どろんころんど (ボクラノSFシリーズ)

著者 :
  • 福音館書店
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本棚登録 : 234
感想 : 41
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  • Amazon.co.jp ・本 (512ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784834025774

作品紹介・あらすじ

アンドロイドの少女アリスが長い休止状態からから目覚めると、そこにはどこまでも広がる泥の海があり、あれだけ大勢いたはずのヒトは姿を消していた。アリスの「仕事」は人間相手に商品説明をすること。その「仕事」を全うするため、商品である亀型子守りロボット、万年1号をお供に、消えたヒトを探して、アリスはどろんこの世界を行く。その道中、次々に起こる奇妙なできごとにアリスの優秀な電子頭脳もパンク寸前。果たして二体(ふたり)の旅の行きつく先は? そしてヒトはどこに消えたのか? けったいな、だけどもどこかやさしいヒトと世界についての物語。

感想・レビュー・書評

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  • 2019.7.20市立図書館 →2019.8.16購入
    近未来SFかな? 
    人間が作ったセル・アンドロイド(人型自律機械)のアリスが長めの眠りから目覚めたら、そこは人間が消えて一面の泥の世界でヒトモドキ(泥人間)がヒトが戻ってくる場所を再現するべく試行錯誤している世界になっていた…子守ロボットとして開発されたレプリカメ(模造亀、亀型ロボット)の万年1号とともにヒトを探す旅に出るが…。
    2010年と言うと、震災前だしまだ深層学習(ディープラーニング)も普及前夜というところ、当時どれほど実感を持って読まれたかわからないが、いま読むとなにかと示唆的な物語に感じられる。発話意図と表現のずれ、「わかる」とはどういうことか、「きれい」「おいしい」のほんとうの意味は? AI(人工知能)は心や感情を持ちうるのか、そもそも人間の心とは? …と旬なテーマが盛り込まれていて読み始めたらするする読める。そして読み終えても、「存在」するとはどういうことか、ヒトとヒトモドキはそれほど違うのだろうか、と答えの出ないことを考えつづけてしまう。

  • ヒトデナシたちがプラットホームを作っていくあたりはジブリの映画みたいだから、少女好きのジブリにアニメ化してもらうといいかもしれない。物語自体は小さい子どもには難しいが、上手く行けばナウシカのような作品になるかも。ゴトーさんもジブリの絵で容易に想像できる。(トトロのお父さん風)
    タイポグラフィの遊びは昔筒井康隆や光瀬龍もやっていたので、古いSFファンには珍しくないが、初めて見た子どもには新鮮だろう。
    アンドロイド少女アリスの絵はラノベのネオテニー的ないやらしいものでなく、独特のとぼけた可愛らしさがあり好感が持てる。あざとくはないがそこはかとない色気もある。
    アリスの名が暗示する通り、不思議の国の物語であるが、ラストは『惑星ソラリス』みたいだ。
    泥人間の係長もいい味を出しており、子どもの初めてのSFとしては上出来。大人が読んでも面白い。
    まあ、大人でも子どもでも、現実に起こりうるようなフィクションしか受け付けない人はだめだろうが。
    装丁が凝っている。スピンは普通の、使ううちに先っぽがほどけてくるようなものでなく、リボンのような素材でかわいいし扱いやすい。気合いの入った作りは福音館の意気込みが感じられる。

  •  福音館書店が刊行する「ボクラノSF」シリーズは、一冊ごとに装丁まで変えるこだわりのシリーズだ。“多感な十代の読者にぜひ出会ってほしい作品群”というだけあって、そのラインナップはジョン・ウィンダムや筒井康隆、フレドリック・ブラウンに小松左京と、洋の東西を問わず文句ナシの名作ばかりだ。
     SFファンなら確かに買いな作品ばかりなのだが、多感な十代の少年少女の琴線にはなかなかストライクといかないのか、売上げは少々苦戦している様子。巻末の宣伝のページには正直なことに「そこそこ好評ですが、もうあと一押し!!」というプチ必死なコピーも。
     そんな「ボクラノSF」シリーズ初の書下ろしとして刊行されたのが北野勇作の『どろんころんど』である。

     アンドロイドの少女アリスが目覚めるとそこは一面泥の世界で、周囲に人間は一人も見当たらなかった。
     アリスは思い出す。彼女の仕事は亀型子守りロボット・万年一号を人々に紹介すること。そう、お客さんの前で新車の説明をするコンパニオンのように、万年一号の性能をお客さんに紹介するのだ。
     ヒトがいなければそれもできない。アリスは仕事をまっとうするために、万年一号を引き連れてヒトを探す旅に出る。ヒトデナシと呼ばれる泥の人形たちと途中で出会いながら、旅を続けるアリス。果たしてヒトを見つけ出すことはできるのか。そして仕事をこなすことはできるのか。

     2001年に『かめくん』で日本SF大賞を受賞した北野勇作は、一貫したテーマを追求し続けるSF作家である。私達の見ている世界は本当に存在するのか?本物と偽物の違いとは何か?現実が崩壊していくような感覚を読者に突き付けながら、その作風には何故か胸を締め付けるような哀しさが満ちている。それは私達が大切にしている何かでさえ、いつかは失われてしまう事を認識させられてしまうからだ。
     北野作品で少年少女向けのジュブナイル作品というのは珍しいが、しかし子供向けといえど北野勇作は決して手加減しない。というか、いつもの北野作品とほとんど同じ調子である。だけど、北野読者は気づくはずだ。何かが違うな。ちょっとだけ違うな、と。

     そもそも北野勇作の小説は、作者に子供が生まれてから確実に作品に変化が表れているような気がする。虚無に満ちた…というと矛盾しているようだが、そうとしか言いようのない作品世界が初期の特徴だったが、そこに何か「核(コア)」のようなものが出現したというか…。うまく説明できないが、ちょっとずつなんとなく変化しているようなのだ。
     北野自身、福音館書店のホームページに寄せたエッセイで自分の子供の事に触れ、<以前なら、子供を主人公に、などと考えもしなかった私が、いつのまにか子供の目でまわりを見たり、子供に感情移入していろんなことを考えたりするようになっている>と述べている。

     そしてこの小説ではさらに今までの作品との大きな相違がみられる。それは各種媒体に発表された書評やレビューで既に指摘されている通り、主人公アリスが「明確な目的をもって旅をしている」点である。
     これまでの北野作品といえば目的地がどこなのかもわからないままさ迷うような、不安定さというか足元さえ確かではない感じが大きな特徴だったのだが、今回はヒトのいなくなった世界でヒトを探すというはっきりした目標をもって主人公は行動している。この変化に北野読者は戸惑いを感じるかも知れない。
     奇妙な旅の終りに待ち受けるものを見据えてアリスが踏み出す一歩は、北野作品の新たな一歩なのか。
     亀やニセモノのヒト、会社など、お馴染みのモチーフを扱いながらも新たな側面を見せた作者の幅の拡がりに、不安とともに期待を感じずにいられない。

     さらに本書でもう一点注目すべきはイラストである。もともとイラストレーターの大胆な起用も売りの一つである「ボクラノSF」シリーズだが、『どろんころんど』では鈴木志保というマンガ家を起用し、作品世界に視覚的な解釈を与えている。というか、もはや彼女のイラストと共に『どろんころんど』という作品は構築されていると言っても過言ではないだろう。
     北野作品のイラストといえば西島大介や森川弘子(北野勇作の妻)などがお馴染みだが、今回は鈴木志保の登場により一層大きな化学反応が起きた。本文とイラストが絡み合うような独特なレイアウトの中、アリスたちの旅路は少年少女の胸に忘れられない印象を残すに違いないが、その輪郭はぼんやりしている。まさに小説とイラストのコラボレーションだ。

     果たしてこの本は「ボクラノSF」シリーズの救世主となり得たのか。詳しくはわからないが、何と著者初の増刷という驚きの知らせも耳に入って来た。一応売れているようなのだ。
    <でもまあ、世界がどろんこになっちゃったことにくらべれば、こんなのはささいなことなのかもね>(本書p101より)

  • SFの世界と現実の差分は、サイバーの世界では随分と縮まったよなぁ、と思う。AIやら仮想現実やら、この10年でも随分と。
    に対してフィジカル世界ではやっぱり苦しい。というかこの本にも出てくるようなロボットの理想が高すぎだよなぁ。ゴールが人間だしね。電力どうすんだってことよね。他もあるけどさ。
    てなわけで物理的な面で限界を迎えて仮想現実に逃げるというのは、過程は異なれ、現実もその方向かもしれぬ。そういう意味ではGAFAみたいなモノを作らぬ企業の罪は重いよねぇ。

  • 【あらすじ】
     セル・アンドロイドのアリスが長い眠りから覚めると、地球は人間のいない泥の世界に変わっていた。
     アリスとカメ型子守ロボット・万年1号は人間を探して旅に出る!

    【感想:アンドロイドは意識を持つのか?落語の語り口で送る哲学するSF!】
     主人公はアンドロイドなんですね。物売りセールスの機能を持つセル・アンドロイドだからセルロイド。
     その他にもヒトデナシが登場したり係長と社長が登場したり、落語みたいな展開。
     それもそのはず、作者の北野さんは大学時代は落語研究会に所属していたらしい。
     落語でもSFができるという見本。
     出版された2010年はまだ人工知能がそんなに話題になっていなかったと思うのですが、セルロイドのアリスが意識について考えるなど、哲学しています。
     アリスの思考の過程がよく描き込まれていて、人工知能はこんな風に考えるのかと思ってしまいます。
     本作品は落語風の語り口で楽しく読んでいって、いつかは人間に巡り合えるか、いつかはこの不思議な世界の由来について判明するか、いつかは元の世界に戻って来るか、はたまた夢オチだったのか、一体どうけりをつけるのかと期待するのですが、驚きの結末を迎えるのです。
     大人の世界の入り口に立ったヤングアダルト世代に強烈な印象を残す展開ではないでしょうか。
     そして本書はイラストやレイアウトも大切な要素になっています。
     この良さは電子書籍で読んでは味わえない。紙の本で読まないといけません。
      https://sfklubo.net/kotarondo/
      https://sfkid.seesaa.net/article/479577165.html

  • 福音館の「ボクラのSF」シリーズ第1期作品。アンドロイドの少女と子どもを守るシッターロボット・レフ°リカメが登場するお話。
    明るく軽やかな展開、独特なリズムの心地良い良質な文章、小学3・4年からいけそう? と思いつつ読み進む。色々と奇妙なものに出会う前半はアリスか、オズか、千と千尋、、、などを思い起こした。
    しかし、話は深いいところへ進んでいきます。やはり中学生以上におすすめしたい。
    ラストはちゃんと今時のSFになっていて侮れません。

  • 「お好きだと思うので」と貸し出された。
    はい、好きですよ。
    大好物といって差し支えないね。
    だけどいかんせん10代向け…懇切丁寧親切すぎて、おねーさん(?)には物足りないかな。

    貸してくれるとき、「アイデンティティが崩壊しそう」と言ってたような気がするけれども、アイデンティティが崩壊しているタイプの人間が再構築するのに救いを求めるのがこういうお話ですよ、と言いたい。

    <無人化すべきである><人類補完計画><『ハーモニー』のラスト>etc系ディストピアその後の、希望に満ちた話だね。
    おもしろかった。
    世代・知名度・キャッチーさ、そして私の好みを混ぜて、「とりあえず伊藤計劃にする?やっぱり円城塔に入る?それとも、か・ん・ば・や・し?(はーと)」って言っておいたらいいのかしら。

  • なじ■

    人の消えたどろんこの世界を旅する
    少女アンドロイドのアリス、「ヒトデナシ」の係長、
    そして亀型ロボット万年一号の長い物語の始まり。

    登場人物みんなどこかとぼけたところがあって、
    加えてアリスを守る万年一号がかわいくて、
    切なくてかわいらしいお話でした。

    何回も言ってますがボクラノSFシリーズは
    ほんっと毎度まいどイラストが素晴らしくて、
    今回は特におしゃれな装丁でワクワクしました。

  • [ 内容 ]
    アリスが長い長い長い眠りから覚めると、世界はどろんこになっていました。
    それは旅をしている夢だった。
    ひとりじゃなかった。
    ヒトのような形をした影みたいなものと、それから―「亀」、がいた。
    大きな亀だ。
    しかも二本足で立って歩いている。
    ヒトは、どこへいってしまったの。

    [ 目次 ]


    [ 問題提起 ]


    [ 結論 ]


    [ コメント ]


    [ 読了した日 ]

  • 北野さん2作目
    いっこめがすっごくつまらなかったからもうこの人の本は読まないと思ったけど
    さすがに1作だけで判断するのもあれかしらと思って読んでみた・・けど・・

    この人は泥人形がすきなのかな・・

    ヒトデの星と同じような設定の未来の泥まみれの地球
    アリスという女の子のアンドロイドと亀型ロボットが人間を探してこの世界の理由を探して旅をする

    一応説明があってよかった
    分子レベルにまで分解して情報を記録する機械が人間を泥状にして人間がひとつになった
    らしい
    意味がわからない・・!

    こういうのがすきなひとってどういうひとなのかな~
    この人は何を思ってこういうはなしをかくのかな~
    逆に興味がもててしまうくらい
    わたしの好みに合わない本だった。

    まんがやアニメは見なくても好みじゃないとか判断できるけど、
    小説はやっぱり読まなきゃいけないからなー
    でも割と量読んできて、最初の10ページが面白くないとやっぱり面白くないってことが多い気がする

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著者プロフィール

1962年、兵庫県生まれ。
1992年、デビュー作『昔、火星のあった場所』で第4回日本ファンタジーノベル大賞優秀賞、『天動説』で第1回桂雀三郎新作落語〈やぐら杯〉最優秀賞を受賞。2001年には『かめくん』で第22回日本SF大賞を受賞。『どーなつ』『北野勇作どうぶつ図鑑』『どろんころんど』『きつねのつき』『カメリ』『レイコちゃんと蒲鉾工場』ほか著書多数。
ライフワークとも言える【ほぼ百字小説】は、Twitterで毎日発表され続けており、その数は4000を超える。

「2023年 『ねこラジオ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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