やしていけば、自然とアウトプットが豊かになるということは絶対にない

    p152こちらがブレなければ相手が勝手にブレてくれる

    p153当たり前のことを普通に、しつこくやり続けているということが大切

    p159物事の順番にこだわる

    p179本当に重要なことはすべて自分で発見しなくてはならない

    p180実績こそきみの実在だ

    p233良し悪しではなく、好き嫌いの世界である

    p234自分にとって切実なものは何か、理屈抜きの自分の血の騒ぎは何なのか、そういう自問自答が戦略ストーリーの起点にあり、終点になければならない。自分にとって切実なもの、それが戦略の原点であり、頂点である

    p236 勉強の王道読書
    勉強の動機は役に立つ

    p237勉強のための読書それ自体を面白くしてしまえばよい

    p238勉強の面白さは、ひとえに知識の質に関係している。上質な知識とは何か。それは論理

    p258論理化されていればことさらに新しい知識を外から取り入れなくても、自分の中にある知識が知識を生むという好循環が起きる

    p259優秀な人というのは面白がる才能の持ち主だ。
    面白がる才能は人間の能力の本質のど真ん中といってもよい。時間をかけてでもそうした才能を開発できるかどうか、ここに本質的な分かれ目がある

    p280日ごろの心構え

    p284人の役に立とうと思って研究をしている
    世の中の役に立ってナンボだ

    p287自分のやっていることを心底面白がっている

    自分が好きなこと、面白いと思うことを仕事にする。面白いからのめりこめる。普通の人にはできないような努力を投入できる。好きこそものの上手なれで優れた成果が生まれる。だから世の中と人の役に立つ、やりがいを感じる、ますます仕事が面白くなる

    p288能力ない→努力をしない→好きでない

    p289自分が大切だと思うこと、本当に言いたいと思うことだけを言う
    ただし、言いたいことは全部言う
    本当にスキだと思えることをやる
    スキであればそれなりの努力ができる
    努力を継続できる。
    努力を継続すれば、そこそこ上手になれる。
    上手になれば人の役に立てる。
    そして、何より大切なことは、自分以外の誰かの役に立ってこその仕事だということ

    p308知的活動とは、ようするに抽象と具体の把握だと僕は考えている
    抽象と具体の往復の幅広さと頻度とスピードを指していることが多いと思う
    具体をいったん抽象化して、抽象化によって本質をつかみそこから得られた洞察を再び具体的なモノなり活動に反映していく

    p350この仕事の本筋は何か。どうやったらきちんと早く終わるのか
    会社の仕事というのは、すべて単純で合理的なものであるという事実
    どんな小さな仕事であっても、純粋にその仕事の目的だけを考えて工夫すれば、達成感があり、とても楽しいということもわかりました

    p355長所と短所はまったく同じもの(その人の個性)。長所を伸ばして、短所を直すという考え方は、そもそもありえないと思っています

    人間として最上の美徳は素直であること
    実績や経歴や能力よりも素直さ

    p356深い洞察からくる信念に根差した哲学があれば思考と行動がぶれない。だから意思決定も早くなる。
    自分の持ち場で、一所懸命に生きることがいちばん自然な形
    元気で明るく楽しい

    p409どんな仕事であれまずセンスありき
    自分のセンスをつかみ、芸風を意識的に育て、それにフィットするように仕事をすることは決定的に重要だ。
    スタイルが決めて

    p429芸風はただ一つ。仕事でプロとして生きていくことは、そもそも自分の芸風と心中するということだ。

    p446読書はコストパフォーマンスが最強。もう現代社会の奇跡といっていい
    現代社会の到達した豊かさは読書に象徴されている

  • ストーリーとしての競争戦略の続き。
    色々な日記のレビューが書かれており、面白かった。

  • vol.215 あのベストセラー『ストーリーとしての競争戦略』の原点を発見!http://www.shirayu.com/letter/2013/000435.html

  • ただの書評集なんだよね・・と思って読み始めたのだが、確かに書評集なのだが、何か違う。
    一つ一つの本の紹介ではなく、いったん読みこ読み終わったた上で、その真髄を楠木節で語る本であった。
    あーつまんないなぁと読むのやめようかと思いながら読了したのは、これが初めてだ。
    読み出すとなぜか心をつかむ楠木節。恐るべし。

  • 経営学でなく経営論を生業とする著者が読書によりどのように内在論理を読み解いてきたかを、楠節で語り尽くす一冊。ほんの少し読んだことのあるのもあったが再読必須。仕事以外で年間300冊の中からの絞り出されたコクのある文章。

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著者プロフィール

一橋ビジネススクール教授。専攻は競争戦略。一橋大学大学院商学研究科修士課程修了。一橋大学イノベーション研究センター助教授、ボッコーニ大学経営大学院(イタリア・ミラノ)客員教授などを経て、2010年から現職。著書に『ストーリーとしての競争戦略』(東洋経済新報社)、『経営センスの論理』(新潮新書)などがある。

「2018年 『世界を動かすイノベーターの条件 非常識に発想し、実現できるのはなぜか?』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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