ヘスースとフランシスコ (福音館の単行本)

著者 :
  • 福音館書店
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  • Amazon.co.jp ・本 (229ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784834018851

作品紹介・あらすじ

若い写真家が飛び込んだ中米の小国、内戦下の難民キャンプでフィルムにおさめた3歳の少女の姿。その後20年にわたって写真家は、彼女の成長とそれをとりまく社会の変貌を、幾度にもわたる訪問で追うことになります。やがて内線の終結、伴侶との巡り会い、出産、地震の災禍。夫となった青年は、幼くして両親を内戦で失い、山岳ゲリラに身を投じた経歴の持ち主でした。写真と文章とが熱く響きあう入魂のルポルタージュ!

感想・レビュー・書評

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  • フォトジャーナリストの著者が、エルサルバドルの内戦の様子、また内戦によって難民になった人々の様子を、20年にわたって何度も訪問して取材したことが記されている。
    長年、自分の意思とは関係なく苦しい状況で生きてきた人々だが、なんとも暖かい国民性。その優しさに魅せられて著者は関係を大切にしているんだな、と感じた。

  • 【推薦コメント】
    エルサルバドルは,中米地域にある小国である.人口500万人,面積は日本の四国くらいの大きさである.この国で1980年代から1990年代にかけて内戦があった.その影響は,すべての国民に及んだ.その結果,多くの人が殺され,大切な家族を失うような悲惨な目に遭い,国土は荒廃した.この本は,戦争の中を生き抜いた子どもたちの,その後成人する時期までの人生を追ったドキュメンタリーである.写真家である著者は多くの写真を本の中に掲載している.現在も,戦争の後遺症に苦しみながら生きているエルサルバドルの人たちについて,戦争の悲惨さについて,この本を通じて知ってもらうことができればと思います.光村図書の中学3年生国語教科書にも,この本の内容が掲載されていましたので,読んだことのある人もいると思います.
    また,同時に自分の選書した図書である『吐き気 フィクションのエル・ドラード』という本の著者は,1957年、ホンジュラスのテグシガルパに生まれ,父はエルサルバドル人,母はホンジュラス人.1979年、内戦前夜のエルサルバドルを離れトロントに亡命.以後中米諸国を転々とするも最終的にメキシコに落ち着き,ジャーナリストとして働きながら最初の長篇を発表.1991年,内戦終結直前のエルサルバドルに帰還し,やはりジャーナリズムと創作に従事するが,『吐き気――サンサルバドルのトーマス・ベルンハルト』(1997)により死の脅迫を受け亡命を余儀なくされた.という経歴の人物で,このエルサルバドルを舞台とした小説も読んでいただければと思います.
    (生命環境科学域 5年)

    【所蔵館】
    りんくう図書室

    大阪府立大学図書館OPACへ↓
    https://opac.osakafu-u.ac.jp/opac/opac_details/?reqCode=fromlist&lang=0&amode=11&bibid=2000940676

  • 長倉洋海さんがエル・サルバドル愛を感じる本。

  • 既にベテランとなったフォトジャーナリスト・長倉氏だが、彼に
    だって勿論、駆け出しの頃があった。フリーランスになりたての
    頃に飛び込んだのが、内戦真っただ中の中米エル・サルバドルだ。

    アメリカの支援を受けた政府とゲリラ側との戦いは、多くの国内
    難民を生んだ。そんな人たちが暮らす難民キャンプで、著者は
    子供たちにカメラを向ける。

    そのひとりがヘスース。「キリスト」の名を持つ少女は1歳から
    難民キャンプで暮らしていた。数年おきにエル・サルバドルを
    訪問してた著者とヘスースの、20年に渡る交流を通して内戦の
    犠牲になりながらも優しく、逞しく生きる市制の人々の姿を
    描いたのが本書だ。

    小学生高学年以上向けなのだろうが、大人が読んでも心を動かされる。
    ヘスースの成長も勿論だが、著者が以前に写真を撮らせてもらった
    子供たちの消息をたずねる場面には切なさもある。

    ビリヤード場で出会った美しい少年カルロスは、窃盗で刑務所に収監
    された後に亡くなった。著者が食堂で食事をおごった物乞いの少年
    ラモスは、成長したのちも物乞いを続けていた。

    内戦や戦争の一番の犠牲者は力のない者たちだ。それでも、彼らは
    理不尽な環境のなかでも必死に生きようとしている。

    ヘスースは17歳で母となり、元少年ゲリラだったフランシスコと
    結婚式を挙げ、その式に著者を招待する。そして、花嫁衣装を身に
    着けたヘスースのお腹には新しい命が育っていた。

    内戦に引き続き大地震に見舞われたエル・サルバドルの様子も描かれて
    ているのだが、やはり主眼はヘスースの成長なのだと思う。読んでいる
    とこちらがヘスースの親戚になったような錯覚に陥り、彼女の成長に
    顔がほころんでくる。

    最初の子どもを抱き上げるヘスースの写真が掲載されているのだが、彼女の
    笑顔が酷く眩しい。

    本書の発行は2002年。あれからヘスースとフランシスコはどうしている
    のだろうかと思いを馳せる。難民キャンプで育った少女と、元少年ゲリラ
    だったふたりの家庭が、この上なく幸せでありますように。

  • 日本を代表する写真家のひとり、長倉洋海さんがエル・サルバドルの内戦を20年にわたって取材した成果だ。難民キャンプで出会った少女ヘスースが成長し、フランシスコと結婚するまでを描く。ヘスースとともに、著者も、そして読者も成長している気がしてくる、そして二人に心から幸あれと祈りたくなる、そんな本だ。

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著者プロフィール

1952年北海道釧路生まれ。写真家。同志社大学法学部卒、通信社勤務を経て1980年以降、フリーランス・フォトジャーナリストとして世界の紛争地を精力的に取材した。今日まで南洋から東南アジア、中東、シルクロードを踏破し、直近ではシベリアの少数民族ネネツなど極寒地の人々と暮らしを撮った。代表作にアフガニスタン抵抗運動の指導者マスードに密着取材した「マスード 愛しの大地アフガン」により国際的に高い評価を受け国内では第12回土門拳賞を受賞した。他に「エルサルバドル 救世主の国」(講談社出版文化賞)など著書、写真集多数。

「2020年 『女、美しく わが旅の途上で』 で使われていた紹介文から引用しています。」

長倉洋海の作品

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