- 本 ・本 (24ページ)
- / ISBN・EAN: 9784834026849
作品紹介・あらすじ
「くさはら」というと、どんなイメージが浮かびますか? 草花あそびに虫とり、またはピクニックでおべんとうを食べたり、ねっころがったりするところでしょうか。しかし「くさはら」は、いつもそんなふうに優しく迎えてくれるとはかぎりません。とても猛々しい顔ももっているのです。川原でちょうちょを追いかけているうちに、背の高い草にかこまれてしまった女の子のおはなしです。
感想・レビュー・書評
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おかあさん、おとうさん、おにいちゃんと、川に遊びにやって来た、女の子「ゆーちゃん」。
早速、おとうさんが川に入りながら、「ゆーちゃんもおいでよー」と呼んでいる中、「どうしようかなあ」と、おとうさんを見ながら逡巡する、その立ち姿には、酒井駒子さんの、だらーんと重力に任せきった無垢な腕や、少し傾けた左足の迷いを見せた様子からも窺える、あどけなさが印象的です。
迷っている内に、彼女の足許の石の上に止まった、ちょうちょが気になり、手を伸ばしたら、スィーとくさむらの方へ行ってしまい、彼女もそのままちょうちょに導かれるように、くさむらの奥へと入ってゆきます。
ページを捲ると、たちまち広がりだす、様々な緑が織り成す大パノラマの中、白色の服のゆーちゃんはいきいきと良く目立ち、よくよく見てみると、色々な形をした草がこと細かく描かれている中、
「はみがきみたいに すっとする においがしました」
「ながい はっぱ、まるい はっぱ、ギザギザの はっぱが あしを こちょこちょ。
くすぐったいなあ」
といった、子どもが感覚的に理解できる加藤さんの文章もあり、視覚的だけでなく、草それぞれから立ち上ってくる薫りや肌触りも思わず感じられそうな、それまでの川原の光景とは一変した世界であることに、ゆーちゃんはまだ気付いていません。
そして、気が付いたとき、くさのうみのうえに出ているのは、ゆーちゃんの帽子と顔だけになり、先程感じられたような、いきいきとしたというよりは、か細い存在感が際立つようになりましたが、それでも、自分よりも背の高い草を興味津々に見上げている彼女の姿には、右手を顎に添えている愛らしさも健気に感じられる中、ちょうど彼女の右手に乗ってきた、ばったさんに思わず、「にげないでね」とお願いしますが、そのままピョーンと去ってしまい、「あーあ」と、どこか寂しそう。
そして、ゆーちゃんのほっぺたに当たった葉っぱに、思わず泣きたくなり目をつぶった瞬間、ついに彼女も、普段と違う世界に来てしまったことを実感してしまい、それを酒井さんの、闇のようなダークグレイで描いた彼女の心象風景では、視覚が消えて聴覚が際立った瞬間、明瞭になった、様々な聞き慣れない音や声の洪水に対する恐怖と不安感を表しているようで、それまでの爽やかな緑色から、ここまで激しい落差のある色の差で教えてくれたのは、『子どもの目線で見知らぬ世界を感じることには、とても柔らかくて繊細な心が伴っているのだということ』であると、私は思いました。
思えば、扉絵とその捲った次の見開きの絵は、同じ場面でありながら、それぞれ真逆の方向から眺めた構図となっており、それはまるで、普段見ている世界と、もう一つの見知らぬ世界を表しているようでもあって、既に物語の始まりで、それが提示されていたのだと思うと、この対比は決して偶然などではなく、加藤さんと酒井さん、それぞれの意図した思いとこだわりを感じさせられた、「幼児絵本ふしぎなたねシリーズ」とはいえ、とても丁寧に作られた作品であるとともに、最後のゆーちゃんの疑問には、思わずくすっと泣き笑いしてしまうような、ほんわかとした終わり方も味わい深い絵本でした。
《余談》
ちなみに、表紙と背表紙の絵は繫がっていまして、ちょうど背表紙にちょうちょが上手いこと収まっているのが私には面白くて、おそらく、こういうところはお子さんが本棚にしまうときに気付くか、そうでなければ、親御さんが教えてあげると、きっと喜ぶと思います。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
たださんのレビューがていねいですてきです。
酒井駒子さんのいつもながらの心まで描き切る絵に圧倒されます。
そして、子ども目線の文がいいなあ。
擬音もいいなあ。
ゆーちゃんの小さなぼうけん。
やさしくて静かな、でもドキドキ……
≪ くさはらの はっぱもむしも 耳すまし ≫-
はまだかよこさん、こんにちは。
言葉足らずで、中々、頭に思い描いた表現が出来ないと思っていた私の感想を、そのように書いて下さり、嬉しく思い...はまだかよこさん、こんにちは。
言葉足らずで、中々、頭に思い描いた表現が出来ないと思っていた私の感想を、そのように書いて下さり、嬉しく思います。ありがとうございます(^^)
最初読み終えたときは、割と、ありふれた話かなと思ったのですが、何度も読み返すうちに、これは、一度ゆーちゃんの目線に立ってみないと分からないなと感じ、ゆーちゃんの背の高さだと、大人にとって平凡なくさはらも、たちまち、密集した森のようになってしまい、まるで自分の存在感をすっぽり包まれてしまうような、そんな不安感があるのだろうなと思いました。
そして、酒井駒子さんの心まで描き切る絵について、それは表情が見えなくても、その構図や佇まいで伝わるのがまた凄いなと思いまして、上記のゆーちゃんの不安感も、顔の見える近めの構図に加えて、空から俯瞰した構図には、ゆーちゃんのちっぽけなはかなさを強調しているようにも思われて、切なくなりました。
しかし、健気で明るい雰囲気のゆーちゃんに、読み手側が励まされるような感じもあって、改めて、一つのテーマをとことん突き詰めながらも、色々感じさせられた、素敵な絵本だと思います(^^)2023/06/22 -
たださんへ
絵本の中に風や香りを感じましたね
画面に引き入れられます
そう言うのが好きなんです
本て、結局好きかどうか、です...たださんへ
絵本の中に風や香りを感じましたね
画面に引き入れられます
そう言うのが好きなんです
本て、結局好きかどうか、ですものね
私は横着者で、短く切り上げてしまいますウフフ
ごていねにコメントありがとうございました
これからもどうぞよろしくお願いいたします
2023/06/23 -
はまだかよこさん
絵本の中に風や香りを感じ、画面に引き入れられるって、私も好きで、素敵な表現だなと思いましたし、『くさはら』は、そういった...はまだかよこさん
絵本の中に風や香りを感じ、画面に引き入れられるって、私も好きで、素敵な表現だなと思いましたし、『くさはら』は、そういった点に於いても、とても素晴らしかったですよね。
こちらこそ、これからもよろしくお願いいたします(^_^)2023/06/23
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加藤幸子さんと酒井駒子さんのコラボ作品。
お話の主役は、家族と一緒に川遊びに来た3歳くらいの女の子。
チョウチョを追いかけているうちに、いつの間にか見知らぬ草原へ。
初めて見るものと初めて聞く音たち、草たちの感触と微かな不安感と。
「はみがきみたいに すっとするにおい」
「はっぱが あしを、こちょこちょ」
くさはらは うみの なみみたいに ゆれました
「おなかが しずんで しまいました」
「かたも しずんで しまいました」
ピシっと はっぱが ほっぺたを ぶちました
なきたくなったので めを つぶりました
五感をフル稼働して目いっぱい遊んだ頃が鮮やかに蘇る。
草原の中に佇んでいたのは、ものの数分間のことだろうが、女の子にとってはどれほどの時間に思えたことだろう。お母さんが迎えに来る前の「ここって どこなんだろう」という一行に、異世界に紛れ込んだかのような不思議さが表現されている。
女の子の服装や、たくさん描かれたエノコログサやハクセキレイで、たぶん夏の盛りの頃なのだろう。これからの季節にピッタリ。
幼児から大人まで。ゆっくり絵を見せながらでも、5分とかからない。
黒をベースにした酒井駒子さんの絵が、重厚感と同時に僅かな不安感をあおる。
ここって どこなんだろう?
と思わず読み手もつぶやいてしまう。
小さな子は共感し、大人は郷愁を感じる美しい一冊。 -
4歳からおすすめ。
夏に読みたくなります。
日常を幻想的に描く。魅力的な絵柄。
人の心の動きが情景に照らされる。大人向けかもしれない。 -
かわがシャラシャラ……
くさはらがうみのなみみたい……
おなかがしずんで、かたもしずんで……
はっぱがほっぺたをぶちました……
このなんとも言えない表現が、私の心を鷲掴みにしてしまいます。
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蝶々を追いかけて川原で背の高い草に囲まれてしまいました。すっぽりのみこんでしまったくさはらは、その小さい女の子にとって、それはそれは怖い場所ですね。
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一瞬の静寂の後に、沢山聞こえてくる自然界の音、女の子の心の揺れ動く感覚が手に取るようにわかります。そんな時に聞こえたお母さん声にホッとするその気持ちも、遠い昔に感じたことがあるような〜!
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子供目線で感じるするどさ、世界観がとてもよくわかります。
五感にうったえるストーリーが、まるで私も海というくさはらにいるようです。
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この感じが理解できるのは3-4歳さんでしょうか?
子供にだけ存在する気持ち、「うん、わかる〜」と共感してもらえると思います。
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酒井駒子さんの優しい絵がまた心地良く、大好きな夏の絵本です!
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#くさはら
#加藤幸子 ぶん
#酒井駒子 え
#福音館書店
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ちいさな女の子の、ひろいひろい孤独。
しずかなお話は、最後におかあさんでほっとする。 -
6歳9ヶ月の息子に読み聞かせ
酒井駒子さん絵がいいのよ〜
女の子の雰囲気がかわいくて。
ずんずん進んでいっちゃう
そして、とつぜんの不安。
なんでお母さんわかったんだろーねー
と息子は不思議に思ったみたい。
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3歳から5歳向きとなっているが、そうだろうか。確かに幼児が読んでも惹き付けられるのだろうが、大人のほうがより真剣に絵本の世界に入り込んでしまうのではないだろうか。この絵の美しさは、もうただごとではないと大人は思うだろう。ゆーちゃんが、ここって どこなんだろう、と思う場面も大人のほうがより不安な気持ちになりそうな気がする。
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家族で川遊びに来た女の子ゆーちゃん。
ちょうちょを追ってくさむらの中へ。
夏の音が聞こえてきそうな、美しい絵本。
【ママ評価】★★★★★
まず酒井駒子さんの絵が素敵すぎる。
いろいろな草が描かれているけど、同じような色でもどれも違ってひとつひとつリアルで美しい。
夏の川の雰囲気が伝わってくるし。
空気感や草の匂いまでしそうな絵。
文も合わせると、子どもの時間の濃さを思い出す。
虫を追いかけたり、草花を見たり、夢中になっている時の濃い時間。
すごく色々なことが起こって、色々なことを見て感じて、実際は短い時間でも濃くて長く感じる子どもの感覚。
最後にお母さんが出てきて、ハッと大人の時間の流れの早さに引き戻されるような。
そんな懐かしい感覚さえ味わえるような素敵な絵本でした。
【息子評価】★★★
興味深そうに聞いていた。
相槌を打ったり、文を真似して言ってみたり。
なんとなく絵が暗く感じそうだけど、そんなこともないみたい。
酒井駒子さんの絵本は大人向けな絵の気がしちゃうけど、子どもも興味を示すからちょっと不思議。
以前も酒井駒子さんの絵本で同じことを思ったけど、今回もまた。
迷子になって怖いみたいな話じゃないのも良かった。
あと、これまでもう一度読みたい時は「もっかい」と言っていた息子だが、最近は「もういっかいだけね。よもうか。」と言うように。
母の真似も上手になってきた。
2歳3ヶ月
著者プロフィール
加藤幸子の作品





