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Amazon.co.jp ・本 (400ページ) / ISBN・EAN: 9784834018844
作品紹介・あらすじ
人間の自由を求め続けた一人の思想家の歩みをたどりながら、明治という時代の面白さと、現代につながる様々な問題を考える伝記文学の傑作。
感想・レビュー・書評
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1976年に刊行された伝記。『子どもの館』という雑誌に連帯されたそうだ。TN君は「東洋のルソー」とも呼ばれた著名な思想家のことだが、本書では本名は一切出てこない。何べんも名前を聞くと、それだけで分かった気になってしまう、と著者は考えるからだ。
本書で描かれるTN君は、理想を追求しつつ、それを現実にどう落とし込むかも考える人物である。だから、自由民権運動の過激化を批判し、その大同団結を唱える(そして、失敗する)。一方で、自由党系の伊藤博文との合流については、手厳しく批判する(が、結局合流して立憲政友会ができる)。
1976年という時代に、このようなTN君のイメージが描かれているのが、面白い。著者の念頭には、過激化した学生運動と野党の内部対立とがあり、これらを乗り越える存在として、TN君のような人物に期待したようだ。果たして、著者の期待は叶えられたのだろうか。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
子どもの頃から図書館にあり、気になってはいたが読まずに来た。ティーンエイジャーになってからTN君が誰かということも知ったが、さして興味がある人物でもないし、ティーンエイジャーは児童書を進んで読みたくないので、放置。
さらに長い時間が経ち、ふと図書館を見るとまだある。
数十年間出版され続けている(しかも売れてなさそう、読まれてもなさそうなのに)ということは、何か理由があるに違いないと、やっと読むに至った。
いい本だった。
たいして売れていないだろうに、出し続けている福音館書店にまず敬意を表したい。
で、この本はTN君こと中江兆民の伝記であると思っていたが、読んでみると兆民の私生活の描写などはあまりない。確かに彼の生涯を描いてはいるのだが、兆民という、自由民権運動の思想的柱となった人物を通して、幕末から明治という時代がどんな時代だったか、また歴史の教科書に載っている人物たちが何を考え、どう行動したかを描く作品だった。
あとがきで著者が書いている通り、「TN君の伝記を書いたのは、君たち(読者)に、その見えない部分(歴史のかげになって見えない部分)を、TN君の目をかりて見てほしいと思ったから」(p389 カッコ内は本文にない)という意図が、読めばはっきりする。
大久保利通、木戸孝允、西郷隆盛、西園寺公望、伊藤博文、幸徳秋水…歴史に名を遺すという意味では、兆民より上の人物たちだが、ほとんど表に出ることなく生涯を終えた兆民の思想がどれほど影響を与えたか(あるいは反発を招いたか)が伝わる。
とにかく名言、名場面続きで、面白いので、暗い挿絵を敬遠しないで若い人にも大人にも読んでほしい名著。
「権利ってもんはな、天から降ってくるようなもんじゃねえ。いくら、あって当然の権利でもよ、待ってて手に入るわけじゃねえぜ。」(p84)
「より自由になるということは、より進歩することではない。より文明開化することではない。ひとりひとりが、より自己に目覚めることだ。だれもたよりにせず、だれにも支配されずに生きることに目覚めることだ」(p163)
「いいかね。西郷が立ったのは仕方がない。彼は追いこまれたのだ。彼は機を見て行動する人間ではない。義のために行動する古い武士だ。それが、彼の人望のささえとなっている。機を見、行動する大久保には、人望がない。だが、義によって行動するものは、機をえらべない。わかるかね。人間には、そうした二種類の人間がいる。西郷は失敗する。それは、彼自身にもわかっている。それを知りながら立ったのが西郷なのだ。そして、それを知りながらくわわっているのが、西郷軍の若者だ。だから成功はおぼつかない。しかし、それが意味のないことだといったらまちがいだ。彼は革命をしようとしているのではない。抵抗だ。抵抗には抵抗の意味がある。しかし、君が革命を考えているのだったら、それは、このあとにしかこないだろう。」(p204)
「なにを理想とするかということと、いま、なにをするかということを、ごっちゃにしてはいかん。」(p296) -
TN君とは誰なのか。最後まで名前が明かされることはありません。名前なんて必要なかった。偉人としてではなく、ひとりの人間として彼と出会うことができたから。
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◆誰の伝記かを明らかにしない伝記
伝記といえば、必ず偉人の名前が書名に入っているのが通例。
しかし、本書は「TN君の伝記」と題して、名前を明らかにせず、あとがきでも明かしていません。
その理由は簡単。まえがきに書いてありますが、
「知ってほしいのは、彼の名前ではなくて、彼がどんなふうに生きたかということだから。
そのためには、名前なんてじゃまになる。そう思ったから」だそうです。
幕末から明治にかけ生きた人で、いかにして明治政府が生まれ、国会が開かれるに至ったかを、
民衆に寄り添ったTN君の視点から、生き生きと描いています。
司馬遼太郎の「司馬史観」の影響からか、明治国家は、
日本の近代化を成功させたとして、ともすると美化して語られがちですが、
本書を読むと、当時の政府が、
民主主義をいかに恐れ、弾圧していたかを、改めて思い知らされます。
TN君は、そのときどきの情勢を絶えず冷静に分析し、
いつも目標のその先を長期的視点から考えていました。
そうした姿勢や人柄には、大いに感じるものがあります。
54歳で癌で亡くなりますが、
「死んだらすぐに火葬場に送って荼毘にしろ」と遺言したため、
葬儀は、宗教儀礼のない無宗教葬として行われました。
これが今日の「告別式」の始まりと言われています。
ちなみに、この人が一体誰なのかは、
歴史の教科書にも出てくる人ですから、調べればすぐにわかりますが、
著者も明かしていないので、私も一応ネタバレは避けることにします。 -
読み始めて半分ぐらいまでは 面白く、わくわくして読み進めました。が。途中から主人公TN君の人生がだんだんうまくいかなくなり、事業に手を出して失敗、食べるにもことかくようになり、社会からも「過去の人」「時代遅れの人」とみなされるようになってくると、読むのがつらかったです。反権力の側でがんばる人たちはたいがいそうなるのが、わかっているだけに、もっとうまく世渡りして!といいたくなってしまう。こんなヘンな読み方をしたのは私が妻の立場で読んでいるからかな?
主人は すごく感激して、私にもぜひ読むようにと言っていたのですが、彼もどちらかというと、反体制支持で、選挙ではいつもがっかりしていたことを思い出します。 -
著者のなだいなだ氏は医師でもあり、本名は堀内秀という。TN君(名前は明かされない)の医師がたまたま堀内という名だったらしい。余命を宣告してしまう場面にもユーモアが混じる。おかげで「一年半有」と「続一年半有」という名著が生まれた。
TN君は語る。“より自由になるということは、より進歩することではない。より文明開化することではない。ひとりひとりが、より自己に目覚めることだ。だれもたよりにせず、だれに支配もされずに生きることに目覚めることだ。”
世の中がいっぺんに変わり、3か月先さえ読めない今、明治という曲がり角を生きたTN君の思想や陰日向の活動は、未来をほんのり灯す希望に感じられた。 -
ある思想家についての伝記である。
物語として面白かった。
近代化の当事者たちのリアルな姿。 -
教科書では学ばなかった大きな歴史
明治維新という激動をTN君を軸に見ていて、教科書の歴史とは違った深さがある。垣間見られるおおらかな時代感もよき。 -
2019.8月。
大好物。日本史の授業は好きだったけど、授業は歴史の表面だけ、概要だけをなぞったもの。それを痛感。1つの時代、出来事、人物にはそれぞれ当たり前だけど深い物語があるわけで。こういうの学んだ方がよっぽどいい。読んでておもしろいのと同時にちょっと前の日本で起きたこと、そして今の時代と重なってみえてくることが、ぞわぞわ恐ろしくて。TN君はあなたでしたか。
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三酔人経綸問答の南海先生の恩賜民権から回復民権議論へ;戦後の新憲法はアメリカから与えられたものだが、それをよりどころとして、自分たちの力でえた権利と同じものにするべきでは?303〜4p
もし選挙人が、選挙の時に投票しただけで、全ての責任を議員に預けてしまったら、国会は、せみやかえるの競走場か、いもむしの陳列場と変わらない。337p
帝国主義;それは、愛国心というやつをたていととし、軍国主義をよこいととして織り上げた政策です。377p→幸徳秋水『20世紀の怪物・帝国主義』
無神論の哲学がないところでは、理は感情につねに打ちのめされてしまう。384p -
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なかなかの良書。高校時代にいろいろと読んでたのを思い出しました。
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一人の思想家のお話し
★★★★
伝記であるにも関わらず、主人公の名前はTN読者に明かされず、その名はTN君。
幕末から、明治維新、国会が作られた時代。この激動の時代を生きた、一人の思想家のお話(福音館文庫のノンフィクション分野なのできっとノンフィクション)。あらゆる書籍や映画、ドラマなどで描きつくされているこの時代を、一人の名もなきTN君という角度から切りとったもの。また、明治維新後の歴史については、描かれている作品が少ないので、逆に貴重。この時代(維新前)のヒーローといえば、坂本竜馬だが、この本を読めば思わず、竜馬を応援するように、TN君頑張れ!と応援している自分がいる。
歴史、政治、社会学、哲学、心理学などの、あらゆる分野にわたる超大作と言えるかも。このようにして時代は作られていくのかと、教科書では学べない歴史を知ることができる。歴史を学ぶ中高生に読んでほしい。たぶん難しいけど、雰囲気は理解できると思う。
そして、TN君が誰のことなのか、知ってほしい。 -
著者がはじめに、匿名であると「こんなすごいことをした人がいたのか」と行動に着目するが、先に名前を知ってしまうとなかなか行動は心に残らないと書いていた。確かにその通りだ。最後まで実の名前がわからず読めて良かったと感じた。イニシャルで語られるTNとは誰なのだろうか。
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幕末に生まれ、維新を経て明治の世を生きたTN君の目を通して、自由民権運動を描く。100年以上前の出来事を40年近く前に書かれた本なのに、今の社会に通じるものが詰まっています。
自由とは何か、権利とは何か、どのように手にするものなのか。どのように活用すべきものなのか。そのことの答がそのまま書かれている訳ではありません。しかし、そのことについて考える材料がここにあります。
新聞のもつ意義とは、自分の意見を述べる意義とは。あって当たり前の現在だけど、それは本当に当たり前なのか。すぐに崩れてしまう脆い土台の上に乗った自由なのではないか。ひとつひとつ考えることの大切さを突き付けられます。
TN君というひとりの在野の人間の目を通すことによって、為政者側から見た歴史とは別の面を見ることになります。教科書に載っている歴史とはまた別の価値観を提示されます。書かれている個々の人物や出来事を調べていくことで、また違った問題も見えてくるでしょう。 -
教科書で、名前だけは知っていたTN君。
なんと呼ばれていた人なのかは知っていたけど、何をした人なのかは知らなかった。
児童書と侮ることのできない本。
付箋だらけになってしまった。
努力もせず能力がなくても、生まれがよければ人生は約束されるし、どんなに能力が高く日々研鑽していたところで家柄のよくない人には成功がない。それはおかしいのではないか。
TN君が少年時代に思っていたことは、明治維新によって改善されたのか。
新たな権力者たちは、結局古い精神から逃れることができず、底辺にあえぐ人々にとって世の中は何も変わらなかったのである。
幕府を頂点に武家が権力を持っていた時代から、天皇を頂点に置いた政府が権力を持つ時代に変わっただけ。
そんな中、TN君はずっと、本来個人が持っている権利、自由を取り戻すことの意味を訴え続けたのであった。
私のつたない説明よりも本文から抜粋することにします。
幕末の、佐幕派勤皇派が殺し殺されていた頃
“―あの男には死んでもらおう。
と、口走る彼らに、さむらいのエリート意識を感じて、近づけなかったのだ。”
足軽の子であったTN君は刀を持っていたが、鯉口を縛って刀を抜けないようにしていた。
“土佐をぬけだして、土佐をみよう、日本をぬけだして、日本をみよう、そして、自分自身を見つめよう。”
坂本龍馬が薩長について語る
“いちばんこわいのは、連中いいことをしようとしとる。そこがこわい。あの連中には、「そのいいことができるのは、わしらだけだ」そう思っとるところがあるのじゃ。そこがこわい。だから、人の意見に耳かそうとせぬ。そのいいことをするために、なんとしても、自分が権力をにぎろうと、たくらむ。そこがこわい。”
ヨーロッパ留学をしたとき
“ほかのものたちは、日本が遅れていると感じた。だから、競争意識をもやして、すぐに、どうやって追いつき、追い越すかばかりを考え、その考えで、頭をいっぱいにするのだった。しかし、彼は、遅れていると考えるよりも、どこがちがっているか、を考えたのだ。そして、そのちがいを知るには、歴史を知らねばならない、と思ったのだ。”
ルソーの「民約論」を訳しフランス語の教科書としたが、出版をしない理由を問われて
“出版する本は、警察にとりしまられることもある。出版元を押さえられれば、それでおしまいだ。だが、民衆が、口から口につたえることば、書き写されてつたえられることばは、警察だって発禁にしようがないじゃないか。”
新聞紙条例や讒謗(ざんぼう)律という法律で言論を弾圧した政府について
“―言論の自由、思想の自由をゆるさない政府は、人民を猿あつかいする政府、自身もまた猿のボスにすぎない政府だというんだ。”
“より自由になるということは、より進歩することではない。より文明開化することではない。ひとりひとりが、より自己に目覚めることだ。だれもたよりにせず、だれに支配もされずに生きることに目覚めることだ。”
明治天皇のもっとも忠臣であった西郷隆盛が起こした西南戦争の意味について
“忠臣であるかないかを問題にするのは、古い道徳にしばられた考えだ。どんな場合でも、政府が暴政をしているときには、国民には抵抗する権利がある。君、君たらざるときは、臣は臣でない。彼は、それをしめそうとしている。一身上の野心をもたない、権力に執着のない、こころからの忠臣という名声をもった彼が、それをしめすことで、国民の考えを変えようとしている。”
“彼は革命をしようとしてしているのではない。抵抗だ。抵抗には抵抗の意味がある。”
選挙権をもつことが大事なのではなく、選挙民が代表の行動を制限することが大事。
“選挙する人間たちの政治への関心をたかめなければならない。
「そうでなければ、国民は投票日一日だけ主人で、あとはドレイになりさがってしまうのだ」”
弟子である幸徳秋水がTN君に言った
“―しかし、戦争がおこると、政府がなにもしないでいても、あの勝った勝ったの熱狂が、ごくあたりまえの真実さえいえないように、だまらせてしまうことができるんです。”
ちょっとのつもりが、ずいぶん引用してしまった。
これを歴史の1ページと読むか、今に生きる自分の問題として読むかはそれぞれ。
みんなが言っているからいいのか。
えらい人が言っているからいいのか。
自分が物事を判断する根拠はなんなのか。
最後はちょっと自分を見失ってしまったTN君だったけど、歴史がTN君を見失ってはいけないと思った。
本当に長くなってごめんね。 -
小学校高学年あたりを対象にした伝記です。
子どもが大きくなる前に教養をつけておこうと思い、くもんの推薦図書になっている本書を手に取りました。
とても面白い本でした!
なだいなだ氏の書き方が面白いのか、幕末が面白い時代なのか…。私は特に歴史オタクというわけではありませんし、TN君(主人公の有名な人物です)のことを元々好きだったわけでもありませんが、軽い気持ちで読み始めたつもりが、ついつい引き込まれてしまいました!主人公が君付けされており、かつ主人公の目線で描かれる世界は、親しみやすく、主人公の思考をたどりやすいと思います。
子どもが大きくなったら絶対薦めて読んでもらいたいと思います。 -
名前のない伝記。明治維新という革命の中に生きたTN君こと○○の物語。自由と平等を求めて始まった革命の顛末を、権力を掴んだものたちの歴史とは違う、TN君の人生を通して見ていく。一言に明治維新といっても、自由と民権へ向かってすんなり進んだ訳ではない。それは人間の生々しい欲や利権争いにまみれた長い歴史がある。教科書にはあまり載っていない日本における革命のお話。それはTN君の革命ではない。だからこそ語られる人間の名前は特に必要がない。
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この本が書かれたのは1976年とのこと。
幕末から明治維新のころに生きたTN君を、1976年当時から眺めてみると・・・。
変わらないところ、変わったところ、そんなことがところどころに対比されて書かれてますが、その本を21世紀の今、読むと、そこにさらに40年後との対比も加えることができ、二倍楽しめた気がしました。
政治不信が蔓延している今、この本を読んだということに、何かの縁を感じたり感じなかったり -
TN君をつうじて、当時の日本の空気を感じ、TN君がそこで感じたこと、起こした行動を読んでいくと、もうひとつの歴史を見ている気分になる。
まあもう読んでくれ、そして感想を聞かせてくれとしか言えない。
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