2030年ジャック・アタリの未来予測 ―不確実な世の中をサバイブせよ!

  • プレジデント社
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  • Amazon.co.jp ・本 (224ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784833422406

作品紹介・あらすじ

「起きるわけがない」と決めつけても、どんなことだって起こりうる。そうした最悪の事態を予測することこそが、最悪を回避する最善の手段なのだ。

感想・レビュー・書評

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  • フランスの思想家で、サルコジ大統領の諮問委員会通称「アタリ政策委員会」の委員長を務め、オランド大統領への政策提言や、何よりアタリ政策委員会を通してフランス政治に大きな影響を持つジャック・アタリ。本書は、世の中への警鐘を鳴らすために、最近としては珍しく世界に対して悲観的な近未来予測をたらふく書いている。
    原題の”Vivement après-demain”は、「明後日が待ち遠しい」といった意味なのだが、それは、きれいごとも含めてこの本の最後にフランスおよび世界に対して提言を行っていて、われわれならできるとこの本は締められているからだ。2016年にフランスで出版されているので、およそそこから15年後の2030年を明後日として見据えたものだが、2021年の今は、そこまでの道程の約1/3が過ぎたところだ。

    「本書執筆の時点では、世界に善をなす手段は数多く存在し、善をなす活動家たちは増え続けている。だが、現在、世界は悪の勢力によって支配されているといえる」と書かれると、ベストセラー『FACTFULNESS』で指摘された人間の本能からくる思い込みに飲まれている典型的知識人なのではと思われるかもしれない。また、『FACTFULNESS』が出版されたのは、この本が出版された後の2018年なので、ハンス・ロリングはアタリのような知識人を念頭において自らの著作を書いていたのかもしれない。それでも、二人が直接話を交わせば(ハンス・ロリングはすでに亡くなっているのでそれは不可能なのだが)、お互いにすぐに表面上は打ち解けて、表現は違えど意図するところは同じだなどと知識人的に言ってしまいそうではある。

    アタリも、生活水準が上がっていることは認めるし、平均寿命が各段に伸びていることも認める。極度の貧困にあえぐ人々の数とその比率は少なくなっていることも認めるだろう。情報通信、農業、教育、医療におけるテクノロジーのイノベーションが進んでいることも当然誰よりも知っている。戦争や暴力も、殺人事件も減っていることも認識している。それでもアタリが敢えて警鐘を鳴らすのは、高齢化、一部地域での人口爆発、移民の境遇、そして何より地球環境の危機があるからだ。具体的に取り組むべき課題は水資源と気候変動、そして格差拡大だ。そこからは、アタリはどんどん暗いニュースと数字を並べたてる。世界全体としては物事がよくなっていることは認めているので、その指摘は局所的な課題(メキシコでの殺人事件発生率上昇)や直近の動き(2011年から2015年までに戦争やテロの被害者が七倍)であるものが多い。しかし、それがまさに近年の格差拡大の証拠として挙げられる。

    アタリは、その原因のひとつになっている法の支配のないグローバルな資本主義の暴走を危険視する。
    一方で、技術進歩の観点では2030年までの間には大きな進歩が期待される。具体的な例として、健康(遠隔医療や認知症改善)、教育(遠隔教育や脳の働きに合わせた学習)、労働(苦役からの解放)、住宅(3Dプリンティング建築やスマートビルディング)、水資源(海水の淡水化)、農業(センサやゲノム編集作物)、エネルギー(太陽光パネルと蓄電池の大幅改良)、自動車(電池改良によるEVや自動運転)、航空(ハイブリッド化や自動運転)、娯楽(VRやオンライン化)、芸術(3DプリンティングやAR)、シェアリングエコノミー(金融、求人、宿泊、自動車、コンテンツ)、リサイクル(分子レベルの物質分離)が挙げられる。
    しかしながら、これらの技術進歩がこのままではポジティブな結果をもたらさないだろうというのがアタリの結論だ。「世界経済が審判のいない市場に支配され続ける限り、それらの要素は権力者たちに横取りされ、現在の不均衡を悪化させるだけなのは理論的に明白だ」と言う。果たしてそれほど明白かどうかは自分にはわからないのだが、アタリは「技術進歩がどれほど魅力的であっても、技術進歩によって雇用は破壊され、富のさらなる集中が加速する」と断言する。2030年には「この世を耐え難く思う人々が現在よりも圧倒的に増え、ほとんどの人々がそのように感じると予測できる」というのだ。おそらくは、それがジャック・アタリが問題視するところだ。

    「世界中の社会に蔓延する憤懣は、次第に激怒になる」という(※ここは使われる単語のフランスでのニュアンスが知りたいところだ)。それが、暴力を生み、破壊的な社会状況をもたらすのだと。ちなみに、日本は、混乱と激怒を発生させる6つの火種のうちのひとつにも数えられており、国の巨額債務バブルの崩壊による金利と物価の上昇に直面し、日本円の価値が大幅に下落に向かって、現金やゴールドへの逃避が始まり世界経済の混乱を生むと悲観的だ(他の国にもおよそ悲観的なのだが)。

    そうして2030年までの混乱により、世界大戦が始まる確率が高まっているとまで言って読者を脅す。地政学的に、北朝鮮、ロシア、パキスタン、中東、サヘル地域とアフリカ、イスラーム国、が指摘される。さらに特記すべきは、「大勢の人々が命を落とすまで治療法のわからない新型ウイルスが発生」する可能性も指摘されていることだ(残念ながら深堀りされていないので、これをもってコロナを予言したというのは言い過ぎだろう)。

    いずれにせよ「危機が迫っていると自覚することが絶対に必要だ。そうした自覚こそが、危機を回避するための唯一の方法なのだ」という。
    そして、そうした自覚が「自分たちの憤懣を怒りではなく、利他主義へと誘導」し、「協力は競争より価値があり、人類は一つであることを理解する」ことが重要で、「人類の倫理と政治組織を高度な次元に移行すべきだという自覚が、われわれの中に芽生えてくる」のを期待する。

    アタリにとっては、それはあるレベルにおいては、個人の生命よりも価値を与えられるべきだという。「われわれは自分自身の生命に最大限の意義を与えて死を拒否する。だが例外がある。きわめて大切な価値観が危機にさらされている場合だ。すなわち、それは次世代の暮らしに関する価値観である」という。

    「「自分自身ができるかぎり高貴な生活を送りながら世界を救う」
    この奇妙な文句は、自己と他者の利益の見事な一致であり、いかなる時代であっても、どれほど大きな危機に直面しても、適用可能な革新的な寸言である」

    と書くとき、その言葉の底に流れる論理には、どこかそれはカント的な相貌を見ることができるのではないか。アタリがそれを意識しているのかどうかはわからないが(意識しているのではないかとも思っているが)、倫理を突き詰めると、いつもカントに戻ってくるような気がする。

    最後に、アタリが挙げる10の箴言をまとめて並べてみよう。
    1. 自分の死は不可避だと自覚せよ
    2. 自己を尊重し、自分自身のことを真剣に考えろ
    3. 変わらない自分をみつけろ
    4. 他者が行おうとすること、そして世界の行方について、絶えず熟考しながら自分自身の意見をまとめろ
    5. 自分の幸福は他者の幸福に依存していることを自覚せよ
    6. 複数の人生を同時かつ継続的に送る準備をせよ
    7. 危機、脅威、落胆、批判、失敗に対する抵抗力をつけろ
    8. 不可能なことはないと思え
    9. 実行に移す
    10. 最後に、世界のためにも行動する準備をせよ

    さらにアタリが挙げる10個の提案も並べてみる。
    1. 学校や法律の教科書など、いたるところに、利他主義、寛容な精神、誠実さを養うための学習を取り入れろ
    2. 国連総会のもとに次の三つの機関を設立せよ(組織改正された安全保障理事会、三十歳未満をメンバーとする次世代議会、世界環境裁判所)
    3. 世界的な紛争が勃発するリスクと闘え
    4. 法の支配と暴力を抑制する合法的な手段を強化せよ。とくに、女性や子供に対する暴力を撲滅するのだ
    5. 世界経済の連携を組織せよ
    6. 世界通貨を導入せよ (万国共通のベーシックインカムの保障のため)
    7. 小規模の農地を守るために、農地に関する所有権を世界的に強化せよ
    8. 積極的な経済を推進するための世界的な基金を創設せよ
    9. 新たな技術進歩を世界中の人々が利用できるように支援せよ
    10. 最後に、今までに述べたことに対する取り組みの進行状況を、企業、都市、地域、国、世界という単位で、客観的な指標を用いて計測せよ

    そして、最後にフランスが国家として行うべき行動計画を提案する。

    これらの結論として言いたいことを一言で表すとすれば、「情けは人のためならず」ということかもしれない。大枠として、きれいごとが過ぎるのと、グローバル資本主義がもたらし、かつ今後ももたらすであろう貢献に対する批判としてはやや不公平にも感じる。しかし、本書の刊行から5年を過ぎてSDGsの観念と行動がここまで普及したのは、こういったアタリ的な人びとによる提言がバックグラウンドにもあるのかもしれない。

    不思議なことに、2016年10月に出版された本書は、その1ヶ月後にドナルド・トランプがアメリカ大統領になる可能性についてはおくびも出さない。"トランプ"という言葉にさえ、この本の中では一言も触れられていない。2016年の時点で世界でもっとも影響を与える単独のイベントはトランプの大統領就任を置いて他にはない。また、本書で掲げる利他主義にあからさまに反する人物であることもそのころから表面的には少なくとも明らかだ。そう考えると、いくら経験を積み、知識と情報を集めたとしてもすぐ先の未来さえも見通して当てることは難しいということなのかもしれない。むろんそれは、ジャック・アタリ個人の非ではない。逆にわれわれがそういった限界の認識を得ること自体が重要だと言えるのである。

    ちなみに副題の「不確実な世の中をサバイブせよ!」は余計で、ミスリードするところだ。サバイブと書くと、まるで個人が競争して生き残ることを想像させる。アタリが言いたいことはまったく逆で、人類や次世代、もっと広くいうと地球環境が生き続けるために利他の心でもって行動するべきだと言っているのである。どうして邦題はこうも頓珍漢なものが付けられることが多いのだろうか。

    ひとつひとつの主張には違和感を感じるところも多かったが、フランス政府やEUには直接的に影響力をもつ人がどういうことを考えているのかということを知るということでは読んでおくべき一冊かもしれない。同じ意味で秋に出版された『命の経済――パンデミック後、新しい世界が始まる』もトランプとコロナを経てそれがどう変わっているのか(変わっていないのか)を知るためにも目を通すべきなのかもしれない。

  • 《アタリはアタる》

    というのが、以前から私がなんとなく感じていたことだった。
    以前に読んだ本には、近い将来世界的なパンデミックが起こるとあったが(『危機とサバイバル』)、すでに新型ウィルスが世界を席巻したのは周知の事実である。

    そんなこともあり、2030年まであと10年となった今、ジャック・アタリはこれからの10年をどのように見るだろうかというのは興味のあるところであった。

    本書の後半へ読み進むにつれて暗雲垂れ込め、第三章に至って愕然とした。
    えええええ!!!、、、世界はそんなことになっちゃうの!?
    という話が次々出てきて圧倒されたからだ。にわかに信じがたいストーリーを前に、こんなものは空想に過ぎぬ、未来はわからないから未来なのだと一掃することはできるだろう。だが、仮に、金と利権と権力にしか興味のない人々が、自分たちのために世界を動かしているのだとすれば、こういう破滅的な世界が遠からず来ることは予測できなくもないなとも思う。

    アタリは、こうした危機に抗う方法として、《利他》の精神を説く。《利他》の精神そのものは素晴らしいと思うし、本当に全世界の人々が覚醒し、利他行に本気で勤めれば危機は回避できるだろう。しかし、この予測される圧倒的な現実の中で、《利他》がどれほどの力を持つか、私にはよくわからない。

    今後もときどきページを繰りたい一冊である。

  • この本は、
    #FACTFULNESS
    の上をいくかも

    学べば学ぶほどグローバル経済も民主主義も今のままじゃやばいってなるけど

    結局は個人が変わるしかなくて、そのカギは利他主義だ、という本

    日本の今の政治家には無理や
    仏にはアタリに諮問する政策委員会があるのか…凄いな

  • 資本主義と民主主義の崩壊は脳裏に焼き付いた。

    • nobnobitaさん
      戦争の匂いを敏感に捉えている本だと思いました。
      貧富について中流階層の人々が束になって激怒する可能性において既にヨーロッパは現実味を帯びてる...
      戦争の匂いを敏感に捉えている本だと思いました。
      貧富について中流階層の人々が束になって激怒する可能性において既にヨーロッパは現実味を帯びてる気がしていて、その流れが世界中に広がると大きな戦争になってしまう予見は勉強になりました。
      2019/08/29
  • 利他主義の定義が日本ではややこしいことになってきた(中島岳志の参入で)ので、アタリのいう「合理的利他主義」をきちんと知っておこうと本書を購入。少し前の出版なので書店で探した。

    斎藤幸平の「人新生の資本論」を読んでからというもの、気候変動がそこまで深刻なのか、社会の仕組み自体を変革しなければいけないのか、と、近未来を予想した本を何冊か立て続けに読んだ。
    ここに書かれているものとほぼ変わらない。というか、2016年にフランスで出版され、しかもアタリの著書なので、これが元本といっていいのかもしれない。

    で、希望は無い。
    しかも、2016年に書かれた予想が、ことごとく当たっていることもまた、希望を打ち砕く。

    この本の白眉は、最終章に、じゃあ、どう行動すればいいのかを書いてくれていること。
    あんまり直截的で、重みがないように見えるのに(笑)そこが、利他主義者なのだなあ。こういうところ、私は好きです。

    そして、やはり、合理的利他主義を唱えている。次の世代のために何かできることに喜びを感じよと。

    さらに、「飲料水、医療サービス、エネルギー、住居、教育、情報などの技術進歩を、誰もが利用できる」ように支援せよ、のくだりで、地球の危機を知る人は、結果として、同じところに到達するのだなと、感動のようなものを感じた。
    「コモン」の共有は、避けて通れない世界の課題なのだ。
    資本主義がどのように悲惨な最期を遂げるのかわからないが、地球上に人間が生きのびていたのなら、新たな社会は、「コモン」を共有し、平等に生きていくしかないってことだ。

    斎藤幸平もジャック・アタリも、自分たちが生きてはいないだろう先の世界について、考え、発言している。
    どこぞの国の、自分の票田を守ることしか考えてない政治家とは大違いなのだ。

    ジャック・アタリは朝日新聞の世界会議という企画でも登場し発言していたし、処方箋を書いてくれているこの本は貴重だ。文庫版で出版してもよいのではないだろうか?

  • 2030年の未来予測はだいたい恐怖でしかない、この本も恐怖感がすごかった。
    2021年に読んでいるからこそ、鳥肌が立つことも。
    こんな未来きてほしくないけどどうしたらいいんだろ・・・

  • 2021年でみても当たっている点多数

  • 2030年という近未来に起こることを悲観的な事実を並べたて恐怖心を煽られていると感じるが、これくらいでちょうどいい。
    これらの事実を直視し問題を先送りせずに必ず訪れる悲観的な近未来に対し自分は今何をするべきか?
    しっかり考えたい。

  • 2021年45冊目。満足度★★★☆☆ 2015年時点で15年後の2030年の世界を複眼的に予測。最悪の事態を予測することこそが、最悪を回避する最善の策であると説く。期待して読んだが、深みに欠けた。

  • アタリ氏による、未来の技術からくる世界予想と、それに伴う人間の思想、怒りのり原因、対処法、
    今後の考え方と行動。

    一言で言うと。
    1.世界は技術進歩により様々な変化がおこる。それは必ずしもプラス面だけではなく、マイナス面もある。

    2.そのマイナス面を、どう乗り越えていくか、それは利他であり、自分のやりたいことに傾注することだ。

    3.そうした愛情が、世界を良くする。
    是非取り組みされたし。

  • 人新世の『資本論』の副読本みたいな感じで読みました。

  • イノベーションの大波が2030年までに起こるとのこと。
    特に3Dプリンターの導入は今後の15年に大きな影響や革新をもたらすだろう。

    人工知能の発達とともに、感情の刺激をどう反映していけるのか?
    人とロボットの差は縮まるが、その中でどう生き残るのか?
    企業にとってもこれからの15年は、勝負だ。

    また人類を全滅させる大惨事についても予想しており、その中に新型ウィルスについての記述がすでにあった。
    人工知能においても人類を消滅させる決定を下す、と記述があり、世界大戦などの恐れもあるとのこと。
    ウィルスを当てているだけあって真実味があり、そうならないためにどう生き抜くかを
    最後に提示してくれている本でもある。

  • 2016年にフランスで出版され翌年日本で出版、2020年に読み始めたため、内容に少しギャップを感じるところもあったが、文中に幾度もウイルスによる世界的ダメージが発生する可能性を示唆しており、それが正に進行している中で読み進めていたため、驚かされることとなった。

    この書籍は「父が娘に語る 美しく、深く、壮大で、とんでもなくわかりやすい経済の話。」で書かれていたように、様々な数値を元に書かれていることと合わせて、人それぞれ、民族それぞれがもちあわせる、それぞれの歴史的な流れなどからどのように思考すし、どのように判断が行われるかが書かれている。

    よって、今後の世界情勢については楽観視ではなく、かなり悲観的に見ている内容となっている。

    これまでは貧富の差はあれど、富めるものの資産で複数の国の国家財政を超えることがなかったが、現実問題として複数国家財政を超える領域に達してきている。となると、国と資産家との1国の中でのパワーバランスが逆転しているだけではなく、世界的に国と資産家のパワーバランスが逆転してきていることになっている。

    上記は数字の範疇であるが、人の気持ちは数字で判断出来る内容をねじ曲げることがある。それらを紐解いてくれる示唆に富んだ一冊である。

  • 第一章はデータの記載が多く世界中で起きている様々な社会問題。
    第二章から読者に投げかけられる質問、ジャックアタリの未来予測は読み手を圧倒する。

  • 表紙の袖に書かれている『「起きるわけがない」と決めつけても、どんなことだって起こりうる。そうした最悪の事態を予測することこそが、最悪を回避する最善の手段なのだ』という言葉が全てを物語っている。
    随所に先見性が見られて参考になる。が、数字での解説が多いので把握しずらい。

  • 21世紀の歴史では、迷いなくアタリの言葉が入ってきたのだが、、今回は全て受け取れていない自分がいた。この腑抜けた時代のまま次の世代に渡してはいけない、我々世代が未来の教科書に一行も出てこないのではという不安もある。教科書に載る必要はないが、今があるのはこの時代のこの世代のおかげと思われたいというのが、未来への利他主義なのかもしれない。日本は世界で一番利他主義のはずだった。その時代に戻せばよい、貧しいけど笑顔で幸せという世界を。

  • この本に期待している事は、未来の世界を自分の頭で創造し、起こる事象に対応するために、その判断材料としてこの本が道標を示してくれることである。あくまでも予想なので、鵜呑みにするのではなく、考える材料という点を忘れずにこの本を読み進めていきたい。

  • 人類を取り巻く環境について悲観的なファクトをこれでもかというほど書き連ねているが、楽観的なお花畑色に染め上げた未来予想より、これくらいの重みがある方が現実味があり腹も据わる。

    最終章で人類が政治や宗教、歴史的なわだかまりを越えて共感し合い、協力する術についての提案がある。半年に一回くらいは読み直したい一冊。

  • 現代版ノストラダムスの大予言。ただ、ちゃんと統計データに基づいている。利他的に生きること。これは、企業も大事。

  • 市場民主主義の引き起こす憤懣、怒りへの警句。利他主義への転換を促す。

  • 今年(2018)の初めに読んでいた本ですが、部屋の片隅に、私にレビューを書かれることをずっと待っていたような本です。テーマは、今年になって興味を持ち始めた、私が社会人を引退することに世の中はどのようになっているのか、というものです。

    世の中では、定年60歳は過去の話、65歳ならず75歳まで、更には生涯(死ぬまで)現役!ということまで言われていますが、その一方で、企業側はしっかりと人材不足になったときの準備も着々としていると感じます。

    この本では、ジャックアタリ氏による、2030年までの変化を予測した本です。残りの社会人生活を悔いなく送れるように、自分らしさをいかに表現できるかを考えつつ日々を過ごしたいと思いました。

    以下は気になったポイントです。

    ・世界人口に占めるインターネット利用者の割合は、1996年の1.3%から、2016年の49.2%へ増加、世界人口74億人のうち、23億人がSNSを積極的に利用している(p25)

    ・宿泊先を共有する、エアビーアンドビー社は年間換算で1.5億人の宿泊を提供する、これは高級ホテルチェーンヒルトンの宿泊者の延べ人数1.27億人を上回る。ウーバー社の時価総額は、デルタ・アメリカン・ユナイテッド航空の価値を上回っている(p32)

    ・世界中の外国の軍事基地の95%はアメリカ軍のもの、世界160か国に800の軍事基地に駐留している(p37)

    ・世界の紛争のほとんどは、世界人口のおよそ6分の1が暮らす、マリからパキスタンの地域で起きている、戦死する兵士の数を年間人口10万人当たりで表すと、第二次世界大戦中は300人、朝鮮戦争22人、ベトナム戦争9人、イランイラク戦争5人、2011年以降は0.3(p47)

    ・難民のおよそ86%は途上国が受け入れている、トルコ・パキスタン・レバノン・イラン・エチオピア・ヨルダン・ケニア・チャド・ウガンダ、先進国が受け入れた難民の数は160万人(p52)

    ・都市部で暮らす人口の80%は、WHOの定める環境基準を超えた大気汚染にさらされている、途上国・中進国の人口10万人以上の都市の98%では大気汚染に関する基準が守られていない(p53)

    ・海洋の温暖化により、グリーンランドの氷床の年間平均減少率は、1992-2001には34Gt(10億トン)だったが、2002-2011年には、215Gtと急増した、これにより海面上昇(1.7ミリから3.2ミリ)も起きている(p55)

    ・農業に関する懸念材料として、農民たちは種子を毎年購入せざるを得なくなり、種子を交換することもできない、種子市場は、モンサントーバイエル、デュポン、シンジェンタによる寡占状態(p59)

    ・先進国上位25か国の世帯の65%(5.4~5.8億人)は、2005-2014年にかけて収入が横ばい、減少した、中産階級が貧困化している(p62)

    ・2011年以降、世界中のGDPは20%増加したが、国際貿易は停滞した、保護貿易障壁はいたるところにある(p77)

    ・アメリカの公的年金システムを維持するには、3.4兆ドル足りない、将来的にバランスさせるには、州と都市の負担割合を現在の歳入の7.3%から、17.5%まで引き上げる必要がある。だがこれは無理、シカゴ・ヒューストン・ダラス、イリノイ州、オハイオ州はすでに破たん寸前である(p79)

    ・世界中の人々の平均寿命は横並びになるだろう、2030年、人類の3分の2は都市部で暮らす。1000万人以上の人口を持つ巨大都市の数は、41になる、都市化したから農業生産性は向上する(p112)

    ・2025年以降、コンピュータは1秒間に、2.88x1017回の計算をする、人間の脳は同じ時間内に、10x1017回でありその差は3.5倍しかない。予測モデルは効率かつ詳細になり、知識および医療分野は次第に自動化される、2030年には1500億個のものが互いに、そして数十億人の人々とインターネットにより接続される(p115)

    ・3Dプリンタが産業界、一般家庭に浸透するだろう、これにより一部の製造現場は先進国に回帰、一般家庭ではカスタマイズしたモノが作られる(p115)

    ・拡張現実や仮想現実の道具を利用すれば、ホログラフィー対応のスマホで通話中の相手を3Dで眺められる、今後15年間に進化する視線追跡と顔追跡のテクノロジーにより、現実と仮想の相互作用が促される。スクリーンを利用せずに拡大した現実に、我々のデジタルデータを投影することが可能になる、現実と仮想が行動および思考において混ざり合う(p116)

    ・2030年、セマンティック・ウェブにより、検索エンジンと自然言語で会話できるようになる、人工知能とセマンティック・ウェブを組み合わせると、自動翻訳機となり、これがあれば世界中の専門家の見解を知ることができるようになり、国境はいずれ廃止される(p117)

    ・今から2030年までに、KWh当たり150ドルのバッテリーが開発されるので、ハイブリッド車が急速に普及する。航続距離が内燃機関車(600キロ)と同様になるだろう(p123)

    ・共有経済の5つの主要分野(金融、求人情報、宿泊、自動車共有、音楽・動画のストリーミング)の市場規模は2016-2030において、30倍になるだろう(p127)

    2018年7月1日作成

  • この本で語られる2030年は、たった12年後。
    「最悪の事態が起きる可能は極めて高い。その場合、2030年までに大きな危機や壊滅的な戦争が起きる。そして世界的な危機や戦争は、人類に不可逆的な被害ももたらす」、「危機がせまっていると自覚することが絶対に必要だ。そうした自覚こそが、危機をかいひするための唯一の方法なのだ。」
    「自分自身ができる限り高貴な生活を送りながら世界を救う」
    そのために、10段階の精神的道筋を歩むことが進められている。
    1.自分の死は不可避だと自覚せよ
    2.自己を尊重しろ、自分自身のことを真剣に考えろ
    3.変わらない自分を見つけろ
    4.他者が行おうとすること、そして世界の行方について、絶えず熟考しながら自分自身の意見をまとめろ
    5.自分の幸福は他者の幸福に依存していることを自覚せよ
    6.複数の人生を同時にかつ継続的に送る準備をせよ
    7.危機、脅威、落胆、批判、失敗に対する抵抗力をつけろ
    8.不可能なことはないと思え
    9.実行に移す
    10.最後に、世界のために行動する準備をせよ
    世界を変革するための10この提案は以下。
    1.学校や法律の教科書など、いたるところに、利他主義、寛容な精神、誠実さを養うための学習を取り入れろ。
    2.国連総会のもとに、次の三つの機関(組織改革された安全保障理事会、30歳未満の次世代会議、世界環境裁判所)を設立せよ。
    3.世界的な紛争が勃発するリスクと闘え。
    4.法の支配と暴力を抑制する合法的手段を強化せよ。とくに、女性や子供に対する暴力を撲滅するのだ。
    5.世界経済の連携を組織せよ。
    6.世界通貨を導入せよ
    7.小規模農家の農地を守るために、農地に関する所有権を世界的に強化せよ。
    8.積極的な経済を推進するための世界的な基金を創設せよ。
    9.新たな技術進歩を世界中の人々が利用できるように支援せよ。
    10.最後に、今までに述べたことに対する取り組みの進行状況を、企業、都市、地域、国、世界という単位で、客観的な指標を用いて計測せよ。

  • グローバル化による市場と民主主義の崩壊から起こりうる大惨事を食い止めるためには利他主義という捉え方に立って行動するよう説かれていた。

  • 利他的に生きましょう。それしか生き残る道は無いですよ、と人類に問いかけている一冊。

    2018年3月①

  • 資本主義への警鐘と受け取れた。利他的に振る舞えるよう、1人1人が内面から変わっていかないといけないという著者の啓蒙書。語られている事実は衝撃的で、説得力があった。
    一方で、変わっていかなければいけない理想は分かるけど自分が損をしないためにマネー社会に飛び込んでいかなければいけないジレンマもある。一般人にはなかなか難しい。

  • 現在世界の地政学や宗教から来る敵対関係、内情事情、環境問題、貧困、公害、高齢化など多様な社会的な懸案事項を取り纏めて解説して今後の動向をどう見極めるか?を提示してくれている。そこまではとても興味深いものがあったけど、ラストの回答とう言うか今後の指針は特別なものは無かったかなぁ〜けどね、出来るだけアンテナを高く上げていないと2030年までの荒波を乗り切る事が難しいんだよって、それは強く伝わって来た。本当にこの本で書かれていることの全てが起こるとは言えないけれど、形は少し違えども似たり寄ったりの事件や事象が発生するんだと思う。それに備えることを始めるきっかけにはなると思う。これからの世の中、情報は最大の武器だから、早く気付いて上手く使うスキルを身につけて荒波を乗り越えていきたい。

  • 要約ダイジェスト

    2030というと後わずか干支一周分だ。
    その時50前なので一発当てない限り、まだまだ現役であることを考えると、世の中の先を知っておく必要があろうと思う。

    インターネットは情報収集のハードルを下げた。従い、世界のどこかで今起こっていることはある程度わかるようになった。

    しかし、これらを組み合わせて未来を予測することは難しい。例えば仮想通貨なんて10年前思いもしなかった。(不勉強だったからかもしれないが)

    未来に備えるためには、考え方を知っておく必要がある。この本はちゃんと全部読んでみようかな。

  • あらゆる数値の推移を根拠として、社会システムの破綻に向かうシナリオが記載されている。悲観的なストーリーは楽観的なものより好感がもてるが、大量の例示に埋もれて、全体の論理構造が読み取りにくかった。
    その中で、テクノロジーの進化による富の局在化が、中産階級の不満を爆発させるという論理がいくつも語られている。これと、民主主義のメカニズムの本質から導かれる、社会システムの崩壊に向かうシナリオは説得力があった。
    最後のフランスを主体とした取り組みの提案については、フランス文化圏を正とするような表現があり、違和感が感じられた。

  • 人類が倫理観を変化させ、世界中で人々が次世代の利益を重んじる利他的な活動を行い、人類が利他主義者達の必要とする地球規模の法規範の制定を支援しなければ、人類は壊滅的な事態に陥る。

    全世界で外国への投資額は、1995年の3千億ドルから2015年の17千億ドルまで急増した。

    2016年、23億人がソーシャルネットワークを積極的に利用している。

    2016年、全世界で600以上の大学は4,200のムークを開講している。2015年には3,500万人がムークを受講した。

    今後、企業は顔も見たことのない投資家達の為に、自社の財務諸表をインターネットで定期的に公開しなければならない。

    人道と利他主義に基づく活動が世界中で拡大している。個人主義や貪欲さとは根本的に異なる世界が現実に影響を及ぼし始めている。

    安定した民主主義の条件である情報開示は大きく進展している。

    1995年、外国人旅行客の総数は5.4億人。2016年には12億人。

    暴力による年間死者数はを人口10万人当たりで表すと、5,000年前は500人、中世は50人、現在は6.9人。

    戦死する年間兵士数を人口10万人当たりで表すと、WW2時は300人、朝鮮戦争時は23人、ベトナム戦争時は9人、イラン・イラク戦争時は5人、2001年は0.5人、2011年以降は0.3人。

    殺人事件の年間犠牲者数を人口10万人当たりで表すと、16世紀のオックスフォードでは110人、20世紀中頃のロンドンで1人未満。

    過去数十年間に表現の自由や法の支配などに関する公衆の自由は、105カ国で著しく後退し、61カ国で改善された。

    世界では企業の租税回避によって、国の税収は年間2,400億ドル失われている。これは世界の法人税収の4-10%。

    企業の外国人持ち株比率は、イギリスのFTSE100が50%以上、ドイツのDAXが50%以上、フランスのCAC40が45%以上、日本の日経平均株価が32%、アメリカのS&P500が16%。

    あらゆる側面において相互依存が強まっている以上、他者の失敗で利益を得る者は誰もいない。人類のサバイバルの鍵は利他主義。

    自己の利益の為に最大限に利他的に振る舞うこと。こうすれば全員の利益の為に自己実現が図れる。

    協力は競争よりも価値があり、人類は一つであることを理解すべき。そうした認識があれば、人類の倫理と政治組織を高度な次元に移行する自覚が芽生えてくる。

    誰にでもなんらかの素晴らしい天賦の才能が備わっている。

    世界の為に役立つ持続的な活動をする為の10ステップ

    1.自分の死は不可避だと自覚する

    2.自己を尊重する。自分自身の事を真剣に考える

    3.変わらない自分をみつける

    4.他者が行おうとしている事、そして世界の行方について、絶えず熟考しながら自分自身の意見をまとめる。共感力。

    5.自分の幸福は他者の幸福に依存している事を自覚する

    6.複数の人生を同時かつ継続的に送る準備をする。自己実現の様々な形式を絶えず発見する為。

    7.危機、脅威、落胆、批判、失敗に対する抵抗力をつける

    8.不可能な事はないと思う

    9.実行に移す。PJの燃料は憤懣であり、エンジンは心と身体。

    10.世界の為にも行動する準備をする

    自分は世界の幸福の為に何がしたいのか?

    世界に対する10の提案

    1.学校や法律の教科書など、いたるところに利他主義、寛容な精神、誠実さを養う為の学習を取り入れる。

    2.国連総会の元に、安全保障理事会、30歳未満で構成された次世代会議、世界環境裁判所を設立する。

    3.世界的な紛争が勃発するリスクと戦う。

    4.法の支配と暴力を抑制する合法的な手段を強化する。特に女性と子供に対する暴力を撲滅する。

    5.世界経済の連携を組織する。

    6.ブロックチェーンを基盤とする世界通貨を導入する。

    7.小規模農家の農地を守る為に、農地に関する所有権を世界的に強化する。

    8.積極的な経済を推進する為の世界的基金を創設する。

    9.新たな技術進歩を世界中の人々が利用できるように支援する。

    10.企業、都市、地域、国、世界単位で客観的な指標を用いて計測する。

    フランスが自分たちの役割を担う為に実行すべき提案。

    1.自分自身になる各自の手段を強化する。全ての保育所と小学校の整備率を上昇させる。

    2.教育システムの改革。技術、知識、哲学、倫理を誰もが生涯を通じて学べるようにする。失業者には職業訓練を施し、ホームレスには社会復帰の機会を提供する。

    3.職業人としての最終条件を均等化させる。退職後の人生を教える事をはじめとする他者の為の活動に費やせるようにする。

    4.利他的に行動するための手段を大幅に強化する。国民全員がNGO、団体、組合、政党に参加する為の時間と手段を自由に使えるようにする。

    5.世界の為の計画をフランスの外交方針にする。

    6.EUを合理的利他主義のモデルにする。その為には国境および国内の警備、共通の防衛、欧州のベーシックインカム、共通の社会政策を施行する事により欧州法を補完する。

  • キーワードは利他ですね。民主主義と市場。法の支配。

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著者プロフィール

ジャック・アタリ(Jaques Attali)
1943年アルジェリア生まれ。パリ理工科学校を卒業、1981年大統領特別顧問、1991年欧州復興開発銀行初代総裁。1998年に発展途上国支援のNPOを創設。邦訳著書に『アンチ・エコノミクス』『ノイズ』『カニバリスムの秩序』『21世紀の歴史』『1492 西欧文明の世界支配』など多数。

「2022年 『時間の歴史』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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